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電子な世界の奴隷アリス~ご主人様は愛しい妹~

作者:枝瀬 景
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1プロローグ

 戻りたい。と聞かれれば取り敢えずYesだ。誰だって自分が生まれ育った場所が恋しいし、僕もこんな体と生活とオサラバ出来る。



―でも本音は?



もう、いいかな。と


いまさら、ね。と


むしろ、いまが。と



 誰もが…それは少し言い過ぎか。未だに未練がある人もいるし、向こうでの人間関係もある。全員とは言わないが過半数の人はそう、心の中では思っているかもしれない。
 でも、ここは住み心地がとてもいいし、元の世界には無いもので満ち溢れている。その分逆にこっちに無いものも沢山あるが…、それを差し引いてもこの世界は魅力的だ。

 かく言う(ぼく)も……

「ほら、お姉ちゃん・・・・・おいで」

 私は熱に浮かされたように、街灯の光に集まる蛾のようにフラフラと彼女の方へ近付いていく。彼女は自分の妹であるにも関わらず、年下であるにも関わらず、命令(・・)に逆らうことはできない。
 彼女は私を優しく抱き止めた。私は奇妙な安心感と充足感を感じながら彼女に身を委ねた。
 彼女は私の長い金髪を梳きながら、耳元で天使とも悪魔とも言える言葉を囁いた。

「お姉ちゃんは私のものなんだから私の言うことを聞いてればいいんだよ?だってお姉ちゃん…」




――私の奴隷(・・)だもんね――



    *  *  *



「お兄ちゃんこれ!」

 と、ノックもせずにいきなり僕、音木 涼(おとぎ りょう)の部屋に妹の音木 繭(おとぎ まゆ)飛び込んで来た。

 昨日で15歳の誕生日を迎えた繭は昔っからお兄ちゃんっ子で、事あるごとに僕の所にやってくる。未だに兄離れ出来ないのはいけないとは思いつつも、ついつい甘やかしてしまう。
 因みに僕は16歳。同じ学校に通ってる繭は高校一年で僕は高校二年生。
 繭は学校で高い人気を誇るほどで、身内贔屓を除いても美少女だ。兄妹であるとはいえ、たまにドキッとしてしまうこともあるし、繭の言いなりになってしまうこともあるけど、可愛い子は目にいれても痛くないとは良く言ったもの。もしかしたら僕も妹離れが出来ていないのかもしれない。

 他の家庭よりもかなり兄妹仲が良いことと、僕自身の変身願望(・・・・)を除けば普通の一般家庭である。
 そんな妹の手には昨日の誕生日にもらった誕生日プレゼントである、『Phantasy Second Life Online(ファンタジー セカンド ライフ オンライン)』通称【PSL】のパッケージが握られていた。

「それがどうしたん?」

 ある程度解る…もとい。聞くのも野暮な事を確認をする。

「お兄ちゃんもこれやって!」

 ほら、言わんこっちゃない…と僕は思った。

 『Phantasy Second Life Online』通称【PSL】とは日本中のゲーム会社が合同で製作し、さらに普通ではあり得ないことだが、アメリカ、イギリス、インド、中国……と世界各国のIT企業がこぞって技術や投資を提供して出来た、まさに規格外化物級VRMMOである。
 ネーミングの由来は安直に『異世界で第二の人生を』。出来ないことは現実世界よりも少ないを唄い、ベタで王道な魔王討伐をグランドクエストとして軸にした様々なクエストや、様々なプレイスタイルを行うことが出来るとのこと。
 テレビに限らずネットや現実世界の看板などの至るところでしつこいぐらいに宣伝されてた。

 発売されたのは偶然にも繭の誕生日と同じ日、つまり昨日。しかもこのゲームはR15なので、タイミングよく15歳になった繭は「これで最後の誕生日プレゼントでいいから買って」とせがみ、同じく【PSL】を買う行列の中に父親を朝早くに送り込んで手に入れていた。
 僕は一緒に父に頼んだ記憶はないので、当然持っているはずがない。

「え~…僕持ってないよ?」
「今から買ってきて」
「それもそうだけど、そもそもVR機持ってない」
「今から買ってきて」
「…………………」
「今から買ってきて」

 無言でも同じ言葉を繰り返すのかよ!?まるでNPCに話しかけてる気分だ…。

「お願いお兄ちゃん。私お兄ちゃんと一緒にしたいの」

 あざとく上目遣いで懇願してくる妹を見て、このお願いを断れようか、否、断じて否!
 シスコンと呼ばれようが構わない。お兄ちゃん妹のためなら何でもするよ!
 と、心の中でさけんだ。

「……わかったよ」
「やった!お兄ちゃんだいすき!」

 そうかそうか、妹の喜ぶ顔を見てお兄ちゃんも満足だよ。

「招待特典が貰える♪」

 ……例えそれが特典が理由だとしても。
 貯金が吹っ飛ぶ…。はぁ、今月生きていけるかな…。






 妹の言われるがままにVR機と【PSL】を買って家に着いたのは16時過ぎ。日曜日で発売の2日後ということで凄い行列だった。もっと凄いのは未だに売り切れてない【PSL】だけど。いったい幾つ在庫があるんだ?

 VR機を初めて買った僕は妹にせかされながら初期設定をしていく。学校とかでVR機自体はさわったことがあるので設定はスムーズに完了した。
 このVR機は今では洗練されたVR空間に入る為のもの。ヘットギア型で最新鋭のVR空間ダイブシステムと高速処理をするためにメモリは32ペタという一昔前では信じられないスペックを搭載したものだ。

 メガやギガの時代は既に古く、テラでさえ今では低スペック扱いだ。
 気になるのは【PSL】のサーバーのスペックだが、ネットを見る限りではなんと5ゼタ。
 メガ、ギガ、テラ、ペタ、エクサときてゼタ。
 この途方もない数字にもはや驚くを通り越してあきれてしまった。

 そんなインフレ染みたスペックを搭載できる…いや、だからこそ洗練はされたVRだが、使い道は殆どない。一応家庭用にも販売はされているが精々、学校で情報の授業の一環として使われるだけだ。家庭には殆ど馴染みのない無用の長物である。
 それも、VRを使って軍事演習が出来るとか何とかで様々な国際規制が掛かってるからとか。
 授業では何もない白い空間で、VR内で体を動かす程度の詰まらないものだった。

「お兄ちゃん!キャラ作ってから@weki見てよ!」
「情報収集は大切だろ?それに今はインストール中」

 情報収集と言っても概要とスペックの所ばっかりで肝心のゲーム内容の情報は見てないけど。
 構わず概要とかを見続ける。


・【PSL】はただ単にゲームを楽しむだけでなく、VR内で様々なことが出来る。現実世界の1時間はゲーム内の12時間となっており、五体満足ではない方でもスポーツが楽しめるようになっている。

・VRに入っている間は寝ている状態と同じになっていて脳に負担をかけることは少ないが、寝過ぎが良くないようにVRに入る時間も注意すること。


 そんな期待外れだったVRは、最近規制が緩和されたことによってVRゲームを作ることが許可された。
 そこで、世界初となるVRゲームを作るに当たって日本中のゲーム会社が呉越同舟というか一致団結というか、まあ、諸々の問題をどうにかして協力した。
 そこに海外からゲーム好きな善意もあれば、(よこしま)な理由で協力、制作に参加していたら、いつの間にか日本のゲーム企業を中心とした世界共同開発、あり得ないプロジェクトへと発展していった。
 当初はプロジェクトが外国に乗っ取られてしまうのではないかと危惧されていたが、開発陣の中の善意的なゲーマーが国という枠組みを越えて牽制していたため、何とかなったらしい。恐るべしゲーマーの執念。
 VRで経つ時間の項目を見て僕はふと、疑問に思った。

「ねえ、繭は何時間プレイしたの?」
「ん?えぇと…13時間ぐらいかな?」

 ちょっとまて。

 発売されたのは昨日だぞ?それに昨日父が帰ってきたのは昼の12時過ぎで…繭の誕生日を祝ってケーキとか食べたのは7時から9時ぐらいだとして…昼間と夜中はずっとプレイしてたってことか?現実世界ではだいたい13時間、ゲーム時間に換算すると…156時間!?

「何?お兄ちゃん、私との差が気になるの?」
「いや…ちょっとやり過ぎじゃないか?」
「そうでもないよ。ほんとの廃人はまだログアウトしてないんじゃない?」

 上には上がいるようだ。廃人にも程があるだろ…。
 だけど、安全装置とかどうなってるんだ?流石に3日間飲まず食わずは死ぬぞ?
 そう思って@wekiを見る。

・現実世界で24時間プレイした場合、強制ログアウトの上48時間のログイン禁止処置が施される。連続ログインを防ぐ為一度ログアウトしたら3時間はログイン不可。また、使用者の脳波に異常が見られた場合、警告の後、強制的にログアウトさせられる。

「ペナルティきついな」
「でしょ?そろそろログアウトする人が続々出るんじゃない?」
「ふーん。インストールにもう少しかかりそうだから先にご飯にしよっか」
「うん!ちゃっちゃと食べてバリバリ【PSL】やろうね!」


    *  *  *


 今日は土曜日なのにも関わらず両親が用事で出掛けてた為、昨日の残りと+αを食べてから繭とはゲーム中でやり取りするためにVR機のIDを交換し、繭はログイン。インストールが終わっていたので僕はキャラメイクを始めた。
 VR機を頭に被りコードを繋げてログインをした。


 ログインすると、早速キャラメイク画面になった。名前、性別、種族、職業などの項目がある。
 名前は……『アリス』。性別は勿論(・・)女で。 
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