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戦極姫 天狗の誓い

作者:木偶の坊
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第2話 天狗、思い知る

 
前書き
第2話です。

ここまでは一応原作に沿っていますが……次回か4話辺りから原作崩壊を開始します。 

 
「さて、早速だがお前には今の国の情勢を把握してもらう」

景虎様から、今この国に迫る危機について聞かされた。
最近、敵対する国人の動きが活発で、戦のため兵を動かしているらしい。
景虎様は如何にして迎え撃つか俺に尋ねた。
無い知恵を絞り、策を上げるが景虎様は難しい顔をしてその案では不足だと告げ、何が不足か教えてくれた。
景虎様の意見を基に、俺は必死に考え、案を上げる。

日が傾き始めた頃、景虎様は笑みを浮かべて「よし」と頷き、俺を置いて部屋を去った。
暫くすると、入れ変わるように一人の武将が入ってきた。
兎のような耳をつけ、甲冑に身を包んだその人物は「宇佐美定満」と名乗った。

「颯馬君の策は景虎様に教えてもらったの。よく考えられた策だったの」

武将の中にはこのように柔らかい物腰の人物もいるのかと驚いた。

彼女はよく考えられた策と褒めてくれたが、これは景虎様の助言の元に作られた策なので厳密に言えば俺の策ではない。俺が最初に考えた策は穴だらけでその欠点をすべて景虎様に指摘され、助言を得て作った。殆んど景虎様の策と言った方が正しいだろう。この策がよくできているのなら当然だ。

「それは……光栄です。して、景虎様は?」
「景虎様なら……弥太郎と一緒に兵を連れて……戦に出かけたの」


え……?


「戦……」
「景虎様はこの城の城代で……戦の時はいつも自ら先頭に立つの。今日の戦は、颯馬君の策があるから大丈夫だって言ったの」
「では、景虎様は俺の考えた案で戦に……?」

宇佐美殿は小さく頷く。

しまった……あの策は……敵を逃がす可能性が高い……。
それ以前に、あの策では圧勝なんて不可能だろう。所詮は素人が考えた策。如何に戦が巧みな者の知恵を借りても限界がある。
例えるなら、巨大な物の怪の前では何人力を合わせてもその力の差は覆らないようなものだ。
所詮は素人は素人だという事だ。

「なんで、俺の策で……」

頭が真っ白になるとはこの事か……。
体から力が抜け、まるで魂を抜き取られたかのようにその場に座り込む。
景虎様や大勢の兵の命が……。俺が……奪ってしまった……。

「颯馬君が考えた策だからなの……」
「景虎様は……颯馬君を試したの……」

そんな、危険すぎるのに……。どうして?

「景虎様は……颯馬君が気に入ったと思うの。だから、あの策が正しい事を証明して、颯馬君を皆に認めさせようとしているの」

「私は景虎様の所で軍師をしているの。あの策は私から見ても良くできていたから……大丈夫だと思うの」
「そうではなく……!」

素人が少し考えただけの策で……戦に行くなんて。あの策の通りに戦が進むなんて思えない……。

「宇佐美殿、お願いがございます」
「何? わたしにできることならいいけど……」
「俺を戦場に連れて行ってもらえませんか?」


「それじゃあ、一緒に行くの」


戦場は遠くなかった。

人々が声を上げながら、武器を手にぶつかり合っている。
命を賭けて。俺の策を信じて。
雄たけびをあげながら刃を打ち下ろす声。
槍で突かれてあげる断末魔の悲鳴。
刃を打ち鳴らす火花が、遠目にも分かった。

「あそこで、皆戦っているの……」

あの中に景虎様もいる……自ら刀を振って、命を賭けて戦場に立ち、戦っている。
戦の様子を、多くの命のやり取りを眺めつつ思う――こうなるとは思わなかった。
危険すぎる。死んでしまってはそれで終わりだ。

机の上で考えただけ、もっと考えればいくらでも気づける場所はあった。
何故気づけなかった……? そうとわかっていれば頭を捻れたはずだ。

拳を振るわせていると、あたたかいものに包まれた。

「大丈夫……景虎様は強いの……弥太郎も。それに颯馬君の策も、よく考えられた事、わたしには分かるの……だから怖がらなくてもいいの」

雷を恐れる子供をなだめるように、宇佐美殿は俺を抱きしめて、落ち着くように背中をぽんぽんと叩く。


「おわったの……景虎様の勝ちなの」


「景虎様」

戦が終わったばかりの景虎様の元へ行く。見たところ、景虎様は息1つ乱していない。戦場で倒れている兵も、長尾の鎧を纏っている者より敵対している軍の鎧を纏っている者の方が多く倒れている。
いや、多いか少ないかと言ったものではない。正に圧倒的と言った方が正しい。長尾軍の犠牲は見たところ数えれる程度だが、敵軍の犠牲は数えるのも気が遠くなりそうなほどの数が倒れている。

これが、長尾の……景虎様のお力なのか? 自らは先頭に立ち、刀を振るいながら的確な指示を与えながら敵を斬り伏せる。多忙なんて言葉では済まされないにも関わらず、息1つ乱していないどころか、「これはほんの小手調べだ」と言わんばかりの余裕の表情をしている。

「颯馬……どうしてここに?」

景虎が颯馬の姿を見つけると、急ぎ足で駆け寄ってきた。城で待っているように命令した故、この場には居る筈がない。景虎が颯馬の隣にいる定満に目を向けると同時に、定満は困ったような顔をしながら、口を開いた。

「景虎様……ごめんなさい、なの」
「城で待つように言っただろう。まあ、いい」

景虎が溜息を突きながら言う。

「見事な勝利おめでとうございます」
「うむ」
「確かに勝った。だが、包囲が甘く取り逃がしてしまった者も多い。今後また我らを脅かすとも考えられる」

背の高い女性が目を閉じて口を開く。策の穴を的確に言い、その凛とした表情も相まって反論の余地もない。彼女は長く長尾家に仕え、そして幾多の戦を潜り抜けてきた歴戦の兵だと、颯馬の頭は理解する。

「夜だったからな……昼ならもっとうまく運んだだろうが、明日まで待っていたら先に動かれていた。悪くない結果だと思うがな」
「景虎様はお甘い。それほど、この山を下りてきたばかりの出来損ないが気に入ったのですか?」

出来損ないか……確かに……否定はできない。俺は山を下りたばかりの世間知らずだ。
おまけに、無能な知恵を絞って作られた策を使った戦に付き合わされたのだ。愚痴の1つくらい出て当たり前だ。いや、出なかったら出なかったでそれもまずい。


「この策を聞き、寛兵で敵本陣を急襲する一方で、包囲を固め漏らさず打ち取るいい策だと言ったのはどこの誰だったかな?」
「弥太郎なの」
「た、確かに言ったが……この策は景虎様や私の力に頼りすぎている面もあった。一流の策とは言えないだろう?」
「確かにな。だが、私たちがいるからこそ考えた策なのだろう」
「景虎様……俺の事を買いかぶっておいでです。景虎様が不足している点を指摘し、考え直すように命じたからこそできた策です。それに、所詮は素人の策です……」

景虎様の指摘がなければこの策は思いつかなかった。それ以前に、この戦に勝利してこの場で言葉を交わすことが出来なかっただろう。

「逆に足りない所があるならそれは俺の落ち度です」

考えるべきだった。策を……より良いものにするために……。
ただ指摘されたところを助言された通りに直すだけで良い策ができる筈もない。
むしろそれだけでできたら、俺はこのような思いをすることもなかっただろう。

「やり直せるものなら、やりなおしたいものです。しかし、それは叶わないのが戦だと知りました」
「世が……怖くなったか?」
「いえ、恐ろしいものだと知りましたが、恐れずに済むようになる目的が増えました」

その場に膝を着き、頭を垂れる。これが礼儀だ。主を仰ぐ臣下の礼だ。

「どうか、このままおそばに。今後はより良い策を献じます。学び、力をつけ、必ずお役に立って見せます」

目を閉じ返事を待つ。

「……分かった」

「天城颯馬、この時より軍師見習いとして定満に預ける。我がために学び、我がために働け」
「は、ははっ!!」
「颯馬君、よろしくね? 初めてのお弟子さんで嬉しいの」

宇佐美殿が耳をヒクヒクと動かしながら微笑む。

「これからよろしく頼むよ。天城颯馬軍師見習い殿」
「山を下りたばかりだから世話が焼けるだろうな。なあ、颯馬?」
「か、景虎様……」


俺は景虎様の為に尽くすと改めて誓った。そして、もうこのような不出来な策は作らず、己の力で良策を作り、それを役立ててもらうために。 

 
 

 
後書き
諸君、私は駄文を書くのが大好きだ。 
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