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力持ちは難しい

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第一章

              力持ちは難しい
 三島凌は背は一七〇程とそれ程高くはない。黒から少し茶色にしている髪をショートにしていて薄めの眉を綺麗に整えてカーブにさせている。
 二重の目は明るく黒目のところは大きい。口はやや大きめで唇が中央に集まっている。人懐っこい顔立ちで鼻も結構高い。髪から出ている耳の形もいい。
 彼はとあるハンバーガーショップで店長をしている、大学を出てすぐに入社して数年で店長にまで昇進したのだ。店の売上もよく優秀な店長と評判だ。
 しかしだった、彼はある日だ。本社から来た人にこう言われた。
「転勤ですか」
「ああ、そうだよ」
 今の店からというのだ。
「後で正式に辞令が来るがね」
「じゃあ別の店に」
「そう、しかしね」
「しかし?」
「今度の店はハンバーガーショップじゃなくてね」
 彼が今店長を務めている様な店ではなく、というのだ。
「レストランなんだよ」
「レストランですか」
「そう、そこの副店長さんになるんだよ」
 レストランの、というのだ。
「大きい店だからね、そこでね」
「今度は副店長ですか」
「そう、そうなってもらうよ」
「わかりました」
 副店長といってもハンバーガーショップとレストランでは店の規模が違う、それでだった。
 凌はこのことを昇進に近いと考えた、実際に給料も上がることが伝えられた。それで彼は次の店長や残る店員達に申次をしてから。
 そのレストランに向かった、店長も店員達もいい人達だった。
 だが肝心のシェフがだ、この人がだった。
 大柄で筋肉質だ、しかもスキンヘッドで。
 顔には化粧をしている、かなり異様な外見である。おまけに。
「はじめまして、副店長さん」
「は、はい」
 仕草も口調もおネエ言葉だ、その強烈な個性にだ。
 彼は戸惑った、だが。
 店長は彼にだ、笑顔でこう話した。
「この人あってのこの店だよ」
「そ、そうですか」
「うん、我が八条フードでも指折りのシェフでね」
「斎藤メタルよ」
 彼の方からだ、何故か身体をくねくねとさせて名乗って来た。シェフの服装で筋肉質の大柄な身体で、である。
「ワテクシ腕には自信がありますの」
「そうなんですね」
「はい、ですから仕事には妥協しません」
「凄い人だからね」
 店長さんはそのメタルも見つつ凌に笑って話す。
「この人は」
「何となくわかります」
 これが凌の返答だった。
「そのことは」
「ははは、何となくか」
「はい」
「趣味はエステとお料理とトレーニングよ」
 メタルは聞かれなくても言って来た。華麗なバレリーナの様なポーズまでして」
「好きなタイプは織田裕二さん」
「そうですか」
「そう、宜しくね」
「わかりました」
 凌はとりあえずメタルの言葉に頷いた、そしてだった。
 凌は副店長としてこのレストランでの仕事をはじめた、そしてメタルの腕はというと。
 店長の言う通りだった、かなり見事で。
 お客さんから大好評だった、特にスイーツが絶品で。
 凌にしてもだ、その売上に驚いて店長に言った。
「凄いですね、あの人」
「うん、プロだからね」
「はい、だからですね」
「そうだよ、あの人はプロなんだよ」
 正真正銘のそれだというのだ。
「だから凄いんだよ」
「料理の腕も」
「ああ、だからな」
 それで、というのだ。
「うちのお店の料理については評価が高いんだよ」
「そうですね」
「そしてな、俺達はな」
「サービスですね」
 ここで凌の目が光った、それは確かな光だった。 
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