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水車の側で

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第一章


第一章

                         水車の側で
 第二次世界大戦後期。ノルマンディーから上陸した連合軍はドイツ軍からフランスを奪い返した。そしてさらにだ。オランダに入っていた。
 その彼等はだ。今オランダの平野を進んでいた。
 イギリス軍である。その独特の平たいヘルメットがそれを何よりも知らしめていた。その彼等がだ。英語でこんなことを話していた。
「オランダを越えたらだよな」
「ああ、いよいよだよな」
「ドイツ本土か」
「やっとそこまでいけるんだな」
 ドイツはだ。まさに目の前だった。
 そんな話をしながら周りを見回す。緑の平野の中にだ。水車達がある。
 それが均等に並んでいる。それを見てまた話す彼等だった。
「オランダに来たって実感あるよな」
「ああ、そうだな」
「オランダだよな」
「ここってな」
「まさにそうだよな」
 こう話すのだった。
「水車見ればなあ」
「しかし。こんな時でも動いてるんだな」
 その十字の羽根がだ。ゆっくりと時計回りに動いている。それを見てだ。イギリス軍の兵士達はそこに妙なのどかを感じていた。
「戦争していてもな」
「農業はしてるか」
「そうなんだな」
 このことにだ。それを感じていたのだ。
「何か不思議だよ」
「だよな。人も一杯死んでるのにな」
「こうしてここだけのぞかってな」
「不思議な話だよ」
 こう話していくのだった。しかしだ。
 ここで立派な制服の若い男が来てだ。こう彼等に告げるのだった。
「一旦停止する」
「あれ、ピット大尉」
「何かあったんですか?」
「敵がいるとの報告があった」
 ピットはこう兵士達に話すのだった。
「それでだ。今はだ」
「停止して警戒ですか」
「そうするんですね」
「ドイツ軍はまだいる」
 その敵がである。いるというのだ。
「しかもこの辺りにな」
「戦車ですか?」
 兵士の一人が言った。ドイツ軍の代名詞の一つともなっている戦車の強さはだ。彼等も骨身に染みて知っていることである。
「それがですか?」
「来てますか?」
「いや、戦車はないらしい」
 それはないというのだった。
「だが。それでもな」
「敵はいるんですか」
「まだこの辺りに」
「だからだ。注意するんだ」
 ピットはまた兵士達に告げた。
「いいな」
「了解です、それじゃあ」
「ここはどうしましょうか」
「そうだな。隠れる場所は」
 ピットは周囲を見回した。そしてだ。
 水車達を見てだ。こう兵士達に話した。
「あそこに隠れるか」
「水車にですか」
「そこにですか」
「そうだ、あそこにだ」
 こう兵士達に話すのだった。
「あそこに隠れてそのうえでだ」
「戦いますか」
「ドイツ軍と」
「他に隠れる場所がないからな」
 平野である。本当に何もない。遠くまで丸見えだ。とりあえず敵の姿がまだ見えていないことがだ。彼等にとっては幸いだった。
 
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