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ボスとジョルノの幻想訪問記

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紅の十字架 その⑤

ボスとジョルノの幻想訪問記 第28話

 紅の十字架⑤

 紅魔館の開かれた厨房の扉から流れてきている血は廊下を広範囲に渡って濡らしていた。さらに、それだけではない。三人が見つめる先・・・・・・、厨房の扉付近からザブザブ・・・・・・と何かが歩き出てくるような水音がする。そこには目に見える限りでは何もいないはずだが。

「・・・・・・見てください。音のする・・・・・・あそこです。不自然に水面に『穴』が空いてないですか? 二つ、ポツポツと」

 ジョルノが指さす先には血の水面に不自然な窪みがあった。そしてそれはザブザブという音と共に移動している。つまり、『透明の敵』があそこにいるということだ。

「・・・・・・ドアが開いてるってことは・・・・・・美鈴、やっぱりあの中には」

「妹紅さんの察しているとおりです・・・・・・。あそこには大量の妖精メイドがいたはずですが、おそらくもう・・・・・・」

 その言葉の先は眼前に広がる『血の海』によって明らかだった。妹紅は黙ってはいるがかなり怒りの表情を表に出していた。妖精といえど、こんな風に命を弄ぶ奴は絶対に許せない、と。

「・・・・・・ジョルノ、私の行動を止めてくれるなよ」

「・・・・・・? 何をする気ですか・・・・・・」

 すっ、と美鈴とジョルノの前に進み出た妹紅はジョルノにそう告げて。

「言ったらお前止めるだろッ!! 『スパイスガール』ッッ!!」

 スタンド、『スパイスガール』を出して一気に階段をかけ降りた。ご丁寧に、いつの間にか背負っていたパチュリーを二人の元に置いて。

「ちょ、妹紅さん! 一人で突っ込むのはマズイ!!」

「そうですッ! あなたは良くても僕ら二人だけで怪我人を三人も守りながら移動するのは難しいッ!!」

 あぁ、ジョルノさんの突っ込みどころはそこなのね。と美鈴は少し思った。

「どっせぇーーいッ!!」

「コノドカスガァァァーーーーーーーーッッ!!」

 妹紅の炎気を込めたキック、通称ブレイズキックと『スパイスガール』の強烈なラッシュがジョルノの示していた透明の敵にヒットした。確かな手応えを感じて、敵はもう倒れただろうと判断し妹紅は厨房の中を見た。

「・・・・・・」

 その様子を上階から見ていたジョルノたちは妹紅が急に黙ったのを不審に思う。

「・・・・・・どうしたんですか、妹紅」

 ジョルノがそう問いかけるも、妹紅の耳には届いていないようだった。厨房の中を凝視している。

「妹紅さん! 何かいるんですか!?」

 美鈴もジョルノに続いて聞いた。すると今度は答えが返ってきた。

「・・・・・・何かも何も・・・・・・何もないんだけど」

 いや、そんなはずはない。こう思ったのは妹紅含めて全員だった。こんなに大量の血が流れているのだ。全員が全員、厨房の中は相当悲惨な状況だと思っていたのに。二階で様子を見ていた二人も、美鈴がパチュリーと咲夜の二人を両肩に抱えながら降りてきた。ばしゃばしゃ、と血が靴の中に染み渡る。かなり不快だったが今はそんなことはなりふり構っていられなかった。

 二人も厨房の中の様子を確認して愕然とする。妹紅の言うとおり、厨房には血しかなかった。

「・・・・・・お、おかしい。こ・・・・・・こんなことがあるわけがない」

 美鈴は首を振りながら厨房の中に入った。妹紅とジョルノもそれに続いて中を探そうとする。

 これだけの血液だ。絶対に死体があるはず。

「・・・・・・あ、美鈴。パチュリー置いてっちゃってたな」

 妹紅が美鈴の肩に担がれているパチュリーを再び背負い

「・・・・・・一回休みってことじゃあないのか?」

 ふと思い出したように美鈴に尋ねた。そうだ、一回休みなら死体は残らない。ジョルノも得心がいったが美鈴は首を横に振った。

「・・・・・・いや、一回休みならその妖精にまつわるもの全てが蒸発して消えます。だから血液が残るはずがありません」

 否定する。一回休みなら血も全て蒸発するという。だからこれほどの血が流れているのは一回休みにならずに殺されたか――――。

「これだけの血を抜かれて妖精メイド達はまだどこかで生きている――――って言いたいんですか? まさか、明らかにこの量は普通の人間20人分以上の致死量ですよ・・・・・・?」

 ジョルノは美鈴の言葉を先に述べ、また否定する。

「そうですよね・・・・・・まさか、どこかの宮古さんでもあるまいし」

「宮古?」

 ジョルノが聞きなれない美鈴の発した単語に反応する。

「あ、あぁ。えっと、宮古さんはキョンシーって言って私の祖国で有名なゾンビです。この前一緒に肉まん食べました」

 と、美鈴の単語に今度は妹紅が反応した。

「・・・・・・ゾンビ・・・・・・。・・・・・・あながち間違いじゃあないかもしれないぞ」

 もちろん、ゾンビはジョルノでも知っているものだ。腐った動く死体で、ノロマ。不気味な唸り声をあげて生きている人間の生を食らうという・・・・・・。

「・・・・・・ゾンビは総じて火に弱い。だけど打撃や剣撃には強い。ドッピオに括りつけられていた透明の敵もそうだったが、ナイフで刺されたりしても全然元気だった。でも、私の炎ですぐに消滅しただろう?」

「確かに、さっき妹紅が蹴った奴もすぐに消滅してましたね」

「そうだ。さっき蹴った奴は体感で言えばかなり小柄で、明らかに私の蹴りで大きくぶっ飛んだはずだ。だけど着水音がなかったんだ」

「・・・・・・つまり、『蹴り飛ばされて地面に落ちる前に消滅した』ってことでしょうか?」

 妹紅は頷いた。明らかに敵は火に弱かったのだ。

「じゃあ、それが分かったからって一体なんだって言うんですか?」

「いいか、美鈴。お前のゾンビの知識はイコールキョンシーだから分からないかも知れないが、一般的にゾンビは『伝染する』って慧音が言ってた。西洋の知識らしいが・・・・・・」

 妹紅の頭は珍しく冴えていた。

「・・・・・・私が考えているのはここにいる妖精メイドは全員ゾンビになってしまったという結末だ・・・・・・だとしたら説明がつく」

「それなら血を抜かれても一回休みにならずに生きている・・・・・・。それに、ドッピオやパチュリーさんの『血管が破裂』という怪我も、敵が生きている人間の血を抜いてゾンビ化をさせようとした結果という訳か・・・・・・。なるほど、ゾンビ説は筋が通ってますね」

 ジョルノと美鈴は納得したようだった。だが、妹紅の説明はまだ全てを明白にしきれていなかった。

 じゃあ妖精メイドが仮に血を抜かれてゾンビになったとして、この厨房にいないのは何故か? という疑問だった。全員が既にゾンビとして紅魔館内部に広がるように出ていったかも知れないが――――。

「・・・・・・私は今『最悪』をイメージしちまってる・・・・・・。どうしようも無いほど、『最悪のイメージ』を・・・・・・」

 妹紅の声は震えていた。

「・・・・・・つまり、その・・・・・・妖精メイドは厨房からいなくなったんじゃあなくてだな・・・・・・」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 その言葉にジョルノと美鈴も妹紅の考えが分かってしまった。――――と、同時にバタン、と厨房の扉が独りでに閉まった。

 閉じこめられてしまった。誰に?

「・・・・・・いなくなったんじゃあなくて・・・・・・『見えなくなった』んだよ・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 悠長に説明している場合じゃあ無かった。三人は一目散に厨房の扉に走るッ! だが――――。

「ぐ、ぐぎぎぎぎッ!! 何でよ!? と、扉が重いいいいい!!」

「外から誰かが押さえてるのか!? は、早く脱出しないと・・・・・・」

 と、焦る三人の背後からザブザブと何かが近づいてきていた。

「・・・・・・」

「・・・・・・クソ!! 妖精メイドは声が出せないのか!? ドッピオの下にいた奴のようにうなり声を上げててくれればすぐに気づいたのにッ!!」

 近付いてくる音は一個や二個ではない。何体、十何体と近付いてきていた。

「美鈴ィイイイイイイイーーーーーーン!!! は、早く扉を開けなさいよォーーーーーーーッ!!!」

「うぎぎぐぐがぎぎ!! や、やってますが・・・・・・扉が重すぎて・・・・・・!」

「どいてくださいッ!! 『ゴールドエクスペリンス』ッ!! 扉をプランクトンの塊にするんだァァーーーーッ!!」

 ジョルノがスタンドで扉を殴りつけると一瞬で扉の色が銀色から朱色に変わった。

「無駄無駄ァッ!!」

 そして二発殴るとまるで砂のように扉がザザァ、と崩れた。

「あぁッ! 紅魔館で一番気密性の高い扉がッ!! お嬢様に怒られる!」

「言っとる場合かァァーーーーッ!! ジョルノ気を付けろ!! 扉を押さえてた奴もきっと透明のゾンビだ!!」

 妹紅はまだ厨房にいた。

「蓬莱ッ!! 『凱風快晴 ーフジヤマヴォルケイノー』ォォーーーーッ!!」

 本日二回目の高火力噴火。妹紅の眼前に凄まじい威力の火柱が立つ。ジュゥワァア! と、血が沸騰し蒸発する音とともに、肉が焼け焦げる臭いが三人の鼻を襲った。何体かの透明ゾンビフェアリーが巻き込まれたのだろう。やはり火に弱いらしいが・・・・・・。

「・・・・・・! 臭ッ!」

 慣れない臭いにジョルノは顔をしかめる。だが、そんな暇はない。ジョルノの顔面に何かが上から落ちてきた。

「・・・・・・ッ!?」

 何かが顔にへばりついているが、見えない。透明のゾンビか? でも一体どこから・・・・・・。

 と、ボド、ボド! と上から何かが大量に降ってきた。

「う、わあああああああッ!!」

 ジョルノはすぐに『ゴールドエクスペリンス』で顔についた奴を殴ろうとする。その前にジョルノの眼球に違和感が走る。

 ブシュ、グシュ!

 こ、こいつ!! 僕の『眼球』の抉ろうとしているッ!?

「『ゴールドエクスペリエンス』ッ!!!」

 殴るのはまずい、と思い顔面に付いている奴を引きはがすため『GE』に掴ませる。まず攻撃を受けている眼球を守るために目の辺りを掴むと、細い棒のようなものを掴んだ。

「・・・・・・!!」

 腕か? 細い、小さいぞ・・・・・・。いや、早く引き剥がさなくては!

「無駄無駄無駄無駄!」

 ぶち、ブヂィ! と、相当強靱な力でジョルノの顔にへばりついていたらしい透明のゾンビはジョルノの顔の皮膚を破っていく。

「ぐぅっあああああッ!!」

 ようやく取れた、だがおそらく囲まれている。こいつらは上から降ってきた。破れた皮膚からドロリと血が流れる感触が分かる。目の方は何とか大丈夫のようだ。

「美鈴ッ!!」

 ジョルノが目を押さえながら美鈴の方を見ると彼女も何かに掴まれていた。顔ではなく肩のようだが・・・・・・いや、違う。美鈴もそうだがもっとまずいのは――――。

「め、美鈴ッ!! 急いでここから離れるんだッ!! 背中の咲夜から血が出ているッ!!」

 だが、それはジョルノにも言えることだった。ふと気が付くと背中にドロリ、と何かなま暖かい液体が流れている。

 それは自分の血ではない。背負っているドッピオの血だ。

「う、うううううううおおおおおおおおおッ!??」

 焦りからか、ジョルノはらしくない声を上げる。

「ジョルノォォーーーー!! 気を付けろッ!! 壁にもいるッ!! 天井にもいるッ!! こいつらに上下の区別はないッ!! 上から落ちてきて当たった人間の血を問答無用で抜いてくるんだ!!」

 どうやら背後にいる妹紅もピンチのようだった。壁についていた右手の手首から大量に血が吹き出している。

「く、ジョルノさん、妹紅さんッ!!」

 最初に拘束を抜け出したのは美鈴だった。まず彼女は肩に乗っていた敵を素早くいなし、血管を掴ませる前にふりほどいた。そして背負っている咲夜を前に抱いてぶしゅう・・・・・・と血が流れている箇所を掴む。そこには透明の何かがいたのだ。美鈴はすぐにそれを引き剥がし、投げ捨てた。足下の血だまりが跳ねたところには透明の敵がいる――――と分かり、辺りを見ると常に足下は波立っていた。つまり全方位に敵がいるのだ。その中でも比較的密度が薄い場所を捜し当て、一気に突破。一際大きな弾幕を一発打ち出しそれを盾にしながら包囲を抜けていたのだ。

 そうして振り返ってみるとまだ妹紅が厨房と廊下の境目で悪戦苦闘していた。だが更に状況が悪かったのはジョルノで、彼自身はそうでも無さそうだったが背中に背負っているドッピオから血が流れていた。彼はさっきの応急処置の状態で既に血が足りなくなっていたはずだ。これ以上流すのはかなりマズイ。

 美鈴は懐からスペルカードを取り出しドッピオの周りにいる透明の敵に向けて迷い無く発動。

「気符『星脈弾』! これで二人を・・・・・・!!」

 彼女の目の前に青白いエネルギー(たぶん気)が凝縮していき両手を突き出して発射。軌道上にいる敵ごと弾き飛ばし・・・・・・ジョルノに被弾。

 ジョルノに被弾。

「やっべ」

 美鈴は弾幕系統は苦手だった。

「『やっべ』じゃあねぇぇえええ!! 何やってんだァァーーーーーッ!!」

「ぐぅ!? がッ!!」

 ジョルノは何が起こったかよく分からずそのまま大きく遠くへぶっ飛ばされた。

「よ、よし! こ、これでひとまずジョルノさんを包囲から抜け出させることは出来ましたわ! 結果オーライですわ!」

「嘘を付くなァァーーーーーーーーッ!! 口調変わってんじゃあねぇか!!」

 妹紅は美鈴が冷や汗をかいて目が泳いでいたのを見た。一般人に弾幕を間違えて当てるとか、美鈴は本当に弾幕ゲームのボスなのか?

「そもそも格闘ゲーム向きなんですよ私は!! 遠距離からチマチマ攻撃とか性に合わない! 出演作品を間違えたとしか言いようがありません!」

 メメタァ。

「どこに切れてんだ! いいから早くジョルノの所に行けッ!!」

 妹紅は叫んではいるが、手首、肩、右膝とかなり出血箇所が見られた。彼女も彼女で結構マズイ状況なのだろう。だがちゃんと妹紅はパチュリーは守っているようだ。

(パチュリー様から出血は見られない。妹紅さんグッジョブです!)

 美鈴は横流しに妹紅を見ながらぶっ飛ばされたジョルノとドッピオの元に素早く駆け寄る。背後からザブザブと依然として透明の敵が追ってきているが、動きは緩慢だ。

「大丈夫ですか!?」

 ジョルノは自力で起きあがろうとしていた。しかも背中に背負っているドッピオはしっかりと持っていたようだ。更に運がいいことにぶっ飛ばされた衝撃でまとわりついていた敵も引き剥がせていた。意外とタフだな、と思いながら美鈴は肩を貸して問いかける。

「・・・・・・とりあえず、大丈夫です。何とか包囲も突破できましたが・・・・・・覚えてろよ美鈴」

「え、いや・・・・・・はは」

 ジョルノの口調から最後敬語が消えた辺りに美鈴に対する怒りが込められていたのだろう。美鈴は笑って誤魔化した。 

「それは後にします。まず、妹紅の状態が心配です。彼女は死にはしませんが、あのまま血を抜かれ続けると・・・・・・。不死身のゾンビなんて想像したくないですね。それにパチュリーさんも無防備になります。これも想像したくない」

「ふひっ・・・・・・不死身のゾンビって『頭痛が痛い』と同じ・・・・・・いや、何でもないです。でもどうするんですか?」

「・・・・・・まずはこっちに向かってきている数体を何とかしましょう。考えるのはそれからです」

 ザブザブ、と6・7体向かってきているようだ。それを確認したジョルノはスタンドを出す。ドッピオを背負っていても、スタンドなら両腕が空いている。戦える。

「何か考えがあるんですか?」

「あります。確証はないですが、僕の『ゴールドエクスペリエンス』なら燃やす以外に奴らを無力化出来るかもしれない」

 美鈴は若干不安そうな顔をしていた。だが、ジョルノのこの覚悟を決めたときの目。それはどこか頼もしくもある黄金の精神の現れだ。

 ジョルノはさっきの妹紅の言葉を反芻する。『当たった人間の血を問答無用で抜く』という言葉だ。また、執拗に追いかけてくることからも、本能的に生き物を追いかけて血を抜こうとしている。

 当たった人間の血を抜く、ということはつまり接触している――――もっとも近い生物を攻撃するということ。

(では、なぜ奴らは共食いをしないのか?)

 その答えは、最初『血がないから』と思っていた。だが、先ほどのジョルノの顔面に落ちてきた奴は真っ先に『目玉を潰そうとしてきた』。すぐ近くに頸動脈があったにも関わらず、血を抜くには非効率的な『目玉』を攻撃したのである。

 思えば咲夜の右目が無かったのも、これが理由だ。奴らは血を抜くことを原動力に襲ってくる。これは間違いではないが、それは目的ではなく結果なのだ。

 この透明のゾンビたちの行動の原動力は生物を生物じゃなくすること。『血を抜いて』しかも『目玉を抉って』目的の完遂なのである。

 なぜ目玉を抉るというプロセスが必要なのかは考えても仕方がない。そうではなく、ジョルノの考えが行き着いたのは「奴らが標的としているのは血ではなく生物だ」ということだった。

 だから共食いをしないのは、奴らはゾンビで『生きていないから』ということになる。

「――――つまり、最も近い生物を攻撃する。じゃあ、奴らの最も近いところに『生命』を作ればいい――――」

 ジョルノは『ゴールドエクスペリエンス』を用いて水音が立つ所を無茶苦茶に殴る。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ、無駄無駄無駄無駄ァァッ!!」

 『ゴールドエクスペリエンス』が殴ったのは近付いてくるゾンビそのもの。

「だけどこいつらは生物じゃあない・・・・・・よって『ゴールドエクスペリエンス』の能力は精神を暴走させる方向には働かず――――『生命を生み出す』方向に転じるッ!! 生まれろ、生命・・・・・・」

 ジョルノが言い切ったとき、美鈴の耳に血の水面をバシャバシャと歩く音が消えて――――。

 ばしゃッ!! と、何かが倒れる音がしたのだ。

「――――!? さっきまで近付いてきた奴らが『倒れた』!?」

「奴らの体の半分を別の生き物に変えた。つまり、一番近い生物はどうあがいても自分の半身になる。――――予想通り、『どうすればいいか分からなくなっている』んじゃあないんでしょうか?」

 美鈴は息をするのも忘れてジョルノの鮮やかな手法を見入っていた。何という機転の良さ、臨機応変な思考。味方にいるときはこれほど頼もしい能力の使い手はいないだろう。

「さて、すぐに妹紅を助けに行きましょう」

 こいつは敵に回しては行けない、と美鈴は頭のどこかでそんな考えが浮かんでくるのを感じた。

*   *   *

 一方妹紅はというと、依然として敵に囲まれていた。

「・・・・・・美鈴の奴、あれでジョルノが死んでたらどうすんだよッ!!」

 妹紅は手首、肩、右足から血を流していたが、それ以上の出血は無かった。なぜなら――――

「『スパイスガール』、あんたのおかげでこいつらの血管を破裂させる攻撃は無効に出来たわ。ありがとう」

 自分の体を柔らかくして、血管が潰されないようにしていた。こいつらが三回の攻撃の中で『切断』して血管を攻撃しているのではなく『指か何かで握り潰して』攻撃していたのが分かったためだ。さっきから妹紅の周りにまとわりついている敵は一生懸命に血管を潰そうとしているが――――

 ぐにぃいい、ぐにゅ

 と、弾力のせいで何の意味もなかった。

「レイニハオヨバナイワ、モコウ・・・・・・。ッテ、イイカゲンニシヤガレェェーーーーッッ!!!」

 『スパイスガール』は妹紅にまとわりついている透明の敵を一匹一匹殴って殴って蹴って飛ばして払っていた。いくら血管が破られないと言っても凄まじい力で皮膚を抓られているのだ。かなり痛いことには変わりはない。

「イツマデモコノヨニシガミツイテンジャアネェェーーーーーーッ!!!! サッサトアノヨニイキヤガレェェェーーーーーーーッッ!!!」

「・・・・・・!」

 グシャグシャ!! と、敵を容赦ないくらいに足で踏みつぶしながら暴言罵倒の嵐を浴びせる『スパイスガール』に妹紅は(このイカレ具合、誰に似たのかしら?)と思っていた。

 と、ある程度敵を踏み殺したところで妹紅は背負っているパチュリーが全くの無傷なことに気が付いた。意識して守っていたわけではないのだが・・・・・・。

「・・・・・・そういえば、パチュリーは全然攻撃されなかったけど・・・・・・」

 妹紅は首を傾げた。なぜかパチュリーは咲夜やドッピオと違って敵が襲ってこなかったのである。おかげで妹紅は楽に敵を制圧できていた。

(・・・・・・ま、まぁ私が凄すぎて近付けなかったんだよな! 多分!)

 妹紅は勝手にそう解釈しているとジョルノと美鈴がやってきた。

「妹紅! ・・・・・・大丈夫、みたいですね」

「・・・・・・ジョルノか! お前もよく(美鈴の攻撃もらって)無事だったな!」

「ん? 今なんか軽い罵倒の含みがあったのような・・・・・・?」

 ジョルノと妹紅が安堵をしている中で、美鈴はそう呟いた。と、

「コノビチグソガァァァ!!! シネ! キエロ! クソ! F××K! WAAANNAAAAABEEEEEEEE!!!!」

 ドグシャァ! グシャ! ゲショ! ドゴォ!!

 と、何かを踏みつぶす音を上げながら、まだ『スパイスガール』が適当にその辺を攻撃して回っていた。それを見ていた妹紅は流石に止め始める。

「あぁッ! も、もういいのよ『スパイスガール』! 早く逃げるわよ!」

 慌てて『スパイスガール』戻す妹紅。最後まで『スパイスガール』は罵るのを止めず、見えない敵を手当たり次第に粉砕していた。

「・・・・・・誰に似たんでしょうかね」

「・・・・・・さぁ?」

 ジョルノと妹紅の視線はある一人の少女に向かっていた。

 29話へ続く・・・・・・。

*   *   *

 (久しぶりの)後書き

 これでボスとジョルノの幻想訪問記 第28話 紅の十字架⑤は終了です。多分次で第1章がやっと終わります(予定)。

 なぜパチュリーが襲われなかったのか。説明は本文では面倒だったので省きましたが、パチュリーはまだレミリアの『キラークイーン』で爆弾状態だったのです。レミリア自身も説明していた、『爆弾化した物体はその物体の形を留める』という付加能力。それのおかげでパチュリーは無事だったんですね。つまり妹紅は「自分が凄くてパチュリーは無傷、当然のことだがね(ドヤ顔)」と思ってますが実際パチュリーは大勢の敵に攻撃を受けてました。ただお嬢様に守られていた(形状が変化しないから血管がつぶせなかった)だけです。そしてパチュリーにまとわりついていた敵は『スパイスガール』が妹紅の気付いていないうちに引き剥がして倒してます。もこたん、あんたが守ったんとちゃう。ほんとは大惨事やで。

 と、知らずの内にドジっ娘属性が付与された妹紅ですが頑張ってますね。主に『スパイスガール』が。

 ここまで読んでくださって誠に感激の至りです。次の話でジョルノが、妹紅が、レミリアが、そしてアリスが、紅魔館で今回の騒動の決着を着けます。

 いよいよクライマックス、ボスとジョルノの幻想訪問記 第29話 紅の十字架⑥ をどうぞご期待ください。では。


 ・・・・・・ディアボロに活躍はあるんでしょうか?? 
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