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101番目の百物語 畏集いし百鬼夜行

作者:biwanosin
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第八話

◆2010‐05‐11T17:30:00?  “Yatugiri High School Gate”

 校門を出ると、そこには今日の夢じいちゃんの授業中に見た夢で出てきたのと同じ猫がいた。昨日の夢で出てきた黒猫とは違う、白い猫。何で二回とも猫なのかとか、明日に延期したら次は灰色か白黒交じりなのかなとか、そんなことが頭に浮かんできたけど、まあ、でも。
 俺は確かに、テンに言ったんだ。『出来る限りそうしてみる』って。
 あんな言い方をする以上、何かあるはずだ。それも、テンがそうしてもらわないと困るような理由が。
 だから……俺は猫が飛び降りたのを見て、それを追う。そして、俺自身もあと少しで道路に飛び出すというその瞬間……制服の内ポケットに入れていたDフォンが一気に熱くなり、驚きで足をとめた。

「熱ッ!?」

 慌てて、昨日の夜につけたストラップを持って取り出し、火傷をしないようにしていると目の前を車がものすごいスピードで通って行った。明らかに、俺が立ち止まっていなかったらひかれていたであろうタイミングで。

「…………………」

 思わず、口をあけてポカンとしてしまう。今の速度は明らかに、一般道で出すようなスピードではない。高速道路なんかで出すレベルだ。どう頑張っても、当たったら死ぬだろう。
 そんなスピードで走っていたにもかかわらずその車は少し行ったところで音を立てて止まり、運転手と思われる人が窓から顔を出してこちらを見ると……舌打ちをした。

「……は?」

 え、舌打ち?いや、何でこっちを見て舌打ちをする?それだけではなく、妙に忌々しげに何かを呟いた。
 ……何なのかは分からないし分かりたくもないが、とりあえず一つだけ分かってしまったことがある。これ以上、あの人と関わるのはマズイ。何をされるか、どんな目にあうか分かったもんじゃない。自分の中で結論が出た今でも信じられないのだが……殺される(・・・・)、という事すらあり得るのだ。それも、十二分に。

「これは……ちょっと本気でマズイな」

 そう判断してかばんをしっかりと背負いなおしたところで気付いた。人がいない。
 いや、正確にはいるのだが、俺の知っている人が(・・・・・・・・・)一人もいない(・・・・・・)
 校門から八霧高校の生徒が出てきて下校しているのに、俺の知っている人が一人もいないのだ。見たことすらないレベルの人ばかりである。……もしかすると、実在しない人なのかもしれない。

「こんなことを考えていられるうちは、まだ落ち着いてるのかね……」

 少なくとも、この状況は超常的なものであり、常識にとらわれたままでは助かる見込みはない。それに……ティアは、こう言っていた。

『もしも、『こんな光景夢で見たなぁ』とか思ったら、その夢と同じことをしないようにしてね?』

 だったら、その通りに動かなければ割とどうにかなるのではなかろうか……それに、俺がここ最近で見た自分が死ぬような夢は、二つ。授業中に見たものの黒猫バージョンと白猫バージョンだけである。だから、もう大丈夫……と、高をくくったのが間違いだった。
 その瞬間、夢を見た。

 慣れ親しんだ見た目であるコンビニを見つけ、引き寄せられるように近づいていった俺は、たどり着く直前に男に殴り飛ばされ、そのまま殴られ続けて死んだ。
 偶然外れかけになっている状態で放置されているマンホールを見つけ、その中に飛び込んだ。そしてそこを走り続け……三つ目の地上に出られる場所を通りづぎたところでボロボロの服を着た人に襲われ、頭を何かしらの鈍器で殴られて死んだ。
 何も見つからない街に出て慌てたのか、ひたすら走り続ける俺がいた。疲れきって転んでしまい、起き上がれないでいるときれいな女の人が俺を覗きこんできて、そのまま銃で撃たれて死んでしまった。

「……追加、ってことかね。だとしたらこれ、終わりがないぞ……」

 白昼夢、ではないな。あれは完全に夢だった。あの一瞬の間、俺は眠っていたのだ。つまり、相手は俺を意図的に眠らせ、夢を見せることができる。
 ネットなんかでは一回きりなんだけど……アレクの話していた通り、そう優しくも無いらしい。さて、まずは……

「どうせ何も分からないなら、何か起こるまでは気にせず動くとしよう」

 これはおそらく、後手に回ってもどうにか生き残ることはできるタイプだ。だからこそ……そう思ってしまったからこそ、俺はこの選択肢を取った。後で後悔するとも知らずに。

◆2010‐??‐??T??:??:??  “???”

「こ、これ……思ってた以上にキツイ……」

 息を切らせた状態で座り込んで、そう呟く。今座っているのはアスファルトの上、何の変哲もない道だ。そこに電柱を背もたれにして座っている。
 気を休めると無意識のうちに夢と同じ行動をとってしまうので、体だけを休める感じで。今日、体育が無くて本当によかった……まだ、水分は残ってる。

「これも……弾が一発だけ、とかじゃなかったし」

 とはいえ、武器がどこまで通用するのかは全く分からない。一切効かないのかもしれないが、気休め程度にはなる。といっても、射撃をやるにあたって大前提として『たとえ弾が出ないものであっても人には向けるな』と習うから、ちょっと抵抗があるんだけど……そうもいっていられない。何より、自分自身の命がかかっているのだ。使える物は使わないと。『夢とは違う行動をとる』、という点に関して言えば様々な行動を取れた方がいいし。とはいえ……

「早いとこどうにかする方法を見つけないと、いつか夢の通りに動くだろうなぁ……」

 そうなれば終わりだ。これが夢オチなんていう都合のいい展開を望めるほどの希望は無い。そのまま死んでしまうのだろう。

「っと……また、かよ……」

 今回も三つ、新しい夢を見た。一つ目ではここに座っていたら車が突っ込んできたので、早いとこ移動するとしよう。銃のセーフティを外し、両手で持って立ち上がる。少し走ると途中でこっちを見て睨んでいるトラックの運転手がいたので、おそらく今回はあの人だったのだろう。
 とかそんなことを考えていたら間髪いれずに次の夢が再現され始め、とっさに反応できなかった俺は片手でその人の足を狙い、まともに照準もつけずに撃ち……全然違う方向に弾が飛んでいったのを見て、そして撃った反動で思いっきり持っていかれた腕に痛みを感じて、しまったと思う。実銃を撃つのは初めてなくせに何やってんだか。せめて両手でホールドして、しっかり狙えよ。
 とはいえ、相手の足を止めることには成功したのでそのまま走り、夢とは違う状況を作り出せた。
 それにしても、ホントに銃声はキツイな……センターファイアとかの選手が耳栓をしてる理由がよく分かった。射場で銃声には慣れてるつもりだったけど、さすがに自分で撃つと耳がつらい。

「よし、これで……ッ!?」

 次も乗り切ろう、とか考えた瞬間に横から鈍器で殴られ、転んでしまう。
 反射的に横に跳んだのか転んだのかは分からないけど、うまいこと痛みを減らすことができた。……本当にどうして、今出来たのやら。そこまで反射神経はよくなかった気が……

「って、今はそれどころじゃない、よな」

 立ちあがって逃げる……のは夢と変わらないので、そのまま座った体勢で銃を構える。今度は両手で持って、ある程度大きさがあったため狙いやすい鈍器に向けて……ひたすら、撃つ。
 相手があれを放してくれない以上、使いものにならなくなるまで撃つしかない。数撃てば当たるもので、残り全弾使いきるころにはもう使い物にならなくなっていたようで、鈍器を持っていたやつは舌打ちと『夢と違う事をするな』と言い残してどこかに行った。

「どうにか、なった……な………」

 捨てるのもどうかと思ったし、弾がどこかで拾えたりなんかしないかとか思ったことから銃をポケットにしまって立ち上がり、次に目指す場所を考える。どうせそこまでは逆らえないのだから、さっき見た映像から何かできないかを探す。実際にそれができるわけではないが、そうして少しでも頭を使っていないと、恐怖で狂いそうになる。もうかなり恐怖にのまれてるから、時間の問題かもしれないけど。

「こんなことを考えていられるうちは、まだ大丈夫だと思いたいなぁ……」

 と、そんなことを考えているうちにもう時間になっていたようで、体が動き出した。このまま自分でも分からないうちにあの場所まで向かうのだろう。手持ちのもので出来る行動はいくつか思いついているので、後はちゃんと注意してタイミングを逃さないことと、ただでさえ少ない体力を消費しすぎないことを考えればいい。いつ終わるのか分からない以上、どこかで水分を追加調達する必要もあるだろう。そんな余裕はないが。
 そんな状況の中で既に夢で見た場面に似たものがちらほらと出てきたため、考え事を中断してこちらに向かって走ってきた人に向けて水筒を投げつける。それが上手いこと足に当たってくれて転んでくれたので、一つ目はそれで終わった。
 次は確か……とそこで銃を後ろに投げて邪魔をし、タックルをして押し倒す。美人だったために少しドキッとしたが、すぐにそんな場合ではないことを思い出して立ち上がり、そのまま走る。

「……それにしても、何で俺なんだろうな……」

 こんな目に会うのには、心当たりがないわけじゃない。この都市伝説を知っていたこととか、俺が良く分からないものの主人公になったこととか、原因はそんなところだろう。
 だがしかし、ここまでしつこく狙われるほどの何かがあるのだろうか。

「……さすがにそっちの心当たりはないんだが……まあ、ここまでする以上は何かあるんだろうな……」

 こっちに関わる事情なのか向こうの事情なのかは分からないが、そう言う事なのだろう。一度夢を再現されたくらいならちょうどよかったでも済まされるかもしれないが、こうも何度も見せ、再現し繰り返したらには何かあるはずだ。そして、そんな心当たりは俺には無いので……

「多分、向こうのはず。なら……」

 ここまでするほどのことなら、と続けようとしたところで、夢を見た。
 これまでにないくらいに単純で、分かりやすいやり方。ナイフを持った女性が、それをこちらに向けて突っ込んでくる、というもの。それが三つ目に来ていた。

「……よし、やるか!」

 そうと決めたらすぐにとりかかる。幼馴染が数少ない取り柄だと保証してくれたそれは、こんな時でも発揮された。さて、そうと決まれば。

「いっちょ死んできますか!」

◆2010‐??‐??T??:??:??  “???”

 一つ目と二つ目は相手に接触できそうになかったので回避して、次の三つ目……ナイフで殺されるやつで仕掛けることにした。一応、そのための準備も終わっている。……覚悟を決めただけなんだけど。

「っと、そろそろかな」

 だんだんと視界の物が夢で見たそれに重なってきたので、いつ来ても大丈夫なように気を張り、そして……視界が完全に夢で見たそれと一致した瞬間、女性が前方からナイフを突き出した体勢で走ってくる。それに対して俺は直前まで動かずに夢の通りにして……ナイフが当たる直前によけて、そのまま抱きしめる。
 これまでに分かったことなのだが、こいつは夢と違う形で俺を殺してくることはないし、あの夢も一度全部終わってから新しい物を見る。なら、夢の内容であった、突進してきた勢いでナイフを刺されて死ぬ、というのさえ回避できれば、こうしていても問題はない……はずだ。この状態で俺に夢を見せてこれるのなら一瞬で殺されてしまいかねないので、それだけは無いと信じたい。というかこの子、胸大きいな。夢で見た時は分からなかったけど、こうしてみると柔らかい感触が……って、いかんいかん。今はそういう状況じゃない。

「……えっと、ちょっと会話をしたいんだが、いいか?」
「…………………」

 無言だった。もう他の表現が無いくらいに見事な無言だった。
 まあ、返事がないならこのまま勝手に話をするだけなんだけど。今回は女性だったから役得だし。

「えっと、だな……このままじゃ埒が明かないし、そっちもやめる気はないみたいだしで、もう殺されてやろうかな、とか思ってるわけなんだけど」
「ッ!?」

 初めて反応があった。息をのむ気配。今は見えないけど、さっき直前で見た顔は燃えるような赤い髪に整った目鼻立ちのきれいな子だったので、その表情もとても見てみたい。少しツリ目だったから、それもいい効果を出してそうだし。と、それはさておき。

「ただ、まあどうせ殺すならその直前に一つくらいこっちの希望を聞いてくれてもいいんじゃないか、とか思うんだけど」
「…………………………」

 相変わらずの無言である。いいけど。言いたいことは勝手に言うから。

「そう言うわけで、どうせ殺すならこっちの希望を聞いてくれ。そう難しくはない……と思うから」

 二択で準備してあるけど、一つ目の方は難しいかもしれない。それなら二つ目を選んでくれればいいので、特に問題はないけど。

「で、一つ目が君自身の姿で殺して欲しい。どうせなら、ここまでかかわったやつについて知っておきたいしな」
「……………………………………」
「それが無理なら、美少女か美女か、そんな感じの姿で殺して欲しい。ちなみに、両方とも満たされてる場合がベストだな」
「………どうして、そこまで?」

 ここに来て初めて聞いた忌々しげではない声に、俺は少し感動の様なものを覚えてしまった。無感情な声だったのに。

「いや、ただなんとなく……ここまでする以上、何かしないといけないような事情があるんじゃないか、って。でも、そのまま殺されてあげれるほど出来た人間でもないんだ。だから、あんな希望を言わせてもらったわけなんだけど」

 そこまでいったところで俺は離れ、正面から顔を見て言う。

「さあ、そんな感じで俺を殺してくれ。それで君が救われるのなら、それでいいさ」
「…………………………………………」

 さっきまで抱きしめられていたことで固まっているのか、それとも呆れているのか、彼女は喋ろうとしない。声をかけようか、と思い始めたところで顔をあげて、

夢予告(デス・ノゥティス)

 そのつぶやきと同時に、俺は夢を見た。
 今目の前にいる彼女が手を差し出し、俺はその手に自分の手を重ねる。ただ、それだけの夢を。

 そして目を開くと……それと全く同じ光景が、目の前に有った。
 なので、俺はためらうことなく、手を重ねる。握手に、応じる。

「アンタ………本当に、バカ。大バカね」
「……え、今の声……」

 そう思った次の瞬間には、目の前は元の風景に戻っていた。俺はそれを、

 タラリラリーン。

 という、Dフォンから流れた音で気付いた。
 それにホッとしていると、携帯が……普通の、元から持っていた携帯が震えだす。
 それを誰からの着信なのかすら確認せずに通話状態にして、耳に当てる。

「はい、もしもし」
『あ、もしもーし!お夕飯の準備、始めちゃっても大丈夫~?』
「うん、大丈夫だよ姉さん。すぐに帰るから」
『りょーかーい。それじゃ、待ってるよー』

 そう言って電話が切れ、俺は完全に戻ってこれたことを知った。
 何が何だか、まだ分かって無いんだけど、とりあえず。

「帰るか」

 今日の夕食は、何だろな。
 
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