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戦友

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第五章


第五章

「御前!?」
「やっぱりだ、間違いない」
 頭が薄くなっていたがわかった。彼は。
「まさかとは思ったが」
「それはこっちの台詞だ」
 向こうでも言葉を返してきた。驚いていることがその言葉に出ている。
「御前だったのか。まさか」
「まさかだ。本当にまさかだ」 
 同じ言葉を二人で繰り返す。
「こんなところで会うなんてな」
「奇遇なんてものじゃないな」
 アルフレッドは懐かしさを噛み締める笑みと共に述べた。それが心からの言葉だった。
「これも神の御加護か」
「そうだな」
 そこにいたのはコシュートだった。二人は運命の再会を思わぬ場所で果たしていた。
「あれか。結婚式でか」
「孫娘のな」
 コシュートに対して答えた。話しながらコシュートは場所を部屋の入り口から移してきた。行く場所はアルフレッドの横の席だ。丁度一つ空いていたのだ。
「それでここまで来たんだよ」
「孫娘!?」
 コシュートは席に着いたところで声をあげた。
「孫娘っていうと名前は」
「メアリーっていうんだよ」
 アルフレッドの方からその名前を言うのだった。
「いい名前だろう」
「何、それだとだ」
 コシュートはその名前を聞いて彼も言う。何かに気付いたような顔で。
「わしの孫の結婚相手か」
「!?ということはだ」
 思いも寄らぬ言葉だったがそれでもだった。アルフレッドもそれを聞いて気付いた。
「メアリーの結婚相手というのは」
「イワンの結婚相手というのは」
 二人の言葉が重なった。違うのは名前だけだった。
「御前の孫か」
「御前の孫娘か」 
 また言葉が重なった。言語こそ方言程度に違うがその内容は単語が少し違うだけで全く同じだった。二人が言いたいことはほぼ同じであった。
「またどうして」
「偶然と言うかな」
「本当だ。本当に偶然だ」
 アルフレッドはコシュートの偶然というその言葉に応えて言う。それこそが真実というように。
「御前の孫と結婚するとはな」
「流石にこれは考えなかったぞ」
 コシュートも言う。言いながら首を捻るのだった。
「御前と会うこともな」
「そうだな。これも時代が変わったということかもな」
 アルフレッドも首を捻る。二人の動作が同じものになっていた。
「あの頃は。こんなことは考えもしなかった」
「全くだ」
 コシュートは彼のその言葉に頷いた。
「まさかとも思わなかったぞ」
「まさかともな。本当にな」
「戦争していたあの時代だと。本当にとても」
「あの時代か」
 その時のことも思い出すのだった。子供や孫達に幾ら話しても理解されないその時代のことをである。話すとそれが心の中に蘇る。
「あの頃のこと。覚えているな」
「忘れる筈がない」
 コシュートはアルフレッドのその言葉に応えてすぐに述べるのだった。
「ずっと覚えていたさ」
「わしと同じか」
「御前もか」
「当然だ」
 アルフレッドはまた笑顔で答えるのだった。その笑顔で語る。
「時代は変わったがな」
「確かに変わったがそれでも」
「何だ?」
「わし等の心はそんなに変わってはいなかったな」
「そうか?」
 今のコシュートの言葉に首を傾げるのだった。今度は捻ったものではなかった。
「それは別にな」
「感じないか」
「髪も白くなったしな」
 そう言いながら笑って自分の髪の毛を撫でる。もう赤い髪は何処にもなくなっていた。
「見ろ。この白い髪を」
「それを言うのならわしもだ」
 コシュートも言ってきた。やはり彼も自分の頭を撫でている。
「なくなってしまったわ」
「そうだな。見る影もない」
「歳を取って急にだったぞ」 
 笑いながらの言葉だった。達観さえしている。
「抜けてな。それでこれだ」
「わしは徐々にだったがな」
「どちらにしろ。歳は取ったということだな」
「その通りだ。それでだ」
 アルフレッドはここまで話したうえでまたコシュートに対して述べるのだった。
「メアリーはそちらに入る」
「ああ」
 アルフレッドのその言葉に頷くのだった。
「宜しく頼むぞ」
「わかった。あれだな」
「あれ?」
 ここで話が動いた。しかしアルフレッドにはわからない。
「あれだ。御前の孫娘が今日結婚して」
「ああ」
「生まれるのは。わし等の曾孫だな」
「おお、そうだな」
 アルフレッドはそれを聞いて気付いたように頷く。彼は今それに気付いたのだ。
 
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