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101番目の哿物語

作者:コバトン
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第三章 魔女喰いの魔女
  第十四話。深い霧の中で……

背後を振り返るとそこには、銀髪の長い髪をこれでもかとばかりに伸ばした綺麗な青い目の女の子が道端に立っていた。
辺りには霧が出ているのにも関わらず、まるで台風の目にいるようにその少女の周りだけ霧が晴れていた。
お洒落な帽子を片手で押さえながら、もう片方の手で俺を指差している。
その女の子の表情は口の端が釣り上がっていて、いかにも『不敵』といった雰囲気なのだが、顔立ちがとても可愛いらしい部類であるせいか、憎めない印象を与えている。
その印象はヤンチャなお嬢様とか、男勝りな妹キャラみたいな感じだ。
しかし、声をかけてきて、その第一声が『死ぬ』とか、この女の子は突然何を言っているんだ。

「死ぬ……だと?
俺が……か?」

突然、『死ぬ』と伝えてきた少女に戸惑いながらもそう聞き返すと少女はきっぱりと告げた。

「そ、お前さんさ」

きっぱりと頷きながら、今度は人懐っこい笑みを浮かべて腕を組んだ。
その仕草や表情はまるで悪気がないように見えて悪気しかないような。アンバランスなのに、バランスが取れている不思議な女の子だ。
多分、からかっているニュアンスがほとんどなく、当人の口調はいたって気さくだからだろう。

「俺が?」

「そ、お前さんだってば」

聞き間違いか、と思い確認の為に全く同じ質問をしてみるとやはり聞き間違いではなく、俺が死ぬみたいだ。

「俺はもうすぐ死ぬのか?」

実感が湧かない。前世も含めて死ね、死ぬ言われたのは何度目だろうか?
だが、『死相』が出てると言われたのはヨーロッパに極東戦役(FarEartWarfare)の助太刀に行った時に俺を襲った『妖刀』、『颱風のセーラ』に言われた時以来だ。
くだらねえ、と言って笑ってやりたいがその時の『死相』も結局当たっていたからくだらねえ、なんて言って笑えねえな。

「ま、実感なんて湧かないのは当たり前だと思うがな。どんな人間だって、いつ自分が死ぬかなんて解らないから気楽に生きてられるんだし。生存率なんて、場所や環境での確率でしかないからな」

人が生きるか死ぬかは確率でしかないと言い切る彼女を見ているとどこか……見た目だけではなく、心の在り方すら人と違う印象を持ってしまう。
同時に頭の片隅で、チリッと何かが反応する。
もしかしたらこの少女が理亜に影響を与えているブレインなのでは……と。
違ったら物凄く失礼だし、当たって欲しくないんだけどな。

「つまり、俺の死亡率が高まっている、と言う事か」

「話が解るじゃないか。それにしてもお前さん、落ち着いているな?」

「騒いだって仕方ねえしな」

そう言われると自分でも不思議だがわりと冷静にいられている。
まあ、既に前世で『死』というものを体験済みだからな。だからヒステリアモードじゃない、こっちの俺でもわりと冷静になって考えられている。
じゃなきゃあ、パニッくてるぜ。

「それに実は何パターンか悩んだりもしたさ。
怒って問いただす。焦って問いただす。怖がりながら問いただす、の三択でな」

「で、結局どれを選んだんだ?」

「どれを選んでも結果は同じなら、普通に問いただしてやろうかなあ、と」

「ははは!面白いな、お前!三択まで用意しておいて結局どれも選ばないのかよ!」

少女はケラケラと笑うと、ニヤリと顔を覗き込んできた。

「うん、素質があるのかもしれないな、お前さんにも」

「素質?」

「ああ。私が探していた男のロアなのかもしれないな、お前さん」

少女の口から出たロアと言う言葉に、俺は顔色を変えて少女に問いかけた。

「お前は……一体」

一体誰なんだ!
そう言おうとした俺の顔を少女は両手で押さえて、口づけ(・・)をしてきた。
唇と唇が触れ合う感触がし、俺の体の体温が急激に上昇していく。
それと同時に火傷しそうになるくらい、熱くなった血液が、体の中央に集まっていく。
ああ、なる。またなってしまった。
ヒステリアモード、に……。

「へえ、やっぱりな」

俺の顔を覗き込んでいた少女はそう声を上げると俺からバッと距離を取った。

「お前さん、死亡率が下がったぜ!
今やほぼ0になりやがった」

「……突然、キスをするなんて随分と大体なんだね、君は」

「口調も変わるのか」

「君は欧米出身かな?
キスは向こうでは挨拶だけど日本だと恋人とかとするものなんだよ?
今のキスは果たしてどっちかな?
俺としては君みたいな可愛い女の子が相手なら大歓迎だけどね!」

ウィンクをしながらそう目の前の少女に告げると少女はケラケラと楽しそうに笑った。

「ははははは!面白いな、お前!
初めて会った奴にいきなりキスされたのに、怒るどころか逆に口説くのかよ!」

「女性は愛でるものだからね!」

「ははははは!面白い!なるほどな!これはいい。
私みたいな『魔女』を面白がらせられる存在か……私達の仲間に相応しい」

少女が呟いた言葉に、聞き間違いではないかと思い反応してしまう。

「『魔女』?」

「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったな。
私は『予兆の魔女・アリシエル』。通称アリサだ!
よろしくな、『不可能を可能にする男(エネイブル)』の主人公をその身に宿す『101番目(ハンドレッドワン)の百物語』の主人公、一文字疾風を名乗るお前さん!」

「なっ……⁉︎」

コイツ、知っているのか⁉︎
俺が一文字疾風ではない事を。
いや、驚く所はそこじゃない。
コイツが『魔女』なら……。

「まさか……君が『ロア喰い』か⁉︎」

「おいおい、人をあんな凶悪で最悪な『魔女』と一緒にするなよ!
私は『予兆』の『魔女』だぜ」

「予兆……の魔女?」

予言ではなく、『予兆』か。
違いがイマイチ解らないが未来予知や死相みたいなものが解るのか?

「本当は今すぐにでも勧誘したい所だけど」

「だけど?」

「勝手にお前さんを勧誘すると私の『マスター』が怒るからな、だから今日は挨拶だけにしとくぜ!
またな!」

そう言ったアリサの姿は台風の目を覆うように発生した深い霧の中に消えていく。
逃すまいと彼女が着ていた『市立十二宮中学校』の制服を掴もうとしたがスルリと躱されてアリサの姿は霧の中に消えていった。
霧が薄れてアリサの姿を確認したが……。

「……消えた⁉︎」

彼女の姿はどこにもなかった。
それからしばらく辺りを見回したが結局、アリサと名乗る『予兆の魔女』の姿はどこにもなかった。
仕方なく、モヤモヤした気持ちを持ったまま、俺はランニングを再開した。
目指すは市立十二宮公園。
日中は主婦達の憩いの場になる公園も、早朝はほとんど誰もいない。
だから『コード』探しの為にカメラ撮影をしても不審に思われる事もない……と思う。

「公園という場所には、何かしらの都市伝説がありそうな雰囲気あるしな」




辿り着いた公園は、霧がかかっているせいかとても幻想的だった。
この霧の向こう側から何か、怖い存在が現れたりしそうな雰囲気がある。
もしなんか現れたとしても、そういう恐ろしいものじやないといいな……そう思いながら、辺りをDフォンのカメラで撮影していると______

「ん?あれ?」

不意に自販機の側にあるベンチに目が向いた。
そこには、赤い点がぽつんと存在していた。

「血……か?」

恐る恐る近づいてみると______
そこにいたのは一匹の蜘蛛だった。
直後、記憶に、あの屋上で起きた出来事が思い浮かんだ。

「赤い、蜘蛛……?」

慌てて辺りを見回してみたが周囲には誰もいなかった。
念のため蜘蛛にファイティングポーズをとってみたが特に動きはなかった。

「ただの蜘蛛か……だけど屋上にいた蜘蛛に似ているな」

昨日の蜘蛛よりも大きい蜘蛛だった。全身が真っ赤で不気味な感じをする所とかも似ている。
俺の頭に『人面犬』や『人面魚』、あるいは『女郎蜘蛛』などが思い浮かんだ。
ああいう、不思議な生き物や妖怪も都市伝説に入るのだろう。
なら、こういう『真っ赤な蜘蛛』みたいな都市伝説もあるのだろうか?

「うーん、珍しい虫、みたいな都市伝説ってあるのかな?」

独り言を呟いて、Dフォンでその蜘蛛を覗こうとした時。
背後から明るい声が聞こえた。

「例えば、人を食べる虫、っていう都市伝説があるよ」

聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはキリカがニッコリと立っていた。

「え、あれ、キリカ?」

「んふふ、モンジ君まるで気づかなかったね、私の事。霧が深いからってい言うよりは、何かを探していたから、に見えたけど?」

「おはよう、キリカ。
随分と朝早くに起きているんだね」

「うん、目が覚めちゃったからね!
せっかくだからちょっとお散歩して来ようと思って家を出て公園に来たらモンジ君の姿があったから声をかけてみたんだよ」

「一人で来たのかい?」

「うん、一人だよ〜」

「こんな霧深い朝の女の子の一人歩きは危ないよ?
危ないから、めっ!、だよ!
次からは誰かと一緒に来るようにね!」

「んふふ、はーい!」

クスクス笑うキリカはいつも通りだった。
その姿を見ていると、本当にこの子や先輩が『ロア喰い』なのか、間違いじゃないのか、と疑ってしまう。
疑いたくない、違ってほしい……とは思いつつ、キリカの事を考える。
俺なりに考えた結果、キリカは……。

「ん?どうしたの、モンジ君?
あっ、ほらここのベンチに座わって!」

キリカにベンチに座らされた俺は、同じベンチの端に真っ赤な蜘蛛がいたのを思い出した。

「そう言った都市伝説があるなら、この蜘蛛は人を食べたりするのかな?」

「さっきのは単なる都市伝説だよ。この子は、ジョロウグモの一種だね。
……まあ、真っ赤なのはかなり珍しいけれど」

「なんだ、詳しいなキリカ?」

「幼稚園時代の私の通称は『虫博士』だからね」

「へえー、キリカは凄いんだね。
俺はカブト虫博士だったよ」

「私の方が広い範囲をキープしてるってわけだ」

「うん、虫博士度ではキリカの勝利だね」

「ふふっ、やった♪」

満面の笑みで笑いながら、キリカはツンツン、と蜘蛛のお尻を突く。
キリカに突かれてビックリした蜘蛛は、一目散に逃げていった。

「あーあー、逃げちゃった。
でも座れるからいいやー。
モンジ君はまだランニングする?」

「いいや、座ったままキリカとお話してみたいって思っていたところさ」

「やった!」

キリカはニコニコと笑いながらベンチに座わった。
無邪気に喜ぶ姿を見ていると______『日常』に戻ってきた気分になる。
……意外と『ロア』関係の話は、俺の精神に堪えていたみたいだな。
ずっとこのまま、この『日常』が続くといいなぁと思いながらも俺は……。

「なあ、キリカ……」

「んー、なーにー?」

「いや、その……」

言わないといけない。はっきりと確認しないと進まない。
そう頭では解っているが、俺の中にあるキリカと過ごした記憶が、感じた感情がそれを阻む。
もし俺の推測が正しかったら?
俺に近づいて来たのが演技だったら?
そう言った不安な感情に押し込まれそうになる。

「転入生の瑞江ちゃんと仲良しっぽいね?」

キリカが突然、そう聞いてきた。

「ああ、俺の席が彼女の前なのもあるし話してみたら面白い子だったからね、キリカも話してみたら面白い子だったろ?」

「うん、瑞江ちゃんって本当に面白いよね、なんて言うかな。毒舌クールなんだけど、どこか天然っぽい、みたいな」

「そうだね。ちょっと難しい属性だよな。
見た目は人形っぽいお嬢様なのにね」

「てっきりモンジ君ってああいう、ロリちっくな子が好みなのかと思っちゃたよ」

「いや、俺が好きなのは……」

「好きなのは?」

誰が好きかと言われたら俺の頭の中にはやはり……アリアの姿が浮かんだ。
もう会えないアリアの事はとっくに諦められたと思ったが……やはり抱いた想いはすぐには消えていなかった。諦めないといけないんだけどな。
続いて浮かんだのは……一之江の顔とキリカの顔だった。

「……皆んなの事が好きだよ?」

「……ねえ、モンジ君?」

そんな風に悶々としているとキリカが何やら興味津々な目で見つめてきた。

「私達……私はモンジ君の、なあに?」

「キリカは、俺の……」

「うんうん、俺の?」

嫌いかと言われたらノーだ。
キリカを嫌う要素なんてこれっぽっちもないからな!
ただ……。
いや、今はよそう。
それよりキリカをどう思っているのか、という事だが。
嫌いなわけない。むしろ、好きになる要素しかないな。
どう言えばいいか、こんな時に一文字ならどう答えるか?
そう思った俺は一文字が言いそうな返事をした。

「……俺のマイエンジェルだよ」

「俺の、とマイ、が被ってるよモンジ君」

「しまった!」

一文字の口説き文句は大失敗だった。

「クスクス、しかもエンジェルって」

「天使のように可愛らしいからだよ?」

「そう思って貰えてるなら、まあいいかな?」

んふふー、と笑いながら空を見上げるキリカの横顔に、なんとなくドキッとしてしまった。
______ドク、ドク、ドク。
心臓の鼓動が高まり、それと同時に血流の流れも速くなる。

「……ねえ、モンジ君?」

「ん?」

呼ばれた顔をキリカの方に向けるとキリカはかなり真剣な……潤んだ瞳で俺を見つめている。

「どうしたんだい?」

「誰もいない朝の公園。しかも霧に包まれていて、誰かに見られる可能性は少ない状況。
いくらドンピシャなタイプじゃないとはいえ、美少女と二人っきりでいて、何か思うところはないのかね?」

「き、キリカ?」

「最近、ちょっぴり小悪魔ちっくで、いつもバカやって過ごせる子も、いいなぁーと思ったりは……しないかね?」

キリカの誘惑によりヒステリアモードが強化されつつ、誘惑に負けそうにもなる。

「魅力的過ぎて襲っちゃいそうになるよ。
だからもう……」

これ以上はいけない。
そう思ってキリカを突き放そうと思った時______

「……私、結構……男の子の楽しませ方知ってるよ?」

キリカはそう囁いた。 
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