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寄生捕喰者とツインテール

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一つ目の急展開

 危機感を与えるニュースも、当事者ではない人達はテレビ越しで空気が伝わりにくいために、当事者は日々の中で段々と完全にではないが忘れて行き、何時の間にかテイルレッド中心のニュースの戻っていった。

 死人が出ていないという事もあるが、テイルレッド……ツインテイルズというヒーローの存在も手伝っているのだろう。


 加えてグラトニーが一般人の味方をしたという事ばかり大々的に上げられ、その魅力しか語らず確信に触れないのも、危険極まりない事件を遠ざける要因となってしまっている。元々少ないがついていたファンがここにきて増え始めてはいるが、瀧馬にとってはファンが居ようが居まいが、人気の為に闘ったり主に何かを守るために戦っている訳では無いので、風評など正直どうでもいいのが本当のところ。


 この国の住人達の能天気さと、アルティメギル登場時から着々と浸食していく変態思考(もしくは嗜好)に嘆きながらも、国単位の事なので一個人でしか無い瀧馬にはどうする事も出来ず、ただただ呆れることしかできない。


テイルレッドファン達(へんたいども)を見て半分ほど冗談で言う事はあったが……マジでこの国は末期に近付いているのかもな……」

『イヤ、流石に死人が出れば分かるだろウヨ』

「……そうさせる気は無いけどな」

『オレとしては別段如何でも良いんダガ……マ、子の身体の主導権は相棒のもンダ、好きにすりゃイイ』


 ゴールデンウィーク前日の放課後だというのに、周りの様な高揚間も嬉嬉とした表情も無く、瀧馬は何時も通りな表情の中に苦い物を浮かべて、その苦さを紛らわす為かスーパーで例え悪あがきでもやらないよりはマシだと、手当たり次第に歌詞をカゴへ入れていった。


 どんだけ買いだめする気だと言いたげな店員の視線を流し、家へと帰って歌詞を袋から出して広げて、いざ食べようとした矢先にとあるものが目に付き、チョコレートスナックの袋を開けるのをいったん止めて、その目に付いた菓子へ手を伸ばす。


「……テイルレッドのパッケージ……ツインテイルズの食玩か?」

相棒(バディ)、その数分の一スケールな奴だけじゃあ無クテ、デフォルメされたモンが入ってる品もある見たいダゼ』


 余程見境なく買っていたのだろう、幸い子供や女の子向けの食玩は無かったが、代わりに二種のツインテイルズの食玩は、他にも幾つか買ってしまっている。


 試しにと一つあけ中に入っていたラムネを一口で食べ終えてから、見えないように放送された包を破って……出てきたフィギュアに目を丸くした。



「グラトニーじゃねえかこれ!? ツインテイルズの食玩じゃあなかったのか!?」

『オッ、意外と作り込まれてンナ。左腕とか見事ダゼ』




 何と出てきたのはツインテイルズのフィギュアでは無く、瀧馬の変身後の姿であるグラトニーのフィギュアだったのだ。

 左手を前方に突き出し、咆える様な表情を向け、空気の様なクリアパーツが掌の先に付いているので、恐らくこれはグラトニーの技の一つ『風砲暴』を再現したフィギュアなのだろう事が窺える。

 そこ後幾つか開けるとテイルレッドがポーズ違いで数種、グラトニーも単なる立ち姿でもう一つ出てきた……が、肝心のツインテイルズであるテイルブルーが無かった。


 まさか……? と、嫌な予感を覚えた瀧馬は次いでデフォルメされたフィギュアいり食玩を開ける。そして全部並べて確認し―――炎のクリアパーツと共に剣を構えたテイルレッド、泣き顔のテイルレッド、笑顔のテイルレッド、空気のクリアパーツを纏った瞳孔の小さいのグラトニー、犬の様な雰囲気を醸し出しながらマンガ肉に食らいついているグラトニーはあったものの……やはりテイルブルーの物は一つとして存在していない。



「……もしかして、テイルブルーはないのか?」

『そう判断するのは早いゼ。後ろを見てみなヨ相棒』

「そうだな……どれどれと……」



 後ろに書いてある内容は入っている可能性のあるフィギュアの種類に関してであり、数文に一スケールはテイルレッド五種にグラトニー二種+シークレット、デフォルメの方はテイルレッド五種にグラトニー三種+シークレットと書いてある。

 これだけで、瀧馬はこの状況がなぜ生まれたのかを悟った。



「つまり、このシークレットってのが……」

『テイルブルーってこったナ。しかも一種類』

「……普通、シークレットってのは結構珍しくて出づらく、出たら嬉しい物なんだが……」

『まあコレは出ても流石に喜ばねぇよなァ。だからシークレットにしたって事なんだろうがヨ』

「出ても喜べないシークレットっていったい何なんだ……?」




 余りと言えば余りにも不憫になってきたか、これからは少しでも嫌われるよう努力しようかとすら、瀧馬は思ってしまっていた。

 テイルブルー……もとい津辺愛香、彼女とて頑張っているだろうにこの扱いは幾らなんでも酷過ぎる。
 まあ、擁護出来ない一面を晒してしまった事もあり、瀧馬とて我に返るともう溜息を吐くしかする事が無かった。


 結局色々と諦めたか、チョコレートスナックを再度開けて、牛乳を注いで食べ始めるのだった。




 しかし、そんなのんびりまったりとした空間を切り裂く一言を、瀧馬は不意に口にする。




「……アイツらに……ツインテイルズに何時伝える?」

『単純感情種の事カ?』

「ああ。本気で洒落にならない事態だからな、伝えないって言う選択肢は端から放り投げた方がいいと思ってな」

『マ、妥当な意見だわなソリャ』




 呆れはて放置しているように見えてその実、ちゃんとこれからの事を考えていたらしい。

 ツインテイルズも可能性が低いだけで勝てない訳では無いので、事情を放して協力を取り付けるのは必須かもしれないだろう。

 向こうにも向こうのこだわりが存在する為、流石にエレメリアン狩りを自分のみに任せろという発言をおめおめ聞いてくれる筈も無かろうが、せめて最低限伝えるべき事は伝えておいた方がよいだろう。



 兎も角一度倒したし、すぐには登場する事も無いだろうと気を落ち着かせ、瀧馬は菓子の包装を解きもう一つのポテトチップスへ手を付け始めた。



















「なに!? 部下二人が行方知れずだと!? それはまことか!」
「はっ! 只今基地の内部から現在進行中の世界も調べさせておりますが……数日前から行方知れずとなっております」




 部下の口からもたらされた唐突な凶報に、驚愕で目を見開くリヴァイアギルディ。

 それもその筈、自分の部下が何の脈絡も無く突如として行方をくらませたのだから。幾ら普段は平然としていると言っても、内心では気持ちを押し殺している部下思いな彼の事、なおさらだろう。

 部下が下がってから、リヴァイアギルディは顎に手を当て顔をしかめる。



(今回いなくなったシャークギルディとハンマーヘッドギルディは、バッファローギルディを除けば我が部下の中でも特に巨乳属性(ラージバスト)に対する情熱は強い……離反したとも思えないが……)



 何よりテイルブルーやグラトニーの強さの所為で分かり辛いが、リヴァイアギルディの部隊は決して弱い物ばかり揃っている訳ではない。

 クラーケギルディに負けないようにと部下も育成してきたのだから、連絡も無くいなくなるような……まるで “何者かに不意を打たれたような” いなくなり方はしない筈だと、彼自身も表に出さずとも信じている。


 と、視界の端に何か移り、そこへと顔を向けた刹那……何かが転がってきた。



「む? 何が……なにぃ……っ!?」





 二つ存在するそれをみてリヴァイアギルディは思わず声を上げてしまう。

 なぜならそのうち片方は―――






 -――先程出ていった筈の自分の部下の『頭』だったのだから。


 ならもう片方はと目を向けてみると、それは狼の様な風貌を持ち合わせており、それが実力はあれども下着属性(アンダウェアー)という理解されにくい属性から同胞にも敬遠されてきた、最近怪しい動きも見せており一旦姿を消したという戦士 “フェンリルギルディ” のモノだったのだ。

 すぐに塵となって両方の骸頭が消えてしまうが、リヴァイアギルディの中に僅かにたぎった感情は消えること無く燃え上がる。

 何よりも大切だった自分の部下と恐らく利用されていたのであろう同胞、彼らを殺害した者へと顔を向けて、彼は再び驚かざるを得なかった。


 そこに立っていたのは神話の幻獣にすらその姿形の元となった物が居ないであろう、そう思えるほど奇怪な姿をした化け物だったからだ。



「『Ja puisis krita, nu ar mani arī darbībā』」



 姿形こそ人間と似通っているが、両腕はガーネット色の炎で形作られ辛うじて輪郭が確認できる程度。
 しかも身長比からして明らかにかなり長い。


 ガーネットをそのまま滑らかに削り出したが如くの質感を持つ脚は、複雑な形の立方体の中央をくり抜いた様なこれまた奇妙な造形であった。


 全身黒い肌をしていてアラビア風の腰巻とズボンを着用しており、スキンヘッドである頭にはこれまたガーネット造りのデスマスクが装着されている。

 下半分が顎の横部分を残して切り離されており、しかしその下の口は見えない為何処か恐ろしさを感じた。



「貴様一体……一体何者なの―――ぬおおおっ!?」



 リヴァイアギルディが質問をいい終える前に相手は行動を開始し、ガーネット色の炎腕を叩き込んでくる。

 間一髪でかわしたと思った直後、回避を予測して放たれていた回し蹴りが直撃し、たった一撃でリヴァイアギルディは大ダメージを負ってしまう。


 半端ではない巨乳属性の持ち主であり、歴戦を生き抜いた幹部でもある自分が何故一撃で……そう心では戸惑いながらも、体は自然と立ち上がり次の行動に移っていた。



「戦士としての誇りも常識すらも無いのは明白……我が部下と同胞の命を奪った大罪……容赦はせんぞ!!」
「『………』」



 紅蓮の怒りを湛えるリヴァイアギルディとは対照的に、相手の人型は最初の一言を最後に何も言わずただ彼を見やり沈黙を貫いている。

 驕りも無く全力で仕留めるべきと定めたか、リヴァイアギルディは股間の……股間の尻尾を垂直に立たせ、怒号を放つ。



「我が槍は神速にして剛力……肉片も残さんぞ!」



 そう言うや否や目視不可能な速度で次々と突きが放たれ、風切り音というのもおこがましい轟風が吹き荒れる。

 相手はその猛攻に対処が出来ないのかただ立ち尽くすのみで、先程から手を少し前に出しているだけで全く動こうとしていない。


 誰がどう見てもリヴァイアギルディの優勢に見えるが……しかし、冷や汗を掻き焦燥に駆られているのはリヴァイアギルディの方だった。


 何故……と、よく見るとガーネット色の火の粉が、右に左に飛び散っているのが僅かだか確認できる。つまり、リヴァイアギルディの突きに合わせて少しずつ腕を動かし、全てを防ぎきっている元に他ならない。

 その芸当を可能とさせる防御力と敏捷性、並みの者ではないだろう。



「ならば……これはどうだぁぁぁあああぁぁっっ!!!」



 一瞬槍が触手状に撓んだかと思うと、咆哮と共にち間までとは比べ物にならないパワーを込めて突き放たれた。

 余波で地を削るその一撃に、相手はガーネット色の炎腕を片方下げてもう一方を突き出すのみ。



 まさか!? とリヴァイアギルディが疑念半分驚愕半分の感情をいだいたその瞬間―――



「『stulbs……』」



 そのまさか……片手でその一撃を掴みとり、少しばかり押したものの止められてしまったのだ。

 そしてもう片方の手で少し離れた場所を掴み、何と引きちぎってしまった。



「ぬ、ぐああああああぁぁぁぁっ!?」



 痛みにもだえる暇も無く残っている部分を鷲掴みにされ、ハンマー投げの要領ながら片腕で振り回されて投げ飛ばされる。

 追い打ちにと投げた勢いに一足で追いついて、拳を腹部へ叩きこまれる。


 枠組みが違う、実力が違う、格が違う……それを相対してからヒシヒシと感じてはいたものの、リヴァイアギルディはその肌を突き刺す感覚が何であったのか、何を伝えてきたのかを今になって理解した。


 あれはつまり “誇りも捨てて逃げろ、奴には絶対に勝てない” という警告だったのだ、と。



 部下が行方不明になった理由も恐らくは今戦っている敵が行ったモノであろう……いや、そうとしか思えない。
 アレほどの実力があれば、悲鳴もあげさせずに瞬殺するのは訳ない事だと分かる。



「ぐ、ま、まだ死ぬわけにはァァ……ァッ……ぐっ?」



 立ち上がろうとしたリヴァイアギルディの体が不意に止まり、次いで浮遊する様なというより “何かに持ち上げられた” 様に、唐突に彼の体が宙に浮いた。


 刹那、耐えがたいほどの苦痛と、煉獄に放り込まれたが如き灼熱の空気が彼を襲う。



「ぐぎゃああああぁぁぁあああっ!? な、なにがあああぁぁぁっっ!?」




 薄く、本当に薄く『ガーネット色の何か』がリヴァイアギルディを掴んでいるのが分かるが、今の彼には自身の状況を俯瞰している余裕も無い。

 相手はまるでリヴァイアギルディを“掴んでいるかの様に”持ち上げる動作の行い、三度小さく呟いた。



「『nenosprosto……Also urge……Nav komentāru nekas šajā』」

「き、さまは一体ぃぃ……何も、のっ……!!」



 最後の力を振り絞ってリヴァイアギルディは相手の名を、正体を聞く。だが……それを意にも返さず、相手は顔を背ける。



「『………』」

「ギャ―――――」



 リヴァイアギルディは、何とも呆気なく“何か”に握りつぶされた。


 一人残った黒尽くめの人型は暫くの間立ち尽くしていたが、リヴァイアギルディから流れ出した靄を全て吸い込み終えると脚元に小さな穴を作り出し、沼に沈むが如く消えていく。


 そして……誰もいなくなった。




 アルティメギル基地の監視装置や警報装置が作動し、異変を知らせたのは正にその数秒後だったという。


 
 

 
後書き
 単純感情sideはシリアスな感じですが、本編のアルティメギルsideだと巨乳と貧乳で言い争っているという場面……何なのこの温度差……。

 
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