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ひねくれヒーロー

作者:無花果
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愛は死よりも、死の恐怖よりも強い



愛は死よりも、死の恐怖よりも強い。

愛、ただこれによってのみ人生は与えれられ、進歩を続けるのだ。

——ツルゲーネフ——




守ってみせると誓ったのだ

他の誰でもない、自分自身に誓ったのだ

あの仔を守ると誓ったのだ

誓ったというのに、何故我は何もできない?

何故助けてやれない?


拷問を受け、我を抜かれ死を待つだけのあの仔を、どうして助けてやれないのか

トビと呼ばれた仮面の男が、黄泉路へ旅立とうとするあの仔を引きずり上げる


切り刻まれた体、首に絞め跡、幻術を見せられた虚ろな目、毒が混じりあい濁った唾液が滴り落ち、手足は砕かれ爆破された


何の抵抗も出来ないあの仔を助けられない


何が尾獣か、助けることもできない無力な獣が、何が尾獣か


必死に模索する

助ける術を、見つけなければならない

ふと、記憶の隅に追いやった術を思い出す

時空間忍術、まだ我は完全には封印されていない、チャクラの使用は可能だ

出来る、守れる!

藁をも掴むかのように、チャクラを練り上げる

彼奴等に気づかれない前に、早く、逃がさなければ——


「・・・九尾め、時空間忍術を利用したところで——人柱力はもう持たんぞ?」


仮面の下で嘲る声が聞こえる

「——あぁ、そうさな

 我が抜かれた、ただでさえ弱い体はもう、じきに果てる」

もう、心臓の音も止んだ

トビがまるで汚物を捨てるように投げ捨てた


「ならば大人しく封印されていろ」


そうそうニンゲン如きの思い通りになってたまるものか



「抜かれて足りぬのであれば、詰めて満たせばよかろう?」



そう言って笑ってやれば、目が赤くぎらつきよった

全く、これだからニンゲンは好かんのだ


最後の術を発動させる


火があの仔を包み込み、我が尾を2本入り込ませた


もうこれ以上してやれることはない


あとはただ、成り行きを見守ろうぞ———
















痛みと苦しみ、恨みと嘆きが合わさって胃の腑を燃やした

そのジクジクとした熱さが、黄泉路への灯火だということを知った

白い柔らかなシーツの冷たさが、体の火照りを冷ましてくれる

なかば炭化していた右腕を動かそうと力を込める

診てくれた医者の腕が良かったのか、なんとか動かせた


「・・・あ゛の゛ばぐばづま゛・・・

 いづがぜっでーなぐ・・・げほっ」

口内に溜まった血で噎せ返る

2、3分ほど噎せ続け、ようやく落ち着いた




何をやっていたんだろうか

意地をはったところで、現状をひっくり返せる力を持たない俺に何が出来たというのか

結局マダラに警戒され拷問を受け、洗い浚い吐いただけじゃないか

そうして死を待つだけの俺に、あの狐は何を考えていたのか

なんで俺なんかを助けた


お前なんか嫌いだったのに、恐がったのに





涙が溢れて止まらない






「おぉ、起きたか!」






白髪に赤い隈取り、眩しく笑った老人は、伝説の三忍・自来也

手に水の入った桶に真新しいタオル、どうやら助けてくれたのは彼らしい

礼を言うことも忘れ、溢れる涙をぬぐうことも忘れ、ただ呆然と口を開いただけだった








 
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