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エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-

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第十六話 合流

/Victor

 現在地、シャン・ドゥ。その玄関口。
 現状。私の両脇に立つイバルとエリーゼの仲がすこぶる悪い。

 これについては再会してすぐに暴言をぶつけたイバルも、さらにその暴言を上回る暴露をしたエリーゼも悪い。だからといって喧嘩両成敗……といかないのが子供の世界のようだ。
 シャン・ドゥに着くまでも、最低限の会話しかしなかった。
 再会頭にアルヴィンに、

「おたくら何かあっただろ」

 と、断定される程度には、イバルとエリーゼの仲は険悪だ。


「おーい」

 噂をすれば何とやら。アルヴィンがこちらに歩いて来ていた。

「よ、ダンナ。と、ちびっこ2名」
「「チビじゃない!」」

 ……仲良くなれそうに思うんだがなあ。

「悪ぃ悪ぃ。巫子どのはともかく、ちっこいお姫様はむくれても可愛いぞ」

 アルヴィン、下手するとその年齢差はナンパですまされないぞ。そしてイバル、ついで扱いされたからといって拳を固めてアルヴィンを睨むな。

「フェイたちはまだ着いてねーの?」

 アルヴィンはきょろきょろと辺りを見回す。――ローエンからの手紙には、今日中にはシャン・ドゥに着くと書いてあったが。

「ああ。私たちのほうが早かったらしい」

 これについてはワイバーンさまさまだ。獣隷術を使えるイバルがいて助かった。ガンダラ要塞からニ・アケリア、さらにはカン・バルクまで一直線(イル・ファンに行かないことにイバルが文句を言ったが、そこは巧く丸め込んだ)。

「ね、ヴィクトル。今日フェイといっしょに来る人たちって、どんな人なんですか?」

 クレインとローエンの人柄、か。

「どちらも優しい人間だよ。エリーゼとティポのこともきっと受け入れてくれるさ」

 今日まで私の仮面について全く追及しなかった主従だからな。

 とはいえ、ただエリーゼと対面させるだけでは面白みに欠ける。ここは一つ、ファースト・コンタクトが明るいものになるように、少しばかり演出させてもらおうか。

「エリーゼ」

 屈んでエリーゼの耳元であることを囁く。エリーゼは首を傾げたが、「いいから」とだけ告げるとエリーゼは肯いた。素直でよろしい。

「エリー! アル! イバル!」

 来たか。

 ドロッセルから贈られた神官風のドレスの裾を挙げ、フェイリオが顔を輝かせて走ってくる。
 フェイリオの後ろからは、微笑ましげなローエンとクレイン。

「フェイ!」『フェイ君だー!』
「よう、雪ん子。元気でやってたか?」

 互いに集まって、話に花が咲く。いつまでもそうさせてやりたいが、エリーゼだけは彼らに紹介しておかねばならない。

「エリーゼ、おいで」

 エリーゼの肩に手を回して、クレインとローエンに向き合わせる位置に立たせて。

「紹介しよう。エリーゼ・ルタスだ。ア・ジュールの出身者だが、気にせずよろしくしてやってくれ。こちらはティポ。エリーゼが幼い頃から共にいる、そうだな、友達だ」
「よ、よろしくおねがいしますっ」
『よろしくねー!』

 クレインもローエンも目を瞠った。くく、驚いてる驚いてる。私も過去仰天させられたからな。他人を同じ目に遭わせてみたいというイタズラ心が湧いても仕方なかろう?
 単にエリーゼに、エリーゼが話すまでヌイグルミのフリをしておけ、と言っただけなんだが。
 さてお二方、リアクションは?

「僕はクレイン・K・シャール。クレインでいいよ。仲良くしておくれ」
「執事のローエンでございます。以後お見知りおきを。エリーゼさんにティポさん」

 ん、んん? 予想したものとかーなーり外れたリアクション。君たち驚かないのか? ヌイグルミが動いてしゃべってるんだぞ?

「エリーゼの友達は個性的だね。いつから一緒にいるんだい」
「え、えっと」
『エリーが6歳の時からだよー。ぼくとエリーは嬉しい時も悲しい時もいつでも一緒だったんだ』
「ずっとそばにいてくれる友達か。少し羨ましいよ」
「クレイン、は、トモダチがいなかったんですか?」
「旦那様は立場柄、そういった方を作りにくかったのですよ」
「さびしくなかった、ですか」
「今はヴィクトルさんたちがいるから平気だよ。よければエリーゼにも加わってほしいと思うんだけど、だめかい?」

 エリーゼは浅黄色の髪を振り乱して首を振った。そして、クレインの手を握った。

「わたしも今日からクレインのオトモダチになります!」
『トモダチはたくさんいるほうが、さびしくないもんねー』
「ありがとう。光栄だよ、エリーゼ、ティポ」



「何故平然とアレらと話せるんだ……」
「シャールの若様、タダモンじゃねえ……」

 同感だ。ともするとこのクレイン、かなりの大物かもしれん。






 フェイリオとエリーゼが仲良く手を繋いで先を歩く。我々は後ろからそれに付いて行く。これで彼女たちの外見が似ていれば姉妹のようにも見えるだろう。

「ところで若様。ティポのこと、マジで気にならねえの?」

 アルヴィンがクレインをふり返りつつ言った。

「気になる、とは?」
「だってヌイグルミがしゃべってるなんておかしいだろ」
「そうでしょうか?」

 しゃべる人形はおかしくないと? それこそ理解しがたい価値観だ。私自身、慣れるまでかなり時間がかかったのに。

「僕は外交以外でカラハ・シャールの外に出たことがありません。ですから、常識外のモノを見たとしても、驚かないようにしているんです。僕にとって訳の分からない何かでも、僕が知らないだけで、誰かにとって大切なモノである時もありえますから」

 後ろでローエンが、まるで自慢の我が子を披露したかのような得意(ドヤ)満面《がお》。軽く腹立つな。

「クレインさまの考え方って、オトナ」
「見習えよ、巫子どの」
「なぜ俺!?」
「おたく以外に誰がいんの――――、止まれ!!」

 アルヴィン? ……! 落石! 大きい!

「旦那様!」
「フェイ!」

 巨大な岩石が頭上から落ちてくる。アルヴィンがフェイリオを抱えて落下地点から飛びのく。ローエンもクレインを押して道端に転がった。


 ズン………ンッ!!


 揺れは――治まったか。抱えたエリーゼを離す。砂埃で汚れただけで怪我はないようだ。ほっとした。

 残るメンバーはどうなった? クレインとローエン…はエリーゼと同じく無傷。アルヴィン…と、フェイリオも無事、か。イバルは……む、正面の広場が騒がしい。

「子供たちを庇って少年が巻き添えに!」
「医者を呼べ!」

 エリーゼと見交わし、急いで声のしたほうへ走った。

 子供ふたり、それに野次馬か助けか分からない住民の輪の中心。
 くそ、やはりイバルかっ。らしくない真似を。

「イバルっ、しっかりっ」
『らしくないドジ踏んでんじゃないぞバホー!』

 エリーゼが膝をついてイバルを揺さぶる。ティポが涙目。ということは、エリーゼは心からイバルを案じている。ニ・アケリアでイバルに責め立てられて険悪な仲になったかと思ったが、そうでもなかったか?

「エリーゼ、落ち着きなさい。無闇に動かすな。治癒術は使えるな?」
「は、はい」
「なら大丈夫だ。イバルを治してあげなさい」
「はいっ」
『ヤルぞー!』

 ティポを抱いて集中に入るエリーゼ。石畳にイバルを囲む程度の円陣が光り、治癒が始まる。
 ほう、と周りから感嘆の声。エリーゼくらい幼い術士が珍しいんだろう。

「…何で、助ける」

 イバル。よかった、意識は失ってなかったか。

「俺が貴様に、言ったこと、忘れたのか」
「忘れてなんか、いません」
「なら…」
『だからってエリーは目の前でケガしてるヤツをほっとくよーな悪い子じゃないんだい!』

 エリーゼたちがイバルを治療してやっていると、人だかりから一人の女が飛び出した。

「どいて、医者よ! 手伝うわ」

 有難い。いくら有能な術士とはいえエリーゼは幼い。だが、医者なら治癒術の本職だ。

 エリーゼとその女医の治癒術で、イバルの傷は綺麗に消え失せた。
 起きる時に手を貸そうすると、ムキになって払われた。それほど元気であれば心配は要らないな。

「パパ、エリーっ。イバル、だいじょうぶ?」

 フェイとアルヴィン、ローエンとクレインが駆けつけてきた。

「この程度! 俺様には何ともな」

 ふぅ~らぁ~

『倒れたーっ』
「きゃー! イバルっ」

 ああ、バカ。いきなり激しく立つから。背中から石畳にダイブする前に後ろからキャッチしてやった。世話のかかる若者だ。

 イバルを支えたまま、留まってくれていた女医を顧みる。

「すまない。連れが世話をかけた」
「いいえ。ケガ人を助けるのは医者の使命ですから」

 女医はにこりと笑った。切れ長の目元。まっすぐ切り揃えた黒髪。男装。パーカーの胸飾りは、確かこの国の民族の印だったと記憶しているが。どこかで見た気がするのに思い出せない。

 ん? アルヴィン、どうした。いつになく真面目な顔じゃないか。

「イスラ」

 アルヴィンが静かな声で呼ぶや、女医は蒼白になった。

「アル……」
「よ。相変わらず俺の顔は見たくねえみたいだな」
「そういうわけじゃないわ。今までの癖がまだ抜けないの。あなたなら分かるでしょう」

 アルヴィンは苦笑して頭を掻いた。

「アルの知り合い?」
「まあな。紹介しとくわ。キタル族従医のイスラ。俺のお袋が世話んなってる主治医サンでもあるんだ。――イスラ。このダンナが今の俺の雇い主のヴィクトル。で、こっちの女の子はエリーゼ・ルタス。覚えがあるだろ」
「エリーゼ…ルタス…?」
「わたしのこと、知ってるですか」

 イスラの顔からざあっと血の気が引いた。

『わー! エリーの知り合いに会ったのなんてハジメテだね』
「うんっ。あ、あの、イスラさん。イスラさんは、わたしとどういうお知り合いなんですか」

 エリーゼに詰め寄られて、蒼い顔で唇を噛むイスラ……

 思い出した! アルヴィンのビジネスパートナーだったユルゲンスの、妻の名前。ずっと病気で臥せっているとしか聞かなかったからすぐ思い出せなかった。

 イスラは右手で左腕を抱えるようにして縮こまり、エリーゼと目を合わせまいとしている。本当に、この二人の間に何があったんだ?

「……ごめんなさい。メイスと交替の時間だから」
「あちゃー。そりゃ引き留めるわけにはいかねえなあ」
「後で……ちゃんと話をしに行くわよ」
「りょーかい。カーラ先生がいつも使ってる宿にいるわ。当番終わったら来てくれよな」 
 

 
後書き
 拙作ではイスラさんにも心境の変化がありました。 
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