青い冠
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第三章
第三章
「はい、これ」
「私はこれ」
皆それぞれ贈り物をしている。木彫りの人形だったり刺繍だったり。誰もが貧しいから贅沢な贈り物はない。しかしそれでも心のこもった贈り物ばかりであった。女の子達の贈り物が終わると次は男の子達の番であった。
「なあ」
あの羽帽子の若者が皆に声をかけてきた。
「何持って来た?僕はこれだけれど」
彼は羽であった。やはりそれが好きなようである。
「御前それ好きだな」
「だって羽って持ってるだけで幸せになれるじゃないか」
彼は言う。確かにその白い羽は綺麗で持っていると鳥になりそうな気持ちになる感じであった。
「だからこれにしたんだよ」
「そうなのか」
「で、御前は?」
羽帽子の若者は鼻の高い若者に問う。
「何持って来たんだ?」
「俺はこれさ」
彼が持って来たのは小さなブローチであった。木で作られた小さなブローチであった。
「それか」
「ああ。実はこれしかなかったんだよ」
彼は苦笑いを浮かべてこう述べた。
「お袋がさ。子供の頃持っていたものらしくて」
「それか」
「ああ。別にいいよな」
「いいんじゃないの?」
羽帽子の若者はあっさりとした調子でそれに返した。
「悪くないと思うぜ」
「そうか。じゃあ」
「それでフリッツ」
話はフリッツに及んできた。彼もそれに顔を向ける。
「御前は何をプレゼントするんだ?」
「何なんだ?」
「うん、僕はね」
彼はそれに応えて後ろに持っていたのを出した。それは青い花を束ねた冠であった。
「青い花?」
「ああ、これヤグルマギクじゃないか」
羽帽子の若者がそれを見た。
「それを束ねて作ったのか」
「そうなんだ」
彼はおずおずとした様子で答えた。
「どうかな、これで」
「そうだなあ」
彼だけでなく他の皆もそれを見て考える顔をした。それから答えるのであった。
「何かどうなるかわからないな」
「そうだよな」
鼻の高い若者も言った。
「とりあえずプレゼントしてみたら?」
「それからだよな、やっぱり」
羽帽子の若者が彼の言葉に頷く。
「ちょっとこれはどうなるか」
「けれど」
ここでそばかすの少女が言ってきた。
「これ、凄く綺麗よ」
「確かにね。それは」
その言葉には羽帽子の若者も鼻の高い若者も頷く。このことについて異論はなかった。その通りだと思ったのである。
「後はマリーネがどう言うかか」
「プレゼントしてみたらいいよ」
「うん、じゃあ」
フリッツはそれに頷く。そしてマリーネの前へと向かうのであった。
「フリッツ」
「うん」
やはりおずおずとした様子で彼女の前に出る。冠は後ろに持っている。あえて見せはしない。
「僕はね」
まだ戸惑いがある。その顔でマリーネに述べる。
「これなんだけれど」
そう言うとその青い冠を出した。そしてそれをマリーネの頭に被せたのである。
「あっ」
「どう、これ」
「これって」
マリーネはその冠を見上げた。見ればそれは彼女の赤い髪に見事にかかっていた。
「私への贈り物?」
「うん、他に考えられなかったから」
彼は答える。
「こんなのしかできなかったんだ。御免ね」
「御免ねって」
マリーネはその言葉を聞いて述べる。その間ずっとそのヤグルマギクの冠に手をやって上を見上げている。
「知ってた?私ね」
「どうしたの?」
「どうしたのじゃなくて。私大好きだったのよ」
まだ上を見ている。ヤグルマギクを。
「ヤグルマギク。それをくれるなんて」
「よかったの?」
「ええ」
あらためて答える。その顔はにこりと笑っていた。
「有り難う。このことずっと忘れないわ」
「そんなに」
「ええ。だからね」
マリーネはここで言う。
「私、知っていたのよ。貴方のこと」
「えっ!?」
フリッツはその言葉に思わず目を見開いた。それと共にギクリとした。
「何を!?」
つい聞いてしまった。これがバランスを崩してしまったことだということは彼は気付いてはいなかった。
「何をって」
マリーネはそんな彼に微笑み返す。そのうえで言う。
「わかってるでしょ?」
「あっ、うん」
答える。答えた時でもう勝負は決まってしまった。
「一緒になりましょう」
マリーネは言った。
「二人で」
「いいの?」
「ええ。これが貴方の気持ちだってわかったから」
それで充分であった。マリーネは今心に冠をもらったのだから。それが何よりの誠意だとわかっていたから。
「だから」
「じゃあ」
マリーネはフリッツの両手を受け取った。そして握る。青い冠は二人のこころを重ね合わせた。それはまるで魔法のようであった。
青い冠 完
2007・2・1
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