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日向の兎

作者:アルビス
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1部
  31話

 
前書き
いかん……ちょっとダレてきました
少し更新ペースが落ちるかもしれませんm 

 
「水遁 天之狭霧神」
術の発動と共に薄い霧が私とサスケを覆い、その力を周囲に発動し始めた。サスケは驚いたように周囲を見回すが、残念ながら白眼を持たない者は効果を受けるまでは術の内容を認識できず、例え白眼を持っていようと生物である限りは防御不可だ。
チャクラを色として認識する写輪眼であれば、彼の視界はこの術に組み込まれていない撹乱としての機能を果たしているだろう。
何しろ全方向が私のチャクラの色で覆われているのだからな。
霧を発生させて霧を周囲に散らさぬようにチャクラで戦場を覆う霧隠れの術とは違い、この術は霧自体にチャクラを練りこんでいる。写輪眼のチャクラ認識を使えば通常の霧隠れと同等の効果を受ける事となり、サスケは写輪眼の精度を落とさざるを得なくなる。
彼もそれを理解したようで火遁などではなく、即刻私を仕留めるために苦無を構えて突っ込んできた。
片腕の使えない私であればスピードで圧倒しつつ一気呵成に攻めれば、十分に近距離でも押し切れると踏んだのだろう。
実際、その判断は間違いではない。傷の関係上、あまり激しく動く事の出来ない私はスピード戦に持ち込まれれば、ジリジリと追い詰められる敗北する事は確実だろう。
だが、天之狭霧神の空間内でのその選択は最悪の行動だな。
案の定、私が二、三手防いだ段階でサスケは地面に突っ伏した。
「ゴホッ、ゴホッ」
苦しそうに咳き込み始め、体が闘争本能ではなく天之狭霧神による酸欠の影響を受けて生存本能を重視し始めたせいか、呪印は徐々に引いていきサスケの様子もいつもの様子に戻っていった。
呪印が引いたことを確認してから、私は術を解き彼に近づく。
「どうだ、気分は?」
「……最悪だ」
サスケは吐き捨てるようにそう言った。
「意識はあったんだが、体が言うこと聞かなかった……いや、言い訳にしかならないな。……本当に悪かった」
「なに、謝ることはない。ただし、次からは理性を持って挑むといい。理性のない呪印状態では本能で最適な一手を打てるが、二手以降の予測がまるで出来ていない。
それ故に私の面を壊したあの時、私が少々危険な賭け出てから一気に逆転されたのだ。
とはいえ、呪印による破壊衝動を抱えたまま冷静に動けというのは中々に難しい。とりあえず、その呪印をある程度抑え込む封印を誰かしらに施してもらい、その後徐々に慣らせばいい。
……どうした、鳩が豆鉄砲でも喰らったような顔をして」
「あんたはどうしてそう平然としていられるんだ?俺は俺達を手当をしてくれたあんたを不意打ちした、それをあんたはなんとも思わないのか?」
「ふむ、おかしな事を言うな。教え子……といえる程の物かは微妙な所だが、以前は私に容易くあしらわれた君が、私に手傷を負わせるほどになったのだ。
教え子の成長を喜ばない者はいないだろう?
それに怪我についても、君は悔いているのだろう?ならばこれ以上どうこう言うのは無意味だ、違うか?」
「はぁ……あんたはぶれないな」
「それはそうだろう。私を信じる者がいる限り、私は日向ヒジリであり続けねばならないのだからな。それが私を信じる者への誠意ある行動だろう?」
「さぁな、俺はあんたとは違うタイプなんでな」
サスケは顔を逸らしつつも笑みを浮かべて、ゆっくりと立ち上がる。その動き、その表情から察するに今のところは今すぐ呪印に呑まれる心配はないと言えるだろう。
私は彼にナルトとサクラの様子を見ながらで構わないので、肩の治療を手伝ってくれないかと頼んだ。
すると彼は一瞬辛そうな表情を浮かべたが、すぐに頷いて治療の手伝いをしてくれる事になった。
とはいえ、手伝いといっても大したことではないのだがな。彼には背中側から刺さっている手裏剣を周囲の筋繊維やらを傷付けないように、真っ直ぐ引き抜いてもらうだけだ。
「……止血はどうするんだ?」
「心配するな。君はそれを抜く事だけに集中してくれれば、それで十分なのだ」
「分かった。じゃあ、いくぞ」
すぐに来るであろう痛みに対して心構えをし、白眼で私の体の傷付いた箇所を細かく観察する。そして、ゆっくりと引き抜かれる手裏剣の痛みに耐えながら、弁財天で血を操って擬似的な血管を作成する。
「ぐっ……」
なんとか出血は抑えられたものの、やはりと言うべきか中々に……痛いな。
傷自体をあまり負う事のない私が常人に比べて、痛みに対する耐性を持っていないというのもあるかもしれんが、戦闘においての興奮状態と比較しての落差が酷いな。
はっきり言おう……正直、泣きそうだ。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫だ」
「そんな涙目で言われても全く説得力がないんだが……」
な、泣いてなどいないぞ!!




しばらくして、リーが川から帰ってきたころ。帰りの遅い私達を探しにきたネジとテンテンが私達を見つけ、私はサスケ達が襲われていた事を説明した。
「そうですか……ヒジリ様の事ですからナルト達を助けた事は何も言いません。ですが……」
ネジは一旦言葉を切って、サスケの前に立つと彼の顔を思い切り殴りつけた。サスケはそれを防ぐこともせず、そのまま地面に転がった。
「……ヒジリ様と違って俺は割り切れるほど出来た人間ではない。悪いとは思うが俺はお前を殴らずにはいられない」
「……ああ、分かってる」
「ふむ……サスケの事に関しては話した覚えがないのだがな」
「何年貴女に仕えてると思っているんですか。白眼を使うまでもなく、貴女の態度や立ち方を見れば肩の傷のことくらいは分かります。
それと、うちはサスケの首筋から漂う異常なチャクラの片鱗、貴女の傷をみれば凡そのことは検討がつきます。その後の貴女の対応もね」
……どうやら私はネジの事を過小評価していたようだな。私の予想より随分と成長している上に、正確な思考と判断力も見についてきている。
いやはや、結構なことじゃないか。
「それと、ヒジリ様。予備の面です」
「ああ、ありがとう」
ネジは巻物からサスケに壊された面と同じものを出現させて、その兎の面を私に差し出した。
やはり、これがないとどうにも落ち着かんな。顔を晒すのが嫌というのではなく、長年つけてきた物がないというのは落ち着かんのだ。
「あのさ、色々話してるところ悪いんだけどさ」
テンテンが私の前に割り込んできた。どうにも妙な笑みを浮かべているが……どうしたんだ?
「これ、なーんだ」
……天と地の巻物、二人で揃えたのか!?
「驚いたな……隙を突いたのかは知らんが二対三で勝ったのか」
「違います、テンテン一人で一つの班を叩き潰したんですよ」
「そーいうこと。どう、やるもんでしょ?」
「まさか、君はあれを使いこなしたのか?」
「あの忍具って私に合ってたみたいで結構直ぐに馴染んだよ。それに前の無差別攻撃と違って随分と落ち着いた感じの忍具だったし、いい忍具だと思うよ」
「「いや、それはない」」
私とネジは声を揃えて否定した。私の作った通りの使い方を彼女がしたというのならばその戦いは極めて一方的な物だっただろうし、ネジの反応から察するに事実そうだったのだろう。
「で、サスケ君。どうする?」
「何がだ」
「君達の狙ってる巻物、ここにあるけど?」
彼女は少々意地の悪そうな笑みをサスケに向けて、彼の前に二本の巻物を晒して見せる。
「俺はそこまで恥知らずじゃないし、こんな状態で勝てるとも思ってない……なによりヒジリが驚くような技術を持った、あんたに無策に突っ込む程馬鹿じゃない」















 
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