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舞台は急転

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第九章


第九章

「それでどうしてそんなに言うのよ」
「本当に後になって」
「私の方過剰に見ないかしらって」
「その時はその時じゃない」
「違うの?」
「考えていたのはね」
 相変わらず俯いたままで答える有美だった。
「西園寺君が私に告白してくれることだったけれど」
「じゃあいい流れじゃない」
「違うの?」
 皆は話を聞いてそう思うのでこう問い返すのだった。
「それで。どうなのよ」
「まさかそれでもないっていうの?」
「違うっていうか。今は」
「ええ、今は」
「どうしたのよ、それで」
「私の方も意識しだしたし」
 実はそうなのであった。今そのことを言う有美だった。
「というか前から」
「前からって!?」
「あんた、まさか」
「そうよ。もう言うけれど」
 観念したように皆に対して言うのだった。
「実は好きだったのよ」
「西園寺君がなのね」
「ええ」
 また観念した声になっていた。
「そうなの。実は」
「怪しいとは思っていたけれどそうだったの」
「やっぱり」
「驚かないの?」
「薄々感じていたわ」
「ねえ」
 皆は有美に対して答えた。少しうんうんと頷く感じになっている。
「っていうか言葉にちらほら出てたし」
「それで何かな、って思ってはいたわ」
「そうだったの。わかっていたの」
「今完全にね。じゃあ元々付き合いたい為に仕掛けたのね」
「話のはじまりはあれだったけれど」
 有美はここで話を最初に戻してきた。
「それでも。ここで、って思って」
「それでだったのね」
「西園寺君に慎重に仕掛けたのは」
「そういうことよ」
 有美はまた言った。
「だからだったの。それで」
「まあよくある話だけれどね」
「実は・・・・・・っていうのはね」
 皆もそこまで話を聞いて言うのであった。
「ただ。結構上手く隠してはいたわね」
「ひょっとして、って思ったけれど」
「気付かれてはいたのね」
 有美はそのことが少し残念というか口惜しかったりはした。
「私のそこは」
「まあね。薄々だけれどね」
「それでも。はっきりとはわからなかったわ」
「そうだったの」
「そうよ。それで有美」
 一人があらためて彼女の名前を呼んできた。
「どうするの?それで」
「やっぱりこの図書室でも」
「ええ、それはね」
 もう答えは出ているのですぐに答えた有美だった。
「何度も言うけれど仕掛けるわ」
「わかったわ。手引きしてくれるのは妹さん?」
「そうよ。あの娘」
 そこまで話は決まっているのだった。やはり用意周到に彼の妹まで抱き込んだことが有美にとってかなりプラスになっているのだった。
「あの娘が連れて来てくれるわ」
「じゃあ後はあんたが頑張るだけね」
「それだけじゃない」
「わかってるけれど」
 答えはするがやはりその顔を俯けさせていた。
「しっかりしないとね」
「そうよ。ここまで来たら後は」
「度胸だけよ」
 この言葉が出されるのだった。
「度胸ね。いいわね」
「そうね。それじゃあ」
「腹括りなさい」
 周りがこう励ましてくれたのでとりあえずは立ち向かう気構えができた。そうしてその気構えのまま相手を待っていると暫くして。彼が来たのであった。
「さて、西園寺君よ」
「妹さんもいるわよ」
「え、ええ」
 周りの声を聞きつつ自分の席で俯く有美だった。
「わかってるわ」
「わかってるのなら顔上げなさい」
「彼、こっち見てるわよ」
「見てるの」
 そのことを聞くと胸の鼓動が早くなるのを感じてしまった。
「こっちを」
「間違いなくあんたをね」
「見てるわよ」
「そうなの」
 そのことを聞くと鼓動がさらに早まった。
「私を」
「だから。覚悟決めたんでしょ?」
「堂々としなさいよ」
「それはわかっているけれど」
 一応は応えはする。
「けれど」
「けれどもそれでももなくて」
「顔上げて」
「ええ」
 言われるままに顔は上げた。それで姿勢はしっかりとした。
 
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