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力持ちは難しい

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第五章

「作ってるから」
「それもですか」
「そう、大変だからね」
 それでというのだ。
「力加減は心から気をつけて」
「そのこともですか」
「やってるわよ」
「力があってもですね」
「それを維持することとね」
 そして、だった。
「加減はね」
「難しいんですね」
「力があることはいいことよ」
 このことは事実だとだ、メタルは言う。
 しかしそれと共にだ、彼はこうも言うのだった。
「けれど加減はね」
「必要ですね」
「その通りよ、そしてワテクシは」
「メタルさんは」
「この力はあくまで料理、つまり芸術の為のもので」
 それで、というのだ。
「決して殴ったり蹴ったりすることには使わないわ」
「そういえばメタルさんは」
 ここで凌も気付いた、そのことに。
「暴力は振るわれませんね」
「言葉でもね」
「力はですね」
「そう身に着けてもね」
「暴力の為にあるんじゃないんですね」
「力を暴力に向けることはあってはならないことよ」
 決して、という言葉だった、
「それは芸術の為にあるものだから」
「料理に」
「そう、ワテクシは鍛えてるの」
 そして力を備えているというのだ。
「そういうことなのよ」
「わかりました、メタルさんのことが」
「ワテクシのことがなのね」
「よく、そういうことですね」
 凌は強い声で言うのだった。
「俺、勉強になりました」
「それは何よりよ。じゃあ貴方も」
「いや、メタルさんみたいには」
 そのポージングまでしている見事な身体を見ての言葉だ。
「なれないですから」
「だからなのね」
「はい、俺は俺で」
 それでというのだ。
「働いていきますから」
「貴方のスタイルで」
「そうしていきます」
 こう答えはしたが実は彼もこっそりと己を鍛えだした、とはいっても起きて軽くジョギングする程度であるが。しかしそうしてだった。
 鍛えることもはじめた、そのうえでメタルを見てだ。やはりこう言うのだった。
「あの人は本当の意味での力持ちだな」
 尊敬さえ含めて言うのだった、彼の力がどういったものかを理解したうえで。


力持ちは難しい   完


                         2014・6・25 
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