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魔法科高校~黒衣の人間主神~

作者:黒鐡
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九校戦編〈下〉
  九校戦四日目(3)×小銃形態の汎用型デバイスと雫の魔法

「・・・・一真さん、大丈夫?」

最後の順番に回された雫は、控え室(天幕の中なので厳密には室ではない)に走って来たがこれはワザとだ。一瞬にして移動してしまう事は、現代魔法では擬似瞬間移動と言う。瞬間的に移動したように見える高速移動術式で、空間を飛び越えるテレポーテーションの類の魔法ではない為、物理的に進入不可能な場所へ移動する事はできない。とされているが、一真がやるのは空間切断により次行くところを繋げているので物理的に進入不可能な場所へ移動する事も可能。

「問題ないから大丈夫だ」

そう答えると一真(ゼロ)はデバイスの最終チェックを始めた。しかも機器は全てゼロが入っている特別製なので、本来なら学校から持ってくる物で調整だが俺のはワンオフな機器なので持ってきた機器にワンオフ機器を繋げてからやっていた。機器のモニターを見て異常箇所がないので、ゼロ(一真)は雫へ目を向けた。

「分かっていると思うが、予選で使った機種とは全くの別物だ。時間は無いが、少しでも違和感があれば可能な限り調整をするんでな。遠慮なく言ってくれ」

一真(ゼロ)から受け取ったデバイスで一旦構えを取り二~三回、トリガーに指を掛けては離すという仕草を繰り返して、雫はデバイスを下ろした。

「そんなの無いよ、むしろしっくりきすぎて怖いくらい」

「それならいいがな」

ホッとした感じであるのか、一真(ゼロ)は緊張を緩めたが雫は随分気合の入った顔を向けた。

「二人とも勝ったんだよね?」

「まあな、俺の技術の腕がいいのかは分からないが」

二人と言うのは、エイミィと和美の方だ。雫と同じく決勝トーナメントに進んだ二人の調整を終えてからこちらに来たようなもんだ。俺の腕が本物なのは既に知っているから、あとは選手の力で準々決勝を勝ち上がったと思う一真(ゼロ)だった。

「それについては、一真さんの腕が本物と言いたいくらい。優勝する為のお膳立ては全て一真さんが整えてくれたんだから、あとは優勝するだけだよ」

「その意気だ、いつも通りやれば雫も勝てる」

少々気の早い優勝宣言だが、そこはあえて修正せずに一真(ゼロ)は雫を笑顔で送り出したのだった。一真本体はスピード・シューティング準々決勝を待っていたので、蒼い翼専用控室で試合を待っていた。今頃雫がやっているのではと感じ取ったから、こちらも遊びでやるつもりだ。本気でやったら俺の力が隠せられないからだ。

「いよいよ雫さんの出番ですね」

「コラコラ、美月が緊張してどうするの」

「だって、エリカちゃん、ドキドキしない?これで雫さんが勝てば、当校から三人がベストフォーに進む事になるのよ」

「あんまり興奮しすぎて倒れないようにね?雫は間違いなく勝ち抜くから」

自信たっぷりに断言した後で、深呼吸をしておきなさいと深雪に促された美月は素直に深呼吸を繰り返した。からかい混じりだったけど。

「・・・・これも一種のお約束かしら」

「・・・・美月さんって時々お茶目よね」

深呼吸の成果というより、深雪とほのかに全く心配のない様子が見られないのを間近で感じて、美月はやっと落ち着きを取り戻した。

「今度はどんな工夫を見せてくれるのかな」

幹比古の声が少し弾んでいるのを耳に留めて、エリカが「おやっ?」という表情を見せた。

「だな~、今度は何が飛び出してくるのか予想が付かないぜ」

「まるでビックリ箱のようだけど、本当のビックリ箱は彼が準々決勝からどうやるかがとても楽しみだよ。ただ光井さんのレースもあるから、どうなるかは小型ディスプレイで見れると思う」

「言えてる」

幹比古が魔法に対して前向きな興味を示すのは、随分と久しぶりに見えたエリカだった。他人の試合を見ただけではなく、一真からの精霊魔法の指導や名無しがやる現代魔法や古式魔法でもない物には、深雪以外は驚き振りだった。一真と幹比古との関係も精霊魔法の特訓から付き合ったのか、いったい自分の知らないところで何をしていたのか、口には出さないエリカだった。

「えっ?あれって・・・・」

「どうしたんだよ?」

「あのCAD・・・・・?」

エリカが思惑していた時に、調子外れな声によって視線を雫に戻した。幹比古の視線は、雫が襷掛けにストラップでぶら下げ、脇の下に抱え上げたデバイスに向けられている。小銃形態のデバイスは一見、ストラップがついている以外は、他の選手が使用している競技用の物と大差が無いように見える。だが実銃の機関部に当たる部分が、他の選手が使用している物に比べて幾分厚みを帯びていた。幹比古の流派では、元来デバイスをそれほど重視しない。未だに呪符による術式発動が主流だが、去年の事故で現代魔法の技術を学んだ所為か雫が持っているデバイスの事を気付いた。失った物は、事故後から回復しているが今でもデバイスはあまり使わない。

「あれって・・・・汎用型?」

「えっ、マジか?」

「えっ、でも、あれは」

「小銃形態の汎用型CAD何て聞いた事ないよ?第一、照準補助システムと汎用型の組み合わせ何て、技術的に可能なの?」

レオ、美月、エリカから、次々に上がる当然な疑問となったが、幹比古は自信を持って頭を振った。

「でもあの、トリガーの真上に配置されたCADの本体部分は、FLTの車載用汎用型CAD『セントール』シリーズに間違いないよ。セントールシリーズは、本体にインターフェイスを持たず外部の入力機器に繋いで使用するタイプだけどその為のコネクターでグリップと照準補助装置に繋いでいるんだ」

「よくお分かりですね」

ニコッと笑って振り向いた深雪の一言が、幹比古の観察を裏付けた。

「えっ?じゃあ、アレって」

「そうよ。エリカ。あれはお兄様のハンドメイドであり一から作ったお手製よ。汎用型CADで照準補助システムを利用する為にお作りになった物よ」

深雪が得意げに返した答えに、自身も特殊形状のデバイスをオーダーメイドして、その手間を知っているエリカは絶句していた。

「驚く気はさらさらないけど、一体何の為に?」

「無論試合の為ですよ」

簡潔に告げられたほのかの答えは、レオ、そして三人の疑問に対して十分なものではなかった。それに続く説明はなかったが、六人の視線が前を向いて競技開始のシグナルが点り始めていた。紅白のクレーが宙を舞うが、雫が破壊するクレーは紅。紅に塗られた三つのクレーが軌道を曲げ、有効エリアの中央に集まって衝突し、砕け散ったのだった。

「移動系・・・・いえ、違うわね。収束系?」

各校が本部に使っている天幕には、進行中の全競技を映し出す事が出来る大画面の多段階分割モニターが設置されている。そのモニターはほぼ一杯に使って、真由美と鈴音は雫の試合を観ていた。

「ご名答です」

今度は有効エリアの奥を飛び去ろうとしていた紅のクレーがエリア中央に吸い寄せられて砕け散った。

「今のは予選で使った魔法よね?」

「はい。収束系魔法と振動魔法の連続発動ですね」

白いクレーは二つずつ、衝突によって破壊されている。対戦相手の二高選手が採用している戦法は、移動系魔法により標的のクレー自体を弾丸として、他の標的にぶつけるオーソドックスなもんだ。オーソドックスであるが故に、有効性が過去の実績により立証されている戦法なので先ほどからエリア中央付近で白は頻繁に的を外している。外縁部ではほとんど集中させているから、本人の技術的な未熟の所為と言うより・・・・。

「有効エリア内を飛び交うクレーをマクロ的に認識して、中央部における紅色のクレーの密度を高める収束系魔法の影響で、白のクレーが中央部からはじき出されているのは分かるんだけど・・・・」

収束系魔法の基本形は、魔法式で定義した空間内に存在する、魔法式で定義した「情報」を持つ対象を、魔法式で定義した座標に選択的に集める魔法。これを物質に対して使用した場合、対象物質の密度を高めると同時に、対象物質以外の物質の密度を低下させる効果を発揮する。例えば真由美が使用したドライアイスの弾丸を作って飛ばす魔法も、十分な弾数を得る為に初期工程で二酸化炭素を集める収束系魔法が組み込まれている。この際、一箇所に集められた二酸化炭素がそれ以外の気体を押し除けて二酸化炭素密度の高い空間が作り出されている訳ではなく、指定された座標に二酸化炭素が流れ込み、同時にそれ以外の気体が流れ出しているからだと原作に書いてあるのに今一分からなかったので何回か読んでからやっと理解したようなもんだ。

この場合の二酸化炭素分子を赤のクレーに置き換えたのが、雫の使っている魔法である。有効範囲エリアの中央部に「紅のクレーが集まっている空間」に書き換えている収束系魔法。より具体的には、得点有効エリアをすっぽり覆ってなお余る二十メートル四方の空間を「中心部に近づくほど紅色のクレーの密度が高い空間」に改変する魔法。空間体積は巨大で、同時に飛んでくるクレーの総数が少ないので術者の負担はそれ程でもないし、改変対象は空間そのものではなく空間内に存在するクレーの分布だから。紅のクレーは魔法式による情報改変によってエリアの中央部へ引き寄せられるが、白のクレーは中央部を横切る軌道から外れる。二高選手が直接干渉しているクレーはこの副次的な干渉の影響を受けないが、二高選手がぶつけようとしている「的」の側のクレーは二高選手の魔法によるコントロールを受けている訳ではないので、雫の魔法の影響により軌道が変わって、その結果、白が的を外すという現象が起きている。スピード・シューティング決勝トーナメントのルールは、相手選手を直接攻撃しない限り、妨害は認められている。ただクレーが射出される間隔は不規則しかも短く、相手の邪魔をしながら自分の的を狙い撃つのはかなり難しいが、名無しはそれが可能なので決勝からそれを使う予定だ。妨害と狙撃で自滅するパターンが多いが、雫が使っている収束系魔法は相手の妨害と標的の破壊が表裏一体となった術式であり、中を巧みな作戦だと言える。この作戦は過去にも例があるし、一定効果を上げている。強い事象干渉力が必要となるため、選手を選ぶ作戦であり、真由美もこの戦術もしっかりと研究している。

「要するに、雫が使っている収束系魔法は紅のクレーの密度を上げて、有効範囲エリアに紅のクレーが集まろうとしている。白のクレーの密度を下げる事で、外に弾いてしまう。中央に来た紅のクレーを一気に振動系魔法で破砕するって事だな。それにあのデバイスは俺の手作り作品の一つでもある」

と一真は一人呟いていたが、真由美はまだ疑問があった。あと一真は収束系魔法は使った事が無いため、百科事典で何とか理解はしている。

「でも、最後の振動系が発動したり発動しなかったりしているのは何故?」

複数の標的が集まった場合は、そのまま中心部で衝突させて壊している。飛翔中の紅色クレーが一つだけの場合に限って、振動系の破砕魔法が行使されている。一つの魔法として構成されているならば、振動系魔法で標的を破壊する最終工程が発動したりしなかったりするのはおかしいと考えた。

「標的が複数の場合、振動系が発動する前に衝突するよう、スケジュール設定されているのかしら?」

口に出した推論を自分でも信じてないのは、口調自体が物語っている。時間差メリットを設ける事は無いのだから。

「会長、私は『収束系魔法と振動魔法の連続発動』と申し上げましたが」

少し人の悪い笑みを浮かべた声で、勘違いを正す。

「嘘!特化型CADは系統の組み合わせが同じ起動式しか格納できないはずよ!?」

「お疑いは最もですが、あれは特化型ではなく、汎用型CADです」

鈴音の回答は、更なる混乱を真由美にもたらした。

「そんなのあり得ない!汎用型CADと特化型CADは、ハードもOSもアーキテクチャからして違うものよ。そして照準補助装置は、特化型のアーキテクチャに合せて作られているサブシステム。汎用型CADの本体と照準補助装置を繋ぐ事何て、技術的に不可能なんじゃない?」

真由美の語勢は徐々に落ち着いたものになって行ったが、紅潮した頬にまだ醒め切れぬ興奮の影が窺われる。鈴音の笑みも、穏やかで大人びた感じで相手を落ち着かせた様な物に変わっていた。

「それについては俺が答えようじゃないか?」

そう言って会長達がいるところに姿を現したのは、蒼い翼特別推薦枠である名無しだった。それに肩に担いでいるのは、雫と同じ機種を持ってきたのだった。

「実際にこれを見れば分かるが、不可能を可能にしたのは一真の技術じゃない事だ。一年前にドイツで発表された技術を使って一から作った一真ハンドメイドのデバイスだ」

そう言ってから、名無しが持っていたのは会長に持たせると本当に汎用型のようでとても驚いていた。

「一年前なんて、ほとんど最新技術じゃない。それとなぜ名無し君もこれを持っているの?」

「何故って、さっきの早撃ちで使ったからに決まっているでしょう。俺は実際は会場にはいなくて、狙撃手のようなところで撃ってましたからな。それとこの程度で驚かない方がいいですよ、会長さん。市原先輩は口止めをされていますが、もっと凄い最新技術を一真は用意してますから。ま、俺が使ったのもあまり理解されてないようですな」

「ハァ・・・・まあ、秘密というのなら訊かないけど。でも、リンちゃんや名無し君は知っていて、私には話せないなんて、チョッとショックかも」

「会長は選手ですから。きっと彼は、会長を動揺させたく無かったのでしょう。それに名無し君も彼ですから知っていて当然ですよ」

「まぁね・・・・。こんな術式があるなんて事前に知らされていたら、確かに動揺してたかも。それより名無し君が使った魔法を教えてほしいんだけど?ってあれ」

そう言って名無しの方を向いたらいなくなっていたし、いつの間にか汎用型のデバイスもなかったのでいつの間にと思いながら名無しは消えたのだった。実際は会長が話している間に取り上げてから空間切断で、蒼い翼専用控室に戻っていた。残り時間はわずかだったが、勝利は既に確定していた。

「(残り三十秒)」

この二週間、何度と無く繰り返した積み重ねた練習より体感時間で五分の競技時間を正確に測れるようになっているのも、全ては一真の技術と間隔を練習してきたお陰である。ゴーグルに映し出した青い球体の内側に紅のクレーが飛び込んだ瞬間、デバイスの引き金を引いた。標的は速やかに砕け散る。保護ゴーグルを照準器として利用する事は大会規定で認められている。むしろ、そのようなギミックを仕込んでいない選手の方が稀である。標的を狙いをつける為ではなく、空間を仕切る為にヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)の機能を組み込んでいるのは、雫だけだろうではなく一真くらいだろう。何から何までオーソドックスなノウハウとは異なる仕掛けを提案してくる一真に、雫も最初は戸惑いはした。でも実際競技経験がない事が逆に幸いしたのか、慣れるまでに時間はかからなかったし、慣れてしまえばこれ以外の装備、これ以外の術式が考えられない程、雫にフィーリングにピッタリとマッチしていた。ホントは一真が提案したのではなく、月中基地本部にいる達也からの提案を聞いていたのでそのままとなった。

雫は楽に魔法行使しているので、ストレスは感じない。元々細かい制御は向いていない、という事は自覚している。雫がデバイスエンジニアにリクエストしたのは、細かな設定をスムーズに行えるようアシスト機能だった。速度は犠牲して魔法を照準としてから、確実に威力を制御できる事をデバイスを求めていた。速度は自分の処理能力で補う自信があった。一真の組み上げた術式は、細かな設定を不必要としたもので短所を補うのではなく、長所を最大限に活かす事をコンセプトとしていた。雫の高度連続発動可能とする処理能力と、大規模な魔法式を構築するキャパシティを最大限に発揮する為の物であった。

彼女が手にしているのが、照準補助システムと汎用型デバイスを繋いでしまったという事に驚いていたが、それ以上に起動式を処理する速度に驚かされた。汎用型は、処理速度において特化型に劣るという事は常識というよりかは構造的な条件でもある。汎用型デバイスと特化型デバイスは、ハードもソフトもアーキテクチャからして異なる。両者の違いは、専用プロセッサと汎用プロセッサの違い、あるいは専用スパコンと汎用スパコンの違いに似ている。中枢となる演算装置の性能が同等なら、処理速度においては汎用型は特化型に決して敵わない。その差は通常明確に実感できるレベルであるが、雫が使っているデバイスは特化型に劣らぬ速度を発揮しているからだ。

「(あと五秒)」

標的が飛び込んで来たら、引き金を引き魔法発動して、標的が砕け散る。処理速度は、予備で使った特化型と比べても、ほとんど遜色が無い。一真はそのカラクリを「二種類の起動式に限定したから」と言っていたように競技専用だから可能だが、日常に使用するデバイスには使えない裏技とも言う。詳しい理屈は雫には理解してないし、一真でも本物の達也に教わらなかったら理解しないままこの外史に来ていただろう。雫は理解する必要はないと思っていて、魔法は道具でありデバイスも道具だ。道具だから使いこなせればいい、それ以上の事は専門家に任せておけばいいし、最後の二つは予選で使った魔法を使うまでもなくループキャストされた収束系魔法で砕け散ったのだった。

「パーフェクト」

自分の成績を口に出していた雫は、確認と勝利の笑みを浮かべていた。正午になり、第一高校の天幕では浮ついた雰囲気に満たされていた。 
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