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ボスとジョルノの幻想訪問記

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銃弾と氷殼 その①

ボスとジョルノの幻想訪問記2

前回のあらすじ
 死に続けるボス!
 なぜか幻想入りし、記憶を失ったジョルノ!
 27歳の咲夜さんの憂鬱!
 酒臭い鬼たち!
 気苦労が耐えない鈴仙!
 ケツの穴がピンチなてゐ!
 ・・・・・・そして、謎の円盤!

 以上!

銃弾と氷殻①

 ディアボロは目を覚ました。いつものくせで瞬時に状況を判断しようとするが出来なかった。頭に霧がかかっているみたいで、状況をうまく飲み込めないのだ。
「・・・・・・」
 体を動かそうにも思うようにうまくいかない。声を出そうにも何かが喉をつっかえている。
(・・・・・・? な、何だ・・・・・・俺は・・・・・・?)
 いまいち状況が飲み込めない彼の耳に、襖が開くような音が聞こえた。
「気分はどうかしら、鈴仙」
「あ、お師匠様。何とか、落ち着いてきました・・・・・・」
 と、二人の女性の声が聞こえる。声色からして『少女』ではないようだ。
「あなたもご苦労ね、――――君」
(・・・・・・ッ!!?)
 彼の耳に聞いてはいけない単語が聞こえてきた。今、この女は何て言ったんだ? 確か、何度も聞いたことのある・・・・・・。

「――――はい。かまいませんよ」

(な・・・・・・ッ!?)

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

(何ィーーーーーー!!!)
 そう! 彼の聞いた名前! それに呼応して返事をした声! 一生頭から離れないであろう恨み、憎むべき相手! 彼の絶頂を終わりにした張本人!

(ジョ・・・・・・)

 ジョルノ・ジョバァーナッ!!! がッ!

 なんと、ジョルノ・ジョバァーナが目の前にいる! しかも、こちらに気付いてはいないようだ!
(く、ジョルノ・ジョバァーナ・・・・・・! 何の因果で貴様に会えたかは分からんが、今ッ! ここで葬り去ってやる! ここで終わりが無いのが『終わり』を終わらせてやるッ!)
 だが、そんな敵意を持ってしても彼の肉体は動かなかった。
(クソッ! 何故体が動かないんだ! 今までこんなことは・・・・・・)
 その時、ジョルノはディアボロの方を見た!
(・・・・・・!! ヤバイ、気付かれた・・・・・・ッ!)

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 しかし、ディアボロの絶望感とは裏腹にジョルノはふい、と先ほどの女の方を向きなおり。
「彼、目が覚めているみたいですよ。どうやら体は動かせないようですが、意識は回復したみたいです」
「あら、良かったわ。死んだりしちゃったらてゐの穴がもっと広がる羽目になるところだったわね」
「・・・・・・何か残念そうな顔してません? 師匠・・・・・・」
 と、和気藹々としている。
 ディアボロは訝しむが、体が動かないのは事実。ジョルノが攻撃してこないならばそれなりの『理由』があるはずだ、と思った。
 そしてこの女の言葉を察するところ、どうやら自分は死に『かけていた』という。『死んだ』のではない。つまり、『死ななかった』ということである、とも思っていた。
 何かが――――何かが彼の死のサイクルを狂わせているのだ。
「さて、優曇華」
 首も動かせないディアボロはその恐らくは優曇華と呼ばれている少女と師匠と呼ばれていた女、そしてジョルノの会話を聞いていた。
「あなたの脳内に埋め込まれた謎の円盤だけど・・・・・・」
「はい?」
 と、鈴仙は耳と首を折り曲げる。
「ここにおそらく同じものが」
 そう言って永琳は懐から一枚の円盤を取り出した。
 直後にディアボロ――――少し遅れてジョルノと鈴仙がそれに反応する。とは言っても体が動かせないディアボロはうっすらと感じ取っただけだが。
「そ、そうです師匠! その黄色い円盤! まさしく池に落ちて拾い上げて手から滑り落ちたと思ったら私の脳内に入っていった円盤と同じ! 一体どこでそれを!?」
「・・・・・・この感じ・・・・・・! 何か、やっぱり危険な感じがするッ!」
 二人は似た感じの反応を示すが、ディアボロは思った。
(ス、スタンドDISC!? なぜそんなものがここに・・・・・・いやッ! それよりも、分かる!! 俺には、あのDISCの中にどんな能力があるのかッ!)
 なぜなら――――そこには彼の精神が閉じこめられていたのだから!
「・・・・・・『キング・クリムゾン』と、書いてあるわ。おそらく、この円盤の名前なのでしょう」
 そう! そこにはディアボロのスタンド、『キング・クリムゾン』が閉じこめられていたのだッ!
(ぐ、クソ! 何故かは分からんが『キング・クリムゾン』がここにあるんだ! 何としても取り返さなくては・・・・・・だが、体が動かんッ!)
「『キング・クリムゾン』ですか・・・・・・。ところで、鈴仙の方には何て書いてありましたか?」
 すると鈴仙は「うっ」と一言うなって。
「わ、分かんないわよ。そんな余裕なんて無かったし」
「レントゲンでも見えないわね・・・・・・。これはよく調べる必要がありそうだわ」
 そういって永琳は――――。
「そろそろ貴方たちももう寝なさい。優曇華は大事をとって、ジョルノ君は明日から優曇華の分まで働いてもらうから。――そこのもう一人の患者の相手は私一人で十分だわ」
 優曇華とディアボロのベッドの間にある仕切りカーテンを閉じて言った。
「分かりました・・・・・・おやすみなさい師匠」
「おやすみなさい」
「おやすみ二人とも」
 二人は素直に永琳の提案に従い、ジョルノは自分の部屋に戻っていき、鈴仙は布団を被った。
 それを見て永琳はディアボロのベッドに移動する。
「・・・・・・さて、おそらくはジョルノ君と同じ外来人よね?」
「・・・・・・」
「意識は回復しているものの、動けない、か」
(この女・・・・・・医者か? ジョルノと面識があるのか、随分と親しそうだが・・・・・・。俺のことを外来人と呼んでいることから、こいつもパルスィと同じく幻想郷の住民だ。そしてやはり俺は幻想郷にまだいるらしい)
 そこでディアボロは「何故、ジョルノもこっちに来ているのか?」という疑問が浮かんだ。さらに、彼の姿を見ても攻撃してこなかったことから推測するに彼のことを覚えてもいないらしい。
(やはり状況はよく飲み込めないが・・・・・・何としてもこの女からDISCを奪わなくては・・・・・・!)
「――――そのまま聞いてくれて構わないわ。これは私の憶測なんだけど・・・・・・」
 永琳はディアボロ耳に近づき鈴仙には聞こえないような小さな声でささやく。
「あなたはこの円盤について何か知ってるわね?」
「・・・・・・ッ!」
「あら、図星? やーだー、当たっちゃった?」
 永琳は似合わぬ口調で体をくねらせる。
「ちなみに、今あなたの体の自由を奪っているのは私の薬なの。怪我ならもう完治してるわ」
(な、んだと・・・・・・!! このアマッ!)
 と、叫びたい気分だったが声はおろか目線すらも動かせない。
「ふふふ、敵対心に満ち溢れてるわね。そんな貴方にはこれをプレゼント♪」
 永琳はそう言うと懐から指輪のようなものとメスを取り出し――――。
 メスでディアボロの胸を切り裂いた。
「・・・・・・ッ!?!?」
(な、なんだこの女はッ!? ヤバイ、やばすぎるッ! 何の躊躇いもなく、今治したばかりの患者の胸を麻酔無しでかっさばくなって!)
 だが、不思議と痛みは感じなかった。体がぴくりとも動かせなかったから分からなかったが、どうやら永琳の薬の効果で彼は痛覚を失っていたのである。
 シュパシュパシュパ~ン。
 次々と恐るべきメス捌きで彼の胸は切り開かれていき――――。
「見えた、大動脈」
(どこまで切り開いたんだコイツッ!?!?)
「すかさずこれを・・・・・・っと」
 そして永琳は切り開かれたディアボロの胸の奥の心臓、大動脈部分に先ほどのリングを取り付けた!
(な、なにィーーーーーー!? し、心臓に指輪があああああッ!)
「名付けて『死の結婚指輪(ウエディングリング)』! ・・・・・・何かしら、このネーミングセンス・・・・・・」
 永琳は若干自嘲気味にははは、と生気の宿らない遠い目で笑った。
「さてさて、ちゃっちゃと縫合しますか」
(お、おい・・・・・・これは一体どうなるんだ!? お、俺は・・・・・・また、死ぬのか?? こんな訳の分からない奴に殺されて・・・・・・また、また!!?)
 ディアボロは為す術もなく虚空を見つめていた。体を動かすことも、声を出すことも、視線さえも動かない。まるで精神だけが浮き彫りのような状態だ。この女に何も干渉できない。何と無惨な姿だろう。
 そんなことを考えていると永琳はどこからともなく糸と針を取り出してディアボロのむき出しの胸を綺麗に縫合していく。
「貴方にはセーフティーロックを掛けさせて貰ったわ。これで貴方は私に攻撃できない。――――何でこんなことするのかって疑問よね? まるで心を読まれてるみたいって・・・・・・」
 そんなことを言いながらディアボロは絶望する。攻撃ができない――どういう理論かは分からないが、さきほど心臓に取り付けた指輪がそうだろう。そして心を読むだって? そんなバカな話が――。
「いいや、無いわよそんなバカな話」
 と、永琳はディアボロの顔をのぞき込んでいった。
(いや、確実に心を読んでいるとしか思えない・・・・・・!)
 違うわ、と永琳はディアボロの『目』をのぞき込む。
「人の瞳孔は言葉より真実を語るのよ。よく言うでしょう? 目は口ほどに物を言うって。私の質問にあなたの瞳孔は顕著に答えてくれるわ」
 流石は月の頭脳と言うべきか、瞳孔の動きで相手の心内状況を読みとれるのは後にも先にも八意永琳、ただ一人だろう。
 もっとも、その程度の心読みはスタンド使いにもいたし、さらに言ってしまえば幻想郷にはそれの専売特許もいる。
 何も珍しくはない。その上、対策もはっきりしている。
(瞳孔の動きで感情を読むだと・・・・・・? 確かに恐ろしい能力だが・・・・・・ならば、目を閉じれば・・・・・・ッ!?)
「学習しないわね、動けない。と言っているでしょう?」
 しまった、とディアボロの瞳孔は語る。
 今の彼の状況は『心を丸裸で永琳の手元に投げ渡している』状況である。こっちの意志は駄々漏れ、相手の考えは全くつかめない。
「じゃあ、あなたのこと。色々聞かせて貰うわ」
 こうして一方的な尋問が始まった。

*   *   *

 時は若干遡り、紅魔館。そこでは二人の子供が夕食について駄々をこねていた。――二人とも500歳を越えた吸血鬼ではあるが。
「咲夜ー! ご飯変えてー! これ冷えておいしくないー!」
「咲夜ー! 紅茶おかわりー! もうちょっと甘いのが良いー!」
「はいはい、お嬢様方。少しお待ちを♪」
 その二人の駄々に深く刻み込まれたクマを携えた笑顔で応対するのは永遠の27歳と6ヶ月の十六夜咲夜メイド長だった。
「咲夜ー! このスープ辛いー! もうちょっと飲みやすくー!」
「咲夜ー! 肉焼きすぎー! もうちょっとレアでお願いー!」
「はいはい、お嬢様方。すぐにお持ちいたしますね♪」
 完璧で瀟洒な彼女といえど、それは10年前の栄光。最近は足腰に負担が来てほかの妖精メイドに家事を手伝って貰っているが、こと上手くいかず結局このように咲夜が全て尻拭いをしている。
「す、すみませんメイド長・・・・・・! 私たちが無能なばっかりに・・・・・・!」
「お、お嬢様方のお皿は私が片付けますので!」
「・・・・・・お願いするわ。料理は私が全部作り直すから・・・・・・」
 咲夜は料理を全て同時に進めながら妖精メイドたちの失敗を笑顔で許した。
 だが、彼女の内心はおそらくこんな感じであろう。

(ふざけてんじゃあねぇー!!! やってられるか料理の作り直しなんてよぉーーーー!!! クソックソッ! てめえら無能妖精たちのせいで私は何で毎日毎日家事労働地獄の目に遭わされなきゃならねーんだ! とんだブラック企業だ! 外は赤くて中身は黒い、まるでBAD APPLE!!(腐った林檎)! 何も面白くねぇええええええ!!!)

「・・・・・・これ、紅茶の入れ直しと炊き立てのお米。スープとメインディッシュも出来次第すぐにお嬢様たちの元へ! 急いで!」
 心ではそう思っても行動はお嬢様のために、流石は咲夜さん。瀟洒なお人だ。(意味違い)
 しかし、そんな日々がかれこれ10年続いてきた・・・・・・。彼女の心と肉体はすでに臨海突破爆発寸前5秒前。
(辞めてやる、もう、こんなところ・・・・・・)
「咲夜ー! ドレッシング取ってきてー!」
「咲夜ー! 紅茶がちょっと甘過ぎー!」
「咲夜ー! スープまだー!?」
(もう、もう!!)
「咲夜ー! ソコノシオトッテクレルー!?」
「咲夜ー! コウチャコボシチャッタワー! ナンカフクヤツモッテキテー!」
(辞めてやるんだからぁああああああ!!!!)
「咲夜ー!」
「咲夜ー!」
「咲夜ー!」「咲夜ー!」「さくやー!」「さくやー!」「さくやー「さくやー「サクヤー!」「サクヤー」サクヤー「さくやー」サクヤーサクヤーサクヤー!サクヤー」サクヤーサクヤー「さくやー」

「「咲夜ー!」」

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 しーん・・・・・・。
 突如として紅魔館は静まり返った。なぜなら厨房で包丁を持ってドレッシング片手に紅茶の味見をし、塩の袋を開けてエプロンポケットから布巾を取りだそうとしていたメイド長が突然叫んだからである。妖精メイドたちは唖然とし、二人のお嬢様方も彼女の名前を呼ぶことを止めてしまった。
(・・・・・・あ、やっちゃった・・・・・・)
 しばらく静寂が続き、その中で咲夜は突然自分が叫んでしまったことを後悔してしまう。
 どうしよう、すぐに謝らなきゃ・・・・・・と咲夜が思いスープと肉とドレッシングと紅茶と塩と布巾を持って二人の幼女吸血鬼の元へ急いだ。
「あ、あの・・・・・・」
「咲夜」
「は、はい」
 そこでは二人が不思議そうな顔で咲夜の方をみていた。
「どうしたの?」
「なにか嫌なことあった?」
 二人の幼女――レミリア・スカーレットとフランドール・スカーレットは同時に咲夜に尋ねる。
「えっとその、何で――――」
 何でもありません、と答えようと思った瞬間。
「まさか、フラン。咲夜に嫌なことなんてあるわけ無いじゃない」
 レミリアがフランの方を向いて言った。
「あはは、そうよね。フラン勘違いしてた」
「そうよそうよ。何度も言ってるでしょう? 咲夜は私たちの忠実な僕。つまりは犬よ。私たちにこき使われて咲夜もきっと幸せだわ」
(アレレ?)
 咲夜は首を傾げた。
「流石はお姉さま! 咲夜のことがよく分かってるわ! そうよね、咲夜は私たちの奴隷みたいなものだから、こき使ってやらなきゃだわ!」
(アレレレレ?)
 咲夜は持っていたスープを落とした。
「そうよ。何でも瀟洒にこなす十六夜咲夜。それを使ってやるのが私たちの義務であり、権利じゃない!」
(アレレレレレレ?)
 咲夜は持っていた肉を落とした。
「義務は果たして権利は行使、これ絶対だよね! 咲夜に義務はあれど、権利はないけど」
(アレレレレレレレレレ?)
 咲夜は持っていた物を全て地面にぶちまけた。
「そうよそうよ。だからね、咲夜」
「ねぇ、咲夜」
「私たちの可愛い可愛い奴隷ちゃん?」
「それ」
「うん、それ」
「今地面に落とした奴、片付けてね」
「うんうん、もちろん、舌で」
「舌で」
「綺麗に」
「舐め取れ」
 直後に十六夜咲夜の何かがぶちぎれた。
 それは一瞬の出来事だった。咲夜は何を思ったか、二人の幼女の首を掴み持ち上げていたのである!
 二人は何をされているか分からない、という風に目をぱちくりさせ、後ろでは妖精メイドたちが咲夜を止めようとするが誰も近づけずにいた。
「ちょ、ちょっと! 咲夜、何してるのよ! 何してるか分かってんのかしら!?」
「そうよ、今すぐ下ろしてよ! さもないときゅっとしてドカーンするよっ!?」
 まだ咲夜の悪ふざけか何かだと思っている二人は冗談めいているが――――とうの咲夜は泣いていた。
 その泣いている咲夜を見て二人はぎょっとする。
「・・・・・・お嬢様方、申し訳ございません。こんなご無礼を働いてしまって、咲夜はメイド長失格です」
 涙を流しながら咲夜は二人を交互に見た。
「そ、そう思うなら放しなさいよ! うー、ちょ、苦しい」
「ぐにに・・・・・・、どうしちゃったのよ咲夜! 咲夜のくせに!」
 二人は若干苦しそうにする。
「申し訳ございません、申し訳ございません。ですが、最後に一言言わせて下さい・・・・・・」
 涙を流し何故か嘆願しつつ、二人を下ろさない咲夜。何か、いつもの咲夜とは違う! と、二人が完全に思い直した直後。
 咲夜は鬼のような形相で二人を睨みつけていた!!

「ふっざけてんじゃあねええええええええ!!! このクソ幼女吸血鬼サイコレズシスターズがああああああああああああああ!!!!!」

 そしてその直後にドアが開かれる――――入ってきたのは咲夜のさっきの叫び声を聞いた美鈴とパチュリーだった。
「咲夜さん!? 一体どうしたんです!?」
「咲夜・・・・・・!? 何を叫んで・・・・・・??」
 だが、二人が部屋に入った時には――。

 すでに十六夜咲夜の姿は無かった。

 代わりに一枚、「辞めます」と書かれたメモ書きが残されていた。

*   *   *

「はぁ」
 十六夜咲夜は何の宛もなく、夜の幻想郷を一人でさまよっていた。
「勢いで辞めてきたけど・・・・・・これからどうしようかしら」
 季節は秋、だが夜になると霧の湖付近はすでに気温は10度を下回る。
「寒いわねぇ・・・・・・まぁ、我慢できなくはないけど」
 とりあえず出ていったからには紅魔館の連中から出来るだけ離れたかった。おそらく、美鈴が心配して私のことを捜しに来るだろう。
「しばらくは浮浪者か・・・・・・まぁ、気が楽でいいわね。あのブラック紅魔館に比べれば」
 やはり面白くない自分の発言に嫌気をさしながら、歩いていると一枚の謎の物体を発見した。
「・・・・・・何かしら、あれ」
 おそらく、咲夜がその物体に近づいたのは『何となく』だからであろう。
 理由はわからない、強いていうなら「惹かれた」のである。
「・・・・・・黄色いDISC? 一体どこから・・・・・・」
 とりあえずそのDISCを手にとって眺めてみる。何か、どこか惹かれてしまう。理由は全く分からないが、咲夜はそれを眺めずにはいられなかった。
 そして、本能的に自分の額にそれを当ててみたのである。
 すると咲夜の思惑とは斜め上の現象が発生した。なんと、DISCが彼女の頭に入っていくではないか!
「うわ、うわわわ!?」
 ずぶずぶッ、と入っていくDISCを急いで引き抜き自分の額を確認するも、特に傷を負っている様子はない。それどころか痛みも全くなかったのである。
「・・・・・・何なの、これ・・・・・・」
 訝しみ、すぐにでもこんな不気味な物体を捨ててしまいたいと思うのとは反対に、更に強くこのDISCに惹かれてしまう自分がいた。
 何故だろう、と思っていたが次第に何かがどうでもよくなっていた。
 紅魔館を突然辞めて何もかもが突然変わり果てた彼女は若干自暴自棄になっていたかもしれない。
 何の根拠もないがDISCを頭に入れてしまっても大丈夫だろう、と思い始めていた。正直、どうなろうがどうでもよかった。
「・・・・・・」
 最後には彼女は何も考えず、ただ本能のままに――――。

 DISCを挿入した。

*   *   *

「・・・・・・なるほど」
 永琳はディアボロへの尋問を終えて複雑な表情を浮かべた。
(・・・・・・くそ、何も出来ん。すべて、ばれてしまった――)
 永琳はそんなディアボロをよそに思案する。
 この男の正体、元の世界でのジョルノとの確執、スタンド『キング・クリムゾン』の持ち主であること、死に続ける運命――。
 正直言ってほとんど信じられないことだったが、彼の瞳に嘘はなかった。全てが現実の出来事である。
(でも、今のジョルノ君は彼の言う『終わりが無いのが終わり』にする『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』なる能力は持っていないし、しかもジョルノ君は彼のことを全く覚えていなさそうだった)
 これはどういう因果なのかしら?
 まるで、この幻想郷でディアボロを死の輪廻から救いだそうとしているような――――。
 彼の言う『キング・クリムゾン』とそれに付随する『墓碑名(エピタフ)』を持ってすればそれも可能だろう。ジョルノ君が記憶を失っている今、石の弓矢さえあれば彼を利用して死の輪廻から脱却できる。
 じゃあ、一体誰が? 八雲紫が? いや、彼女は幻想郷に危険を晒してまでそんなことをするような妖怪ではないし、なにしろ彼女にメリットがない。
 だったら、外の世界の変化か? それとも、外の世界にも紫のような人物が?
(全く、分からないわ――――。この男も何故ここに来たのか全く分かってないし、八雲紫の名前を挙げても特に反応はなかった)
「・・・・・・はぁ、あなたは・・・・・・一体何なの? 何のために、ここへ?」
(そんなこと、俺が知りたいぐらいだ! くそッ!)
 どうしたものか、と永琳は嘆息する。
 この男に今の私の推測を打ち明けるか? 幸い彼にセーフティーロックはかかってるし、上手くいけばジョルノ君とこの男をコントロール出来るかもしれない。
 でも、失敗すれば幻想郷が危険だわ。こいつの能力はそれほどまでに危険。思想も、何もかも!
「・・・・・・ふぅー」
 永琳は懐から一錠の薬を取り出す。
(・・・・・・!? な、何だそれは!? まさか、劇薬じゃあ・・・・・・!!)
「安心しなさい、ただの記憶安定剤よ。私にさっきされたこと全て忘れちゃうくらいに、強力な奴だけど。それと、このDISCは預かっておくわ。あなたに渡してしまうとかなり危険だから」
(なッ・・・・・・!? そ、そんな・・・・・・)
 そういって永琳はディアボロの口を開かせて薬を一錠放り込んだ。
「おやすみ、ディアボロ」
(この便器に吐き出された痰カスがぁアアアアアアアアアア!!!!!)
 薬は無慈悲にも彼の体内へと入ってしまう。直後に猛烈な眠気が彼を襲い始めた。
 永琳は段々と弱くなる彼の瞳の力を見て顔に手を当てて目を閉じさせた。
 これで、この男は全く無害な存在になった、そう確信し彼女は部屋を出ていく。

 ――――だがッ!!!

 彼の中の圧倒的邪悪はッ!

 記憶の崩壊という圧倒的な薬の力に全力であらがった末に!!

 再びもう一つの人格を作り上げたのだッ!!!!

 名をヴィネガー・ドッピオ!!

 天才医学者、八意永琳は彼の底知れない悪意を見誤った!!

 それが幻想郷の今後を左右するッ!

*   *   *

 八意永琳が部屋を出ていった1時間後、鈴仙とディアボロの眠る部屋から突然小さな声が聞こえた。
「・・・・・・! ・・・・・・ン! ・・・・・・!!」
 それは鈴仙の耳元でしている。一体誰だろうか、せっかく気持ちよく寝ていたというのに、まさかまたてゐのいたずらだろうか。
「う・・・・・・う~ん、うるさい・・・・・・よ、てゐ・・・・・・」
「・・・・・・! ・・・・・・ェヨ! ・・・・・・キロ!」
 だが、何となくてゐの声とは違う気がする。ちょっと片言なのかな?
「だから、静かにしてよぉ~・・・・・・zzz」
 かまわず鈴仙は寝返りを打つ。しかし、てゐはそれに併せて移動したのか、すぐに反対側の耳元で騒ぎ立てた。
「・・・・・・キロヨ! ・・・イセン!」
「・・・・・・ヤク! ハヤク!」
「レイセン!」
「ううううううるさーい!!! ちょっと、てゐ! まだ真夜中・・・・・・じゃ、な・・・・・・い」
 流石に啖呵を切った鈴仙は飛び起きててゐを叱り飛ばすが、目の前には誰もいない。
「んん~? 何だったの? 夢? いや、でも夢にしては・・・・・・」
 と、鈴仙が首を傾げていると。
「ダカラ、ユメジャネーヨ!!」
「オキロッテイッテンジャネーカ!」
「ミ、ミンナ・・・・・・レイセンコマッテルヨ・・・・・・」
「ウルセー! オレタチャハラガヘッテンダッツノ! イツマデモレイセンガヨバネーカラ、コッチカラデテキタッテノニヨー!」
「ハラヘッタゾー! レイセン、メシ!」
「メシ! メシ!」
 唖然とした。
 鈴仙はかなり唖然とした。
 何故なら彼女の耳元には――――。

「なにこいつらーーーーーーー!!!!!!」

 六匹の親指ほどの大きさをしたてゐが居たからであるッ!!

*   *   *

 現在の幻想郷:スタンド使い/スタンド名

 ジョルノ・ジョバーナ/『ゴールド・エクスペリエンス』
 鈴仙・優曇華院・イナバ/『セックスピストルズ』
 十六夜咲夜/『???』
 ディアボロ/無し

*   *   * 
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