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蜻蛉が鷹に

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第一章


第一章

                     蜻蛉が鷹に
 最早だ。日本の敗戦は誰が見ても明らかだった。
 空に飛ぶのはアメリカ軍のものばかりだった。今日は昼からだった。
「くそっ、またグラマンかよ」
「いつもいつも来やがって」
 艦載機がだ。日本軍、海軍の航空基地に来てだ。そうしてだった。
 滑走路や格納庫に機銃掃射を浴びせてだ。悠々と帰っていくのだった。
 夜になれば今度はあの爆撃機が来るのだった。
「B29か」
「毎日よく来るな」
「派手に爆弾やら機雷やら落としていきやがって」
「胸糞悪い奴等だ」
「何もできないのかよ」
 この言葉が出た。
「俺達はもうな」
「無理か?」
「もう飛べる飛行機ないのかよ」
「あるにはあるぜ」
 まだ着任したばかりのだ。子供と言っていいパイロット達がこう話していた。彼等は予科練からパイロットになったのである。
「あの二枚羽根な」
「おい、練習機じゃないか」
「そんなのしかないのかよ」
「零戦とか紫電とかないのかよ」
「もうないよ」
 もう、なのだった。以前はあったというのだ。
「全部。撃ち落されるか離陸前にやられただろ」
「この基地のはかよ」
「他の基地もだよ」
 つまり日本の殆どの基地がそうであった。
「もうな。戦闘機も爆撃機もないさ」
「じゃあ俺達はもう戦えないのかよ」
「あの連中と」
「ああ、無理だよ」
 今は夜だ。上空を悠々と飛ぶB29が地上からの灯りに照らされている。異様なまでに巨大な姿だ。
「あのデカブツだってもうな」
「飛ばせるだけかよ」
「奴等の思うままにか」
「そうだよ。どうしようもないさ」
 これが答えだった。
「俺達はな」
「負けるか、やっぱり」
「もうな」
 そしてだ。この言葉が出された。
「それは避けられないだろうな」
「そうか、やっぱりな」
「じゃあもう」
「俺達は」
「日本は終わりか」
 そしてだ。この言葉が出された。
「もうな」
「しかしな」
 ここでだ。彼等の中で一番背の高い男がいった。
 目の光が強い。顔は細くそして痩せている。坊主頭でありその髪が多い。その彼がだ。ここで仲間達にこう話すのであった。
「若しもだ」
「若しも?」
「若しもというと?」
「俺達が生き残ったらだ」
 その時はどうするかというのだ。
「その時はだ」
「ああ、その時はか」
「戦うんだな」
「空で戦う」
 これが彼の言葉だった。
「浜尾壮介はそうする」
「そうか。御前は戦うんだな」
「絶対に」
「そうする。何があってもな」
 浜尾はだ。こう仲間達に話すのだった。そしてだ。
 
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