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101番目の哿物語

作者:コバトン
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第十八話。始まりの終わり

 
前書き
ここまでお読みくださりありがとうございました。
2月より、原作2巻の内容をお届けする予定ですので引き続き応援よろしくお願いします! 

 
「っ⁉︎ 貴女……」

キリカが凄く驚いた声を上げた。
同時に俺の背後には、ピッタリと寄り添う何者かの感触を感じた。
そう。これが俺が感じていた熱の正体。
それは、紛れもなく。

もごもご(一之江)⁉︎」

「え? 助けてくれたお礼にお嬢ちゃん、100万ほどあげよう?」

もごもごもごもごーっ(言ってねえぇぇぇぇぇ)⁉︎」

「え? もっとくれるですって?」

もごもごもごっ(イヤイヤイヤ)

口が塞がれているせいで、一之江へのツッコミが出来ないのが辛い。

「貴女……もしかして瑞江ちゃん?」

「それは偽名ですが、概ねその通りです、キリカさん」

「雰囲気……すっごい変わるんだね、ロア状態の時って」

「なんせナイスバディで、なおかつ様々な所がチラリズムの塊ですからね」

もごもご(本当に)?」

「あははっ! そっか、モンジ君からは絶対に瑞江ちゃんを見る事は出来ないんだ。背後にいる存在だから」

「見た瞬間殺しますしね」

もごーもごっ(うおーい)⁉︎」

明らかに助けに来たっていうタイミングでの登場なのに、あんまり助けに来たという空気がないのは一之江らしいな。というか、助けに来た筈なのに止めを刺しに来た感があるのは気のせいだよな?
いろいろとツッコミ所満載な一之江だが、少なくともナイスバディではない事は、以前抱きしめた時に解っている。
まあ、指摘したら刺されるから……確実に背中を刺してきそうだからしないがな。

「そっか、『月隠のメリーズドール』。それが瑞江ちゃんのロアなんだったんだね」

「はい。私は対象の背後に常に存在する事が出来るロアですから。つまり、このハゲの全身をどうにかするには、私をまずなんとかする必要があります」

もごもごもごっ(誰がハゲだっ)⁉︎」

「貴女の蟲達も、魔術も、基本的に『精神汚染』という形での侵略型。つまり、どこか一箇所でも貴女が侵食出来ない場合、相手を食べ尽くす事は出来ない……違いますか?」

「あはっ、どの辺りから気づいた?」

「モンジに好き好きアピールしまくったのは、後で『結局助からない』と絶望させるためだとみましたからね」

もごもごもごもごもごっ(その頃からいたのかよ)⁉︎」

「貴方はちょっと黙っていてください蟲野郎」

もごもご(あ、はい)……」

どんどん酷い呼ばれ方をされてるな。
と、いうか一之江の声がやたら怒っているように感じるのは気のせいか?
今の言い方もまるで浮気現場に踏み込んできた奥さんみたいな感じだったし……いや、何を考えているんだ俺は?
一之江だぞ。毒舌ドS(見た目は)清楚なクール娘な彼女だぞ?
きっとあれだ。怒っているのはこんな早朝から俺が勝手に出歩いて、コード探しなんてしたせいで魔女に挑んで消えそうになっていたからだ。
俺が消えたら一之江の噂にマイナスな事になるからな。俺が消えれば一之江はあっさり殺られたマヌケな主人公に捉えられたロアとか呼ばれるらしいからそれで怒っているんだ。
きっとそうだろう。

「なるほどね。大体正解かな?」

「まあ、その『正解』の言葉も信じませんけどね」

「魔女の口車だもんね」

「ええ。乗るのはよっぽどのお人好しか、バカだけです」

これも多分俺の事なのだろうな。
だが、ハゲという所だけは後で否定しなくては。

「これでモンジ君の能力も全部解ったよ、瑞江ちゃん。『百物語の主人公』には、手に入れたロアを自分の能力のように使役する事が出来る……」

「ええ、そのようです。私も昨晩知ったばかりですけどね」

「なるほど……それは……おっかない能力だなあ」

キリカの声に、剣呑な響きが交ざった。
今までは余裕のある可愛い魔女的な乙女の声だったが、今、彼女の内部でスイッチが変わったみたいだ。
まるで、理子が『裏理子』になるように。

「おっかな過ぎて、すっごい興味が湧いてきたよ!」

どこか病的な空気を含む口調で、魔女として、調べずにいられない実験体を前にしたかのようなそんな感じで俺を見つめている。
彼女の中で俺は『ただのお友達役』から『興味対象』に移行したようだ。
その目を見つめると彼女の中に引き込まれそうになる変な感覚を感じた。
正しく魔女だ。その内側に、どんな深い闇を秘めているのか、想像もつかない。

「彼女は貴方が思っているような善良な存在ではありませんよ?」

一之江が背中から警告してくれるが、それも解っているんだ。
キリカという魔女は、それこそ倫理的に許されないくらいに大量の犠牲者とか、悪い事なんかを繰り返し続けて、ここに存在しているのだろうからな。
だけど、それでも。
そんな程度で俺の心を折る事は出来ないんだ。

「フゥ」

一之江の呆れたような溜息が背後から聞こえた。何故だかその溜息が、彼女の吐息を感じるだけで心強く感じる。

「……蟲さん達。こちらを向いて……」

一之江が呟きながらその手を俺の口元に触れさせると、その周囲にいた蟲達がシュワッと消滅していった。
『振り向いた相手を確実に抹殺する』。
蟲達すらも、その状態の一之江のルールには逆らえないのか。
一之江の声に、彼女の姿を見て確認してしまった蟲達は、成す術なく消滅していった。
これが一之江のロア、『メリーズドール』の能力……。

『見返り(メリーズ)殺害(ピリオド)』!初めて見たけど凄いね!」

キリカの歓喜した声が聞こえた。
なんだその中二病な名前は……。
いや、まあ、人の事は言えねえけどさ。

「それでは、言いたい事を好きなだけ叫んで下さい」

「ああ。任せて。ちゃんと伝えるから」

俺は顔面と全身を覆う蟲達をさらに素手とスクラマサクスの刀身で蟲達を軽く払うと、キリカを軽く睨みつけながら叫んだ。

「キリカ!」

「モンジ君?」

きょとんとした直後……真紅の目が、とても濃密で魅惑的な視線をしながら俺を見た。
食べたくて食べたくて仕方ない。ご馳走を見つけた。そんな風に俺を見ている目だ。

「俺は、君ともずっと一緒にいたいんだよ!君が魔女だろうとなんだろうが関係ない!」

トン、と背中が押された感触がある。
俺は、その勢いに乗って走り出そうとする。
だが、その一歩は蟲達に完全に挟まれている身では、踏み出す事は出来ない。

「あはっ!無駄だよモンジ君!その足は完全に封じているからね!」

「その距離を無意味にするのもまた、私のロアの能力です」

一之江が俺の背中で告げると、俺の背に手を当てたまま言う。

「さあモンジ、行きたい場所を叫びなさい」

「俺はキリカの側に行く!」

そう、叫んだ瞬間だった。
不意に足が軽くなった。
いや、足だけじゃない、自分の身体が本当に『一瞬』で、キリカと俺の距離を詰めていた。
これは……『短距離(イマジナリ・)絶界橋(ジャンプ)』か?
疑問に思う間もないくらい、技の発動をほとんど感じる事ないくらいあっという間に移動していた。
どうやら俺は猴や孫が使う『觔斗雲(きんとうん)』のような『瞬間移動(テレポート)』の能力でキリカの側まで移動したようだな。それも一瞬で。

「え、凄い!」

キリカの声で我に返り後ろを振り向かないように気をつけながら元々いた場所を見ると……足を捕らえていた蟲達が、いや、俺の全身を包んでいた蟲達は、元々俺がいた場所に置き去りされたままだった。
俺の全身を覆っていた蟲達が置き去りにされた事実から考えるとどうやら一之江の持つ能力は、彼女が使えば俺にも使用出来るという事になるようだな。

「『想起跳躍(リンガーベル)』です」

「凄い、凄いね!言葉を聞いた対象の場所に、空間を超えて移動する能力……瑞江ちゃん!モンジ君!貴方達、本当に凄いよ!」

間近に迫ったキリカが、目を大きく見開いて俺達を賛辞してくれていた。
……おそらくだが、本気で純粋に喜んでいるのだ、この顔は。

『自分の予想を超える相手。それが魔女の弱点です』

耳の後ろからではなく、頭の中にその声は響いてきた。
ああ、こうやって聞かせるから、電話がなくても『もしもし私よ……』は聞こえるのか、と妙な納得をしつつ、同時に一之江の思考が流れてきた。
魔女の弱点っていうのは、どうやらどの時代でもあまり変わらないらしい。
魔女は、知識が豊富だから……様々な予想や予測は既に終わってしまっているようだ。
だからキリカが予想外の返事の時に大笑いしてくれたのも、今なら納得出来る。

『今の彼女はとても油断しています。だから、今私がころ……』

(待ってくれ!)

おそらく一之江のこの声は俺だけに聞こえるもの。
だから俺も心の中で強く彼女を止めた。
一之江にキリカを殺させる?
そんな事、出来るわけないだろう。

「キリカ!」

俺はキリカの顔に、自分の顔を近づける。
間近で見るその瞳は、爛々と赤く輝いて……とても、綺麗だ。

「あはっ、流石だね、モンジ君。私をこんなに楽しませてくれたのは君が初めて。正に初体験の相手は君だねっ!」

「その言葉は違う所で聞きたいな……君はとても魅力的だからね!」

ヒステリアモードの俺がそう言うと、キリカは恥ずかしそうに顔を赤くして、一之江は俺の背後をツンツングサーッと何か尖ったもので刺しやがった。

「痛だだだだっ」

「真面目にやりなさい」

「どうする?私を瑞江ちゃんに殺させる?」

キリカがそう言うと、一之江の殺気が背後で高まっていくのを強く感じる。
背後の一之江の事を考える______
一之江(コイツ)はキリカとも仲良くしていたが……ここで『ロア喰い』を殺さない選択肢を選ぶほど、優しくもないな。
キリカはどこか満足している表情をしているし……仕方ねえ)

『ロア喰い』を、キリカを一之江に殺させるという選択肢は却下。
キリカは満足した表情で、まるで自分の予想を超えた存在になら、殺されてもいいかのような笑顔を浮かべているが殺害なんて出来ない。
かといって、このまま見逃すなんて出来ない。
なら俺がすべき事は……。

「いや、俺はこうする!」

俺は制服のポケットに手を入れて中かDフォンを取り出して______

「何を⁉︎」

一之江の声はスルーして。

ピロリロリーン!

キリカの、その笑顔をカメラに収めた。

「ふえ?」

「これで嘘じゃない記録が出来たね。君はもう俺の大事な物語だ!」

俺が告げると、背後で絶句したかのような気配かあった。
だが、俺はキリカの返答があるまで、じっとその瞳を見つめる。
見つめているとキリカの顔がみるみる赤くなって……

「ぷはっ!あははははははは⁉︎ お、面白い、面白いよ、モンジ君っ!あひ、あははははは‼︎ うひゃー、苦しい!ダメ、笑いしぬ! あははははは!」

「あれ? 俺今おかしな事言ったか⁉︎」

キリカの爆笑っぷりは予想外だった。

「あははははは‼︎ ううん、凄く格好良かったけどね。
モンジ君っ! って言って思わず泣きながら抱きついてもいいかなー、って思ったけどさ、あはっ」

流石キリカ。
男がされると嬉しい行為をよく知っているな。
だが、それをしなかった理由がやっぱりあるわけで。

「ほら」

キリカのその言葉で……

「うん?」


チクリ。


自分の背中に何か刃物的なものが当てられている事に気付いた。

「貴方は誰にでもそうやって言うのですね」

一之江の地獄の底から響くような声が背後から聞こえた。

「ちっ、違うよ!そう言うんじゃないよ!」

思わず浮気がバレた亭主みたいな事を言ってしまった。

「ちなみにね、モンジ君」

「あ、うん、何かな、キリカ?
って痛い痛い痛い痛い痛いっ、刺さってる、何か冷たいものが俺の背中に刺さってるっ!」

「私達ロアにとっては、『自分の物語になれ』って、プロポーズみたいなものでね」

「痛でえええええぇぇぇぇぇ……って、え?」

プロポーズという言葉に、痛みも忘れてキリカを見てしまう。

「お前のロア人生、俺のロア人生にしてやるよ……みたいな。未来永劫、一つの物語として共に歩もうね、みたいな意味になるの」

「え? 本当か?」

「本当本当!」

それは確かにヤバい。

一之江()を俺の大事な物語に出来るように頑張るから』

俺は昨晩、一之江にも『俺の大事な物語にする』という発言と似たような事を言い、そしてキリカにも今言っちまったからな。

「スケコマシさんだね、モンジ君ってば」

その評価、いらん。
女性と関わりたくないんだよ。
普段の俺は。
だが、悲しかな、こっちの俺は、クラスメイトの2人にさりげなくプロポーズまでしまっている。

「人生って上手くいかないものだよなー」

「ですね。でもいいじゃないですか。貴方にはピッタリな伴侶(相手)がいますから」

「へ? 誰だ?」

「この間の四条先生とでもバラバラしてて下さい」

「それはごめんこうむりたい」

「モンジ総受けで」

「言葉の意味は解らんが、とにかく嫌な響きだな⁉︎」

「えいえいっ」

「やめろー! 背中にこれ以上刺すな!」

俺の背中を何か鋭利なものでザクザク刺す一之江。
それが何なのかは解らんが、解らん方がいいな。
一之江が背後にいる限り、刺されても死なないはずだし。
痛いけどな……。

「ふふっ、まあ、いっか」

そんな俺達を見つめていたキリカは、ふう、と溜息を吐き出すと______

「こんなにワクワクさせられたのも、ドキドキしたのも初めてだから……」

「うん?」

「だから、そうだね。もう少しモンジ君の側にいるのも楽しいかもしれないね」

「え? それじゃあ……」

「うん。面白くない物語達を見せたら食べちゃうけどね?」

「うっ……つまり、それは……」

「はあ……貴方は先程、キリカさんを写真で捉えた事により、魔女と契約してしまったのですよ。
キリカさんが満足する物語を見せ続けないと、貴方ごと食べられてしまう、と」

「ちょっ、嘘だろ⁉︎」

「あはっ!
不束者ですが、よろしくお願いします、マスター」

「マスター⁉︎」

「うん、私達ロアを使役する事が出来るマスターだからね。
それとも、ご主人様がいい?
旦那様がいい?それとも、あ・な・た?」

「そのネタは既に私がやってしまいました、キリカさん」

「おおう、既に夫婦漫才も抑えていたとは、流石だね瑞江ちゃん」

「いえいえ、それほどでもあります」

「あはははっ!」

「ふぅ……」

キリカの突き抜けるような笑い声と、背後の呆れるような、諦めるような……しかし、どこか嬉しそうな吐息。その二つを聞きながら、俺は霧が晴れていく公園を眺める。

「さて、俺は2人の美少女をお持ち帰りしていいのかな?」

「冗談は存在だけにして下さい」

「存在を否定された⁉︎」

「流石にお家に行くと、従姉妹さんが気にするだろうからね。私はお家に帰るよ」

「え? お家って、ええと……」

キリカのような魔女に家と呼ぶべき場所はあるのだろうか。
童話に出てくるような森の中にあるひっそりとした小屋や洋館だろうか?

「この街には長居する事になるみたいだからね。少なくとも残り98個の物語を集めないといけないんでしょう?」

「あ、あー、うん。そうだね。そうなるな」

残り98個。
まだ98個というべきなのか、もう98個というべきなのか。
どちらにしても全て集め終わるまで先は長いな。

「モンジは女を口説くのは得意ですが、それ以外はきちんと教えていかないとなりませんからね。私達の主人公になって貰う為に」

「そうだね。一緒に叩き込んでいこうね、瑞江ちゃん」

「ええ、ザクザクグサグサ叩き込みましょう」

「うんうん。モグモグムシャムシャ叩き込むよ!」

「ははっ、可愛い2人に教えて貰えるなんて光栄だね。
だけど2人が言う言葉の擬音が大変嫌なものな件について、ちょっと異議があるんだけど」

「「却下!」(です)」

2人同時に却下された俺は、肩をがっくりと落としながらもすぐ様2人に話しかける。
すぐめげるだけでは女の子を幸せになんて出来ないからね。
それに、こんなに可愛い2人が俺の側にいてくれたんだ。
俺だけが落ち込んでるわけにはいかないからな。

「よし、それじゃあ帰ろうか!」

直ぐに思考を切り替えて、正面のキリカと背後の一之江に告げる。

「うん。そうだ……あ!」

「うん?
どうしたんだい、キリカ?」

「ちょっとモンジ君に聞きたい事があるんだ」

「私もあります」

黙ってキリカが喋るのを聞いていた一之江がそう告げた。

「瑞江ちゃんも?」

「ええ、おそらくキリカさんと同じ事です。
ですからキリカさんが言って下さい」

「うん。それじゃあ、私が聞くね」

「うん。何かな?」

「モンジ君。
そもそも君って結局、何者なのかな?」

俺に近づいて来ながらキリカは何が面白いのかニコニコ笑って、俺の顔を覗き込んできた。
魔女として、調べずにはいられない興味対象を見る瞳で。
その目で見つめるキリカは、少し機知に富んだ答えを求めているみたいだ。
でも、良かった。それには決まり文句があるからね。

「______ただの高校生だよ。わりと偏差値高めな、都市伝説(変わり者)が集まる学校のね」

俺がそう答えると、キリカは……
小さく笑ってくれた。良かった。良かった。
俺の背後からも「クスクス」と小さく笑う一之江の声が聞こえる。

「あはははははー!モンジ君ってやっぱり面白い!
うん、うん。君となら色んな物語が見れそうだね」

「そうか。じゃあ今回の件は、これにて一件落着、って事で」

「うん!それじゃまた、学校でね」

「ええ。私がいない時にコード探しとかはしてはいけませんよ」

キリカは、自分が生み出した霧に隠れるように消えて。
一之江は、まるで忍者のように音もなくいなくなっていた。
そして、早朝の公園に一人残された俺は……

「……ふう……どうなるんだろう。本当に」

背伸びをしながら呟いた。
一之江の『メリーズドール』の能力は、かなり半端ないものだった。
キリカの『魔術』や『知識』も、きっと凄いものなんだろう。
そんな2人と共に生きていけるのは心強いし、嬉しいのだが……。
『俺の物語』としては、どうなっていくのだろうか?
不可能を可能にする男(エネイブル)』の能力は凄かった……と思う。
思うが……まだ能力を把握しきれていない分の不安がある。
まだまだ底が知れない能力という不安が……。
それに、『101番目(ハンドレッドワン)の百物語』に至っては、意味不明だ。
普通の百物語なら解る。
だが、101番目の百物語って何だ?
百物語なのに、101番目の時点で異質だろ。

「どうなるんだろうな、本当」

「どういう物語にしていくのか、とっても楽しみだよ。お兄さん」

突然、真横からそう声をかけられて声がした方に振り向くと______

「や、やあ。ヤシロちゃん。おはよう」

俺の真横にヤシロちゃんが立っていた。

「おはよう、お兄さん。上手く2人をたらしこんだね?」

「ヤシロちゃんみたいな年頃の女の子がたらしこんだとか言ってはいけないよ」

「ふふっ、はーい」

ヤシロちゃんは注意すると、素直に返事をしてくれた。
ヤシロちゃんの見た目は7、8歳くらいだが年齢は知らない。
本当の年齢はもしかしたら見た目よりも上なのかもしれないけど、女性に年齢なんて聞けないからね。
まあ、外見は幼女だし幼女枠でいいか。
それにしてもヤシロちゃんのなんと言うか、仕草とか、雰囲気が誰かに似てると思ったらあの人にソックリなんだよなあ。
この前会った時も白い帽子被っていたが、そういう帽子好きなところとかも似ている。
ひょっとして知り合いとか、親戚だったりするのだろうか?

「それでお兄さんはどんな物語を作っていくつもりなの?」

「そうだなあ……かなり難しいんだけど……」

「あれ? 何か思う事があるんだ?」

ヤシロちゃんは不思議そうな声を上げて俺に向き直った。
幼女に不思議そうに見つめられる俺って……なんと言うか。
『この人、ちゃんと考えてたんだ⁉︎』って言われているような気がして何か嫌だな。俺の考え過ぎだとは思うが。

俺もヤシロちゃんを向く形になり、せっかくなのでしゃがみ込んだ。
この角度でもギリギリ顔は見えないが、愛らしい口元は見えた。

「うん。『不可能を可能にする男』の物語はまだ解らないけど『百物語』は終わりのない物語、ネバーエンディングなストーリーにしようかな、と思っているよ」

「ふえ? ハッピーエンド、とかじゃないんだ?」

「それだと全部終わっちゃうからね。キリカも、一之江も。
ハッピーエンドだと彼女達の身が危ないかもしれないだろう?」

ハッピーエンドは一見すると、全てが解決してめでたし、めでたしとなる、と思われるが、俺達ロアからして見ると『存在性』のアピールを終わらせる場所としての意味合いも含まれる。
物語が終われば、俺達ロアは消えるのだから。

「うん、そうかもしれないね」

「だから、俺はこの物語を終わらせない。百の物語を集めても、俺の物語はずっと続けてみせるよ、ヤシロちゃん」

「へえ……」

「百物語なのに、俺は101番目の物語なんだよね? つまり、規格外のハンドレッドワンなわけだ。だから、俺の物語はそのまま繋げてもいいはずだ!」

「出来る、って思ってるの?」

「うん。俺は『不可能を可能にする男』でもあるからね。
だから終わる物語を終わらせないように変えてみせるよ、ヤシロちゃん」

「ぶっ! あははは‼︎」

俺の発言の何処かが、笑いの琴線に触れたらしく大笑いを続けるヤシロちゃん。

「ほんっと、面白いね、お兄さんって」

「そうかな? ヤシロちゃんみたいな可愛い女の子が喜んでくれるのなら良かったよ。
可愛い女の子は笑顔が似合うからね!」

「ふふっ、私まで口説いちゃうんだ。お兄さんったら」

「女性を幸せにするのに、年齢なんて関係ないからねっ!」

ヤシロちゃんに微笑みながらそう伝えると彼女は、身につけている帽子をつい、っとちょっと上げて。

「なら、期待してるよお兄さん。私の事も幸せにしてくれるっ、って」

帽子の下にある、とっても綺麗な顔でニッコリ微笑んでくれた。

「……え?」

だが、やっぱりその帽子の下にある顔に覚えがある気がして、俺は戸惑う。

「お兄さんのDフォンを、『8番目のセカイ』に接続出来るようにしといたよ」

「え、あ、ありがとう」

「ふふっ、それじゃあねお兄さん。バイバイっ」

ヤシロちゃんはそのまま手を振ると、スーっと空気に溶け込むように消えてしまった。
ロアには、瞬間移動や突然消える能力が標準装備されているのだろうか。

「……帰るか」

一人公園に置いてけぼりにされた俺はランニングしながら公園を後にした。
家の近くに帰ってくると、ヒステリアモードが切れた俺はアスファルトの上(道端)に四つん這いになり自己険悪に陥った。

(ヒス俺の馬鹿野朗ー‼︎
何やっちゃってくれてんの⁉︎
何が「俺の大事な物語だよ」だ!
何が「女性を幸せにするのに年齢なんて関係ない」だ!
ああ、もう……死にてえ。
誰か俺にもう一度『羅刹』とか、『メリーさん電話』をかけてくれー!

糞、朝っぱらから変な女に『死ぬ』とか言われて、キスされてヒスった挙句に、魔女に襲われてプロポーズしちまうとか。ああ、チキショウー!二度寝してやるー‼︎)
一人、内心で絶叫していると通りかかる人々に不審者を見る目で見つめられた。
ああ、なんつうか……不幸だ。
『幸せの前兆』とかの加護なんて嘘だな。
朝から女子達に絡まれるとか不幸としかいえんし。
プロポーズとか、誤解しか与えてないしな。




その後、帰宅した俺は宣言通りに二度寝したが、夢の中で和服を着た少女に話しかけらせるという不思議な夢を見る事になる。だが俺はその夢が新たな騒動の始まりだという事に、この時、まだ気づかずにいた。 
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