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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第一章~こうして私は旅立つことになりました~
  第一話

 私は数時間前から妙な場所で戦国無双について熱く語り合っております。

 一体ここが何処なのか、とか、何で無双について熱く語り合ってるのか、とか……まぁ、それを詳しく話すとちょっと時間がかかる。

 無双について熱く語り始める前、私は線路に落ちた挙句電車に轢かれてミンチになりました。
落ちた、っていうよりは誰かに落とされたような感じだったんだけれども、その辺がどうだか定かではないね。

 んで、その後にどうやってか知らないけれど辿り着いたのが、自称神様が住む1LDKのアパートの中で。

 それでオタクの代名詞的な格好や風貌をした自称神様が最近無双を始めたという話を聞いて、
熱く語っているのであります。

 「き、きみ、面白いね」

 「そう?ありがと。でも、自称神様も結構面白いよねー。
オタクの友達何人かいるけど、ここまでオタクっぽい人は初めて……ってか、何で私こんなところにいるの」

 「ぼ、ぼくが呼んだから……話し相手が欲しいって」

 はぁ……話し相手ねぇ。パソコンもあるし家電もある。それにスマホまで持ってやがるし。
私なんかスマホなんてもん持ったこと無いよ。それはともかくそんだけありゃ、話し相手の一人くらいいるんじゃないのかねぇ。
あ、もしかして、ヒキコモリって奴で外に出てないんじゃ……台所なんか汚れた食器の山になってるし、
ゴミ袋の中レトルトやカップ麺の容器で山になってるし。
っていうか、あんまり見た目とか気にしてないから友達いなさそうだわ。彼女とか以ての外って感じだし。

 って、ちょっと待ってよ。つか、そのために私ミンチになったっての?
俄かには信じ難いけど、確かに電車に轢かれてミンチになった記憶はあるし、こんなところに連れて来られた記憶も無い。
このオタクの言うことすんなり信じてるわけじゃないけどもさ、でもそうでも考えないと辻褄が合わない。

 「……おい、私の人生を返せ」

 まだ花も恥らう二十二歳だってのに、どうしてこんなところで命を落とさにゃならんのか。
しかも死後に何処に行くかと思えば、こんな見知らぬ小太りのオタクの家だし。とどめに神様とか自分で言っちゃってるし。
どうせならイケメンばっかりの逆ハーレムな世界に行きたかったっての。

 「わ、わかった……話し相手になってくれたお礼に、
イ、イケメンばっかりの逆ハーレムな世界に転生させてあげるよ」

 「は? ……ってか、人の心読んだな!?」

 「だ、だって、ぼく、神様だし」

 神様だし、って……ああ、もう……何だか頭痛くなってきた。
神様って言ったら、こう神々しいオーラとか出ちゃってさぁ、髭生えた白髪のおじいちゃんだったりするんじゃないの?
こんなオタクが神様だったら皆絶望して宗教自体廃れちゃうっての。いや、オタクの神様ってことで一部にはウケる、か?

 「か、神様にも、い、いろいろあるんだよ。
そ、それじゃ、イケメンばっかりの世界に、い、行ってらっしゃい」

 そんな私の考えを知ってか知らずか、不気味な笑みを浮かべて軽く手を振ってくる。

 「ちょ、何処に落とすつも」

 最後まで言い切る前に突然目の前が真っ暗になって、何処かに落ちていくようなそんな感覚がした。
ひゃー、なんて悲鳴を上げて落ちていく最中、あの自称神様の声が響いた。

 「ご、ごめんね、ぼ、ぼく、女の子の身体って、よ、よく分かんないから……
ふ、不完全な生まれ方しちゃうかも……だ、だけど、一人でも生きていけるように、
か、簡単に死なないくらいに強くしてあげるから」

 女の子の身体がよく分からないとか言うな!! そんなあからさまに童貞発言すんな!!
それに簡単に死なないくらいに強くするってなんだ、チートか? チートってことか? それ。
ってことはつまり、明らかにこれから行くところは危ないところです、って言ってるようなもんじゃないの!!
自慢じゃないけど、生まれてこの方戦いなんかしたことないんだから。つか、格闘技だって習ったこと無いってのに!

 「ご、ごめん……」

 「謝るくらいならせめて希望くらい聞いてから落とせーーーーー!!!」

 叫びも空しく、神様の返事を聞くこともないまま私は意識を失っていた。


 はっと目を覚ますと、そこは見知らぬ家の中だった。
あの自称神様のアパートよりかは随分と広く、どうも日本家屋って感じの家に見える。
いや、家と言うよりは……何だろうな、こういう古めかしい造りの建物何処かで見たことあるんだけど……何処だったっけ。

 そんなことをぼんやりと考えている私の近くで赤ん坊の泣き声が響いている。
一体何処からそんな声が聞こえてくるのかと思って首を動かそうとしたものの、どういうわけか思うように動かない。
起き上がろうとしても身体に力が入らない。

 「(ちょ、何!? 何が起こったっての!?)」

 とどめにまともな声すら出ず、まるで赤ん坊のような高い音しか口から出てこない。
流石にこれには妙な焦りを覚えて慌ててしまうが、それでも私には自力で身動きすらとることも出来なかった。

 ちょっと待って、何この状況。どうして身体が動かないわけ?
もしかして、神様とやらに落とされた影響で怪我をしてる、とか?
いやいや、だったら身体に痛みがあっても良いじゃないの。どう見たってここは病院じゃなさそうだし、何処かのお家って感じだし。

 「あらあら……どうしたの?」

 嫌にデカイ女の人が私の隣に寝かされていたらしき赤ん坊を抱っこしてあやしている。
落ち着いた赤ん坊を抱きながら、女の人は私の頭を撫でていた。

 「弟に比べて姉は大人しいわねぇ」

 笑って私の頭を撫でている女の人の言葉に、一つの可能性にぶち当たる。

 ……転生、って言ってたわよね。ってことは、私、今赤ん坊!?

 動かない身体も声の出ないことも、そう考えれば全部辻褄が合うような気がする。
そうだよ、考えてみればマンガとかラノベとか、あと二次創作とかよくある転生モノの王道的な流れじゃない。
トラックに轢かれて転生して、気付いたら赤ん坊として生まれ変わっていた、なんてさ。
ま、そこに最強チートがオプションとしてつくかどうかはまた別問題だけど、とりあえず待ってってば。
どうせならある程度の年齢くらいからスタートさせてよ!
よく考えなくてもさ、これからある程度の年齢になるまで人の世話にならなきゃならないってことでしょ!?
まだご飯食べさせてもらうとかならいいよ。排泄まで人の世話になるのは冗談じゃない。ってか私、そういうプレイは嫌だから!!!

 思わず悲しくなって泣き出してしまった私を、泣き止んだ赤ん坊を布団に寝かせて女の人が優しくあやしてくれる。
でもそれが余計に悲しくて思いっきり泣いてしまったものだから、女の人は困った顔をして私のおむつを確認しだした。

 ちょ、止めて! 何この羞恥プレイ! 拷問だっての!!

 「おむつ、じゃないみたいね……お乳はさっきあげたばかりだし……」

 畜生!! あの小太りメガネ!! 次会ったら絶対にボコボコにぶん殴ってやる!!! 
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