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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第16話:三手先行くお父上

(ラインハット城・コリンズ王太子私室)
コリンズSIDE

「良いのか説得しなくても?」
厄介事でもあるリュリュさんを見送り、(ポピー)に視線を戻して問いかける。
「はぁ説得ぅ? 何で私がそんな面倒事を引き受けなきゃならないのよ!?」
あ、何か怒ってる……彼女に見取れてたのバレたかな?

「だってさ……リュカ陛下の厄介事を取り除くべきじゃないのか、優秀な娘としては?」
「私がどうこうしなくても、お父さんは手を打ってるわよ、既に」
何で言い切れるんだよ?

「“何で言い切れるんだよ”って面すんじゃないの」
「何も言ってないだろ!」
何でバレるの!?

「いい、私のお父さんは貴方の父親と違って浅はかな思考回路してないのよ!」
「し、失礼だな……父上だって浅はかじゃないよ!」
思わず強い口調で言ってしまったが、(ポピー)は気にする事なく「あらそう」と肩を竦めて受け流す。

「兎も角……何の考えも無しに交換条件は出さないの」
「つまりリュカ陛下はリュリュさんの優勝を阻止する算段があると……そう言うのか?」
俺なんかと比べても意味ないが、彼女はそれなりに強いぞ……それでも優勝させない手があるというのか?

「今回の賭は、一見するとフェアだけど……その実アンフェアなのよ」
「どこがアンフェアなのさ? むしろリュリュさんに有利な気がするよ。大会開催は2年後だし、その間に筋トレや武者修行などの特訓が出来るんだから」

「そうよ。大会開催は2年後……誰にも特訓のチャンスがあるの。しかも主催者はお父さんだから、誰が出場するかを開示する事も、その人物がどの程度の実力なのかも、公にする事が出来るの。この意味が解る?」
「……………」
解らない俺は黙って(ポピー)を見詰めるのみ。

「これから出場を考える人は、リュリュの実力を知って目標が出来るの。その目標に向かって修行すれば、目標のない修行をするより遙かに効果的な修行が出来るの。つまり2年後には現在のリュリュの実力を上回る人物が出場してくるって事……解った?」

「それは解った……でもリュリュさんだって特訓すれば今以上に強くなる。それは考慮に入れてあるのか?」
「当たり前でしょ……私のお父さんは二手三手先を読む天才なのよ。もしかしたらここまでの出来事は、全てお父さんのシナリオ通りかもしれないわ」
まさか……それは言い過ぎだろう。

「“それは言い過ぎだろう”って顔しないの!」
またバレた!
「じゃ、じゃぁ如何なる手段でリュリュさんの修行を邪魔するつもりなんだ?」

「邪魔なんてしないわよ……ただ仕事を与えるだけ。重要な役職に就かせて、修行する暇を与えないだけよ」
「言っては何だが、彼女に政は無理だと思う。その……あまり頭が……」

「解ってるわアホの()って言うんでしょ?」
「そこまでは言わないけど……」
何時も彼女には優しくしてるのに、言う事はキツイなぁ……

「勿論いきなり重要ポストに就かせる訳にはいかないけど、あの()は努力家だから教え込めば何だって出来るのよ。だから手始めにティミーの秘書とか補佐とかに就かせるんじゃないの? そこで仕事を憶えさせて、行く末は外務大臣リュリュ閣下よ」

「随分と突飛な考えだな……リュカ陛下がそんな事を考えてると?」
「えぇ……随分前から考えてたと思うわ」
随分前って何時頃だよ……?

「お父さんは跡取り育成を考えて行動してるのよ。その為にティミーを外務大臣にして、他国のお偉いさん達とのコネクションを作らせた。そしてウルフを自身の秘書にして、国内の全てを把握させこちらもコネクションを築かせたのね。既に報告があったけど、彼は(いず)れ宰相になる……お父さんには宰相なんて不要だけど、ティミーには必要になるわ。外に強くカリスマ性を持った国王と、内に強く天才的な宰相のコンビ……リュカ国王に引けをとらないと思わない?」

「確かにその通りだが、リュリュさんはどうなるんだ? 彼女を外務大臣にする行動がまだ見えてこないけど……」
「馬鹿ねぇ……既にリュリュは外務大臣への道を歩き出してるのよ。本人すら気付かぬ内に」
ま、まさか……

「彼女は王太子直属の護衛部隊の副隊長よ。常にティミーやアルルさんと一緒に行動してたわ。つまり随行するリュリュにもコネクションを作る事が出来る訳なのよ。あれほどの美女よ……各国のお偉いさん(スケベなオッサン)が放っておくと思う? 答えはノーよ。あの女の厄介さを知ってたって、鼻の下を伸ばして近付きたくなるでしょアナタ?」
あ~ん……ポピーさん怖い(涙)

「で、でも……いきなり“外務大臣やれ”と言われてやるかね? 俺だったら拒絶するよ、大好きな父親の言い付けでも」
「だぁかぁらぁ……お父さんはもっと細部の事まで考えてるの。今までティミーの補佐をしてたアルルさんは、妊娠を理由に政務から外す……代わって側で仕事を見続けてきたリュリュを後釜に据える。そしてしばらくは外務省の……外務大臣の仕事を憶えさせる」

「で、時が来たらティミーを国王にして、リュリュさんを外務大臣に……か」
つくづく怖い一家だ……
こんな事を考え実行してたリュカ陛下に、それを説明される事なく理解してるポピー……
ティミー……お前は大丈夫なのか? その一家の一員で大丈夫なのか?

「さっきも言ったけど、お父さんとウルフの頭の中には、ここまでの流れが出来上がっており、全てシナリオ通りに推移してるのかもしれないわよ。闘技大会を偶然利用した様に装ってるけどね……」
「それは不可能だろ!? だってリュリュさんが若い男共の餌食になりそうになった件は、全くの偶然じゃないか! ピピン殿が偶然見かけたから、大事(おおごと)になる前に発覚したんだよ?」

「さて……あのお父さんが、リュリュの周囲で起きている事に気付いてないとは思えないわ。むしろリュリュに群がる様に仕向けたのでさえ、お父さんかもしれないし……私も含めて、お父さんに特命を授けられたら、喜んで尽力する連中が大勢居るからねぇ」

俺は言葉を失った。
何処まで予定事項だったのか……何処から不測の事態に陥ったのか?
いや、もしかしたら不測の事態に何て陥ってないのかもしれない。
(ポピー)の口調がそれを示唆する。

「う~ん……解らないってのは不愉快ね! ウルフを脅して聞いてみましょう」
言うが早いか、彼女はMH(マジックフォン)を取り出し誰かの端末を呼び出した。
暫くして(ポピー)の手に収まってるMH(マジックフォン)から、一人の青年の姿が浮かび上がる。

驚きつつ怪訝そうな表情をする青年を見て、(ポピー)は満足そうに頷くと手に持つ端末をテーブルに置き、俺と共に会話できる状況を作り出す。
「忙しいところ済まないウルフ君」
俺は(ポピー)に変わり、MH(マジックフォン)の相手に謝罪する。

『いいえ予測はしてましたから……でも少し待ってて下さい。誰にも聞かれない場所に移動します』
「予測したたなら、そこで待機してなさいよ。使えないわね!」
酷い……彼は忙しい身なのに。でも怖いから言わない。自分が一番大切だから。

『ちっ、うるせぇ女だな』
「お? お前今何つった?」
ウルフ君は端末を手に人気の無い場所へ移動してるのだろう。揺れるビジョンからそれが読み取れる……そして本音の独り言も。

『何か聞こえましたか、ラインハット王太子ご夫妻殿?』
周囲に誰も居ない静かな場所に移動したウルフ君は、しれっとした顔で端末に向かうと何事もなかった様に話しかけてきた。
流石リュカ陛下の秘書官をしてるだけはある……良い度胸だ。

「まぁ良い。今回は見逃してやる」
『“今回は”じゃねーだろ。どうせ(いず)れ思い出して俺の事を苛めるんだ。“今は”と訂正してほしいですな! 言葉は正しく使って下さい義姉上殿(おねえさま)

「何だ……解ってるじゃないか(笑) じゃぁ挨拶は端折ろう。サッサと説明しろ……お父さんは何処まで手を出してるんだ?」
あの陛下に『手を出してる』と言う台詞を言うと、女性関係の事柄に思えるが、彼も(ポピー)が何を言いたいのか解ってるだろう。

『闘技大会およびリュリュ様の諸問題の事でありますか? でしたら部外者に……グランバニアとは関係のないラインハットの方々にお話しする訳には参りません。それが解らぬポピー様とは思えませんが?』
言外に“口を出すな”と含まれるウルフ君の言葉……
(ポピー)にそんな事が通用すると思ってるのか?

「キサマ……押し倒すぞコラ! そして巧く体位を入れ替えて、まるでお前が襲いかかった様な状態をマリーとリューノに目撃させるぞ!」
『安心しろ。その時はお手を煩わせる事なく、俺の意思で襲いかかってやる! リュカさんを敵に回すくらいなら、娘3人を敵に回す方が得策だからな』

凄いな……(ポピー)相手に一歩も引かずやり合っている。
これでは情報を聞き出すのは無理なのではないだろうか?
その事を瞳に携え、(ポピー)に無言で問いかける。

「なるほどね……やっぱりお父さんは大部分で関与してるのね」
しかし俺の問いかけは無視し、独自の解釈でウルフ君に揺さ振りをかける。
突飛ではないかと思うのだが、彼女には自信があるのだろう。

『……………』
「……………」
「……………」
そして3人共喋らなくなった。

暫くの沈黙が続き『はぁ……』と溜息を吐いたウルフ君が、誰も居ないだろうに周囲に視線を巡らせて話し出した。
『絶対……本当に絶対誰にも言うんじゃないぞ! ヘンリー陛下にも口外するんじゃないぞ! 俺はあの人の口の堅さを信じてないからな……』

同盟国とは言え、外国の国王に対し……また、その王子に対して使用する台詞ではない。
しかしウルフ君の目は真剣で、我らの口を閉ざさせる為に必死になっている。
流石の(ポピー)も“それは貴方次第じゃなくて?”とか、からかう素振りは見せず無言で頷いた。

どうやら(ポピー)もこれが只の悪巧みでないと感じた様だ。
下手すると国家間の問題に発展しかねない事柄かもしれないのに、安易に尋ねて大丈夫なのか?
俺は(ポピー)とウルフ君を交互に見ながら、今この場に居る不幸を嘆いている。

ヘタレと呼ばれても良い……
父上、助けて下さい!!

コリンズSIDE END



 
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