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ワールドワイドファンタジア-幻想的世界旅行-

作者:霧島 京利
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第二章 戦火の亡霊船
  5話 西へ…(関門橋:源平編・上)

 朱雀との激戦を経て、なんとか京都の範囲を出たところで僕らは今日の行動を終えた。奴との戦闘の疲れがありありと見て取れる香織をすぐに休ませ、僕はあたりの警戒を怠らない。
 この夜は彼女の疲れを回復させることを優先し、僕は明日の車内で睡眠を取ることにしたのである。

「そういえば瑞希はどうしてるかな。」

 何も無い夜が一人の少女の記憶を思い起こさせた。
 桟瑞希(かけはしみずき)。僕の記憶の中でまともに話した唯一の女子である一個したの彼女は、ちょうど僕が高校に上がるときにどこかへ引っ越してしまった。
 なにも伝えられることはなく、僕から連絡することも無かったためにいつの間にか彼女はいなくなり、そしてそれから声を聞くことは出来なかった。

「もう一度会いたいな…」

 秋が近い証拠として、綺麗な虫の音が聞こえる静かな夜には弱気な考えが生まれるものなのだろう。この間…一ヶ月ほど前の学校に閉じ込められているとき、久しぶりに彼女を夢で見たこともあってそんなことを思い出してしまった。
 僕にとっては一番親しかった友人であり、後輩。せめて最後に言葉でも残してくれれば、こんな時に思い出すことも無かったのではないか…。

「ハァ…。」

 睡魔は去ったが、僕の心の中にはなにかが燻る事となってしまった。そんな夜は何事もなく過ぎていくのだった。





ブロロロロロ

 しっかり睡眠を取ったところで目が覚めた。出発から何時間経ったのかを時計を見て確認する。

「おはよう。」

「おはよう、運転お疲れな。」

 まだ運転に慣れていないのか、視線を前方から外すこと無く挨拶を終え、僕は出発してから四時間、十一時を指していることを確認した。

「今どの辺?」

「んーもうすぐ山口県かな…って思ったら入ったよ。もうちょっとで九州だね。」

 なるほど、結構なペースで進んでいるらしい。今日の午後は僕が運転をするわけであるが、夜までには目的地につけるのではないだろうか。

「なんだかすごい変わっちゃったよね。日本だけでも…。」

「わかってたつもりだったんだけどな、僕も予想外だった。」

 学校の周辺、僕の生活の中心だった千葉県では、大きな敵と呼べるものは存在しなかった。それこそ簡単に倒せてしまうような機械群に、犬や猫をベースとしたであろうモンスター。それらは強大な膂力や感覚器官を持つものの、不思議な力を使ってくる事は無かった。それこそエミオンのように。
 それなのに千葉県を出ればドラゴン、そして朱雀と強力なモンスターと出会ってしまっている。

「でも、それが楽しいよね。」

 そう言う彼女の顔には眩しい笑顔が浮かんでいた。まあ、僕も同じ気持ちであったのだが…。これから出会う出来事にも期待できると言うものである。

「このまま何もなく鹿児島まで行けるかな?」

「ああ…そりゃ、無理だろうな。」

 まだ辿り着くまでに結構な時間が残されているわけで、さすがに何も起こらずに終点まで行けるとは思えなかった。
 そしてそんな予想は現実となるのである。

「楓くん…どうする?」

「ここまで来たんだし行くしか無いだろ…」

 あれから一時間、ついに九州地方へ入ろうとする橋を前に捉えて僕らは立ち往生していた。
 山口県と福岡県を結ぶ関門橋を挟んで左側、白色の旗を携えた木造の船が、そして右側には赤色の旗を携えた木造の船が、ところ狭しと水上に構えていたのだ。
 そして橋の真ん中には鈍い色を放つ剣が浮いている。ここは壇ノ浦、そうすれば自然と思い起こされるのは源氏と平氏の戦いであろう。そして浮かぶ剣は三種の神器の一つ、草薙の剣…。

「なんでもありだな…。」

「一気に通り抜ければ大丈夫かな?」

「なんか動かないしそれでいいんじゃないか?」

「うん…わかった。」

 そう言う香織の顔は笑顔で、やけに楽しそうであった。
 僕は早めに多くの空気を支配下に置くことで不足の事態に対応できるようにする。そして車が動き出すと、予想に反して順調に進んでいく。
 浮かぶ剣はどこか荘厳な雰囲気を放っており、近づくに連れて嫌な予感がしていたのだ。そしてその予感はあたってしまう。
 剣とすれ違う直前、僕らの警戒がピークに達したその瞬間に巨大な光が放たれた。その源はすぐ右隣の剣であり、真横にいた僕らは視界が奪われてしまった。

「ブレーキ!」

「くぅっ…」

 高まった反射神経を活かして、香織がすぐさま車の動きを止めたために怪我はなかった。しかし視界を奪われたために周りの様子が全くわからない。

「香織…離れるなよ。」

 大量の空気を車の周りに巡回させて様子を探る。もし空間に空白を感じることがあればそこには何かがいると言うことなのだ。そして僕はあたりの様子を把握した。

「うっ…そだろ…。」

「なに!?なにがあったの?」

「囲まれてるよ!降りろ!」

 少なくとも百を超える人影が確認できる。しかも一定の範囲外には、何かに遮られているかのように空気を送ることができなかったために閉じ込めれているのかもしれない。
 ここまで香織は運転してきたために疲れが溜まっているだろう。ここは僕メインで立ちまわって行くべきだ。
 車を降り、前後からゆっくり迫る人影に向けて面で覆い尽くす空気を放つ。小さなモンスターであれば少しの抵抗もなく吹き飛ばせる強さの物であったのだが、波のように押し寄せる集団には大きな効果は現れなかった。
 先頭が後ろの人物に支えられて少しばかり進行が止まったのみ。それでもその僅かな時間に視界を取り戻した僕は、ついに自分の目で状況を見据えることができた。

「これは気を引き締めて行かないとなぁ…」

 紅白の旗を掲げた源平両軍は、その手に武士の証とも言える刀を持ってユラユラと近づいてくる。依然、船は水上で沈黙を保っているが、その甲板には弓を持った兵の姿も見える。

「私は避けるのに専念するから…攻撃はよろしくね。」

「まかせろ。」

 自分の体力が心もとないことを理解している香織は、避けに専念することで集中力を使わないようにする。そして僕が敵の隙をついて一気に倒して行くと、そう言う訳だ。

パシン!

 両手で両頬を叩き、勝負に挑む。 
 

 
後書き
ありがとうございました!

こう、日本がしばらく出ないと思うとここでネタを使うしかないんです、長くなって申し訳ない。

※この話はフィクションです。
 実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
※無免許での運転は法律違反です。絶対に真似しないでください。 
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