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ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories

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SAO編 Start my engine in Aincrad
Chapter-4 シリカとピナ
  Story4-1 シリカとの出会い

第3者side




第35層 迷いの森



ある5人組のパーティがその森へ来ていた。

目的はアイテムの採取とレベリング。



その場には険悪なムードが流れていた。

「何言ってんだか。アンタはそのトカゲが回復してくれるんだから、回復結晶は分配しなくて良いでしょ?」

一方的に赤髪の女性プレイヤーがつっかかっている様に見える。


名前はロザリアと言う名のプレイヤー。



その挑発相手は、幼い愛くるしい容姿。

この世界では、珍しい女性プレイヤーの中でも更に珍しい年齢の少女。

セミロングの髪をツインテールにしている少女。
その可愛らしい顔は今、怒っている。



その少女の頭の上には≪フェザーリドラ≫と呼ばれている小さなドラゴンが頭に乗っている。

「そう言うあなたこそ!ろくに前衛に出ないのに回復結晶が必要なんですか!?」

不快な物言いに頭にきてそう返す。


「キュルー!」


そして、その頭の上のドラゴンも主人と同じように威嚇した。

「勿論よ〜。お子ちゃまアイドルのシリカちゃんみたいに、男達が回復してくれるわけじゃないもの〜?」

「むっ!」

「キューー」


そんな2人のやり取りを見ていられなかったのか、周りの他の男プレイヤーは必死に宥めようとするが

「わかりました!!アイテムなんていりません!」

シリカはアイテムメニューを消すと

「あなたとは絶対もう組まない!私を欲しいって言うパーティは他にも山ほどあるんですからね!」

そう叫びつけると、1人、森の方へと歩いていった。

「ちょっ、シリカちゃ〜〜ん……」

男達の情けない声が響き渡る。

やっとの事で同じパーティになれたのに、と。



そんな言葉には耳を貸さず、シリカはそのまま、森を突破しようと奥へと入っていった。
















◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
















シリカは、たとえソロであったとしても、この森を突破する事など造作も無いと考えていた。

フェザーリドラ≪ピナ≫の存在。ビーストテイマーならではの、そのアシストもあり

そして短剣スキルも7割近くマスターしている。

労せず主街区まで到達できる……はずだった。

道にさえ迷わなければ。






迷いの森。その名前はダテではなかったのだ。

巨大な樹々がうっそうと立ち並ぶ森は碁盤状に数百のエリアへと分割され、ひとつのエリアに踏み込んでから
1分経つと東西南北の隣接エリアへの凍結がランダムに入れ替わってしまうと言う設定になっていた。


この森を抜けるには1分以内に各エリアを走破していくか、街で買える高価な地図を確認し、四方の連結を確認しながら歩くしかない。


地図は高価ゆえに、もっているのは先程のリーダーの盾剣士だけだった。



何より厄介なところが転移結晶の使用についてだ。
迷いの森での使用は、街に飛ぶことはできない。

ランダムで森の何処かに飛ばされる仕様になっているのだ。



だから、シリカはやむなくダッシュで突破を試みなければならなくなったのだ。


だが、曲がりくねった森の小道を、巨木の根っこをかわしながら走り抜けるのは予想以上に困難だった。
まっすぐに北へと走っているつもりが、エリアの端に達する直前で1分たってしまい、何処とも知れぬエリアへ転送される事を繰り返してしまったのだ。



徐々に彼女は疲労困憊していき、日もしずみ、夜の闇がこの森を支配してしまった。


シリカは走る事を諦め、運よくエリアの端に転送される事を願いながら歩き始めた。

当然、モンスターとの遭遇率も格段にあがる。

夜は視界が悪く、敵の不意打ちも受けやすくなる。

始めはピナのお陰で大丈夫だったのだが、時間がたつにつれて回復アイテムが徐々に底をついてきたのだ。





シリカに更に不運が襲う。

「ドラゴンエイプっ!」

この層で最強である猿人のモンスターが現れたのだ。

それも3体も同時にだ。



いつものシリカならば、問題ないが、回復アイテムが尽きている今は……

ガァァァ!!

「きゃあっ!!」

ドラゴンエイプの一撃がシリカを襲い、HPゲージを半分にまで削る。

「キューー!!」

ピナは回復ブレスで、シリカを癒す。

だが、一割ほどの回復で、そうはもたない。



だから回復アイテムが必要なのだが………

「ッ!!」

シリカはこの時、アイテムが尽きている事に気が付いた。


そして、3匹のドラゴンエイプが目の前に来た。

その巨大な棍棒が迫ってきた。死が迫ってきたのだ。

「っ!!」

動く事ができない、圧倒的な恐怖。


シリカはこれまで、死を感じたことが無い。
そのため動けなかった。

その棍棒が振り下ろされるその寸前、目の前に影が。



シリカを守ったのは、最愛の―――






―――ピナだった。

「ピナぁぁぁぁ!!」

シリカは泣きながら攻撃しようとした。


しかし、動けない。怖いのだ、死ぬことが。


そんなとき黒い影が目の前に。

「ハァァァッ!」

ドラゴンエイブを一撃で倒してしまった。

「すまない………君の友達、助けられなかった」

「いいんです……助けてもらってありがとうございました……」















◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆















シャオンは驚いていた。

この森にある人物がいるという情報を聞いて、キリトと別れて探していた。

やっとのことでキリトと合流したと思ったら、涙を流している少女がいたのだ。

「あ、シャオン。その……えーと………」

キリトの表情も暗い。

「まさか……」

シャオンは歩み寄ると、シリカの方を見る。

「仲間が………」

こういうとき、どう言う言葉を言えば良いのかわからない。

だが、声はかけなければいけないと感じる。

「うっ………ゴメン、ゴメンね……ピナ……」

その少女は、答えることは無く……

ずっと涙を流していた。

「彼女は、ビーストテイマーみたいなんだ。俺は、彼女の友達を助ける事ができなかった」

キリトは悲しそうにそう話した。

「いえ、私が、馬鹿だったんです………1人でこの森を抜けれるって思い上がってたから……私のせいで、私を庇って、ピナが………」

「ビーストテイマー……」

シャオンはシリカの方をじっと見つめた。

「………その羽根だけど、アイテム名が何か設定されてるかい?」

キリトが、取り乱し涙で顔を覆われているシリカにそう聞く。

シリカは、キリトに言われるまま、確認する。


シリカは、恐る恐るウィンドウに手を伸ばした。

そして、表示されている羽根をタッチすると、重量とアイテム名が浮かび上がった。

「っ………」

その羽根の名は………『ピナの心』

「ピナっ……ピナぁぁ………」

シリカに再び、悲しみと後悔が押し寄せてくる。

「あっ、落ち着いて。それが残っているのなら、まだ蘇生の余地がある」

泣き出す寸前のシリカに慌ててキリトがそう答える。


「え!?」


その言葉を聞き、シリカは慌てて顔を上げた、半ば口を開けたままぽかんとキリトを見つめる。


「最近わかったことだから、まだあんまり知られてないんだけど……
47層の南に、思い出の丘って言うフィールドダンジョンがある。名前のわりに難易度が高いんだけどな。
そこのてっぺんで咲く花が、使い魔蘇生のアイテムらしいんだ」

「ほ、ほんとうですか!?」


シリカは腰を浮かせて、叫んでいた。

悲しみにふさがれた胸の奥から希望の光が差し込むのが自分自身にもよくわかる。

だが……

「47層………」

再び、肩を落とした。

今いるこの35層より12も上の層なのだ。安全圏とは到底言えるものではない。

悄然と視線を地面に落としかけたその時だ、


ガァァァ!!


背後より、モンスターの雄叫びが響き渡った。

「ッ!!」

シリカは、再び身を固くした。

この叫び、忘れるはずも無い。

シリカにとって大切な存在を奪ったドラゴンエイプのものだったから。


今度は直ぐに動く事ができた。

まだやらねばならない事があるからだ。

――幾ら12も上の層とはいっても、諦めないから!








そんなシリカの動きをキリトが制した。

「大丈夫。落ち着いて」

耳元でそうささやく。

シリカは普段なら、男の人にそんな事されたら、それこそパニックになるのだが。

背後を見てみると、もう1人が、また来たドラゴンエイプの群を造作も無くなぎ払っているのが見えた。

「キリト、話はすんだか?

とりあえず、町へと戻った方がいいだろ」

剣を鞘にしまうと、再び戻ってきたシャオン。

「あっ、あなたたちはっ?」

シリカは驚きを今回は隠せない。

先ほども助けてもらった。

だけど、気をしっかりもてなかったから、はっきりと覚えていないのだが………

今回ははっきり見えた。

この層でも最強クラスのモンスターをいともたやすく、葬っていたその実力を……

「な、何度もありがとうございます」

シリカは再び頭を下げた。

「別にいいよ。キリト、バトンタッチ」

「了解」

キリトはそう言うとシャオンと交代し、あたりを視渡していた。

「だいたい聞いてたから、話を戻すけど………


実費をもらえれば、俺が行ってきても良いんだけどな。
使い魔の主人が行かないと肝心の花が咲かないんだ」

シリカはその優しい言葉にちょっとだけ微笑むと、

「いえ、情報だけでもありがたいです。ほんとにとても。がんばってレベルを上げればいつかは」

「それは駄目なんだ」

キリトがそばにまで来ていた。


「蘇生が可能なのは死亡から3日以内。それ以降は
心が浄化、変化し、形見に変わってしまう」

「っ、そ、そんなっ………」

シリカは思わず叫んでしまう。

彼女のレベルは44。

仮にこのSAOが通常のRPGだった場合、各層の適正レベルはその数字と同じだとわかりやすいのだが……

デスゲームと化したSAOの安全マージンは層の数字+10の数字。



それは確信はない事だったが、間違いでもない。

これまでの経験からも判明したのだ。

その情報はアルゴから各プレイヤーに渡った。





だから、シリカも知っていた。

つまり、47層に行こうと思ったら、最低でもレベル55に達さなくてはならない。

攻略をも含めてたった3日の内にだ。

どう考えても不可能だ。

1年かけて、頑張って今の数字にした。

それも、ピナという大切な友達がいたからこれた。



シリカは再び絶望に囚われて項垂れた。

「ピナ……ごめんね……」

シリカは、ピナの羽根をそっと胸に抱き、そう呟いた。

自分の愚かさ、無力さ、全てが悔しくて自然と涙が流れてくる。

その時だ。

「大丈夫。まだ、3日もある」

シャオンがそう告げると、不意に目の前に半透明に光るシステム窓が表示された。

トレードウインドウだ。見上げると、キリトが操作をしていたのだ。

トレード覧に次々とアイテム名が表示されて行く。


≪シルバースレッド・アーマー≫

≪イーボン・ダガー≫


どれひとつとして見たことのある物が無いものばかり。

戸惑いを隠せない。


キリトがその戸惑いに答えた。

「この装備で4、5は底上げできる。俺たちも一緒に行けば何とかなるだろ」

「えっ?」

シリカは、口を小さく開きかけたまま、男の真意を測りかねていた。

シャオンはあたりを警戒しているのか別の方を見ているので、シリカはキリトをみる。

視線がフォーカスされた事をシステムが検地し、男の顔の右上にグリーンのカーソルが浮かび上がるが、そこにはHPバーが1本そっけなく表示されているだけで名前もレベルもわからない。

年齢も察しにくい人たちだった。

「………だよな」

シャオンは、徐にシリカの方を視た。

「俺らのこと警戒してるよな」

「あ、そうだよな」

「あっ、いえっ、そんなっ!」

こんな人が悪い人なんて想いたくない。


でも、シリカは聞かずにはいられなかった。

「ごめんなさい。あなたの言うとおりです。聞かせてください。どうして、そこまでしてくれるんですか?」

意を決し、シリカは聞いた。

その顔立ちから同年代のプレイヤーであることに少しは安心感を覚えたが……



彼女は今まで自分より遥かに年上の男性プレイヤーに言い寄られた事が何度かあったし、一度は求婚までされた。


13歳のシリカにとって、それは恐怖体験でしかなかった。現実世界では同級生にすら告白された事が無かったのだ。

そもそも、これは現実でも同じ。
甘い話にはウラがあるのが常識。

それは、このアインクラッドでは尚更だった。


でも、聞いてみようと思った。

「……シャオンは?」

「お前が言ったら言うよ」

「うわー……ずるー……」

再びキリトはため息をした。

そんな姿を見てシリカは少し笑みがこぼれていた。

「マンガじゃあるまいしなぁ……笑わないって言うのなら言う」

しかし、キリトの言葉を聞いて再び表情を引き締め

「笑いません」

そう答えた。



キリトは答えた。

「君が……その、妹に似ているから……」

シリカはあまりにもベタベタなその答えに思わず噴出してしまった。

慌てて片手で口を押さえるがこみ上げてくる笑いをこらえる事ができない。

「わ、笑わないって言ったじゃん………」

キリトは傷ついた表情で肩を落とす。

「ぷっ……くくくっ……」

シャオンは笑っていた。

「そうだ!シャオンはどうなんだよ!」

「やっぱ言わなきゃダメか?」

「当たり前だ」

「えーっと……君が………その……なんかほっとけなかったんで………」

「くっ………だめだ、吹き出しそう………

理由がなんとも言えない」

「笑うな」

「いや、だって……」

「笑うな!」

仲の良い二人は再び笑う。それにつられてシリカも笑う。

そして、シリカは心底思った。


悪い人たちなんかじゃ決してない、と。



シリカは、2人の善意を信じてみようと思った。

自分は、一度は死を覚悟した。

ピナを生き返らせられるためなら惜しむものなんてもう何も無い。
そう思い、頭を下げるとシリカは言った。

「よろしくお願いします。助けてもらったのに、その上こんな事まで……」

トレードウインドウを目にやり、自分のトレード欄に所持しているコルの全額を入力する。

「あの、こんなんじゃ、全然足らないと思うんですけど………」

「お金はいいよ。使わなくて余っていたものだし。

俺たちがここに来た目的と被らなくも無いから」

キリトはそう返す。


シリカにとってそれは謎めいた事だったが、それを知らない2人は何も受け取らずにOKボタンを押していた。

「あの、ほんとにすみません。何から何まで。私、シリカっていいます」

「俺はシャオン」

「俺はキリト」

シャオンが手を差し出した。

「暫くの間よろしくな」

シリカとシャオンとキリトが握手を交わす。

「よ、よろしくお願いします!」

シリカは笑顔になっていた。

















Story4-1 END 
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