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IS 〈インフィニット・ストラトス〉 ~運命の先へ~

作者:GASHI
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第20話 「思惑」

 
前書き
宣言通り閑話休題です。 

 
「あの~、れーくん?束さん、足が痺れちゃったかな~、なんて・・・。」

かれこれ2時間は正座をしているであろう束さんが珍しく弱気な口調で申し立てる。いくら彼女でも無機質で硬い金属製の床の上に自分の体重の倍はある重石を太ももに乗せたまま正座するのはキツいのだろう。・・・あ、束さんの体重は秘密な。この人、一応乙女だから。

「は?」
「あ、いえ、何でもないです、はい。・・・うぅ、痛いよぉ。」

今にも泣き出しそうな彼女の前には俺が椅子に座って腕組みをしていた。その隣ではクロエがこの異様な光景の前にオロオロしている。正直罪悪感が半端ないのだが、今は我慢だ。

「あ、あの、兄様?束様も反省していらっしゃるようですし、そろそろ許してあげてもよろしいのでは・・・?」

先日の襲撃事件、その真相を確かめるために俺は千冬さんの許しを得てここに帰省してきたのだ。帰ってきて早々俺は説教と尋問を開始、紅茶と菓子を用意していたクロエを怯えさせながらもそのまま現在に至るわけだが・・・。

「ふむ・・・。」
「あ、いえ、兄様が悪いと言うわけではないのですが、えっと、その・・・。グスッ。」

クロエの言葉にチラッと彼女を一瞥した俺だが、その時の目がよほど怖かったのだろう。ビクッと体を震わせたクロエが涙目になる。このままでは束さんどころかクロエまで泣き出してしまいそうだ。・・・潮時か。

「・・・そうだな。クロエに免じて許してあげましょう。ほら、重石退かしますからこっちに来て椅子に座ってもいいですよ。」
「わあ、ありがとう、れーくん!」

俺が重石を退かした瞬間、すかさずテーブルに移動してお菓子を頬張る束さん。反省してる様子が微塵も感じられない。やはりもう一回正座させるべきだろうか?・・・まあ良いや、可愛いし。

「ごめんな、クロエ。怖かったろう。」
「い、いえ、そんなことは・・・。」

せめてもの償いとして優しく頭を撫でてやると、嬉しそうに頬を緩める彼女。ヤバい、何この可愛い生き物。こんな子を怖がらせてたとか、罪悪感で胃がはち切れそうだ。

「しかし戦闘データが欲しかったなら、あんな強引なやり方しなくてもこっちで用意したのに。」
「だって、自分の目でちゃんと確かめたかったんだもん・・・。」

そう、この天災科学者は《白式》と《武神》の戦闘データが欲しいあまりに、自分から戦闘を勃発させたのだ。自分で護衛を依頼しておいてその対象を殺害未遂とか破天荒すぎて呆れ果てる。まあ彼女らしいとも言えるのだろうけど。・・・それにしても食べ方は変わらず旺盛なのに表情だけはしょんぼりしている。無駄に器用だなぁ。

「あ、そうだ!れーくんに見せるものがあったんだよ!えっと~・・・。」

そう言って研究スペースに猛ダッシュ、キーボードを叩き始める。一挙手一投足が元気一杯だ。・・・ああ、お菓子まみれの手でキーボードを叩くの止めてください。掃除するの俺なんですよ?

「あっ、発見~♪はい、どうぞ!」

楽しそうに手招きする束さん。俺は手をしっかり拭いた後、クロエと一緒に席を立つ。どれどれ・・・。

「《ゴーレムIII》の設計図、ですか・・・。」
「うんっ♪いや~、くーちゃんと頑張ってやっとこの前完成したんだよ~!ね、くーちゃん♪」
「ええ、流石は束様でした。」

・・・ふむ、《ゴーレムII》も相当化け物だったが、これはまた恐ろしい機体だな。日頃束さんと俺のサポートばかりしていたクロエにはこの機体の共同開発は荷が重かったろうに。

「お疲れ様、クロエ。たいしたもんだ。」
「あ、ありがとうございます、兄様!・・・ふふ。」

ご褒美に彼女の綺麗な銀髪を優しく撫でる。クロエも満更でもなさそうな様子で何よりだ。うーむ、この感触、癖になりそう。

「むぅ~・・・。」
「・・・何ですか、束さん?」

その様子を見てプクーッと頬を膨らませる束さん。あらあら、拗ね方が随分と可愛らしいじゃないですか。もっと苛めたくなっちゃうから早いとこ止めてもらわないと。

「くーちゃんばっかり良いなぁ~?束さんも頑張ったのになぁ~?ご褒美欲しいなぁ~?・・・チラッ。」
「・・・まったく、手間のかかる親ですね。ほら、おいで。」
「んっ・・・、えへへ・・・。」

嬉しそうに笑顔を浮かべる束さん。可愛いから憎めないんだよなぁ。というか説教してたはずなのに最終的に甘やかしちゃう俺ってどうなんだろう。・・・幸せだし、いっか。両手で女の子の頭を撫でながら小さな幸せを噛み締める俺であった。



「カッコよかったな・・・、あの人・・・。」

ルームメイトの出払った部屋で一人、彼女は布団を被りながら大好きな特撮ヒーローアニメを鑑賞していた。思い出すのは先の襲撃事件。

「正義のヒーロー・・・みたいだったな・・・。」

専用機を持たない自分がただ事態を傍観する一方、彼は圧倒的な強さで敵を一掃し皆を守った。その堂々たる様子は自分が憧れる正義のヒーローのようで。彼女の心を揺さぶっていた。この感情の正体を、彼女はきっとまだ知らない。

「私も・・・もっと・・・頑張らなきゃ・・・。」

彼女は見ていたアニメがいつの間にか終わっていたのに気付く。布団の中から這い出して静かに部屋を出ていった。彼女・・・、更識 簪は神裂 零の背中を思い出しながら今日も整備室へと通う。彼女の抱いた憧憬はいつしか焦燥感へと姿を変えていたのだった。



夕陽の射し込む本校舎の廊下。学生寮へと帰っていく生徒たちを静かに見送っていた彼女は再び歩き出す。手元の資料をぼんやりと眺めながら彼女は何やら思案している。

「なんでこんなに集まらないのかしら・・・。家の情報網を使って全力で探ってるっていうのに・・・。経歴が一切掴めないなんて・・・。」

資料には噂の男子、神裂 零について記載されていた。もっとも、そこには彼の素性や専用機の詳細などの重要な情報は皆無だった。彼女が総力をあげても知ることのできない謎の少年。彼女の好奇心を擽るには十分な要素だった。

「良いわ。おねーさんが一肌脱いであげようじゃない。・・・うふふ。」

彼女はあるドアの前で立ち止まる。そこには「生徒会室」というプレートが掲げられていた。彼女・・・、更識 楯無は不敵な笑みを浮かべながら生徒会室の奥へと去っていった。達筆な文字で「興味津々」と書かれた扇子で口許を隠しながら・・・。 
 

 
後書き
勢いで書いた。後悔はしていない。
感想や評価待ってまーす。 
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