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剣聖龍使いの神皇帝

作者:黒鐡
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第2巻
  亜鐘学園理事長の思惑と企み

理事長室には、教務棟と呼ばれる職員室などが集まった校舎の一角にある。まだ諸葉が対ドウター戦とついでに対異端者戦真っ最中というのに呼び出された静乃は、とても不満げな足取りで向かった。中は広く、豪奢である。執務室の間取りになっているが、賓客を招いたとしても決して粗末には当たらないくらい。イタリア製の白樫で出来た執務机で、その上に部屋の主が両手を組んでいた。部屋の主も静乃も気付いていないが、この部屋には無人偵察機を飛ばしていてそれで見ていた蒼い翼兼CB所属の桜花と結衣が監視をしていた。

二十代半ばの、いかにも切れ者だと思われる男であり、十人いる兄妹の中でも特に「貫録がない」「貧相」と祖父になじられたが良くも悪くも目端の利きそうな、利発さを全身から窺わせる青年。彼こそがこの学園経営者で《救世主(セイヴァー)》ではない常人だけど、理事長として出資者。表ではそうなっているが、何か変な動きがあったら蒼い翼からいつでも辞めさせる事も出来るが、漆原家は世話になった事があるので理事長をやらせていた。

「久しぶりだねえ」

執務机の上で両手を組んだまま、兄である漆原賢典がにこりともせず言った。

「今日、帰ったの?」

静乃も負けずに顔から感情を殺して訊ねた。彼女はいつもの表情ではなく、実兄だけには能面のような表情となる。

「ああ。中国支部を皮切りに、ロシア、フランス、イギリス、アメリカ・・・・日本は二ヶ月振りだよ」

「お疲れ様」

静乃は心にもない労いの言葉をかける。兄妹仲は冷え切っていて、それを知った諸葉はいつでも頼ってもいいと言われているで切り札というカードを兄は知らない。まあここにいる理事をしている兄を座らせているのが、零家からの指示でやっているようなもんだ。静乃には後ろ盾が蒼い翼繋がりの桜花や結衣と言った諸葉の部下がいるので、何かあればいつでも相談しろとな。で、冷え切っている事は兄も承知の上だから今更だが、険悪という訳ではない。

「遅ればせながら、入学おめでとう、静乃。漆原家の女として、恥ずかしくない学園生活は送っているだろうねえ?」

漆原家では、親子兄妹の間は家族の情ではなく、冷めた上下関係で結ばれている。代々官僚を輩出する名門であり、「個人」より「家」を大事にしてきた結果である。

「ええ。ここに来てからはとても楽しく送っているつもりよ、まあ普通の高校と勝手は違うから」

謙遜すると漆原家の恥だと言われそうだったが、楽しく送っていると言うからか少し安心はしていた。

「楽しいとは何かあったのかな?それにしても入学早々大した活躍をしたそうじゃないか」

兄は満足そうにしていたが、その笑みはまるで所有する競走馬がレースで勝ったようなのだった。無人偵察機は天井に張り付いているが、気配を感じないのでいくら超人的な者でも気付かない性能を持っている。

「過去最大級の多頭種を、たった三人で倒したのだろう?校長が絶賛していたよ」

先日、学園近郊に突如出現した九頭大蛇を諸葉が倒した事を差していた。厳密に言えば静乃やサツキはその場に居合わせただけなのだが、ここは三人で倒したという事になっている。サツキも活躍した事にしておけば、彼女が実戦部隊の予備隊員入り出来るからだ。

「御祖父様は、白騎士機関の事を大層評価しておられる。今後ますます、世界規模で権勢を持つ組織になるとね。我が漆原家としても、そこに食い込んで行かなくてはならない」

「もう耳にタコが出来る程聞かされたわ」

「お前が《救世主(セイヴァー)》で、早くも頭角を現してくれて私も鼻が高いよ」

この兄もまんまと嘘を信じ込んでいる様子だったので、静乃も監視班である蒼い翼もホッとしたが・・・・。

「灰村・・・・諸葉と言ったかねえ?《最も古き神(神皇帝)》の彼」

この兄が何を思ったか、諸葉の名をいきなり出して来た事だったがあくまで冷静にいられた。事前に沙紀から、もし理事長である兄から諸葉について言われたとしても、冷静にいるようにと言われていたのだ。兄は立ち上がると、窓から校庭を見てそこにある電光スクリーンを眺める。リアルタイムで《異端者(メタフィジカル)》とドウターを相手にして戦っているCBの部隊と異端者相手に今回の策で動いている『実戦部隊(ストライカーズ)』の活躍を見つめる。静乃も一緒に眺めて、ついつい目が諸葉に行くが釘付けになっている。最前線でドウターと異端者相手というのに、怯まない戦い振りからは微塵も不安を覚えず、その強さは酔いしれさせてくれる。

「際立っているよねえ、彼。隊長の石動君よりも上で、特別顧問をしているそうじゃないか。彼はCB所属なのか、最近は連携をしながら両方を葬っているとか。担任の田中先生に聞いたけど、彼とは仲良くしているんだろう?」

窓の外を見て、背中を向けたまま兄が質問してくる。

「友人以上恋人未満でそれなりに親しくさせているわ」

ホントは友人としてだけだが、静乃は後ろ盾があるので慎重には言わずに堂々と答えたのだった。

「ほう・・・・友人以上恋人未満というのは気になるね。それなりに良い事のようだ」

兄はまるでよくやったと言わんばかりに頷いた。静乃にとっては意外過ぎると思ったが、あんな男と付き合うなと命令と比べれば、随分とマシな反応であるがまだ安堵は出来なかった。

「今度、我が家に招待してあげなさい」

「どうして・・・・?」

「お前もそろそろ、ボーイフレンドくらい作ってもいい年頃だ」

聞いて、静乃は押し黙る。兄が、・・・・漆原家が、諸葉との交際を認めてくれるなら願ってもない事だ。今まで通りに堂々と諸葉と一緒に居られるし、前世での彼女と同じようなスキンシップが出来るからだ。

「妄りに男を近寄らせるなって口やかましかったのに、どういう心境の変化かしら?漆原家の人間は、お家のためにならない結婚何てしてはいけない決まりでしょう?」

ここはいつも言われてた事を言った方が、嫌な予感というのを諸葉がそのまま揉み消してくれるので、そのまま会話をしていた。零家と漆原家では断然零家がランクが上である。

「心境などというつまらないものではなく、状況変化だよ。灰村君は逸材であり、必ずや将来、白騎士機関で台頭すると私はそう見ているが、彼がCB所属という事が予想外だった。予想外ではあるが、CBと繋がりを強くしたいという白騎士機関でもあるので、お前の婚約者候補として置いておくつもりだ」

「諸葉を漆原家の道具として取り込むつもり?」

「聞こえが悪いねえ。出来れば共に、立身栄誉を分かち合いたいと言っているだけだよ」

「何かしらを企んでいるの兄さん?諸葉に何をさせるつもり?」

兄は自分の野心や漆原家の繁栄のためならば何でもする。誰だって犠牲にして、微塵も後ろめたさを覚えない。十年来の友人を罠にハメて資産を奪い取るというのは、朝飯前であり、家族だって駒扱いとしか見ていない。大切な友人の人生を壊すならと思うと、怒りを露わにさせようとしたがここはあえて兄の心情聞いてからにしようと思った静乃であった。

「答えて、兄さん」

「なぜそれをお前に答えてやらねばならん?」

「やはり答えられないような事を、諸葉にさせるつもりなのね?」

静乃は冷たい気迫を籠めた声で問い詰め続ける。

「家の決定だ。お前はただ肯定すればいい」

兄が振り返り、静乃よりも冷たい瞳で見た。他者に命令する事に慣れた、権力者の瞳。この兄は故に他者の言葉に決して耳を傾けない事で、子供の静乃には抗う力はないと思われている様子だった。兄も零家からの報復は恐いが、まさか零家の者がすぐ近くにいるだ何て微塵も思ってないだろう。静乃も兄も灰村諸葉の事を三人目の神皇帝だと思われるが、その正体は灰村諸葉=零達也=織斑一真であり本人だからだ。

話が脱線しかけたが、一つ上の兄は封建的な漆原家に嫌気が差し、自由を求めて出奔した。しかし行く先々で漆原家が手を回し、職を得ようにも断られ、住処を得ようにも大家に拒否され、最後は無残なまでにやつれ果てた姿で漆原家に回収された。今は療養という名目で、実際は家に逆らった咎で僻地に幽閉されている。静乃とて家にいれば言いなりにならざるを得ないし、外に逃げても同じ末路を送るだけだ。《救世主(セイヴァー)》だろうが、仙人のように霞を食べて生きる事は出来ないし、まさか闇術で人から金や物を強奪して糧とするような生き方は出来ない。唯一と言えば、静乃の味方には蒼い翼所属の者が近くにいるので、ここに来る前に桜花と結衣から出来るだけ野心家の兄から聞き出してほしいと言われたから、これで聞き出しは完了だと彼女も思った。

「では、静乃よ。近い内に灰村君を招待するように」

兄は一方的な命令をしてから、また電光スクリーンに視線を戻す。するとちょうど実戦部隊が戻ってきて、諸葉が静乃の事を聞いていた時だった。人形のように無表情となってしまうが、不可能を可能にしてしまう諸葉や蒼い翼が何とかしてしまうのではと思いながら理事長室を出た。出た後に桜花と結衣が手でおいでおいでという事で、静乃は向うと今までの事は全て聞いていた事を驚愕していた。そしてこれを元に、蒼い翼に報告をし行動に移すのは諸葉自身だと伝えた後に立ち去った桜花と結衣。静乃は今まで通りの行動をしても良いとの事で、嬉しさ半分兄の企みをぶっ壊す事が出来るのかという心配だった。 
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