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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第百九幕 「リバーシ」

 
前書き
前にも言ったように生存報告みたいなものなので、一旦ここで区切りをば。

来月には作者が一番衝撃を受けた佐藤さんのシリアスブレイクとユウのリベンジマッチを投稿……出来ると良いなって感じです。いや読者の皆さんには恐らく伝わらないと思うんですけど、あのタイミングで佐藤さんにプロット壊されるとは思いませんでした。あの人は最近作者にとっても予想外なことするんですよ。 

 
 
『……ふん。あの気味が悪いガキは帰ったか』

ヘドロのような黒の海に浮かぶ3つの白い椅子。その一角に座っていた「もう一人の一夏」は、せいせいしたように軽く伸びをする。
先ほど、アレが去った。これでしばらくは一夏に介入してくることはないだろう。先ほどまで苦悶の表情を浮かべてながら(おき)ていた一夏は、今は見ているこっちの腹が立つほど心地よさそうに椅子にもたれかかって寝息をたてている。

一夏(おれ)よぉ、折角お膳立てしてやったんだからきっちり勝てよ?勝って鍛えて強くなって、そして――』

――そして?

『……なんか用かよ、くそガキ。人の独り言にいちいち反応するんじゃねえよ』

機嫌よさ気だった顔が、その声を聞いて瞬時に不満そうな仏頂面に変化した。
気が付けば、空白だった椅子の上に、そのまま消えてしまいそうな淡い光を放つ少女が座っていた。

『さっきまであの気味の悪いガキを締め出すのを手伝ってくれたのは感謝するけどよぉ、俺ぁお前みたいに何考えてるかわかんねぇ奴は嫌いなんだよ』

――私は好きだよ?口は悪いけど、今は貴方だけが話し相手だもん。

『フン!話そうと思えばあっちで寝てる呑気な一夏とも会話できるだろうが』

――まだダメ。あの一夏は、幼すぎる。チフユとは違って積み重ねた土台があまりに脆い。

『知ってるよ。あいつも難儀な状態で産まれて来たもんだ。本人が真実を知ったらなんて言うかな?』

――だからこそ、貴方も一夏を強くしようとしてるんでしょう?

『知った風に………まぁ、違うとは言えねえが』

何もかも見透かされているような言動が気に入らないとばかりに、その一夏は胡坐をかいて自分の足に肘をついた。何所か子供っぽくて、いじけているよな動きだった。


『「お前は一夏ではない」………ね。痛いところ突いてくるぜ』

――……………貴方は貴方、一夏もまたそう。

『分かってるよ。一夏は一夏だし、黒の門は開けさせねぇ……だが、そうならば――あいつは「一夏」に何を求めてるんだろうな』



 = =



展開は早かった。
一夏さえしっかりと動ければシルバリオ・ゴスペル一機に対して専用IS産5機だ。
一夏が撹乱(かくらん)し、シャルのガーデンカーテンを盾にラウラがレーゲンで攻撃を刺す、という基本的な動作によってゴスペルはじわじわと追い詰められていく。

元々ゴスペルはただゴーストを恐れ迎撃していただけなのだ。そしてゴーストもまた所狭しと暴れまわっていたからこそ、三すくみの戦場は困難を極めていた。つまりその一角が落ちれば状況は随分スッキリする。

「お三方!援護しますわ!」
「ゴーストに比べればその程度の速さ、箸でも捕まえられる!」

途中、箒とセシリアの援護が入ってからはシャルが防御から一転して攻勢。あのエネルギー羽から発射されるシルバーベルの隙を的確に突き、連続瞬時加速を用いた銃弾を確実に撃ちこんでいく。シャルは一通り撃ちこむと、両手に持っていた武器の使用許諾を解除して左右に放り投げた。

「一夏、ラウラ!パース!」

右のアサルトライフルを一夏、左のライフルをラウラが空中でキャッチする。

「サンキュ!」
「しかと受け取ったぞ!」

そしてラピッドスイッチで両手に二丁のライフルを握ったシャルが不敵な笑みを浮かべた。

「なら恐怖のトリプルアタック!レディ……GO!!」
「おらおらおらおらぁぁぁぁッ!!」
「計4砲のライフル弾の嵐だ!当たると痛いぞッ!?」

3機が三方から一斉に銃撃を浴びせた。前を倒そうとすれば後ろから、後ろを倒そうとすれば横からの弾丸を浴びる。たまらず全方位攻撃で追い払うが、発射の合間に入るティアーズと紅椿の狙撃がゴスペルのバランスを崩した。

そして、ゴスペルに生まれた致命的な隙をラウラは見逃さなかった。
セシリアのミサイルとシャルの射撃が同時に命中し、予想外の圧にPICを全開にしてバランスを立て直したその一瞬のゆるみこそ、ラウラのずっと待っていた物だった。

「フフフ……今の今まで物語内で碌に活躍させることが出来なかった我がレーゲンのAICの力を今見せてやるぞぉぉぉぉッ!!!」

ボーデヴィッヒ・ハイテンションと言わんばかりに最高にハイなラウラが追跡中のゴスペルに手を翳す。
PICによる強引な姿勢制御は隙を生みやすい、というジョウの言葉が脳裏に過る。正に今の隙はそれだった。ゴスペルがISコアであるが故の機械的な判断は、獣のような反射性を持つ反面柔軟性に欠ける。攻撃によって弾かれたままその場を離脱すれば、その慣性牢獄に囚われずに済んだはずなのに。

「シュヴァルツェア・レーゲンよ――奴を鳥籠に閉じ込めろ」

瞬間、ゴスペルの移動が、旋回が、ありとあらゆる行動が完全に停止した。

突然の異変にゴスペルは必死でもがいて脱出しようとするが、指先さえ満足に動かせずに完全に空中にがっちりと固定されている。一定空間における慣性の完全制御技術。相手の行動そのものを封じ込める不可視の鳥籠に、ゴスペルは閉じ込められた。
その様子が愉快痛快と言わんばかりにラウラが高笑いする。傍から見ると悪役のノリである。

「ふははははははは!!これこそがActive(能動的な) Inertial(慣性の) Canceller(停止装置)!!その頭の文字を取って『AIC』だ!我が祖国ドイツの世界一ィィィィッ!な技術力を余すことなくつぎ込んで完成したISのPICの応用兵装にして世界を揺るがすはずだったのに佐藤さんにあっさり敗れた第三世代兵装よぉッ!!」
「あれ!?自虐が入った!?ま、まぁ佐藤さん相手なら仕方ないんじゃないかな!?」
「あの試合は結局一発も佐藤さんに当てられなかったしな!!ふははははは……………あれ、何だこれは?私の……涙か」
「ラウラぁぁぁーーー!もういい、もういいんだ!!佐藤さんの事は今は忘れるんだ!」

ぽろぽろと瞳から滴が零れ落ちるラウラが居た堪れなくてひしっと彼女を抱きすくめるシャル。佐藤さんに対して失礼大爆発だが、まぁしょうがないと思う。だって佐藤さんだし。

何はともあれこれはチャンスである。ここで一気に仕留めさせてもらう――と、一夏は今度こそ必殺の一撃を叩きこむために雪片弐型を握り込んだ。

だが――同時に小さな恐怖を感じる。

「最初の一回目は不意打ちでやられた。そして二回目は半端な当たりで打ち損じ……」

自分の不甲斐なさに歯ぎしりをする。
いつもこうだ。他人に助けられて漸く戦える。お膳立てされた道でしか輝けない。挙句、今回などは変な歌のせいで途中まで足手纏いという有様だ。
情けない、本当に心底情けない。

白式というISを託されておいて、姉の使ったものと同じ剣を託されておいて、それでもなお一夏は未熟な戦士だ。未熟者は、未熟者である限り何度でも失敗を繰り返す。――今回の一撃で相手を仕留めきれる保証などどこにもないのだ。

「織斑、急げ!!AICで停止させてはいるが、こいつ……とんでもない暴れ馬だ!いつ破られるか分からない!」
「分かってる……」
「一意専心、二の太刀要らず。後は言わずともわかっているな?」
「分かってる……!」

失敗は出来ない。否、ここで失敗してなるものか。

「俺は成長するんだ……俺は勝つんだ。勝って鍛えて強くなって、そして――」

だが理想を語るにはそれに見合った力が必要だ。今の俺にそれがあるのか?
箒程の練度もない。セシリアのような判断力もない。シャルのようなテクもラウラのような厳しい訓練も受けていない。足りないのはしょうがないと分かっているのだ。
それでも、力が欲しい。

紛い物でも、今の一瞬しか使えないものでも構わない。
今すぐに掴める力が欲しい。
力。
力。
皆を越える力を。

勝利への渇望。力への意思。脈打つ獣のような闘争心が脳内麻薬を爆発的に分泌させ、瞬時加速で速度を増す体を燃えるように熱くさせる。零落白夜の冷気を感じさせる刃が、弐型の先端から噴出した。

この一撃であいつを壊せ。
この一撃であいつを仕留めろ。
力でねじ伏せろ、力で叩ききれ。
力で――
力で――

(俺の邪魔をする奴は――ぶった斬ればいい)

戦意が狂暴な敵意に変貌した。

「うぅぅぅぉおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

何も助けられない自分に力を。何も思い通りに出来ない俺に力を。
神に拝み倒すように、不安を敵意で強制的に塗りつぶすように。
一夏は士道も倫理も忘れて、ただ純粋に力だけを求めた。

どくん。

心臓の高鳴りが耳に心地よい。迷いや恐れが剥がされていく。
視界がどんどん明るく、クリアに、果てしなく――




『――そうそう、今はそれぐらいでイイんだよ一夏(おれ)。もっと力を求めろ。もっと暴力を欲せ。それが戦いの本質って奴だろ?』

「力を、寄越せよ」

『くくっ………どーぞご自由に』

さも可笑しそうに笑ったあの一夏は、ポケットに手を突っ込んだまま一夏へと道を譲った。
譲った先にあったのは、いつか夢で見た黒い門。
本能的に――力がここにあると確信した。


黒。


何物にも染まらぬ孤高の黒。
白式の純白と対を為し、好きも悪きも飲みこむ力。
門の隙間から漏れ出るように現れ、渦巻き、ひとつの玉となったそれが、一夏の掌に落ちる。
落ちた黒は、纏わりつくように一夏の右腕を包み込み――気が付けば、漆黒を基調としたISの籠手として装着されていた。

『そいつはお前の物でもあるしなぁ?俺に止める権利はねぇよ。くそガキも反対しないみたいだし、な』

「……………これが、力」

『使い方間違えんなよ?黒は悪の象徴なんていう奴もいるが、本質的には正義でも悪でもない。神にも悪魔にもなれる――そして、誰にも染められない。それが"マジン"の本質だよ』

憑りつかれたように黒を見ていた一夏は、ふと我にかえったようにもう一人の一夏を見た。

「何で今になって、俺はここで力を貰うなんて考え付いたんだろう。現実じゃこの場所の事も覚えていない筈なのに」

『それはちょっと違うな。だって、ここは"お前が辿り着く場所として作られた"んだからな』




加速、加速、加速。
気が付けば、一夏はまだゴスペルに邁進し続けている。
あれを一撃で確実に倒すための力は――俺の見た夢だったのか?そう考えた刹那、白式の腕部に変化が起きた。

《部分移行発生 腕部変形 機能『□□□□□□』、アクティブ》

雪片を握る両碗の装甲が変形していく。
より甲は分厚く、よりパワーを象徴するようにボリュームが膨れ、何所か刺々しくも芯を感じる「漆黒」の腕へ。
破壊と腕力、そして硬度。戦いに必要なあらゆる要素がその腕部に収束されていく。

「あれは……形態移行!?ううん、違う!隠し機能なの!?」
「あの黒、あの動き……"また"なのか?」

そして、黒く染まった腕からエネルギーの奔流が雪片弐型へと注がれていく。
一夏はその流れに逆らわず、雪片に全ての力を注ぎ込んだ。込めるイメージは力と熱。破壊で用いられるもっとも基本的なエネルギー。黒い腕から恐ろしいまでに生み出される正体不明の力が、やがて形を為していく。

いつかもこうして腕を黒く染めたことがあった。
だがあの時とは違う。この漆黒に染まった両碗は、間違いなく一夏が自分で求めたものだった。

荷電するエネルギーがバチバチとスパークながら、その刀身を青白い姿から赤みを帯びたものへ変えていく。(アンチ)バリアエネルギーの性質がより攻撃的に、熱狂的に変化する。今の一夏が剥き出しにする闘争心の赴くままに。

火照るような熱に魘された刃を振りかざした一夏は、真正面にAICから逃れようとするゴスペルを見下ろした。

歪な天使よ、悪魔の刃にて堕天せよ。


「零落白夜、弐の型――月夕(げっせき)ノ太刀ッ!!」


空を燃やす夕日のような鮮やかな橙に周囲を照らす眩い刃が、鉄をも破断する超高熱を以ってシルバリオ・ゴスペルを斬り裂いた。

悲鳴のような金切声を海に響かせたシルバリオ・ゴスペルは、その一撃を最後に全てのエネルギーを使い切り、こと切れたようにその翼を光の飛沫と散らせた。天使は翼を失い、海へと堕ちる。


膨大な熱を噴き上げる「月夕ノ太刀」が自動解除され、強制冷却による熱が蒸気と共に剣から噴出される。それと時を同じくして、白式の黒腕は元の白い腕へと戻っていった。
ゴスペルを冷酷に見下ろしていた一夏が、黒の消失と共に我に返る。

「あ……しまった!急いで助けないと……!」

戦いに夢中で忘れかけていたが、ゴスペルの中には人がいるのだ。このままぼうっと海に落ちるのを見ている訳にもいかない。焦った一夏は白式をブーストさせようとし――

プスン、と間抜けな音が響いた。

「え?」
《残存エネルギー0。IS展開状態を維持できません》
「はぁぁッ!?」

ぱしゅっ、と音を立てて白式の頼もしい鎧が光となって散った。

「う、嘘だろぉぉぉぉぉ!?」
「い、一夏ぁぁぁ!?」
「これはいけませんね……BT、助けてあげなさい」

セシリアのBTが器用に動き回り、落下中のゴスペルと一夏を支える。が、一夏はBTに上手く捕まり損ねたのか宙を浮くBTに必死でしがみ付いている。

「だ、誰か!この高さでIS無しに落ちたら流石に死んじゃうから!た、助けてぇぇぇーーーーッ!!」
「あ、あはははは……」

足をバタバタさせながら顔を真っ赤にして助けを求める一夏に、周囲は苦笑いする他なかった。
  
 

 
後書き
進化キャンセルは基本です。

ちなみにみんなの内心の不安を纏めるとこんな感じ。

ラウラ(あれはマジンの力だな……一度だけ織斑教官から聞いたことがあるぞ。……危ういな)
セシリア(織斑さんとは性質の違う"誰か"が……いましたわね)
シャル("聞いていた以上に"覚醒が早い……?それだけ事態が動いてるってこと?)
箒(あの様子、やはりただ事ではない。千冬さんは何か知っている風だったが……?)

4人が4人、別の事を考えてますね。
ちなみに皆さんもうご存知の事と思いますが、シャルはいろいろと知ってます。いずれその話はまた。 
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