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【銀桜】4.スタンド温泉篇

作者:Karen-agsoul
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第2話「大切なのは信じる気持ち」

 お登勢の計らいで温泉旅行をすることになった銀時たち。
 だが宿泊先の『仙望郷』は今にも全壊しそうなオンボロ旅館。半透明の人影。背筋が凍るような妖しい雰囲気……だけならまだ良かった。
 あろうことか、女将の背中にはおもいっきり幽霊が乗っかっていたのだ。
 しかし銀時は断固としてそれを『幽霊』と認めようとせず、「女将はスタンド使いだ」と言い出す始末。
「基本俺たちもスタンド使いだろ。だから見えたんだよ、女将のスタンドが。俺は普段隠してるけど、お前はいつもスタンド出してんじゃん。その耳に掛かってる奴」
「それただのメガネ使いだろ!だったらなんで長谷川さん見えねぇんだよ?長谷川さんだってグラサンかけてんじゃねーか」
「長谷川さんは元スタンド使いだ。てめェと違って耳にかかったスタンド真っ黒だろ。汚職とか悪い事に当たりまくって希望もスタンドも見えなくなっちまったんだ」
「アンタは現実を見ろ!あれは間違いなく幽――」
「スタンドだ!」
 ビシッと断言する銀時。
 幽霊嫌いなのは知っていたが、ここまでその存在を否定しまくる姿は情けない。
 認めたくないのは自分も同じだが、新八は事実を確かめるため女将に視線を戻す。
「スタンドじゃありません。よく見てくださいよアレは間違いなく……アレ?」
 だが女将の肩には淀んだ物体も不気味な気配も一切なくなっていた。
「……どこいったんだろ」
「オイ、ひょっとして幻覚だったんじゃねーか」
「……あまりにもビビってたから、見えないもんも見えるようになってたっていうんですか」
 『幽霊』は人間の『恐怖心』が生み出した錯覚現象だ、と説く学者もいる。
 怖いという思いこみは、風で扇がれた白い布を浮遊する女性に見えさせてしまうと聞いたことがある。それと同じことだと自分に言い聞かせ、二人は落ち着きを取り戻した。
 そうこうしているうちに女性陣は洋式部屋に案内された。このオンボロ旅館に洋式があるのは少々意外だったが、男性陣こと銀時たちは「侍なんで」と和式を選んだ。
 こんなところで侍魂発を揮してどうするという話だが、さきほどの幻覚にビビってしまったこともあり、無意識に変な見栄が働いてしまったらしい。
「ハイハイ。じゃあお侍さん達はこちらです」
 案内されたのは、巨大な鎖が巻きつき何百という陰陽道のお札が貼られた襖。
 女将によって閉ざされた襖が開かれる。
 首をつった和服の男の子のスタンドが銀時たちを出迎えた。

 かつてこの部屋に子連れの客が泊まった。子どもは初めての旅行ではしゃぎまくった。
 それで襖を穴だらけにしたその子供を、女将が叱り過ぎてしまったという。

「それじゃあウチだと思ってゆっくりしていってね」
 仙望郷の女将はにっこりと笑って去って行った。
 銀時と新八はぶら下がる男の子のスタンドに声も出ず、部屋に入ることもできないまま立ち尽くしていた。
「銀さんわかるよ。巨大な魔を封じたようなお札見せられた後じゃ入りづらいよな。けどよ泊まるとこココしかねぇし、汚ねぇけど家のない俺にとっちゃ屋根がありゃ天国だよ」
「いや天国っていうか地獄絵図が……」
「長谷川さん。俺アンタが今一番幸せに見えるよ。世界一の幸せモンだよ」
「それって嫌味?まぁオジサン心広いから別にいいけどさ」
 唯一スタンドが見えない長谷川は荷物を置いてくつろぎ始めた。
 しかし一向に部屋に入ろうとしない二人に首を傾げ、長谷川が心配そうに声をかけてくる。
「おいおいおい、どうしたんだよ。そりゃちょっと臭ぇけど、んなとこ突っ立ったまんまじゃ風邪引いちまうぞ。俺霊感ある方だけど、全然感じないから大丈夫だって」

((説得力ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!))

「銀さん、僕こんなに長谷川さんを羨ましいと思った事ないです。長谷川さんを妬む日が来るなんて思いませんでした」
「世の中知らねー方がいい事もあるっつーが……まさにそうだな」
 その言葉の意味を改めて思い知るが、それが逆にどんどん妬ましい気持ちを増幅させる。
 だが部屋にぶら下がっているスタンドを前にすると足がすくんしまい、何も言えなくなってしまう。

“バコっ”

「痛ッ!」
 何かが頭に当たった。長谷川は立ち上がって後ろ見るが、誰もいない。
 原因がわからず首を傾げる。しかし銀時と新八はその犯人が誰か知っていた。
 首をつったスタンドが長谷川の後頭部を蹴ったのだ。ちょうどスタンドの足元に座っていたため、邪魔だと思われたらしい。
「長谷川さん。カムバックカムバック。そこからどいて」
「カムバックカムバック。その子怒ってますから」
「はぁ?何言って……」

“ギュッ”

「!?」「!?」
「アレ急に身体が重く……」

“バタッ”

 スタンドに抱きつかれた長谷川は、そのままブッ倒れた。
「長谷川さんカムバッーーーーーーーーーーーーク!」
「いいや来んな!スタンド背負ったままこっち来んなー」
 スタンドに首をしめられ、しばし呻き声を上げたあと、長谷川は動かなくなった。
 そして長谷川に抱きついたスタンドは、銀時たちを見てにんまりと笑った。
 二人は沈黙の絶叫を上げ、足踏み揃えて部屋から逃げ出す。
「銀さん長谷川さんどうすんですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「奴はもう駄目だ見捨てろ!俺たちだけでも部屋変えてもらうぞォォォ」
 全速力で廊下を走り抜け、銀時と新八は女性陣たちがいる洋式部屋へ突入した。
 だが女性陣たちの部屋は銀時と同じ和室。変だと思いながら、新八はスタンドがいないか安全確認のため外へ繋がる襖を開ける。
 すると縁側には老人の西洋スタンドが首をつっていた。

((よっ洋式って……そこがァァァ!?))

「あのさっきから一体何を騒いでるんですか?」
 意味不明な事を言い出す二人を心配になった神楽とお妙がその理由を尋ねてきた。
 しかしここでスタンドのことを話しても笑われるか、変に怖がらせてしまうだけだ。双葉も含め女性陣たちは幽霊(スタンド)が見えないのだから。
 かといって二人だけでパニくっていても埒があかない。
 しばしの沈黙のあと、新八は話を切り出す決心をした。
「あ、あのさァ……」
「おやつタイ~~ムん。ホラホラ皆さん3時のお菓子持ってきましたよ~」
 運悪く、別の襖から現れた女将によって新八の声はかき消されてしまった。
 愛想良く笑う女将から柿ピーが盛られた皿を差し出され、喜ぶお妙と神楽だが――
「ピザはないのか?」
一人表情を変えず柿ピーを見下ろす双葉は女将に問う。
「やんっだ~お客さんったらご冗談がお上手ね。ウチみたいな老舗旅館に外国モノなんてありませんよ」

((いや、あるよね。襖の向こうに外国製スタンドぶら下がってるよね!?))

「うちは粗末なお菓子しか出せませんけど、これでよかったら召し上がってくださいな」
「ピザなんてチャラついたもんあるわけないネ。残念だったアルなピザ女」
「まぁまぁ双葉さん。たまにはシンプルなものもいいじゃないですか」
 こんなオンボロ旅館にピザを要求するのもどうかと思う。しかしそこはピザラーの血が騒ぐのか、聞かずにはいられなかったらしい。
 ケラケラと笑ってこれ見よがしに柿ピーを食べる神楽に、双葉は軽く鼻で溜息をつく。
「それがおいしいと思うとは、それ以上の美味を知らないんだな。何も知らないとはある意味幸せだな、天人」
「何言っても負け犬の遠吠えネ。お前に勝ち目はないヨ」
「そう言う双葉さんだって知らないことたくさんあるんじゃないかしら」
「当たり前だ。私にだって知らないことはある。お主は?」
「そうね。私もここより酷いオンボロ旅館は他に知りませんね」
「あら、こちらのお嬢さんもご冗談がお上手ねぇ」
 細い声で笑い合うお妙と女将。和やかなのか恐々しいのかわからない雰囲気である。
 だがスタンドを目撃した男たちにとっては、どっちにしろ恐怖の光景でその場に座りこんでいた。
 さっきの長谷川のこともあり、一刻も早くこの旅館から出ていきたい。スタンドのことを女将とお妙達に話してここから出よう。
 銀時はそう考えていた。
 だが――
「しゃべったら殺すぞ」
 すれ違いざまに耳元で囁かれた声。銀時と新八の胸がギュっと引き締まる。
 恐る恐る後ろを向くと、仙望郷の女将――お岩は背中の幽霊(スタンド)に柿ピーで餌づけしながら、ニヤリと銀時たちに微笑んでいた。
(気づいてます!!女将さん全てのことに気づいてます!!)
(ととんでもねェ。俺たち……とんでもねェ所に足を踏み入れちまった。この温泉宿はあのババアが飼い慣らした死霊どもが巣食う『死の温泉宿』だったんだ!!)

“ダン”

 直後、襖を蹴破って旅館の外へ一目散に走り出す銀時と新八。
 仙望郷の真実を知った者たちは、全速力で雪道を駆け抜ける。
「脱出だァァァァ!!一刻も早く!!山を降りるんだァァ。こんなトコ長居すりゃ確実に死霊どもの餌食だぞ!長谷川さんの二の舞だァァ!!」
「はいィィィ!!」
 もはや怖いと言っているレベルではない。
 二人は走る。
 死の温泉宿から抜け出すために。
 恐怖のどん底へ堕ちてしまう前に。

 しかし逃亡は無意味だったのを知る。
 仙望郷から下界へ繋がる唯一の山道は、巨大な落石によって完全に塞がっていた。
 死の温泉宿からの脱出の術を消した巨石を前に、二人はただ涙するしかなかった。

*  *  *

「銀ちゃん!!新八ぃぃぃ!!」
 裸足のまま素っ飛んで行った二人を神楽は呆れた表情で見届ける。
「アイツら旅行だからってはしゃぎすぎネ」
「男の子はいくつになってもワンパクなのよ」
「これだからガキは……。それより姉御!わたしこの旅館冒険したいアル」
「あらあら神楽ちゃんもワンパクね」
 年相応にはしゃぎながら、神楽はお妙と部屋から出て行った。
 現時点で洋式部屋にいるのは、自前の雑誌に目を通す双葉のみ。
 ふと彼女の視線は、雑誌から銀時たちが駆け抜けて行った外の景色へ移り変わる。
「ま、何も知らないのは、常に危険と隣合わせとも言えるか」

 口からこぼれた呟きを聞く者は誰もいなかった。
 彼女の視線の先でぶら下がる西洋スタンドを除いて。

=つづく= 
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