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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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空白期 第17話 「フェイトの初デート?」

 ケータイを取り出して時間を確認すると、【12:50】と表示されていた。待ち合わせの時間は13時なので、あと10分ほど時間がある。だがしかし……

「……何かあったとかじゃないよな」

 正直待ち合わせしている相手の性格を考えると、30分前に来ていても不思議ではない。待たせるのもあれなので今から20分ほど前にそれくらいに来ていたのだ。たまにはこういう日もあるだろうし、あの心優しい少女の場合は困っている人を助けている可能性も充分にある。
 ――急な仕事が入ったとかじゃないよな。それなら電話なりメールで連絡があるだろうし。
 もしかして待ち合わせ場所を間違えたのか、と思いもしたが、翠屋前という分かりやすい場所を待ち合わせ場所にしたのだ。馴染みがある場所だけに間違える可能性は極めて低い。

「まあ……時間を多少過ぎても現れないようなら連絡してみればいいか」

 時間に余裕がないわけじゃないし、のんびりと過ごすのは嫌いじゃない。真夏だったら話は別だが。まあ幸いなことに、今日の気温は半袖だけで充分なほど温かいが、走ったりしなければ汗ばむことはないと思えるちょうど良さだ。何も問題はないだろう。
 ――それにしても……フェイトがリンディさんの子供に、か。
 そう思うが、フェイトが養子になったことがおかしいとは思っていない。母親の存在は彼女くらいの子供には必要なものだろうし、リンディさんの性格を考えるとありえる提案なのだから。俺が養子に関して考えてしまうのは、少し前から叔母に保護者ではなく母親になってもらいたいと思っているからだ。
 いつもぼんやりしているというか、反応が薄かったりからかってきてばかりだからあれだったけど、レーネさんは俺のために怒ってくれる。心配してくれる……本当に必要なときは仕事よりも俺を優先してくれる人だとこの前のシグナムとのやり取りで感じた。
 父さん達が亡くなってから今まで面倒を見てもらっているし、魔法世界で暮らしたほうが楽なのにこの街で暮らしてくれている。レーネさんにはとても感謝している。俺はあの人のことが好きだ。自分がいないと心配っていう子供らしくない感情もあるけど。
 ……自分の気持ちを素直に言ったら母親になってくれるだろうか。嫌われているようには思えないけど、正直不安だし怖い。保護者と母親じゃあちらが感じるものも違ってきそうだし。もうひとつの話のほうが話しやすいな。

「……あとこの街で過ごすのもどれくらいだろうな」

 もうひとつの話というのは、簡単に言えば引越しだ。前ほど両親との思い出を支えにすることもなくなったし、魔法関連の道に進もうという想いが強くなった。お菓子作りは趣味として続ければいい。それにレーネさんのことを考えると、こちらよりもあちらの世界で生活する方が楽だろう。あの人が望むなら、俺はいつでも引っ越していい。
 ――はやてにも家族が出来たし、高町が魔法に関わったことで今では桃子さん達やバニングス達も別の世界があることを知っている。突然だと何かしら言われるだろうけど、別に会えなくなるわけじゃないんだから理解してもらえるだろう。
 などと空を見上げながら考えていると、こちらに向かって駆けて来る足音が聞こえてきた。

「お、遅れてごめん!」

 現れたのは待ち合わせの相手であるフェイト。ずいぶんと温かくなってきているわけだが、彼女の性格で袖なしの服を着るのは珍しいと思った。色も普段の印象とは対照的な白。とはいえ、決して似合っていないということはなく、清楚さや可憐さのようなものが感じられる。髪も下ろしていた、いつもよりも大人びて見える。
 何か……えらく気合が入ってるというか、オシャレな格好で来たな。まあ彼女を含めて、服のセンスは良い子ばかりだから不思議じゃないけど。たぬき好きのあいつや油断すると仕事着ばかりになるあいつは分からないが。

「別に遅れてはないよ。待ち合わせ5分前だし」
「え、でも待たせちゃったよね?」
「まあ待ったといえば待ったけど、さっき来たところだし。遅刻したわけでもないんだから気にしなくていいよ」

 実際のところはそれなりに待ったわけだが、バカ正直言う必要もないだろう。はやてとかシュテルとかレヴィとか、そのへん相手には言う必要があるだろうが、フェイトのような子に言ってしまうと必要以上に自分を責めてしまうだけのはずだ。

「そっか……ありがと」
「礼を言われるようなことじゃないさ。君は気を遣いすぎだよ」
「そ……そうかな?」
「そうだよ。他の子に比べたらね」

 俺の気のせいかもしれないが、今日のフェイトはどこかおかしい気がする。積極的に話すほうではないし、性格もどちらかといえば内気だということは分かっているので会話がどうというわけではない。
 だがいつもはもう少しこっちを見て話していたような……顔も何やら赤くなっているし、体調が優れないのだろうか。それとも俺の格好がおかしいのか……。

「なあフェイト」
「は、はい!?」
「えっと……どうかした? 何か様子がおかしい気がするけど」
「そ、そそそんなことないよ! その、何ていうか着慣れない格好だから落ち着かないというか。今日はアルフに勧められたのを着てきたから」
「ああ、なるほど」

 どおりで肌の露出が普段よりも多いわけか。髪型は格好に合わせたんだろうな。今の格好は落ち着きがあるからツインテールよりは下ろしてるほうが合ってるし。
 それに、待ち合わせギリギリになったのはアルフにあれこれ着させられてたからかもな。アルフはフェイトのこと大好きだし、服選びとかも時間かけて色々と試しそうだから。心の片隅でもしかしたら……、と考えもしたけど、何かに巻き込まれて遅くなったわけじゃなさそうだから安心した。

「えっと……へ、変かな?」
「ん? 似合ってると思うよ」
「そ、そっか……」

 呟くように返事をしたフェイトは、やや俯きながら両手を合わせながらもじもじし始めた。表情だけ見れば俺の言葉に安堵したようにも見えるが、やはり肌の露出が多いのには慣れないらしい。彼女らしい反応といえば反応だが、どうにもこちらも対応に困る。
 ――はやてやシュテルとは反応が違いすぎるんだよな。レヴィと比べた場合は正反対と言ってもいい。あの子は恥ずかしがったりすることがないわけだし。服装とかは女の子らしいのに、どうしてああいう性格なんだろうか。

「……ショウ?」
「え、あぁごめん。とりあえず行こうか」
「う、うん」

 俺達はリンディさん達へのプレゼントを買うために歩き始めた。歩き始めてすぐ、隣にフェイトがいないことに気が付く。首を回すと、ほんのわずかばかり後ろを歩いている彼女を発見した。歩くのが早かったかと思い速度を合わせたものの、また同じ状態になってしまう。
 ――えっと……恥ずかしいからあんまり見られたくないってことか。まあ気持ちは分かるからこのまま歩いてもいいんだろうけど、今回の目的は彼女のプレゼント選びだから会話はしないと。できるだけ前を見て話しかけるか。

「フェイト」
「は、はい!?」
「……何を買おうとか決めてる?」
「えっと……あまり高いのを買うのもあれだよね」
「そうだね」
「でも……出来れば喜んでほしいからあまり安すぎるのもダメかなって思うんだ」

 確かに安物だと壊れやすかったり、見た目に問題があったりするからな。まあこういうのって気持ちが大事っていうし、リンディさん達ならフェイトからもらったものなら何でも喜びそうだけど。だけどこれを言ったところで彼女を余計に迷わせるだけかな。

「ふーん……じゃあ服とかでも買う気でいるの?」
「服……確かに日頃使ってもらえるのは嬉しいかな。でも……サイズが」

 あぁ……子供の俺達からするとクロノはともかく、リンディさんのは困るよな。スタイル良いからちょうど良さそうなものでも着てみたら……、なんてこともありそうだし。

「アルフでもいれば良かったかもね」
「え……あぁうん、そうだね」

 フェイトはどことなく落胆したような声を出したので、余計な発言だったかと思ってすぐに返事をする。

「そう気落ちすることないんじゃない?」
「え?」
「あのふたりだって趣味の違いはあるだろうし、別に同じものを買う必要はないだろ。リンディさんのは無理だろうけど、クロノと俺はそう体格変わらないから選べると思うし」
「そ、それって……はたから見れば私がショウに服を選んでるように見えるんじゃ」

 考えてはくれてるようだけど……何で顔が赤くなってるんだ?
 走ってきてすぐに歩き始めたから体温が上がっているからか。それとも見られるのが恥ずかしいのか……。それに何かぼそぼそと言ってるけど、嫌なら嫌ってはっきり言ってほしいんだけどな。まあ性格的にそういうのは難しいってのは分かってるけど。

「別に嫌なら無理する必要はないからね」
「ぇ……う、ううん嫌じゃないよ!」
「本当に?」
「うん! えっと服屋に行くんだよね。時間ももったいないし行ってみよう!」

 そう言ってフェイトは俺の手を握って歩き始めた。周囲の人から見られているわけでもないのだが、彼女の足取りは早い。
 ――そんなに急ぐ必要もないと思うんだけど……渡す相手が相手だけに色々と見て回って決めたいのかな。……にしても、ここまで強く握られると嫌でも意識させられるな。レヴィと手を握っても恥ずかしいとか思わないのに……やっぱり見た目が同じでも違うってことか。

「あの、ここでいいかな?」
「あぁうん、君の好きなところで構わないよ」
「じゃあここ……」

 普通に会話していたはずだがこちらを向いたことで俺の手を握っている自分の手が見えたのか、フェイトの視線は俺の顔と繋がれた手を行き来する。彼女の顔はみるみる赤みを増し、表情からは冷静さが消えていく。

「ごごごめん!?」
「いや、別に謝らなくても……聞いてない」

 視界に映っているフェイトは、こちらに背中を向けて何か考えているようだ。
 何か問題があったわけでもないのだから反省する必要はないと思うのだが、こういう状態に入ったフェイトはなかなか戻ってこない気がする。
 ――落ち着くまで待つべきか、それとも強引にでも店の中に連れて行くべきか。待つとなるとどれくらい時間がかかるか分からないけど、この子相手に強引なのも躊躇われる。

「……誰か呼ぶべきかな」
「え? ……そうだよね。私とじゃ……」
「ん? えっと、君といるのが嫌だとかじゃないから。ただ他にも居た方が君が落ち着くかなって。異性とふたりって慣れてなさそうだし」
「それは……ショ、ショウとふたりで大丈夫」
「本当に?」
「う、うん……確かに慣れてないけど、いつもどおりにできるよう頑張るから」
「うーんと……まあいつもどおりといえば、今日もいつもどおりだと思うけど」
「ぅ……そういうこと言わないでよ」
「ごめんごめん。でも、こういうのが俺と君のやりとりだっただろ?」
「あ……うん」

 返事をしたフェイトの顔には、穏やかな笑みが浮かべられている。どうやら少しはいつもの彼女に戻ったようだ。
 俺達は店の中に入ると子供用の売り場へと向かう。子供の姿が全くないわけではないが、大体が母親と一緒なだけに俺とフェイトは少し浮いているかもしれない。だが、別に俺達くらいの子供がひとりで服を買ってもおかしくはないだろう。あまり気にしないようにしよう。

「どういうのがいいかな?」
「そうだな……クロノは真面目というか誠実な奴だし、色は白とかがいいんじゃない?」
「確かに。あっでも青とかもいいんじゃないかな。例えばこれとか……」

 フェイトは目に留まった青色の服を手に取ると俺の前に持ってきた。はたから見れば、まるで彼女が彼氏に服を選んでいるように見えるのでは……、なんてことを一瞬とはいえ考えてしまったために恥ずかしさが込みあがってくる。
 こういうことはシュテルからされたことがあるけど……あいつは何でも本気で選ぶからな。だから今みたいな感じにはならなかったし。

「うん、似合ってる」
「……そ、そう」
「あ……ご、ごめん」

 やっていたことがやっていたことだけに恥ずかしくなってしまった俺達は互いから視線を逸らした。無言が流れ始めたせいで、今まで気にしていなかった周りの声が聞こえてきてしまう。

「ねぇ今の見てた?」
「うん、何か初々しくて可愛いね」
「だよね。けどいいなぁ……あたしも彼氏ほしい」
「こらこら、あの子達小学生くらいでしょ。嫉妬してどうすんの」
「それはそうだけどさ、いまどきの子ってそういうの早いって言うじゃん」

 そんなことを話していたのは中学生くらいの女子達。何やら俺とフェイトの関係を誤解しているようだが、ここで何か言うのははたから見れば肯定しているようなものだろう。
 というか、誤解されるような関係に俺達は見えているのか。小学生の男女が一緒にいるだけだというのに。何で年上の人達はただ一緒にいるだけで勘違いするのだろうか。俺とフェイトの関係はただの友達なのに。

「えっと……それにする?」
「そ、そうだね。多分クロノに似合うと思うし……わ、私買ってくるからショウは先に出てていいよ」
「そう? じゃあそうしようかな」

 緊張や羞恥を覚えてしまっていた俺は、やや急ぎ足で店から出た。それから数分後、袋を持ったフェイトが出てくる。俺と視線が重なると、先ほどの女子中学生のやりとりが頭を過ぎったのか頬を赤らめて俯いてしまう。

「……次行こうか」
「……うん」

 今度はリンディさん用のプレゼントを買うために歩き始めたわけだが、俺とフェイトの間には何とも言えない距離が出来ている。しかし、それを埋める方法は思い浮かばない。下手に何かすれば余計に拗れてしまうだろう。

「…………リンディさんには何を買う?」
「えっと……服以外で日頃使えるものといえば食器とかだけど、食器はお揃いのがもうあるから外したほうがいいよね」
「そうだね……」

 子供が買える値段でなおかつ日頃使えるものか……あまり人にプレゼントなんかしたことないからな。しかも相手は大人の女性……俺のよく知ってる人なんてレーネさんくらい。
 でもあの人とリンディさんを比べるのはダメだよな。桃子さんとはお菓子の話ばかりだし、力になれそうに……ん?
 不意に目に留まったのはフェイトの髪。普段はリボンでふたつに結ばれている髪は、今日は下ろされていて毛先のほうでまとめられている。リンディさんも髪をいつも束ねていたはずだし、リボンや髪留めなら子供が買ってもおかしくないものではないだろうか。

「えっと……どうかした?」
「あぁいや、君って普段は髪結んでるよね。リンディさんっていつも髪結んでるからリボンとかどうかなって思って」
「あ……うん、いいかも。その……ショウには場違いかもしれないけど行ってみていいかな?」
「買うのは君なんだから好きなところに行ってくれて構わないよ。それに……髪留めとかは何度か買ったことあるし」

 男である俺が髪留めを買うというのは、なかなか精神力が必要なことだ。周囲に同年代の子供がいれば不思議がられるし、店員からは母親や仲の良い異性にあげるのだろうとでも思われるのか笑顔を向けられる。
 結べるくらい髪が長ければ買ってもおかしく思われないかもしれないが、結べるほど伸ばすつもりは全くない。もし伸ばしたならば、人のことを可愛いと言ってくる連中に最悪女装させられるかもしれない。あいつらの玩具になるのはごめんだ。

「そういえば、はやてがショウからもらったって言ってたね」
「はは……あんまり掘り下げないでくれるとありがたいかな」
「そんなことしないよ。ショウには今もこうしてお世話になってるし、人の嫌がることはしたくないから」

 特別なことを言っているわけではないが、はやてやシュテルという存在が身近にいるせいかフェイトが凄く良い子に思えてしまう。
 適度に会話しているうちに、フェイトがよく小物を買っているという店に到着した。中に入ってみると、小学生から子供連れの大人まで様々な年代が来店していた。お店の雰囲気は悪くないのだが、見た限り男は俺だけのように思える。

「えっと……外で待ってる?」
「いや、大丈夫。居心地が良いとはいえないけど、別に見られてるわけでもないし。それに今日は君の相談相手だから」
「そっか。じゃあできるだけ早く済ませるね」

 フェイトに付いて行く形で店内を進む。シンプルなデザインのものから動物や植物といったものまで多種多様なものが販売されている。異性に対して小物を送るときはここを利用するといいかもしれない。まあ送る相手なんてはやてくらいしかいないのが現状ではあるが。彼女くらいしか誕生日を知らないし。
 目的の売り場に到着するとフェイトは真剣な顔つきで商品を見始める。その姿にシュテルを思い出してしまうが、彼女と違って感情が表に出ているのでこれといって思うところはない。
 ――あいつは無表情に近い顔で商品を見定めていくから話しかけづらいし、傍に居づらいんだよな。かといって積極的にこれはどうだって聞いてくるから離れると無言で圧力かけてくるし。女の子という存在そのものが難しいのか、シュテルだから難しいのか……。

「うーん……子供っぽくないのがいいよね。かといってシンプル過ぎるのも……」

 早く済ませるって言ってたけど、これは時間かかるかもしれないな。まあクロノのプレゼントがあっさり決まったわけだし、そもそも1日付き合う覚悟で来たわけだからいいんだけど。フェイトが納得できるものが買えないほうが問題になるし。

「……ショウはどれが良いと思う?」
「そうだなぁ……家とかこっちで過ごす分には装飾が凝ったりしてるのもいいと思うけど、あの人なら気にせず仕事にもしていって自慢しそうだし。まあ派手過ぎないのがいいんじゃない?」
「そうだね……となると」
「このへんのがいいんじゃ……」

 最後まで言い切れなかったのは、気が付けばフェイトの整った顔が目の前にあったからだ。同じものを取ろうとして距離が縮まったらしい。

「「…………」」

 至近距離で見詰め合うように数秒視線を重ねた俺達は、ほぼ同じタイミングで互いから顔を背けた。もう少し精神年齢が低ければ気にしなかったのだろうが、俺達は魔法関連のことで働いているので半社会人とも言える立場にある。同年代よりも大人びてしまうのは仕方がないことだろう。それ故にこのようなことが起きてしまっているので、ある意味では困ったものだが。

「えっと……リボンに絞らなくても、他にゴムとかもあるよね?」
「そ、そうだね……ちょっと見てきていいかな?」
「あぁうん、俺はここで待ってるから」
「分かった。じゃあ……行ってくるね」

 フェイトは俺から逃げるように走って行った。彼女は異性と接するときに適度な距離感を保つタイプなので、先ほどのように接近してはああなるのも無理はない。
 ――……俺なんかのこと意識してくれてるんだな。
 はやてやシュテルと身近にいた女子は家族に近い感覚だったので、フェイトのように異性として意識してくれるのは恥ずかしさもあるが嬉しく思う。

「……何考えてんだか」

 こんなこと誰かに知られたらからかわれるに決まってる。というか、俺だけならまだしもフェイトにも飛び火しかねない。
 それに俺が過剰に意識したら絶対あっちに伝染して妙な空気になる。全く意識しないというのは無理だと思うが、出来る限り普段どおりに振る舞わなければ。

「……ん? ……多分少しくらい時間はあるよな」

 フェイトの性格ならば即行で決めて戻ってくる可能性は低いと思った俺は、目に留まった商品を手に取ってレジに向かった。買う際に店員から「お母さん達にプレゼント?」と聞かれたが、俺は何とも言えず微妙な笑顔で頷き返すだけだった。
 先ほどの場所に戻ってから10分ほど経った頃、フェイトが駆け足で戻ってきた。手に袋詰めされている商品があることから無事に買えたらしい。

「待たせてごめん!」
「だからいいって。きちんと買えたようで良かったよ」
「うん……ありがと」
「別に礼を言われることじゃ……もう出ていいかな?」

 周囲を見渡してこちらの気持ちを汲み取ってくれたフェイトは、俺の提案に素直に応じてくれた。俺は知らず知らずのうちに緊張していたのか、外に出たのと同時に大きく息を吐いた。

「えっと……意外と早く終わっちゃったね」
「そうだね。でも決められないでずっと歩き回るよりマシだと思うよ」
「それは……うん、そうだね」

 無事にプレゼントを買えたはずなのに、どことなく元気がないように見える。ちゃんと時間をかけていたので、納得いくものが買えなかったわけではないと思うが……。疑問を解消すべく尋ねようとしたとき、フェイトが先に口を開いた。

「あの……これ」

 こちらの顔色を窺うようにしながら差し出されたのは、プレゼント用に袋詰めされている何か。無意識に受け取ってしまったが、いったいこれは何なのだろうか。

「えーと、何?」
「その……今日付き合ってくれたお礼」
「あぁ……うん、なるほど……」

 個人的にこのようなものをもらうほどのことをした覚えはないのだが、すでに買ってしまっているし、フェイトの性格を考えると断ってしまうと「迷惑だったかな……」などと考えてしまうだろう。

「ありがとう……どうかした?」
「え……えっと、あっさり受け取ってくれたから」
「それ……何気にひどくない?」
「あ、いや、そのごめんなさい!」
「冗談だよ」

 笑いながらそう言うと、フェイトは少しむすっとした顔を浮かべた。どことなく高町がいじわるだと言うときの顔に似ている気がする。仲が良いとこのへんの反応も似てくるのかな、などと思いつつ、俺は先ほど買ったものを取り出す。

「今のお詫びってわけじゃないんだけど、はいこれ」
「え……」
「親子用のリボンが売ってたからさ。こういうのって母と娘じゃないとできないことだし、リンディさんにもしてみたい気持ちがあるんじゃないかと思って」
「で、でも……」
「いいから。君やリンディさんにはよくしてもらってるんだから」

 半ば強引に押し付ける形になってしまったが、少しの間のあとフェイトは見惚れそうな笑顔を浮かべた。

「あ、ありがと……大切にするね」
「い、いや……まあそうしてもらえるとこっちとしても嬉しいかな」
「……えっと、今日はありがとう」
「あぁうん……これからどうする?」
「予定は済んじゃったし、荷物もあるから……」
「そうだね。じゃあまた」
「うん、またね」

 
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