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ONE PIECE《エピソードオブ・アンカー》

作者:蛇騎 珀磨
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episode1

 海底1万メートル。並の船は立ち入れない、特別な場所。
 陸に住む者たちは、その場所を魚人島と呼んだ。

 その名の通り、この島には人間以外の生物がいる。
 人魚や魚人といった海に住む者たちである。

 そして、人魚や魚人が統べる国があった。街があった。荒くれ者が住まう街もあった。

 そんな、荒くれ者が住まう街で、1人だけ小柄な少女の姿があった。その姿はまるで人間。
 彼女の名は『アンカー』。世にも珍しい、女の魚人である。






「ーーおい、テメェ。ここがどこか分かってんのか!?」


 いつものように魚人街へ訪れ、いつものように絡まれる日々。誤解の無いように説明しておくが、アンカーはれっきとした魚人である。ぱっと見では分かりにくいがエラも蹼もある。
 今日の相手は、ウツボの魚人。エモノは幅の厚い短剣。アンカーは丸腰だ。


「ここは人間が来ていい場所じゃ無ぇんだよ!!」

「......るな...」

「ああ? なんか言ったか? 恐ろしくて声も出ないか!?」


 アンカーの肩が震える。それを「恐怖」だと勘違いしたのが、彼にとって命取りとなる。


「がっ...かっ......!」


 薄緑色の目が鋭くなるのと同時に、魚人の体は地面に叩き付けられていた。少女の小さな手に喉元を抑えつけられたまま、身動きが取れないでいた。


「人間なんかと一緒にするな。...ワタシは魚人だ!!」

「ぐはっ...! ......い、気に...よっ、この......」

「黙れ!」


 抑えている方とは反対の手を硬く握り、頭上まで振りかぶって勢いに任せたまま振り下ろす。何度も、何度も、何度も、何度も...。
 何度も繰り返すことで威力を増した攻撃で、魚人の顔は変形しつつあった。硬いものを殴る音から、柔らかくなった肉を潰す音へと変化していくのが証拠だろう。
 彼女が肩を震わせていたのは「恐怖」からではない。人間扱いされたことへの「憤怒」からである。


「もうその辺でいいんじゃねえか?」


 アンカーの手が止まった。普段、彼女を止めるものなどいない。相手が許しを請うか、彼女が満足するしか止めようがないものだった。
 小柄な少女が相手を殴り続ける光景を遠巻きに眺めていた他の住人たちも、殴った魚人の返り血を浴びたアンカーも、その声の主に驚いた。


「......何の、用? アーロン船長」


 独特な笑い声が、静まり返った空間に響く。その場にいる誰よりも大きな体。背中に生えたサメ特有の背ビレ。
 彼の名は『アーロン』。魚人街出身の海賊、アーロン海賊団の船長である。


「はぁ......。シラケちゃったな。...帰ろ」

「待て」

「ちょっ、離してよ! もう帰るんだから!!」


 アーロンの手がアンカーの体を掴む。小柄な彼女の身長は、アーロンの手の平に収まる程度しかない。捕まってしまえば、簡単に持ち上げられ逃げるのは不可能だった。
 足をバタつかせて抵抗してみせるも、無駄に等しかった。


「お前、俺の船に乗れ」

「ヤダ」


 遠巻きの連中から「ひぃっ」と声が上がる。
 誰もが、アンカーの死を想像した。身動きが取れない今の状態で攻撃を喰らえば、アンカーの命は無い。
 しかも、アーロンはここらでは最強の海賊と謳われている。そんな男の誘いを断った者はいない。もし断りでもすれば、殺されるかもしれないと考えていたからだ。


「理由は?」

「ワタシは海賊が嫌いだ。アンタも、嫌いだ」


 再び、遠巻きの連中から悲鳴が上がった。「何考えてんだあの馬鹿!」だの「殺されるぞ...」だの、様々な声がざわざわと鳴る。


「シャハハハハハッ!! なら、仕方がねぇ。帰んな」

「......」

「...またな」


 意外な反応。アンカー自身、これは死んだなと考えていた。まさか、笑い飛ばされるとは思っていなかった。
 そっと降ろされ、耳元で「またな」と囁かれたのには驚きを隠せなかった。

 この時、アンカー16歳。アーロン25歳。 
 

 
後書き
アンカー
・女性。
・コバンザメの魚人。
・ぱっと見はまるで人間。 
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