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閃の軌跡 ー辺境の復讐者ー

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第18話~矜持と気品~

 
前書き
GE2RBやってたり、なんやかんやで更新できてなくて、リアルにすみませんでした。BA上げなどがまだ残っていますけどその辺はちまちまやっていこうと思っています。さて、今回は自分的に面白くないな~と感じているところでして・・・重ね重ねお詫びを&宜しければご容赦を。 

 
七耀暦1204年 6月23日(水)

―『未来を変えろよ。お前には、その力があるんだ』―

―『とう・・・さん?なにを言ってるんだよ!おい、とうさん・・・とうさんッ!!』―

「・・・はっ!?」

カーテンの隙間から朝の日差しが差し込む頃、突如としてベッドから跳ね起きるケイン。
自身は夢を見ていたのか、と我に返ったところで体中がいやな汗でぐっしょりと濡れていることに気が付いた。

「また、この夢かよ。あの男は、俺が必ず・・・殺す。殺さなければならないんだ」

自分にしか聞こえない小さな声で物騒な独り言を呟き、早朝から憂鬱な気分になりながらもケインは剣の素振りを始めるべくベッドを立とうとした・・・

「・・・グッ、ガアァッ!・・・アアアァァ!!!」

そんな時だった。体内の何かが肩甲骨のあたりから無理やり押し出される感覚に激痛が走り、ケインは堪らずうずくまる。人間とは思えない痛々しい叫び声を上げつつも、オリエンテーション以来で二度目の羽の具現を抑えようとしていた。

「ククッ・・・滅ボス。アノ男ヲ・・・ヤツノ、スベテヲ」

しかし、彼の意思に反してそれが中々治まらなかった。それどころか、エコーがかった声でうわ言のようなことを呟いてしまっている。断続的な痛みに疲弊し、段々と薄れていく自意識の中でどこに向けてかも分からず手を伸ばす。

「ア、ウゥ・・・」

ぼやけていく視界と、心なしか平生より冷たく感じる自身の体温。得体の知れないナニカに蝕まれていくようで、ケインの中で恐怖心ばかりが募っていく。


「・・・ケインッ!」

勢いよく開け放たれた扉の音と心配そうに自身の名前を呼ぶ少女の声をどこか遠くの出来事のように聞き、ケインは目を閉じた。

「・・・ん?どうして、みんなが俺の部屋に?」

「君の・・・叫び声が聞こえた、とリィンに言われてね。登校する前までだが様子を見ておこうということになったんだ」

ケインの本日二度目の覚醒は実に穏やかなものだったが、起きると何故かⅦ組メンバーが勢ぞろいしていた。寮の管理人となったシャロンもおり、HR遅刻の常習犯であるサラでさえ部屋にはいた。

「ケイン?今、失礼なこと考えてなかった?」

「・・・何を根拠に?」

訝しげな視線を向けるサラに、普段よりも素っ気なく返すケイン。

「まあ、いいわ。体のほうは大丈夫なの?」

あえて深くは追求しないで今度は体調を尋ねてくる。そんなサラに「平気ですよ」と返すが、どうやら信じてもらえないのか、「念のため、今日は休んでおきなさい」と言われてしまった。

「冗談でしょう?今日は実技テストがあるっていうのに・・・」

「そんな憔悴しきった表情で言われても、無理してるようにしか見えないわ」

ポーカーフェイスには自信のあるケインだが、今日ばかりは分が悪かったようだ。

「で、でも・・・教官に迷惑をかけるわけにはいきません」

「中途半端なコンディションでテストを受けられる方が迷惑よ」

「・・・そう、ですよね。すみません」

教官の言うことももっともだと気落ちするケインを見て、少々きつい言い方だったかと罪悪感が募ったサラだが、今朝、何があったのかと尋ねて話題を転換する。

「リィンの話では何かを叫んでたのよね?・・・私への、求愛行動だったりするのかしら?」

「・・・無理」

「ちょっと!無理って何よ!?」

先ほどのシュンとした態度とはうって変わり、侮蔑にも似た視線を向けて質問を一蹴する。

「ふふん♪ケインだったらいつでウェルカムよ」

「中年男性はどうしたんですか?」

「ケインはと・く・べ・つ・よ」

(そんな事実は聞きたくなかったな・・・)

ハイテンションなサラとは対照的に、がっくりと肩を落とすケイン。彼女は基本的に飄々としていて冗談か本気か分からないので余計にたちが悪かった。そんな彼らの一連のやり取りをアザーメンバーズは苦笑して見ていた。そんなことよりも時間は大丈夫なのかと尋ねるケインに、ラウラが微妙にぶっきらぼうに「そなたが気を失っていたのはほんの数分だ」と教えてくれた。

「意識が飛ぶ前に聞こえたのってラウラの声、だよな?」

「・・・それがどうかしたのか?」

「すまない。心配をかけてしまったかな?」

「ケインが無事だったなら、それで良い」

「ラウラ・・・」

微笑を浮かべながらお礼を言うと、ラウラに目をそらされてしまった。

「??とにかく、俺がしていたのは教官への求愛なんかではなくて・・・」

「え~~」

ラウラの反応に疑問を感じながらもサラの考えを改めて一蹴し、自分が体験した痛みについて報告した。

「・・・なるほどね。原因は判っているの?」

「ええ、おそらく俺のマスタークォーツかと。アレの出自って教官はご存知ですか?」

ケインにはある程度の予想がついていたが、念のために尋ねておく。その予想通り、エプスタイン財団かラインフォルト社のどちらかだろうと彼女は答えた。

「使ってみてどんな感じだった?・・・それと、その“痛み”はいつからあったのかしら?」

「うっ、妙に鋭いですね。旧校舎一斉落下事件の直後ですよ・・・そんなに意識しては使ってなかったんですが」

「アレは悪かったって言ってるじゃない!変な名前を付けないで頂戴」

もはやⅦ組の中で過去の事件となりつつある、オリエンテーションをした旧校舎内でのエマージェンシー床ガコン。そこでは毎月、リィン隊長を筆頭に探索が行われているため、クラス内ではその話題が少なからず飛び交う。忘れろという方が難しい。

「コホン。とりあえず、それはアークスごとジョルジュに預けておくわ・・・詳しい話はそれからよ」

「・・・はい。俺はもう平気です。みんなも心配してくれてありがとう」

事件の被害者たる一同としては複雑な心境でサラを眺めていたが、当の本人は咳払いをして誤魔化した。元気そうな彼を見て安心したのか、他のメンバーは三々五々散っていく。今日は昼休みに中間試験の結果が開示されるため、どことなく落ち着かない様子のメンバーもちらほらいる。ケインはサラに現在体調が良好である旨を真摯に訴え、試験も口実に入れて自身の実技テストを延期することを条件に登校を許された。

「そう言えば、今日は・・・」

「マキアス、お手洗いは済んでいるか?」

「ああ。ついさっきな、ってだから子供か僕は!?」

「うん」

「この・・・」

学院の入学試験において主席の成績を修めたエマに勝つために努力を重ねたであろう次席のマキアス。落ち着かない様子であろう彼をひやかしたケインは、君にも絶対に負けてないなどと言ってくる副委員長を適当にあしらいつつ、学院へ向かうことにした。

-士官学院・グラウンド-

「くっ、まさかあんな結果になるとは・・・」

「あはは・・・」

悔しそうに拳を握り締めるマキアスを、エマが苦笑して見ている。彼はまだ自身の試験結果の事を引きずっているのだろう。ちなみに、エマ、ケイン、マキアスが学年同率首位。続いてユーシスが4位、アリサが9位、ラウラが18位、ガイウスが21位、それにアレスが続いて22位。リィンとエリオットも近差で前者が37位、後者が38位。ファミィは二日目から首位三人による補修が施されたが、一夜漬けでは限界があったため伸び悩み、61位。猟兵という背景を持ち、基礎学力で他より劣るはずのフィーは本人の頑張りやエマの助力もあって、点数も半分を超えて75位。クラス別の平均点も、Ⅰ組を抜き去ってトップに躍り出た。結果が思わしくなかった・・・というわけではないはずだが。

「いや~、中間試験、みんな頑張ったじゃないの♪あのイヤミ教頭も苦虫を噛み潰したような顔してたし、ザマー見なさいってね」

「別に教官の鬱憤を晴らすために頑張ったわけでは・・・」

「というか、教頭がうるさいのは半分以上が自業自得ですよね?」

男爵位を持つ貴族のハインリッヒ教頭は授業で政治経済を担当しており、分かりやすさに定評がある。規則に対して厳格で小言が多く、ナーバスな人だ。サラは服装や居酒屋で騒ぐなと言われたり、果ては彼女の婚期がどうだとかプライベートを結構つつかれたらしく、チョビ髭オヤジなどと揶揄して愚痴り始めた。

「ま、あのチョビ髭の話はともかく。早速、今月の実技テストを始めるとしましょうか」

教頭への逆恨みを頭の隅に追いやり、指をパチンと鳴らして実技恒例の戦闘傀儡を呼び出すサラ。

「・・・ケイン、気付いた?」

「ああ、アガ・・・オーロックス峡谷にいた白銀の物体か。どことなくアレに似てるよな」

「素材の雰囲気が近いんだと思う。ひょっとしたら・・・」

先月の実習、バリアハートへ行ったA班は気付いているだろうが、実技テストで運用されている眼前の傀儡は、峡谷で見た白銀の物体に似ていた。色も形状も異なっているが、フィーは素材に着目している。ケインがフィーと小声で話していると、不思議に思ったのか、ラウラが様子を窺うように話しかけてきた。

「・・・?どうしたのだ?」

「別に・・・こっちのこと」

問いかけに対して素っ気無く返すフィー。悪気はないのだろうが、ラウラは黙り込んでしまう。マキアスやユーシスの時とは違うが、互いを敬遠しているようにケインには映った。

「フン・・・面白そうなことをしてるじゃないか」

どうしたものかとケインが頭を悩ませていると、少しはなれたところからⅦ組ではない男子の声がした。見上げてみれば、グラウンドの外に白い制服を着た生徒が数人いる。その中の、前できっちりと半々に分けたブロンド髪の少年。帝国南部サザーランド州を治めるハイアームズ侯爵家の三男で、名がパトリック・T・ハイアームズ。彼がいるということはⅠ組の生徒で間違いないだろうが、一体何用なのかとⅦ組の面々が訝る。

「あら、どうしたの君たち。Ⅰ組の武術訓練は明日のはずだったけど」

訝る面々を代表して、サラがグラウンドへ入ってきたパトリックに声をかける。彼の話では、帝国史を担当しているトマス教官の授業が自習になったため、クラス間の“交流”をしに来たらしい。得物である細剣を構えていることから練習試合の申し出だと察しがついた。

「そのカラクリも結構だが、たまには人間相手もいいだろう?僕たち<<Ⅰ組>>の代表が君たちの相手を務めてあげよう・・・フフ、真の帝国貴族の気風を示してあげるためにもな」

かかってこいと言わんばかりに挑発的な態度を取るパトリック。言葉の端々に感じられる傲慢さには当然、不快感しか沸いてこない。マキアスなどはこめかみがピクピク動いている。そもそも、帝国の気風を残した当学院は貴族・平民でクラスが分かれており、Ⅶ組の存在は特別と言えるため、旧き伝統を重んじる貴族生徒の大半から「寄せ集め」などと揶揄されているのが現状だ。

(おおかた、その寄せ集めに試験で負けたのが悔しくて試合で憂さ晴らしか)

「フフン、なかなか面白そうじゃない・・・実技テストの内容を変更!Ⅰ組とⅦ組の模擬戦とする!」

パトリックの意見を尊重したのか、それともただ面白がっているのか、カラクリを片付け、練習試合をするように一同に促すサラ。大部分が気乗りしていないようだが、ケインは自分の顔に親指を付きたて、若干のドヤ顔で「俺、いけますよ!」とアピールする。

「試合形式は4対4。アーツと道具の使用も自由よ!リィン、3名を選びなさい!」

「りょ、了解です」

そんなアピールをナチュラルにスルーされるが、リィンがメンバーに加えてくれるだろうと信じていた。

「な、何で・・・」

パトリックのいちゃもん、もとい意向もあり、リィン以外が平民男子ばかりのチーム構成になったが、そこにケインの姿はなかった。

「お前は体調が優れないだろう・・・くれぐれも無理はしないことだ」

取り残された平民出身として多少の疎外感を感じ、肩を落とすケインにユーシスが親切な忠告をしてくれる。

「了解。でも、ここのところ勉強続きだったから体を動かしてないと落ち着かなくて・・・そうだ、ユーシス」

「何だ?」

「今度、宮廷剣術の稽古に付き合ってくれないか?その、もし良かったらだけどさ」

「・・・フン、仕方がない。付き合ってやろう」

ケインとユーシスがそんな他愛もない会話を交わす中、Ⅰ組代表の貴族生徒たちと、リィン、エリオット、ガイウス、マキアスによる模擬戦がサラの号令とともに開始された。

「ど、どうだ・・・これが僕たちの実力だ・・・・・・」

脱力した状態のマキアスが、肩で息をしながらも勝ち誇るようにⅠ組の代表生徒達へ言い放つ。Ⅶ組の選抜メンバーズからは各々、息が上がっている様子が感じ取れるが、全員が立っていた。対するⅠ組の生徒達は、膝をつかされている。「こんな寄せ集めどもに」などど毒づく元気はあるようだが、戦う気力は残っていないのだろう。敗北の屈辱からか、パトリックは歯軋りをしている。

「・・・いい勝負だった。あやうくこちらも押し切られるところだった」

そんな彼に、リィンは優しく手を差し伸べるが、

「触るな、下郎が!」

彼はその手を払いのけて立ち上がり、いい気になるなよ、リィン・シュヴァルツァー」と続ける。

「ユミルの領主が拾った出自も知れぬ浮浪児ごときが!」

おそらくは真実なのだろうが、彼の酷い物言いに顔をしかめるリィン。仲間を傷つけられ、ケインの不快指数が増していく。それは他のメンバーも同じようで、マキアスが「おい」と声をかけるも、聞く耳持たずだ。

「ハッ、他の者も同じだ!何が同点首位だ!平民ごときがいい気になるんじゃない!・・・ラインフォルト!?所詮は成り上がりの武器商人風情だろうが!おまけに蛮族や猟兵上がりの小娘までまじっているとは・・・!」

パトリックにとってⅦ組は目の上のたんこぶでしかないのかもしれない。だから、ただ揚げ足を取っているかもしれないが、彼の言い分は聞くに堪えなかった。周りの貴族生徒にも言い過ぎだと注意されているにも関わらず、逆ギレしている。

「・・・さっきから黙って聞いていれば、随分な物言いだな」

「何だと?」

リィン達とパトリックの間に立ち入り、あくまで冷静な声音で彼へ話しかけるケイン。

「確かに貴族は偉いだろうし、矜持のために相応の努力はしているはずだ。それは自分のクラスメイトを見ていればよく分かるよ」

「フン、何を言い出すかと思えば当然のことを。貴族とは伝統であり家柄だ!平民ごときには決して真似できない気品と誇り高さに裏打ちされている!」

「ああ、そうだろうさ・・・けど、ラウラは言っていた。『身分に関係なくどんな人間でも誇り高くあれる』って」

「・・・何が言いたいんだ?」

どっちつかずなケインの言葉に、多少の苛立ちを見せるパトリック。

「人間、誰でも誇り高くあれるってことだよ。パトリックの言葉を借りれば、とりあえず君には“気品”がない、かな」

「なっ!?」

「プライドは高いみたいだけど、それは他者を見下したり、貶したりしてまで得るものなのか?そんな貴族は俺の知っている人の中では今、周りを見渡すと君だけだな」

「ぐ、ぐうっ・・・」

小ばかにした様子もなく、淡々と自分の意見を述べるケイン。パトリックはばつが悪そうな顔をして黙りこんでしまう。

「ついでに言うと、平民にも上品な人はいるし、貴族にも下品な人はいる。さっきの発言を考えると、パトリックの気品が知れていると思うよ・・・まぁ、あくまで持論だけどさ」

最後の最後に譲歩の台詞を言ったのはせめてもの慈悲なのだろうが、「言い負かされたような相手にそれを告げても意味はないな」とはケイン以外の誰もが思ったことだろう。
結局、教室に戻って自習するようサラが貴族生徒らへ促して場を収拾させた。ケインの発言によって他のメンバーが、貴族と平民、矜持と気品について今一度考える中、サラは今週予定されている特別実習の話を進めていくのだった。
 
 

 
後書き
オリキャラが中間試験ランキングに追加されているので、一応それぞれのスコアをば。
ケイン・ロウハート 975(1位)
アレス・ヴァンダール 862(22位)
ファミィ・シェアラドール 703(61位)
・・・ファミィさん、一夜漬けにしてはよく頑張ったと思います。鮪の漬け丼でも食べて元気出してください!(←鮪という魚自体いないはず)
ところで、(パトリックたちとの試合後)ガイウスの変わりにケインを投入してみたのですが如何だったでしょうか?結局のところ、パトリックへのブーメラン攻撃なのですが(苦笑)ケインとガイウスの考え方の違いを感じ取って頂けたのなら作者として喜ばしい限りです。 
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