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舞台は急転

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第十一章


第十一章

「図書室は勉強するところじゃない」
「違うかしら」
「それはそうだけれど」
「だったら今から勉強」
「かかるわよ」
 かなり強引にそういうことにされてしまったのだった。有美にとっては何か釈然としない話の流れではあったが今の彼女にはどうこうすることはできないものになっていた。
「とりあえずはこの問題だけれど」
「え、ええ」
 クラスメイトの一人の言葉に合わせて顔を向けるのであった。
「どうすればいいの?」
「あっ、それはね」
 この辺りはやはり学生だった。彼女の問いに応えてすぐに身を乗り出すのだった。この時は有美もとりあえず最大の注意乃先を勉学に向けていた。
「あの公式を使えばいいのよ」
「あの公式?」
「そう、これよ」
 自分の教科書を開いて説明をはじめた。
「これがね。そのまま文章になっただけだから」
「そうなの」
「そうなのよ。だからそんなに難しく考える必要ないから」
 こうその彼女に説明するのだった。
「これでいいから」
「わかったわ。それじゃあ」
「ええ、そういうことでね」
 こんな流れで勉強を進めていくのだった。とりあえず図書室でも話は終わった。そして次の日のお昼休みのことだった。今度は教室で皆でお昼御飯を食べていた有美のところに突如として来訪者がやって来たのであった。
「遠野さんいる?」
「私?」
 丁度鮭で弁当箱の中のお握りを食べていた有美はその呼び出しに顔をあげた。
「私に何かあるの?」
「うん、呼び出しだけれど」
 来たのは隣のクラスの女の子だった。彼女は教室の後ろの扉のところから有美に声をかけている。有美の周りの皆はその女の子の顔を見て一斉に顔を見合わせたが有美には彼女達の今の動きは見えなかった。
「校舎の屋上にね。後で来てって」
「後でって?」
「私が聞いたのはそれだけだから」
 ここまで伝えたところでその女の子はそそくさと帰ろうとする。
「それじゃあね」
「あっ、待って」
 有美は帰ろうとするその女の子を呼び止めた。
「呼び出しよね」
「そうよ」
 帰ろうとしたその女の子は有美の問い掛けに立ち止まって答えた。
「屋上ね」
「それはわかったけれど」
 とりあえず場所はわかった有美だった。しかしである。
「けれど」
「けれど?」
「誰なの?」
 問題はそこであった。誰が呼び出しているのかそれを聞かずにいられなかったのだ。そして彼女は実際にこのことを問うたのである。
「その呼んでる人って」
「さあ」
 ところが女の子は悪戯っぽく笑って答えようとはしない。有美の周りはその態度を見ていよいよにんまりと笑ってそれぞれの顔を見合わせるのだった。
「私それは知らないから」
「知らないって」
 女の子の今の返事がおかしいことは有美にもわかった。
「何よ、それ」
「だから。御飯食べてすぐに行ったら?」
 女の子はこう言うだけであった。
「すぐにね。いいわね」
「あっ、話はまだだけれど」
「それじゃあね」
 もう答えようとはせずそのまま帰ったしまった女の子だった。後に残された有美はお弁当を食べかけのままで呆然としてしまっていた。ところがその彼女に対して周りの皆はあえて声をかけるのだった。
「最高の結末になったじゃない」
「最高のって?」
「だから。行ってみなさいって」
「屋上にね」
「それは行くけれど」
 そうは答えてもだった。どうにも周りの思わせぶりな態度が気になって仕方ないのだった。
 
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