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とあるの世界で何をするのか

作者:神代騎龍
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第三十六話  パーソナルリアリティ探しとレベルアッパー探し


 セブンスミスト爆破事件から週が変わった月曜日、初春さんが学校を休んでいた。虚空爆破事件は確かに重大な事件だろうが、ジャッジメントに学校を休ませてまで捜査するというのはどうなんだろうと思っていたら、休憩時間に初春さんに電話していた佐天さんから只の夏風邪だと聞かされたのである。

 放課後は一度薬局に寄り、初春さんの風邪薬をもらってからお見舞いに行くことになったのだが、さすが学園都市と言うべきか、薬局側からメールで送られた問診票に答えて顔や口の中の写真データと一緒に送り返せば、症状に合った薬が出される仕組みになっているらしい。

 そう言えば、セブンスミスト爆破事件の直後に上条さんも姫羅が騎龍と同一人物であることを知ったわけだが、詳しい話は土御門さんに丸投げしておいた。最近は暗部活動も無く土御門さんと会う機会が無いので何をしているのかは知らないが、インデックスが上条さんに拾われるまでの間は土御門さんにもそれほど大変な仕事など入ってないだろう。

 なお、盛大に爆破されたセブンスミストだが、事件二日後には爆破されたフロア以外での営業が再開され、今週末には当該フロアも営業できる見込みだと言うことである。

「おい、佐天。佐天涙子っ!」

「は、はいっ!」

 初春さんが風邪で休んだことといい、現在黒板に大きく『パーソナルリアリティ』と書かれていることから、多分そうなるだろうとは思っていたのだが、アニメ通りに佐天さんが先生から注意される。6月の初めに席替えがあり、佐天さんの席は窓際の一番後ろなのだが、その前の席になった初春さんが休みと言うこともあり、先生からはよく見えたのだろう。

「ずいぶんと余裕があるようだな。それなら今のところ、簡単に説明してみろ」

「はっ、はいっ……えーっと……」

 慌てて佐天さんが教科書を開くが、今説明していた部分を見つける前にチャイムが鳴ってしまった。

「お、時間か。仕方がない、次までにちゃんとパーソナルリアリティについて勉強してくるように」

「え゛……はい」

 佐天さんが力なく答えて授業は終了したのである。





「パーソナルリアリティ……かぁ、自分だけの現実とか言われても良く分かんないんだよねぇ」

「ウチもパーソナルリアリティを理解して能力使ってるわけじゃ無いしねー」

 放課後、俺は佐天さんの愚痴につきあっていた。いや、単にノートを取り忘れていた佐天さんにノートを貸しているだけだが、佐天さんはそれを書き写しながら俺に愚痴をこぼしている。

「こんな小難しい理論とかどうでもいいからさ、もっとこう……手っ取り早くレベルが上がるような授業やってくれないかなぁ」

「そんなのがあるんだったら、皆とっくの昔にやってるわよ」

「そりゃそうなんだろうけどさぁ」

 佐天さんの愚痴のせいでそこそこ時間を消費しているものの、ノートを書き写すだけなのでそれほど長くは掛からないはずだ。

「能力が使えるようになるかどうかは分からないけど、例え話をしてみようか。聞いてみる?」

「うん、聞いてみたい。神代さんはどうやって能力を使ってるの?」

 佐天さんの話では、薬局で薬を調合してもらって受け取れる時間まではまだあると言うことなので、少し話を振ってみるとすぐに食いついてきた。

「それについては感覚で使ってるとしか言いようが無いんだけど、例えば、佐天さんの両手にそれぞれ指が6本有ったら6本目の指ってどう動かす?」

「え!? どうって言われても……」

 自分でも分かってて言っているわけだが、かなり突拍子も無い例え話に佐天さんが言葉を詰まらせる。

「ウチは能力も同じだと思うんだよねー。指だったら自分で指に力を入れながら指が動いてるかどうかを目で確認できるわけだけど、能力の場合はそうは行かないでしょ。だから使える人はいきなりでも使えるし、御坂さんみたいにレベルを上げていける人も居るし、なかなか能力が発現しない人も居るんじゃ無いかと思ってるの」

 さすがに6本指というのは変かもしれないが、実際に5本の指でさえ器用に動かせる人とそうで無い人の差は激しいのである。脳トレだったか何かで他の指を会わせたまま中指や薬指を回す運動があったと思うけど、それが全然出来ない人を知っているのだ。

「うーん、何となく分かるような分からないような……だったら、神代さんはどうやって能力使ってるの?」

 やはりというか当然というか、そんな例え話では理解できるわけも無く全く同じ事をもう一度聞かれる。

「さっきも言ったけど、感覚よ。それならまた別の例え話をしてみるけど、ウチの能力が自動車だとするわね。ウチは自動車の運転技術レベルが4なわけだけど、佐天さんの能力が飛行機だったとしたら、ウチの車の運転技術をいくら教えたところで佐天さんの操縦技術レベルは上がらないのよ」

 自分で言い出しておきながら全然説明できずに例え話ばかりになっているのは心苦しいのだが、いきなり能力が使えてしまった身としては説明のしようが無いのである。

「神代さんの話を聞いてると何となく感覚的なことなんだろうなーって言うのは確かに分かるんだけど、それじゃー私のレベルは上がらないのよぉ……」

 ノートの書き写しは全部終わったようで、佐天さんはそう言って机に突っ伏した。俺は自分のノートを回収しながら更に続ける。

「そりゃそうよ。ウチがチャージマツダ787Bの運転方法を教えたところで、佐天さんのボーイング787は動かせないんだから」

「ボーイングの方は分かったけど……チャージマツダって何?」

 さっきの例え話に引っかけて同じ型番を持つ車と飛行機の話を出してみたが、佐天さんにはチャージマツダ787Bが分からなかったようだ。

「昔、ル・マン24時間レースで優勝した日本の車」

「そんなマニアックな……」

 そう言えばこの世界でもちゃんと優勝しているのだろうか……というか、それ以前にル・マン24時間レースを走っているのだろうか。それ以前に、そもそもル・マン24時間レースがなかったりして……。





 学校を出て佐天さんと一緒に薬局へ向かっていると、俺のケータイに電話が掛かってきた。

「はい、もしもし」

『神代さん! 神代さん! レベルアッパーについて詳しく知りたいんだけど、今から話できない?』

 いつものごとく名前を確認せずに出たのだが、掛けてきたのは御坂さんだった。

「今から!? これから初春さんの所へ薬持って行かないといけないんだけど……」

 別に俺がついて行かなくても薬ぐらいなら佐天さんだけで届けられるわけだが、いきなりの呼び出しで思わずそう答えてしまったのである。

『初春さんの所へ行くんだって……うん……。それなら丁度良いわ、私たちも初春さんの所へ行くからそこで話を聞かせて!』

「はーい」

 御坂さんのそばには白井さんが居るのだろう、少し相談するような声が聞こえた。その後で、御坂さん達も初春さんの所へ行くと言う返事を聞いて了承する。初春さんには何も相談していないが、御坂さんが来るのだから文句を言われるようなことにはならないだろうし、それに白井さんも初春さんが風邪を曳いていることは知っているはずだから大丈夫だろう。

「今の……御坂さんから?」

「うん、まー白井さんもすぐそばに居たみたいだけど」

 ケータイから漏れる音で相手が誰だか分かったのだろう、佐天さんから聞かれて俺は答えた。

「それで、初春の所に来るって?」

「そうみたい。そこでレベルアッパーについて聞きたいんだって」

 多分会話の内容もだいたい聞こえていたのだろうと思い、佐天さんには隠すような内容でも無かったので答える。当然、「レベルアッパー」の部分で声量を落とすことは忘れない。

「そうなんだ」

「御坂さん達は急いでたみたいだから、ウチらもちょっと急ぎますか」

 佐天さんの返事からネガティブ思考に回りそうな予感がしたので、気持ちの切り替えが出来るように話題を転換する。

「うん、そうだねー。初春のやつ、御坂さんが来てテンション上がって熱まで上がってなきゃ良いけど……」

 話題の転換によってなのか、それとも元々ネガティブ思考には向かってなかったのか、佐天さんはいつもの明るさを取り戻して初春さんの心配をしはじめた。

「あー……それはもの凄くありそうね……」

 俺も状況を想像してみるが、初春さんなら……うん、大いにありそうだ。





 薬局に到着した時には、まだ薬が出来たばかりの袋に入ってない状態だったので、一回分ずつを包装するのに少し時間を取られて待たされたものの、包装し終わった薬を受け取るとすぐ薬局を後にした。学校を出た時は薬局へ寄る前か寄った後にかき氷でも食べてからお見舞いに行く予定だったのだが、御坂さんと白井さんを待たせているので直接初春さんの寮へ向かう。

「初春ー、薬もらってきたよー」

「あ、佐天さん、ありがとうございます。それから神代さん、御坂さん達が待ってますよ」

「うん、お待たせー」

「急がせてしまってごめんなさいですの」

「待ってたわよ」

 初春さんの部屋に入るとすでに御坂さんと白井さんは到着していた。

「それで、レベルアッパーについて聞きたいって?」

 御坂さん達が俺を待っていたと初春さんも言っていたので、俺はすぐに本題を切り出した。

「そうですの。それで、レベルアッパーによってレベルが急激に上がった方というのはいらっしゃるのでしょうか?」

「うーん、それは聞いたこと無いけど……。ウチの知ってる限りでは能力の上昇は見られてもレベルが上がるほどでは無かったって感じね」

 話し始めたのが御坂さんでは無く白井さんだったのだが、俺は事前に決めていたとおりの設定で答える。というか、あの施設に居た子供達がどうなったのかは俺自身も全然知らないので、レベルが上がるほどでは無い能力上昇はあったけど意識不明になったという設定になっている。そして、この話は佐天さんと御坂さんにも話しているはずだ。

「そうでしたの。この前のセブンスミスト爆破事件の犯人、介旅初矢がレベル2だったのですが、あれだけの爆発ですからレベル4であってもおかしくはありませんの。他にも銀行強盗事件のパイロキネシストに常盤台狩りの眉毛女と、神代さんや佐天さんまで巻き込んだ事件での犯人も、犯行時の能力強度とバンクに登録されているレベルに明らかな食い違いが見られますの。それでお姉様から伺ったレベルアッパーというものが関係しているのでは無いかと思ったのですが……」

「なるほどねー。まー、前に御坂さんや佐天さんには言ったんだけど、元からレベル4の能力を使えるだけの地力があれば、レベルアッパーで演算を上げてレベル4まで持って行くことは出来そうな気がするわね」

 確かレベルアッパーはAIM拡散力場のネットワークで演算能力を上げる物だったので、この説自体は本物のレベルアッパーでも同じだと思うのだがどうなんだろう。ってか、木山先生がレベルアッパーの副作用で能力が使えるようになっていたから、上昇するのは演算能力だけじゃないのかもしれない。

「そうでしたの。でしたらレベルアッパーを使えばレベルが上がる人も居ると?」

「恐らくは……まぁ、ウチも使われただけでレベルアッパーというものを正しく把握してるわけじゃ無いからねー。ウチは変な音を聞いただけで、後からそれをレベルアッパーだって知ったわけだけど、もしかしたら別の何かがあってそれで力を発揮できるようになる可能性もあるわけだし」

 ここでは俺の設定上でレベルアッパーの話をしているわけだが、レベルアッパーの性能を知らない状態だとすると、予測できるのはこの程度だろうと考えてこうなっているのである。

「そうですわねぇ。それで、レベルアッパー自体はどのように手に入れたのでしょう?」

「それは研究所に聞いてみないと分からないわね」

 俺自身はアリスに探してもらってネットワーク上で入手したわけだが、聞いた場所は取り敢えず子供達にレベルアッパーを聞かせていた研究所なのでそう答える。

「研究所の場所って分かりますの?」

「うん、多分。初春さん、ちょっとパソコン借りるねー」

「はい、どうぞ」

 場所を聞かれたので初春さんにパソコンを借りる。ネットで地図を検索していくと、子供達を救出した研究所を見つけることが出来た。

「えーっと、あー、この研究所です」

 研究所付近の地図を表示すると、前に暗部のケータイに送られてきた地図と同じ物が表示されたので、パソコン画面を白井さんに見せながら研究所の場所を指差した。

「黒子! 貴女一人だと不安だから私も行くわ!」

「お姉様……」

 白井さんがパソコンの地図を確認すると、今まで佐天さんと一緒に初春さんのタオルを交換したり熱を測ったりしていた御坂さんが名乗りを上げる。まー、御坂さんのことだからこうなるだろうことはすでに予測できていた。

「ほら早く! 行くわよ!」

「はっ、はいですのっ!」

 やる気満々の御坂さんに押される形で、白井さんは御坂さんを連れてテレポートしていったのである。

「初春さん、パソコンありがと」

「あ、いえ。どういたしまして」

 御坂さんの行動力に呆然としながら初春さんにパソコンを返す。

「レベルアッパーかぁ……」

「佐天さん、ずるは駄目ですよ!」

 少しうらやましそうに呟いた佐天さんに初春さんが注意する。佐天さんには一応危険があることも伝えてあるのだが、やはり能力への憧れは大きいのだろう。

「わ、分かってるって初春は心配性だなぁ」

「ねぇ、初春さん。レベルアッパー使用者が他にも居たとして、ネットでレベルアッパーについて調べるにはどうしたら良いと思う?」

「どうしたらって言われても……」

 この調子だと佐天さんがレベルアッパーを見つけた時は使う可能性が高そうだと感じながらも、少し話題をそらすために初春さんに聞いてみた。確かアニメではネットで掲示板か何かを見つけていたはずなので、そこに行き着かないといけないのである。

「まー、それは初春さんが元気になってからでも良いかな」

「そうそう。まずはちゃんと風邪を治すこと」

「分かってますよ、佐天さん」

 まだ風邪を曳いている初春さんに、仕事をさせるわけにもいかないのでこの話は後回しにする。

「もしレベルアッパーが出回ってたとして、ネットで調べればすぐに分かるだろうからその辺は大丈夫として、そうなると問題はレベルアッパーがどの程度広まってるかって事と、レベルアッパー使用者がどの位居てその中に意識不明になった人が居るかどうかって事と、レベルアッパー自体が何の目的で制作されて出回ってるのかって事ぐらいかしら」

「そうですねぇ」

 初春さんに仕事をさせないようにとは言っても、全く進展が無いのも困るので捜査が進展しやすいように少しずつヒントを出すような形で雑談してみる。

「目的ってレベルを上げるためじゃないの?」

「そうだとしたら不自然な点があるのよね。だいたい能力開発が存在意義とも言える学園都市なのに、レベルアッパーって凄い物を開発したのに大々的に発表してないって事。例え副作用があったとしても、開発できた時点で発表してしまえば第一人者として名を残せるにもかかわらず、こそこそと人の少ない学区の研究所で実験してたわけだし」

「確かに、隣の建物を見ても薬品保管施設とか細菌保管施設とかですねぇ」

 佐天さんがなかなか良いところに目を付けたのでそれにも答える。もし、佐天さんがレベルアッパーを見つけた時に使ってしまう確率は、今見た限りまだ半々よりも上と言ったところだろうか。そしてしばらくは初春さんと、学校で佐天さんに話した例え話などの雑談を続けたのである。





「施設は完全にもぬけの殻でしたの」

 白井さんと御坂さんが玄関にテレポートしてきて報告してくれた。

「あの様子だと、数ヶ月は使われてないわね」

「あら、そうだったんですか。何か手がかりのような物は無かったんですか?」

 続けて御坂さんが報告してくれたわけだが、俺が子供達を救出してからはそのまま放置されていたのだろう。

「それが、何らかの能力で内部が滅茶苦茶に破壊されていまして、手がかりになりそうな物は何一つ見つかりませんでしたの」

 残念そうに白井さんが報告するが、そっちは間違いなく麦野さんの仕業だろう。

「そうですかー。だったらこんなのはどうですか? レベルアッパー使用者が書き込んでる掲示板を見つけたんですけど、このファミレスがたまり場になってるみたいですよ」

 少し疲れたように見える白井さんに、初春さんがパソコン画面を見せる。初春さんは二段ベッドの上に寝ているので、白井さんにパソコン画面を見せている姿勢は結構つらいんじゃないだろうか。

「やっぱり探してたんだ……初春さん」

「いや、どうしても気になっちゃいまして」

 微妙にヒントを出しながらの雑談中に、初春さんはレベルアッパー使用者の書き込む掲示板を探し出していたようだ。さすが守護神(ゴールキーパー)と呼ばれているのは伊達じゃない。

「でかしましたわ、初春!」

 初春さんが風邪を曳いていることを忘れているのでは無いかと思うほど強く肩をつかんで礼を言うと、白井さんは玄関に戻って靴を履き直す。

「ありがとう、初春さん。体、お大事にねー」

「ちょっと、お姉様! ここからはジャッジメントの仕事ですの。お姉様っ!」

 白井さんよりも一足先に御坂さんが玄関を飛び出すと、白井さんも慌ててテレポートで追いかけていったのである。

「また行っちゃったね」

 玄関を見つめながら佐天さんが呟く。

「これでレベルアッパーと介旅初矢の件が別物だったら、ただ単に捜査事案を二つ抱えただけって事になるのよね」

「あ……あははは……」

 多分無いとは思うが、もし二つの案件が別物だったらという俺の意見に、珍しく初春さんが疲れたような呆れたような笑い声を上げていた。
 
 

 
後書き
お読みいただいた皆様、ありがとうございます。


----報告----
作中に日付等を入れていることは少ないのですが、一応作中の日付は設定してありまして、従来の設定ではこの話の日付が7月19日になっていました。
漫画版の方ではこの日に禁書目録の方の第一話冒頭部分と重なる事になっていたので、最初そのように日付を設定してしまったのですが、アニメ版ではこの後も学校が(少なくとも水着回まで)続いているようなので、アニメ版第一話に当たる話から日付や季節柄に関する記述をしている部分を書き換えました。
それに伴い、学園都市見学会の日程を調べた話にも変更を加えています。
なお、ストーリーの流れに関わるような部分は何も変更していません。

変更部分が気になる方は、第九話、第十九話、第二十話をご確認下さい。
 
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