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26歳会社員をSAOにぶち込んで見た。

作者:憑唄
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第十話 Reverse-反転

 
前書き
ソードアート・オンラインの二次創作、第十話となります。 よろしくお願いします。 思った以上に遅くなってしまいました。 今回、視点変更が非常に多いです。 目まぐるしい感じがするかもですが、よろしくお願いします。 9話の表紙も上げました。 ニコニコの方→//www.nicovideo.jp/watch/sm19174284 こっちの更新は来週末になりそうです。 

 


「へぇ、俺がいない間に、そんなヤツが来てたとはな」
 0の酒場にて、ウスラはそんなことを呟きながら欠伸をした。
 それを見たザサーダは思い出したかのようにクスクスと笑い、腕を組みながら壁に寄りかかる。
「彼は素晴らしい才能の持ち主だ。 まるで干からびた体が水を求めていたかのように、私が教えたことをすんなりと覚えてくれたよ。
下手をすれば、私よりも優れていると言える。 まるでそのためだけに上げてきたかのようなスキルも実に素晴らしかった」
 そんなザサーダに対し、椅子に座っていたユイツーが、口を開いた。
「いえいえ、彼は元々そのために上げていたわけじゃありませんよ。 本来は人助けのため。 臨機応変にどんなPTにも対応できるため。
そして何より、絶対的な安全マージンのためです。 ま、結果的にソレに適してしまったことに関しては仕方ないと思いますが」
 そんなことをドヤ顔で口にし、人差し指を立てるユイツーに、ウスラはヒヒヒ、と特徴的な笑い声を上げる。
「さて、問題として、だ。 ソイツは今まで経験がないんだろ? 初めてってのは結構クるもんがあるんじゃぁねぇかなぁ。
この世界をリアルとして捉えてるやつほど、それは強くなるぜ?」
「ああ、そうか、ウスラ、君はこの世界を非現実として捉えてるゲーム派だったね。 私はリアル派だけど。
いやまあ、君達の考え方も面白いとは思うよ」
 ザサーダはそう言ってクスクスと笑うと、ユイツーへと視線を向ける。
 それに、ユイツーは無邪気な笑顔を見せながら、口を開ける。
「確かに。 私達のようなNPCはそちらで言うリアルをあまり知りませんし。
カーディナルや貴方達からの情報が全てですから、確実なことは言えませんけど、ウスラさんの考え方を持っている人は少なからずいますよ。
ソレに対して、私は批判も何もしませんけどね」
 そんなユイツーに対し、ウスラは待ってましたといわんばかりに、その考えを口にする。
「この可能性はありえることだぜ。 例えば、リアルの俺達は実はもう目覚めていて、今の俺達は意識だけをスキャンニングされた存在。
いわば、本物のコピーであるって可能性だ。 事実、今の技術ならそれは出来るだろうし、辻褄合わせだってある」
 そこでウスラは一度切ると、両手を広げながら説明を続ける。
「まず一つは、このSAOがサービス終了にならないことだ。 通常1万人近くが電脳空間に閉じ込められたとなっちゃ、普通管理会社は崩壊。
政府からサーバーの保存命令が出されたとしても、ゲームをプレイしていて勝手に死ぬって事態を見過ごせないハズだ。
それなら、サービスを一度終了させて、サーバーにハッキングして解決方法を見出すハズだからな。
だが一年近く経った今でも、そんな動きが一切ない。 つまり、リアルじゃ殆どこの事件は解決されてるハズなんだよ」
 そんなウスラの言葉に、ザサーダとユイツーは互いに顔を見合わせた後、失笑し。
「まぁ、面白い考えだとは思うが。 解決してるならばこんなゲームのサービスを続ける意味が何処にある?
それにゲーム始めに茅場氏が見せたあのニュース映像に対して説明できないだろう」
「ヒヒヒ! それについてもちゃぁんと考えてあるぜ! このゲームを続けてる理由は、ズバリ、観察と実験だ。
茅場がカーディナルから得た情報を、秘密裏に政府に提供してるって可能性だ。 ほら、大昔、ナチスとかで行われた人体実験。
それを電脳世界でやってると思えば辻褄は合うぜ。
あのニュース映像なんてのは、幾らでも偽造できるだろ。 今じゃニコニコ動画で投稿されるMADの方がいい出来だぜ?」
 笑いながら口にするウスラに、ザサーダは再び失笑した後。
 もうこれ以上反論しても無駄だと考えたのか、寄りかかっていた壁から離れ、ユイツーを連れて自室へと向かう。
 しかしその途中、何かを思い出したかのように振り向くと、ウスラに向かって言葉を放つ。
「まあ大丈夫だ、彼、クーレイトはきっとやる。 人は一つ確たる目標を持てば、恐怖と不安は薄れていくハズだ。
それに、クーレイト、この彼の名前からしても、彼はきっとナルシストで、自分を信用しきっている部分が強いんだ。
そういうやつほど、自分の欲望と、目標に対する思いは強い」
「クーレイトって、なんて意味なんだ? 悪いけど俺はまだリアルで高校生一年生だから難しい英単語はわかんねぇんだよ」
 ウスラがボリボリと頭をかきながらそう口にすると、ザサーダは笑った後。
「いや、高校生の君でもわかるさ。 彼の名前のクーレイトは、Cooreatと書く。
本人から教えてもらったけど、これは、英語のCoolとGreatを合わせた造語だ。
つまり、『凄くかっこいい』って意味なんだよ」
「あれ、クールって冷たいって意味じゃぁねぇの? 自販機にもクールって書いてあるし」
「……ウスラ。 君には明日あたり勉強を教えてあげよう。 英語の俗語と用途を覚えることから始めようか」
「ええええ!? 俺勉強嫌いなんだけど! 五教科合計200点ナメんな!」
「これは、教師として、ますます教える必要がありそうだな……」
 それだけを口にして、ザサーダはユイツーと共に自室へと戻る。
 取り残されたウスラは、大きなため息を吐いた後。
 酒場に戻ってきたHeavensDoorを見て。
 興味津々に、口を開いた。
「なぁ、天国はリアルでやっぱ成績いいの? ザサーダも序列二位のアイツも頭いいみたいだし。
俺一人馬鹿ってのはなんかヤなんだけど」
 そんなウスラの言葉に、天国の扉は暫く無言になった後。
「……成績はあまりいい方ではなかったが、高校時代でも五教科400点は取ってたぞ」
 そんなことを、サラっと呟いた。
「400!? おい! 何だよソレ! 成績超いいじゃんか! つか高校時代って、お前何歳だよ!」
 そんなことを吼えるウスラに、天国の扉はフッと冷笑を浮かべた後。
「バカに教えるわけないだろ」
 それだけ吐き捨て、自慢の高速移動で、己の自室へと戻っていった。
「ば、馬鹿って言うんじゃねぇよ!! チクショウ!!」
 ウスラのみとなった酒場には、そんな悲痛な叫びだけが木霊した。




――――――




 運命の日の朝。
 バーチャルで所詮デジタルな世界の朝日がデータのこの体に当たる。
 体に気だるさはないけれど、脳からの信号が体を動かすのに多少のラグがあるようだ。
 レスポンスがあまりよくない。
 しかし、それでも僕の心は何処までも澄み渡っていて。
 ウィンドウズのブルースクリーンよりも遥かに青く、ネットの海より遥かにディープだった。
 実行するのは僕で。 プログラムの指示通りに消えるのは僕じゃない。
 さぁさぁ、何も知らないアルス達、君達に気づかれないようにそれをするのが今回のゲームだ。
 そうだそうさ、この世界は一つのゲーム。
 いくらリアルだからと言ってそれを忘れちゃいけない。
 僕達はこんなどうしようもないネットゲームに夢中になってるんだ。
 まるで新しいゲームを買ってもらった小学生みたいに。
 寝ても覚めても、寝る間も惜しんで、学校の授業を放り出してこんなことをやってるんだ。
 リアルに戻ればこんなのは何にもならない。
 得るものなんか何もないんだ。
 ただの浪費、消費者、一つのプレイヤー。
 それでも、面白いからやってるんだろう。
 それでも、楽しいからやってるんだろう。
 僕もそうさ、僕もそうなんだ。
 今から始める新しいゲームが楽しみでしょうがない。
 発売日前に雑誌を読んで興奮する中学生みたいに。
 頭の中はその話題でいっぱいで、みんなにそれを言いたくて仕方ないのさ。
 けれど僕はそんなことを口にしないし言葉に表さない。
 秘密を大事にする高校生みたいに。
 心の奥底で燻らせて、それに対しての期待を過度に持ってしまうんだ。
 ああ、楽しいなぁ、楽しみだ、楽しそうだ。
 結局、学生時代から変わってない、この時間を一々確認する癖。
 暇さえあれば時計ばかり見て時間を確認してしまう。
 始まりの時間が待ち遠しい。
 この世界は素晴らしくて、楽しくて、待ち遠しい、僕の演劇舞台なんだから。
 



――――――




 別段特に変わらない朝。
 というかまぁ、狩る一時間前の起床なんだが。
 ふと、時計を見ると、針は9時を指してる。
 最近の俺にしちゃそれなりに早起きだな。
 酷い日なんか平気で昼まで寝てるからな、俺。
 この分じゃ、リアルに戻った時に社会復帰も中々辛そうだ。
 いや、まぁあくまでもゲーム内での話だから、現実にしてみりゃ俺はずっと寝てることになってるんだろうけどな。
 何にしろ社会復帰は厳しいだろうなぁ……。
 政府側から多少なりとも金もらわないとやってらんないぜ。
 まぁ、今はそんなことはどうでもいい。
 寧ろ考えすぎると、鬱になるだけだ。
 そんなことを考えていると、部屋の扉が勢いよく開く。
「アルス! 起きてる!? 起きてるよね! 起きてるべきだよ! 起きないと殺す! 死んでても殺す! どうやっても殺す!」
 最早目的が起こすことからいつの間にか殺すことに転じてるそんな物騒なことを口にするのは、一人しかいない。
 バカこと、桜花だ。
「おい、圏内でPKまがいのことはやめろ。 俺はまだPKされたくねぇよ」
「なんだ、起きてるじゃん。 じゃあ特別にスペシャルに今回だけ私の気分がいいから殺さないであげる」
 どんだけ俺を殺したいんだよコイツ。
 しかも特別とスペシャルの意味被ってるし。
「まぁいいや……。 とりあえず飯食ってから狩りに行くとするか。
集合場所に集まる前に回復アイテムとかの補充もしなきゃいかんしな」
「わかった。 因みにもうご飯できてるから。 天乃に作らせた」
 相変わらず手が早いというか、手が酷いヤツだ。
 天乃に作らせたって……お前料理スキル上がってるんだからお前が作れよ……。
 もちろん、そんなことは言えるハズもなく、俺はあくびをしながら部屋から出ることにしたのだった。



――――――





 皆々が集合場所に集まり、回復アイテム等の補充をする。
 いつも通り、日常的な行動。
 まぁ今日は桜花さんがいるけど、些細な問題だ。
 そんな中で、僕はいつもと違うことをする。
 別に難しいことじゃない。
 回復アイテムの補充をこの場では徹底しない。
 周りから、僕はあまり回復アイテムを持ってないというアピールだ。
 もちろん、昨日誰にも知らないように買いこんだから大量に所持はしているのだけど。
「クーレイト様。 回復アイテムが少ないようでしたら、私が少し譲りますが……」
 そこで余計なお節介をかけてくるのはガンマだ。
 もちろん、これも予想してなかったわけじゃない。
「いや、いいよ。 それに足りなくなったら補充しに戻ればいいだけだからね。
狩りをしてればお金も溜まるしさ」
「……成る程。 確かにその通りですね。 失言でした。 申し訳ありません」
「いやいや、一々謝ることないよ。 君の言うことも最もなんだからさ。 ただ今日はあまりお金を無駄にしたくないからね」
 そんなことを爽やかに演じると、隣にいたスラム君がそれに反応した。
「まぁ狩りなれてる狩場だしね! 僕らのレベルのマージンも十分にあるし。 出来るだけ金使わないのが賢いよ!」
 そんなことを言ってはにかむスラム君に。
 僕は、表面上で、笑顔を返した。
 それを見ていたシャム君とアルスは互いに顔を見合わせた後。
「聖龍連合的にはそういうのはNGなんですけどね。 まぁ野良ですし。 昨日みたいにアイテム切れたらガンマさんあたりに補充お願いしますか」
「まぁ自分が結構アイテム持ってますから。 残り10個切ったら各自報告って感じで-」
 そんなラフなやり取りをした。
 桜花さんはそれを見て、興味深そうな顔をする。
 ……そうだ、彼らは結構気軽なんだ。
 攻略組名門の聖龍連合所属であっても。
 最前線で戦っているアルスであっても。
 こういった野良PTの時には、ラフさを忘れない。
 真の意味で命のやり取りの認識が薄い。
 絶望感が全く足りない。 危機感が不足してる。 ただのゲームとしてしか見てない。
 わかってるのだろうか。
 このソードアート・オンラインを、アインクラッドを……。
 ただの野良なら別なゲームでも出来る。
 ただのチャットならスカイプでも出来る。
 イチャイチャならリアルでも出来る。
 この世界でしか出来ないことがあるだろう。
 この世界でしか味わえないリアルがあるだろう。
 それを、見せてあげようか。



――――――




 狩場について、俺はまず辺りを確認した。
 周りで他に狩っている人間の有無だ。
 もし居たら断りを入れるのがマナーだし、いなかったら狩場の範囲をそれなりに指定しておくと後々いいしな。
 今日はとりあえずいなかったので、狩場の範囲を指定し、同じPT内の人間に範囲を指定したマップを送信する。
 全員がそれを確認したら、一度集まる。
 事前にミーティングで話し合った狩りの時間帯まで、基本的にやるのは狩りという名の作業だ。
 もちろん、途中休憩も挟める。
 1時間に10分程度の休憩と、4時間経ったら50分の休憩。
 そのために休める圏内エリアも事前に調べておいたため、時間になったり、緊急事態時はそこに非難だ。
 今日は8時間、ガッツリやる。
 夕方や夜になると視界が悪くなるために死角からの攻撃に対応が遅れる可能性があるので、暗くなったら休憩時間を30分に1度にする。
 効率は悪くなるが、生存率を高めるための手段だ。
 それにどうしても人間ってやつは、後になるほど集中力が切れてくるからな。
 そのためにも休憩を早めるのは間違いではない。
 あと、PT狩りの時は基本的に二人以上での行動が推奨される。
 今日は丁度よく桜花も含めて六人だ。
「じゃあ俺は桜花とシャムの三人で組むか」
「なら、僕はガンマとスラム君だね」
 こんな感じに、2組に分かれて狩るのがよい。
 3組以上になると二人というのは少し心細い。
 効率は上がるが、その反面、危険性も上がる。
 三人ならば丁度よく、攻撃、防御、補助の役割が割り振れるというのも大きい。
「えーと、今回はこの桜花がスキル上げたいっていうんで、メインアタッカーは桜花に。 自分は盾やります」
「了解でーす。 じゃあ私補助やりますねー」
「よろしく」
 それぞれに役割を確認させて、ようやく狩りがスタート。
 ま、それなりに役割分担させて効率的な狩りをする以上、別に面白く言葉に出来るものはないのだが。
 説明だけすれば、文字通り、桜花が攻撃し、スイッチでシャムが攻撃。
 相手からの攻撃は俺がスイッチして受ける、という感じだ。
 俺が攻撃を受けている間は桜花が攻撃の準備。
 シャムは周りの様子を確認。
 2体以上出た場合の対応もシャムがやる。
 補助役というのは結構要となるところだ。
 まぁ盾役の俺がヤバくなっても破綻はするのだが……。
 そんなこんなで、狩りという名の作業は淡々と行われた。




――――――



「じゃあ僕が補助、スラム君がアタッカー。 ガンマは盾役でいいかな」
「了解致しました」
「わかったー! よろしくねー!」
 僕ら側の組はこんな感じの構成だ。
 もちろん、この組み合わせも想定していた。
 最悪、僕とガンマだけでもよかった。
 けどまぁ、こうなったところで何も変わらない。
 どちらにしろ、今回ソレは、決行させてもらう。
 大丈夫、実戦は初だけど、僕ならやれる。
 準備は入念に、それでいて確実に行った。
 取りこぼすところ等、何も無い。
 不測の事態に備えても、先生に頼んである。
 だから、落ち着いて待つんだ。
 体が早く早くと急かすのを抑えて。
 胸の奥から湧き上がるこの未知の感情を必死で堪えて。
 その時を、唯只、多々待つ。






 スタートから6時間。
 特に苦戦することなく、休憩時間を終えて、僕らは狩り出していた。
 そんな時。
「あ、ヤバい。 回復アイテムが残り10個だ」
 スラム君が、そんなことを口にした。
 回復アイテムが10個となった時点で、一度圏内に戻って回復アイテムの補充を行わなければいけない。
 これはこのPTでの鉄則で、原則だった。
「じゃあガンマ、圏内に行ってアルス達に報告してくれないかな。 今は僕がスラム君に回復アイテムを分けておくよ。
出来れば買いに行ってくれるとありがたいかな」
 そんな感じで、冷静な対処を演じる。
「了解致しました。 ではお先に失礼します」
 それだけ口にして、ガンマはその場から消えていく。
 残された僕は、スラムへ回復アイテムを早速渡すことにする。
 しかし、渡すのは……。
「とりあえず11個でいいかな? 僕も実は残りそれくらいしかないんだ」
「え、大丈夫か? ていうか11個って、もしかして……」
「うん、全部だよ。 けどほら、僕は大丈夫だから」
 そんなことを笑顔で演じると、スラム君は少しだけ心配したような顔をした後。
「ううーん。 まぁ、クーレイトはここで引き下がるようなやつじゃないしなぁ。 乗り気じゃないけど、もらっておくよ。
けど、無理はするなよ!」
 そんな頼もしいことを、言ってくれた。
 ……まぁ、実はまだまだ余ってるんだけどね。
 けどこの場はこれでいい。
「それじゃあ、えーと、ここからだと圏内よりアルス達のが近いから、先に合流しようか。
あっちにも連絡は行ってるだろうしね」
 僕がマップを開きながらそう口にすると、スラム君は簡単にそれに同意する。
 あとは、ただ二人で、アルス達と合流すべく歩き出す。
 合流まで、5分、と言ったところだろうか。
 だが、その5分の間。 わずか5分の時間。
 スラム君は、僕にダメージを与えないために、只管眼前に現れる敵と戦闘し続ける。
 勿論、僕も応戦する。
 あくまでも、補助、としてね。
 アタッカー兼盾はスラム君だ。
 そうしている間に、スラム君の顔がどんどん青ざめていく。
 HPバーを見ていれば、その理由は一目瞭然だった。
 多分、僕からもらった回復アイテムを含めても、残りが殆どないのだろう。
 そりゃあそうだ。
 僕にダメージを与えないために、普段より張り切って、無茶をして、ごり押しで進んでいってるのだから。
 しかも盾役がいないから一人で二役を演じることとなる。
 ……仮にもしこれがガンマだったら、もっと減りが早かったかもしれない。
 僕の回復アイテムが無くなったら、アイツは凄く躍起になるだろうからね。
 スラム君だからこそ、まだ持ってる、というところだろうか。
 アルス達と合流もうすぐ、となったその瞬間。
 スラム君の足が止まる。
「……ヤバいぞ……。 僕も回復アイテムがもうない……」
 HPバーが黄色になっている状態を見ても、それは恐らく事実だ。
「困ったね……。 しょうがないから、アルス達が来るまでここで待つしかなさそうだね……」
 僕も黄色になったHPバーを見せながら、窮地を演じてみせる。
 そんな僕の演技を真に受けたのか、スラム君は少しだけ胸を張った。
「そうだね……けど大丈夫! 敵の一体や二体くらいなら僕が頑張るよ! クーレイトは投擲武器だから、接近戦は不利だろうしね!
それに比べて、僕は短剣だから、接近戦ならお茶の子さいさいさ!」
 スラム君なら、そう言ってくれると思っていた。
 まぁ、未だにお茶の子さいさいという言葉を使う人間がいたことには驚いたけど。
 年上に平気で溜口で接して、自分に自信があるような彼なら。
 ここで僕に甘えず、自分の勇気を試すことをしてくれると、思っていた。
 そう思っていると、早速、敵が二体沸く。
「っ! スラム君、少し下がろう! ここは沸くポイントだ!」
「わかった! 逃げてる間、背中は任せろー!」
 そんなやり取りをして、アルス達と少し距離を広げる。
 そんな間にも、スラム君は戦闘し、徐々にHPゲージが削れて行く。
 けど、二体を上手く迎撃することには成功したようだ。
 それを確認した後。
 僕は、スラム君に気づかれないように、持っていた投擲用の剣を、2、3本森の中へと飛ばす。
 同時に、マップを開き、アルス達の位置を確認。
 合流までは、30秒といったところか……。
「スラム君。 30秒もすればアルス達と合流だ! 耐え切ろう!」
「ああ、大丈夫! ちょっとヤバいけど、マトモに食らわなきゃ、いけるよ!」
 大人しく転移結晶を使えばいいのに、とか思ったりするけど。
 そうしないように誘導してるのが僕なんだけどね。
 そんなことを思っている間に。
 アルス達が現れる。
「クーレイト! スラム! 大丈夫か!」
「アルス! ガンマから連絡は行ったかな!?」
 僕はすぐに、アルスに向かって駆け出す。
 同時に、スラム君の背後はがら空きだ。
「はぁ……これで一先ず安心だなぁ……」
 スラム君はそれに気づかず、気を抜いて、僕らへと近づこうとしてくる。
 その瞬間だった。
「ガァアアアアアアアアッ!!!」
 耳を劈く咆哮と共に、スラム君の背後に、二体のモンスターが現れたのは。
 いや、正確には……。
 ターゲットをとっていた相手が、ようやく来たんだ。
 僕が投げた、投擲用の剣。
 あの時、遠くにいたモンスターに当たり、ターゲットを取れた。
 保健用に2、3本投げたのは正解だった。
 思惑よりも、一体多く、現れてくれた。
 ターゲットとなっている僕はアルスの前に居る。
 その背後に、対角線上になるようにいるのは、スラム君だ。
 当然、ターゲットが僕になっていたからといって、スラム君を素通りするわけじゃない。
 ターゲットは変更され、同じPTを組んでいたスラム君へと、容赦なく襲い掛かる。
「スラム君! 危ない!」
 僕は、わざとらしく必死さを装い、叫ぶ。
「スラム!!!」
 助けようと走るアルスよりも早く。
 モンスターの攻撃は、スラム君の体を、貫いた。
「え……!?」
 驚きながら、貫かれた己の体を確認するスラム君の表情は。
 僕が今まで見たことの無い表情で。
 HPバーが赤を通り越して、クリアになっていくのを見るアルス達の表情も。
 僕が今まで見たことの無い表情で。
「いやだ。 こんなの、イヤだああああああああああああッ!!!!!」
 耳を劈くようなスラム君の断末魔と、その顔も。
 僕が今まで、見たことのない、見れない表情だった。
 ……覚えた。
 覚えた覚えた覚えた覚えたァッッッ!!!!!!
 データの海に消えていくスラム君の体は、何処までも綺麗で。
 その悲痛な表情とのギャップがたまらなくて。
 僕の感情は耐えられないほど、爆発寸前だった。
「うわあああああああ! スラム君!!!!」
 僕はすぐに、感情を露にしたようにして、顔を抑え、その場に膝をつく。
 顔を抑えたのは、嘆きからじゃない。
 抑えられないんだ、この笑みが……!
「ッ!! チクショウがぁああああッ!!!!」
 アルスがすぐに、スラム君を葬った二体のモンスターを一掃し。
 僕の隣に居たシャム君が、無言で僕のHPを回復してくれた。




――――――




 スラムが死んだ。
 その事実は、何よりショックだったし、目の前であんな死に方をされるとは思わなかった。
 あの後、俺達はガンマさんに連絡を取り、一度広場へと戻ったが……。
 一番ショックを受けていたのはクーレイトだったみたいで、ずっと俯いて、両手で顔を覆っていた。
 そして時折、僕が悪いと呟いていた。
 ……違うな。 クーレイトが悪いわけじゃない。
 今回は只管に、運が悪い。
 どうしてHPがあんなんなるまで戦っていたのかはわからないが。
 クーレイトも回復アイテムが切れていたと考えると、相当運の悪い事態に遭遇したんだろう。
「ねぇアルス。 私はスラムって人がどんなんなのかよくわかんないから、あんまりショックはないんだけど……。
人が死ぬって、やっぱり重いんだね……」
 隣でクーレイトを見つめながらそう口にする桜花に、俺は黙って頷く。
「死んだやつは戻ってこないし、残った俺らもいい思いはしない。 デスゲームってのは、こんなにもいいところが無いんだぜ……」
 俺がそう呟くと、背後にいたシャムが、一歩踏み出し、俺の隣に並んだ。
「……アルス、私は聖龍連合にいる関係上、何人も死んだのを見ましたが……いや、見たけど。
やっぱり、いいものじゃないよね。 事故死にしろ、ボスにPKされたにしろ、仲間が死ぬってのは……」
 敬語をやめ、本心で語りかけてくるシャムに。
「……そう、だな。 こればっかりは慣れねぇよな。 25層のボスの時もそうだったが、精神的にクるもんがある」
 俺も、敬語をやめて、本心で返した。
 特に、それまで一緒に狩っていた仲間が死ぬっていう衝撃は、相当だろう。
 俺は正直に言えば、一緒に狩っていたのが俺じゃなくてよかった、とすら思ってる。
 下手したら、今のクーレイトみたいになっていたのは、俺かもしれないんだからな……。
 こんなこと考えるのはよくないって、本心じゃわかってる。
 だが、思わずにはいられない……。
「桜花、シャム。 明日の狩りは中止して、クーレイトの心のケアと……」
 そこで一度区切り。
 どうにかしてスラムへの償いが出来ないか少し考えた末に。
「スラムの墓でも、作りに行くか……」
 そんな提案を、口にした。
 どっかで聞いたことがあるんだよな。
 SAOで墓が作れるって。
「そうだね……そうしよう」
 それに真っ先に同意してくれたのは、シャムだ。
「わかった。 私もそれに賛成する」
 少し遅れて、桜花も同意を口にする。
 これで……決まりだな。
 これで本当に償いになるかはわからないが。
 やらないよりはまだいいだろうと、俺は考えつつ、ガンマさんと共にクーレイトのケアに当たることにした。




――――――





 心の中に渦巻く、この感情。
 これが、僕が求めていたものか。
 これが、僕が得たものか!
 何処までも、青く、蒼く、碧く、美しい螺旋を描くこの感覚!
 頭の上のポインターはまだ緑だ。
 僕は結果的に、MPKを、殺人を、ヒトゴロシを行ったっていうのに!
 ガンマは僕を必死に慰めてくるし、アルス達は同情の目で僕を見てくる。
 僕は正しかったんだ!
 僕は何も悪くないんだ!
 悪いことをしたのに、罪にならないんだ!
 マイナスを行ったのに、プラスしか帰ってこない!
 この世界は、素晴らしい。
 先生、わかったよ、僕の心が。
 先生、ありがとう、教えてくれて。
 僕の中は、こんな、どうしようもないマイナスを求めていたんだ!
 積み重ねたブロックをハンマーで叩き割ったかのような、この感覚。
 何処までもクリア! 清涼感! 爽快感!
 プールから顔を出したかのような、この気持ちのよさ。
 サウナから出て扇風機に当たった時のようなこの体中から湧き出る感覚。
 けど、これで終わりじゃない。 満足しきっちゃいけない。
 今回覚えたことで全部じゃない。
 死には色んなパターンがある。
 人の感情には、無限の可能性がある。
 それを全て引き出すまでは、終われない。
 ここで満足しちゃダメなんだ。
 まだ上がある。 もっと上がある!
 だから、僕はここで終わらない。 終わっちゃいけないんだ。
 表面上は悲壮感を演じながら。
 僕の心は、確実に一歩前進した。
 これから先、もっと、もっと、多くの嘆きを、死を、感情を見るため、覚えるために!


 【Dirac】[序列五位]
     [MPK]
   Cooreat[クーレイト]
    ―Cool&Great―
    《俳優》Lv60 
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