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小さな勇気

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第二章


第二章

「そういやあの先生って今幾つだ?」
「大学卒業してすぐにうちの高校に来たんだよな」
「ああ、今で四年らしいから」
「今年で二十六か」
「何か熟れ頃だよな」
「美人なのに嫁さんの貰い手ねえのかな」
「ねえだろ、あのきつい性格じゃ」
「旦那さんだっていねえぜ」
「それもそっか」
「それどころか彼氏だっていねえだろうな」
「ってことはだ」
 仲間の中の誰かがふと言った。
「あの先生、まだ処女なのかな」
「馬鹿言ってんじゃねえよ」
 それは仲間内の一人にすぐに否定された。
「あの歳でそんなわけねえだろ」
「このクラスでも経験ねえのって殆どいねえのによ」
「それもそうか」
「おめえもこの前だったよな」
「ああ」
 話を振られた康則は連れの言葉に頷いた。
「合コンで知り合った娘と」
「確か桜商業の娘だったよな」
「まあな」
 隣の学校であり付き合いがある。ここの男は彼女といえば自分の学校かその桜商業の女の子が相手と相場が決まっているのである。彼等の中にも実際に桜商業の娘と付き合っている者がいる。商業高校なので女の子が多く、しかも制服が可愛いのだ。これで参る男が実に多いのだ。
「三年のな」
「先輩か」
「ああ、遊び慣れてる感じだったな」
 ちなみに彼等は二年だ。一応進学校なのでそろそろ勉強が大変になってくる頃だが彼等からはそんな雰囲気は微塵も感じられない。
「で、合コンの帰りにそのままか」
「ホテルでな」
「ふうん」
「で、御前も経験者と」
「まあそういうことでな」
「な、俺達だってこうなんだよ」
 そして真子先生が処女かどうかという話に戻った。
「それであの先生がどうして処女なんだよ」
「二十六で、しかもあの顔で」
「絶対に有り得ねえって」
「有り得ないかな」
 最初に処女なのかと言った仲間はそれでも何か思っているようであった。
「だって彼氏いないんだろ」
「昔はわからねえじゃねえか」
「まあそうだけどさ」
「それに彼氏はいなくても男はいるかも知れないぜ」
 仲間内の一人がスケベそうな笑みを浮かべてこう囁いてきた。
「男が!?」
「そうさ」
 皆身を乗り出してきた。その中には康則もいる。
「彼氏じゃないけど男がな。よくある話だろ」
「まあな」
「漫画とか小説とかじゃな」
「それであの先生も学校が終わったら」
「男とずっと二人きり」
「おいおい、かなりエロいな」
「そうだろ、実際は案外そうかも知れないぜ」
「どうだろうな」
「まあ実際はわからねえがな」
 そんな話をしながら休み時間を過ごした。康則はふと真子先生のことが気になるのであった。実際はどうなのかと。けれど今はそれは僅かなものであった。
 そのはじめての相手の桜商業の先輩とは一応メアドを交換した。だが返事は今一つ返りが悪いのである。
「そういやあの人相当遊んでるって自分でも言ってたな」
 自分の部屋で携帯をいじりながら呟いた。ホテルでの話を思い出していたのだ。
「彼氏とか別にいないって。そんな人なのかな」
 実際にそんな人だった。けれどまあ経験できたからいいな、と満足している部分もあった。その辺りは結構気持ちが入り混じっていたのである。
「折角彼女ができたと思ったのにな。あそこまでいってもそうともばかり言えないんだな」
 何となく男女関係のそうした部分を知ったみたいな気になった。それで少し鬱な気持ちにもなった。
「彼女か」
 そしてまた呟いた。
「欲しいのにな」
 そんなことを思っていた。けれどどうにもできそうには思えなかった。そのままぼんやりと天井を見ながら寝転ぶ。そして携帯を放り出して何も結論が出そうにない考えに耽るのであった。
 そんな日が暫く続いた。結局その桜商業の三年の人とはそれっきりであった。気付いた時にはメアドが変わっていた。どういう事情かわからないが変わっていたのは事実だった。それで結局その人とは切れてしまった。
「で、終わりかよ」
「ああ」
 クラスでまた仲間で集まって馬鹿話をしていた。そこでその人と終わったことを彼等に言ったのであった。
「メアド変わってたよ。で、連絡もつかないんだ」
「ああ、あの人しょっちゅうメアド変えてるぜ」
「そうなんだ」
「俺もあの人と少し一緒になったことあるからわかるんだ」
「っておい」
 康則はその仲間を見て顔を顰めさせた。
「じゃあ俺と御前は兄弟なのかよ」
「別にいいだろ、付き合った時間が違うんだからよ」
「そうだけどよ」
 だがやはりいい気持ちはしない。何か憮然としてきた。
「三回程デートしてホテル行ってな。それっきり」
「そうなんか」
「ああ、あの人それでメアド変えて。縁が切れたよ」
「けど何でそんなにしょっちゅうメアド変えるだ?」
「派手に遊んでるから変な男が寄って来るんじゃねえの?」
 仲間内の一人が言った。
「それか?」
「そうじゃねえの?ああした人にはよくある話だぜ」
「ふうん」
「何ならあの人の学校まで行くか?それでよ」
「いや、、いいよ」
 だが康則はそれをしようとは思わなかった。
「そこまでしなくてもさ」
「じゃあこのままお別れか」
「あっちとしてもその方がいいんじゃないかな」
「遊びってわけか」
「だろうな。俺もそう割り切った方がいいだろうし」
 康則の言葉は無理に素っ気無い言葉を出しているようであった。彼は自分でそう言って自分自身に言い聞かせていたのである。

 
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