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オズのムシノスケ

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第九幕その九

 ヘラジカさんはゆっくりと目を開けてです、こう言いました。
「美味しい匂いがするわね」
「起きてくれたのね」
「ええ、この匂いはね」 
 何かといいますと。
「牧草の匂いね」
「ええ、そうよ」
「そうね」
 ここでヘラジカはその開いた目で牧草の山を見ました、そうして言うことはといいますと。
「美味しそうね」
「食べていいわよ」
 笑顔で答えるドロシーでした。
「その牧草全部ね」
「あら、いいの」
「ええ、けれどその代わりね」
「その代わりに?」
「起きてくれるかしら」
 こうヘラジカさんにお願いするのでした。
「あなた多分雌だと思うけれど」
「そうよ」
「ご家族は?」
「群れにいるけれど」
 それでもと言うのです。
「それでもね」
「どうかしたの?」
「お父さん達と喧嘩したの」
「それで群れを飛び出たの」
「ええ、だからね」
 それでだというのです。
「今は一匹なの」
「そうなのね」
「私家出中なのよ」
「だから今も一匹でいて」
「そう、寝ていたの」
「そうだったのね、あのね」
「あのねって?」
「家出して一匹でいるのはよくないわよ」
 ドロシーは少し厳しい口調になってヘラジカさんに言うのでした。
「鹿は一匹でいないでしょ」
「普通は群れで暮らすわね」
「それはヘラジカさんもでしょ」
「私だって普段はそうしてるわよ」
 けれど今はというのです。
「喧嘩したからこうしているのよ」
「一匹でいたらいいことはないわよ」
「獣に襲われるのよね」
「だから早くお父さん達と仲直りして」
 そしてというのです。
「早く群れに戻りなさい」
「そうすればいいのかしら」
「いいわよ、貴女の為にもね」
「ううん、けれどね」
「それでもっていうのね」
「私は悪くないわよ」
 起き上がってそうしてなのでした、ヘラジカさんはその牧草を食べながらドロシーに対してお話するのでした。
「お父さんとお母さんが悪いのよ」
「どうして悪いの?」
「悪いから悪いのよ」 
 説明になっていない説明で返すヘラジカさんでした。
「それ以外の何でもないわよ」
「それじゃあわからないわよ」
「わかるでしょ、けれどね」
「早く仲直りしなさいっていうのね」
「喧嘩自体がよくないし」
 それにというのです。
「後一匹でいたらね」
「よくないからよね」
「どちらもよくないわよ」
「ううん、それじゃあ」
「ここで寝ていないでね」
「群れに戻って」
「そうして休みなさいよ」
 ドロシーは少し厳しい口調になってヘラジカさんにお話します。
「わかったわね」
「嫌よ、だってお父さんとお母さんが悪いのよ」
「またそう言うのね」
「私は悪くないから」
 意地を張った口調でした。 
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