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お嬢様と執事

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第四章


第四章

「何かわかったんですか」
「ああ、わかったさ」
 答えはするが目はゲームから離れはしない。
「わかったが言わないよ」
「えっ、何でですか」
「私もわかりました」
「私もです」
 尾木さんが答えないと言って戸惑っていると佳澄と茜も言ってきた。
「そういうことだったんですね」
「お嬢様も真剣なんですね」
「真剣!?何なんだよ」
「君もそのうちわかるよ」
 尾木さんはこう言うだけでやはり答えはしない。
「嫌でも最後には教えてもらえるさ」
「教えてもらえるって」
「島本さん鈍感過ぎますよ」
「ねえ」
「ちょっと待ってよ」
 面と向かって鈍感と言われては正人もいい気はしない。口を尖らせて二人に言う。
「何で僕が鈍感なんだよ」
「それがわからないからですよ」
「だからお嬢様だって」
「何で僕が鈍感だとお嬢様が関係あるんだよ」
 余計に話がわからなくなる正人だった。口を尖らせるだけではなく眉も顰めさせている。そんな顔なので今飲んでいるココアが妙にまずい。苦く感じた。
「訳わからなくて仕方ないよ」
「だからそのうちわかるんだよ」
 また横から尾木さんが言ってきた。しかしここでもゲームの画面から顔を離さない。
「そのうちね。安心していいからね」
「そうなんですか」
「私達は正人さん応援していますよ」
「だから安心して下さいね」
「そっちもそうは見えないし」
 首を傾げて出した言葉は本音であった。
「お嬢様ばかりよいしょしてるような」
「本当にわからないんですか!?」
「こりゃ重症だ」
「僕は病人だったんだ」
 何故か彼女達の間ではこうなっていることを感じた。
「何がもう何だか」
「だから安心するんだよ。最後に全部わかるからね」
「もう全然何もかもが」
 正人は首をまた傾げてココアのおかわりをする。しかし普段は甘いココアも苦くて仕方がない。そのココアを紗智子が頼んだのは彼女が学校に帰ってすぐのことだった。
「まずはミルクを入れましてね」
「はい」
 メモを取りながら応えている。
「お砂糖を。お砂糖は」
「どのお砂糖にされますか?」
 四条家では砂糖も様々なものを揃えているのだ。どれも特別に選んだ高級品である。
「沖縄のをですわ」
「沖縄のですか」
「そう。白砂糖を」
 砂糖の種類まで注文をつける。
「それを小匙で三杯」
「三杯ですね」
「これが一杯分ですわ」
 こう言い加える。
「それで二杯分御願いしますわ」
「二杯ですか」
「何か?」
「いえ」
 二杯と聞いて違和感を感じたのだ。何故ならいつも彼女だけが飲み従って一杯分しか入れないからだ。彼はそれを不思議に思ったのである。ところが紗智子はそれに答えずにさらに言葉を続けるのであった。
「畏まりました」
「宜しいですわ。それでですね」
 我儘な注文はさらに続く。
「ココアはお部屋の中ではなく前に置いておきなさい」
「前にですか」
「そう。ワゴンの上に置いて」
 注文はこうであった。
「コップは二つ。オーストリアのものを」
「畏まりました。むっ!?」
 ここでまたあることに気付いた。
「コップを二つですか」
「お皿も。スプーンもですわ」
 やはりここでも正人には何も言わせない。自然に言葉を続けてそれをさせないのだ。
「スプーンはイギリスから取り寄せたあれを」
「銀のあのスプーンですか」
「それも二つですわ」
 しつこい位に言い加えてくる。
「宜しいですわね」
「畏まりました。それでは」
「十分以内に」
 今度は時間まで指定してきた。
「扉をノックしてその前においたら下がりなさい。宜しいですわね」
「お部屋には」
「入ってはなりません」
 声が厳しいものになった。絶対に許さない言葉であった。
「おわかりですね」
「わかりました。それでは」
「わかったら十分以内に」
 また厳しい声で正人に告げた。
「わかりましたね」
「はい。それでは」
 こうして正人に急いでココアを淹れさせて持って来させる。十分で持って来た正人は紗智子の扉の前に立つ。ノックしようとすると何故か部屋の中から話し声が聞こえてきた。
「!?携帯でも使われているのかな」
 そうは思ったがやはり扉は開けなかった。ただ言われたままに扉をノックするだけだった。
 
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