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ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories

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SAO編 Start my engine in Aincrad
Chapter-9 新婚生活
  Story9-11 別れ

第3者side

ようやく辺りは静かになりそれぞれ自分の子どもにおそるおそる声を掛けた。

「レ、レイちゃん…………」

「ユ、ユイちゃん…………」

2人は名前を呼ばれて振り返って顔では微笑んでいたがその瞳には涙が溜まっている。

2人はかすれるような声で言った。

「パパ…………ママ…………」

「ぜんぶ、思い出したよ…………」

妻たちはそれぞれ駆け寄り抱きしめた。

そこで2人とも泣き崩れてしまったが……どうにか宥めて奥にある安全地帯に行こうと言った。



安全地帯には黒い大理石のような物体があり、そこに2人を座らせた。

ユリエールとシンカーには悪いが先にクリスタルで脱出してもらったため、今この場にいるのはシャオンたち6人だけだ。

フローラもアスナもどう声を掛けたらいいのか分からず、手をそっと握っている。

このままでは進まないと思い、シャオンは意を決してレイに聞いた。

「思い出したって、何を思い出したんだ?」

2人は尚も暫く俯き続けていたが、ついにこくりと頷いた。

泣き笑いのような表情に、胸が痛くなる。

「はい。全部説明します、みなさん」

急に丁寧な言葉使いになり、アスナが切なそうに顔を歪めた。

四角い部屋に、2人の言葉がゆっくりと流れていく。

「ソードアート・オンラインという名のこの世界は、ひとつの巨大なシステムによって制御されています。

システムの名前はカーディナル。

それが、この世界のバランスを自らの判断に基づいて制御しています」

「カーディナルはもともと、人間のメンテナンスを必要としない存在として設計されました。

2つのコアプログラムが相互にエラー訂正を行い、更に無数の下位プログラム群によって世界の全てを調整する。

モンスターやNPCのAI、アイテムや通貨の出現バランス、何もかもがカーディナル指揮下のプログラム群に操作されています」

「しかし、ひとつだけ人間の手に委ねなければならないものがありました。


プレイヤーの精神性に由来するトラブル。


それだけは同じ人間でないと解決できない。そのために、数十人規模のスタッフが用意される、はずでした」

「「GM……」」

シャオンとキリトの声が重なる。

「つまり、2人はゲームマスターなのか?

アーガスのスタッフ?」

「いいえ、カーディナルの開発者たちは、プレイヤーのケアすらもシステムに委ねようと、あるプログラムを試作したのです。

ナーヴギアの特性を利用して、プレイヤーの感情を詳細にモニタリングし、問題を抱えたプレイヤーのもとを訪れて話しを聞く」

「メンタルヘルス・カウンセリングプログラム。

MHCP試作一号、コードネーム(Yui)と(Rei)。

それが、わたしと彼女です」

「つ、つまり、AI?」

アスナはおそるおそる聞く。

「プレイヤーに違和感を与えないように、私たちには感情模倣機能が与えられています。

偽物なんです、全部、この涙も…………

ごめんなさい、フローラさん、アスナさん…………」

2人の両目から、ぽろぽろと涙がこぼれる。

それは、光の粒子となって蒸発した。

フローラはレイを抱き締めようと、手を伸ばすが、レイは微かに首を振る。

アスナもユイに触れようとしていたが、同じく拒否されたようで悲しそうに言葉を絞り出した。

「でも、でも、記憶がなかったのは?AIにそんなこと起きるの?」

「2年前、正式サービスが始まった日…………」

子供達が瞳を伏せ、説明を続けた。

「何が起きたのかは私たちにも詳しくは解らないのですが、カーディナルが予定にない命令を私たちに下したのです」

「プレイヤーに対する一切の干渉禁止。

具体的な接触が許されない状況で、わたしたちはやむなくプレイヤーのメンタル状態のモニタリングだけを続けました」

恐らく、その命令を下したのは、茅場だろう。


その人物に関する情報を持たないであろう子供たちは、幼い顔に悲痛な表情を浮かべ、更に言葉を続けた。

「状態は最悪と言っていいものでした。

ほとんど全てのプレイヤーは恐怖、絶望、怒りといった負の感情に常時支配され、時として狂気に陥る人すらいました」

「私たちはそんな人たちの心をずっと見続けてきました。

本来であればすぐにでもそのプレイヤーのもとに赴き、話しを聞き、問題を解決しなければならない。しかし、プレイヤーにこちらから接触することはできない」

「義務だけがあり権利のない矛盾した状況のなか、わたしたちは徐々にエラーを蓄積させ、崩壊していきました」

しんとした安全エリアに、ただ子供たちの声が流れる。

「ある日、いつものようにモニターしていると、他のプレイヤーとは大きく異なるメンタルパラメータを持つ4人のプレイヤーに気付きました」

「その脳波パターンはそれまで摂取したことのないものでした。

喜び、安らぎ、でもそれだけじゃない。

この感情はなんだろう、そう思ってわたしたちはその4人のモニターを続けました」

「会話や行動に触れるたび、私たちの中に不思議な欲求が生まれました。

そんなルーチンはなかったはずなのに」

「4人のそばに行きたい。直接、わたしたちと話をしてほしい。

少しでも近くにいたくて、わたしたちは毎日、4人の暮らすプレイヤーホームから1番近いシステムコンソールで実体化し、彷徨いました」

「その頃には、もう私たちはかなり壊れてしまっていたのだと思います」

「それが、あの22層の森だったのか?」

ユイはゆっくりと頷いた。

「はい。

キリトさん、アスナさん、わたし、ずっと、お二人に会いたかった…………」

「私も、シャオンさん、フローラさんに会いたかった…………」

「森の中で、みなさんの姿を見た時、すごく嬉しかった…………」

「おかしいですよね、そんなこと、思えるはずないのに……

私たちは、ただの、プログラムなのに…………」

2人は涙をいっぱい溢れさせ、口を噤んだ。

「おかしくなんて、ないさ。

AIとかそうじゃないとか関係ない。

君たちは俺たちの子だ。そして、今、ここに生きてる。
これだけは誰がなんと言おうと変わらない。

偽物とか本物じゃなくて、ユイはユイであり、レイはレイだ。2人は人間なんだ」

シャオンの言葉に2人は救われたような表情になり、母親に抱きついた。

「けど、もう、遅いんです…………」

「なんでだよ、遅いって…………」

「わたしたちが記憶を取り戻したのは、あの石に接触したせいなんです」

ユイが部屋の中央に視線を向け、そこに鎮座する黒い立方体を小さな手で指差した。

「さっき、シャオンさんたちがわたしたちをこの安全地帯に退避させてくれた時、わたしたちは偶然あの石に触れ、そして知りました」

「あれは、ただの装飾的オブジェクトじゃないんです。

GMがシステムに緊急アクセスするために設置されたコンソールなんです」

ユイたちの言葉に、何らかの命令が込められていたかのように、黒い石に突然数本の光の筋が走った。

そしてそれに、音を立てて表面に青白いホロキーボードが浮かび上がる。

「さっきのボスモンスターは、ここにプレイヤーを近づけないようにカーディナルの手によって配置されたものだと思います」

「私たちはこのコンソールからシステムにアクセスし、オブジェクトイレイサーを呼び出してモンスターを消去しました」

「その時に、カーディナルのエラー訂正能力によって、破損した言語機能を復元できたのですが、それは同時に、今まで放置されていた私たちにカーディナルが注目してしまった、ということでもあるんです」

「今、コアシステムがわたしたちのプログラムを走査しています。

すぐに異物という結論が出され、わたしたちは消去されてしまうでしょう」

「もう、あまり時間がありません…………」

「そんな、そんなの…………」

「何とかならないのかよ!

そうだ、この場所から離れれば…………」

シャオンは、なんとか2人を救う方法を必死で考えた。

しかし、子供たちは黙って微笑するだけだった。

再び2人の頬を涙が伝う。

「パパ、ママ、ありがとう」

「これで、お別れです」

「いや…………嫌だよ!そんなの!」

フローラは叫んだ。

「だってこれからじゃない!!」

「これから、みんなで楽しく、仲良く暮らそうって…………」

アスナも涙まじりの声になって訴える。

「ユイ、行くな!!」

キリトがユイの手を握る。

ユイの小さな指が、そっとキリトの指を掴む。

「行くな、レイ!!」

2人の髪や、服が、その先端から光の粒子を撒き散らして消滅を始めた。

2人の笑顔がゆっくりと透き通っていく。重さが、薄れていく。

「やだ!やだよ!!ユイちゃんがいないと、わたし笑えないよ!!」

「レイちゃん、行かないで!私、レイちゃんがいないと嫌なの!」

溢れる光に包まれながら、2人はにこりと笑った。


消える寸前の手が、フローラとアスナの頬を撫でる。

――ママ、パパ、笑って


泣かないで

2人の姿が消えた。

「あ、ああああああ!!」

「うわあああああ!!」

アスナ、フローラはその場に伏して子どものように泣き崩れてしまった。





「いや…………まだだ!まだ終わってない!
いつもそう思い通りになると思うなよ!カーディナル!」

シャオンは涙を振り払ってGMコンソールにアクセスした。

「シャオン、君?」

シャオンはキーボードを叩きながら必死で作業した。

「絶対にあの子達の願いを叶えないといけないんだ!

父親として、俺は光を放ち続けなきゃいけないんだ!」



――今、フローラを本当の笑顔にできるのは…………
他の誰でもない……俺だけだから






そして、表れたゲージが左端までいったとき…………




青い光がシャオンを吹っ飛ばした。

「シャオン君!」

「大丈夫…………生きてるよ」

シャオンは何とか子供たちの心を切り離した。


シャオンとキリトの手のひらに一つずつちいさなクリスタルが表れた。


ユイとレイ、2人の心だ。

「フローラ、これ」

シャオンが差し出したのはペンダントになってその先にレイの心を取り付けたものだ。

キリトも同様アスナに渡した。

「これは、2人の生きていた証だ。これをつけていてくれ」

「……うん」

こくりと頷き首につけた。







――お父さん、私の願い叶えてね

微かに聞こえた、レイの言葉。

「ああ、約束するよ。必ずフローラを笑顔にし続けるからな。レイのために、みんなのために」

シャオンの心に届いたようだ。









その後、ダンジョンをあとにしてシンカーとユリエールに事情を説明し、シャオンたちは再び22層の自宅に帰って行くのであった。

たったすこしの間だったが本当の家族のようだった。

だから、家が広く感じるのであった。



















Story9-11 END 
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