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寄生捕喰者とツインテール

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流れる日々

「……またやっちまった……」

『クヒヒ……ああや―っちまったネェ、相棒(バディ)ヨォ』




 ホークギルディ襲来から三日後。


 もっと詳しく言うならば、ゴリラギルディとホークギルディに続いて、また現れたエレメリアンである蛙の様なフログギルディを瞬殺した翌日。

 その戦闘では三度目の正直とばかりに多少の人格制御こそできたが、大部分は今までの食欲万歳少女のままで闘い、過程を見れば成長したと称えられど、結果だけみれば余り変わっていない。


 もっと意識を強く持たねばならないと、腹減りを埋めるためにパンを口へ詰め込みながら、自身を戒める瀧馬。

 しかしやっぱり気になっていたか、途中で笑い声を洩らしたラースへ不満の色を隠さない声色で話しかけた。



「楽しそうに笑いやがって……」

『別にいじゃねぇカヨ! つーかやっぱり俺は吹っ切れる事にしたノヨ! 相棒が力を制御できるマデずっと真面目でいるのはやっぱ無理だワナ! 元々そんながらじゃあないシナ!』

 

 如何やら今まで無理に常識人張りの環礁や、多少ながら重くシリアスな空気でも作っていたか、ラースはそれまでの沈んだ様子を全く窺わせない喜色を持って、クハハと実に五月蠅げな大声で笑い出す。その音量たるや、周りに聞こえないのが不思議な程だ。

 ちなみに何故ラースの台詞が瀧馬意外に聞こえないのかと言うと、なんでもエレメリアンは精神生命体なので発声器官をもたず、テレパシーの様な物で会話をするらしい。単純感情種のエレメリアンともなれば、それを一人だけを狙って発する事も可能なんだとか。

 勿論、趣味趣向種のエレメリアン……アルティメギルの者達でも、属性力をある程度極めた強者であれば可能だとの事。



「テレビに映っていないだけいいと思うべきか……」

『そういや今朝も映ってたよなテイルレッドハ。バトルシーン諸々飛ばして全部情けない姿オンリーデ』

「……是が非でも愛玩動物(マスコットヒロイン)から外したくないんだろうな」

『いやはや難儀なこっタネ、テイルレッドちゃんハヨ! 人事ってのは大いに笑えルナ!』

「趣味悪いぞお前」



 実に嫌そうな顔で瀧馬は言う。

 とはいっても、嫌悪感を感じている原因はラースそのものでは無い様で、眼を細め決心すべきか否かという真剣な空気を醸し出し、意を決して少しだが周りへ視線を向けた。

 そしてすぐに、真剣な表情は不快感たっぷりの表情へと様変わりする。


 瀧馬が視線を向けた先、そこには多数のテイルレッドファン……以前にもそう評価したが、もはやテイルレッド教徒と言っても何ら差し支えない集団が幾つも出来上がっていた。

 まあ、別に好きだから応援するとか、待ち受け画像をテイルレッドにするとか、グッズが出たから買うとか、そんな事は瀧馬も一々咎めないし、好きであろうが嫌いであろうが本人の勝手なのだから不快感を露わにもしない。



 問題は前にも言ったように、その過剰すぎる信仰、またはTPOを考えない態度にあるのだ。



 周りがテイルレッドのファンだらけだからといって、瀧馬の例があるように全員がそうではないのが当たり前。なのに顔を見るも無残という言葉がこれほど的確にはまる事の無い、そんな凶悪な顔を堂々と作っていれば、常識人にとってこれほど不快に思う事は無い。

 しかも一人二人では無く数十人規模。これはもう気が狂う。本当は今すぐにぶん殴ってでも止めさせたいと思っている瀧馬も、そんな事をすれば多勢に無勢(物理ではなく精神的)でどうなるか分かっているので、不快感を表に出しているだけに止めている。


 好きである事=その為なら何をやってもいいというのは大間違いである。というか、尻を触ってテイルレッドと呟き、ニヤケ顔になるのは冗談抜きで止めておいてほしいものなのだが……



「……俺が可笑しいのか?」

『いーや相棒は正常だろウヨ……問題は世界ダ、世界。各国首脳人でさえ“我々はテイルレッドに対して支援を一切惜しまない”何て言うぐらいだからナァ』

「……そんな事を言う前に属性力変換技術を研究した方が良いってのが分からないってのか、この世界は」

『研究しようは幾らでもあるからナァ。でもやっぱあれだろアレ! 面倒臭い事は省いてアイドルを応援したいって心情ダ! 何時もの事サ!』

「そんな事やってたらテイルレッドが敗れた時本気で取り返しがつかなくなるぞ……」



 瀧馬は世界の情勢に呆れると同時、実はこの事も危惧していた。


 今の地球ではテイルレッドへの憧れからか、男子はテイルレッドに惜しみない、というより狂気レベルまで達する愛を注ぎ、女子も同じく愛を注ぐものの他、同じツインテールに進んでする者も増えてきている。

 ラースによれば、属性力はただ何かをやり始めたり継続させるだけでは身に付かず、あくまでそのものに対する深い情熱、または愛情が無ければ決して芽吹かない物なのだとか。

 つまり現時点でのこの世界では、これだけの人気を誇るテイルレッドに感化され、ツインテール属性がかなり芽吹いている且つ熟成されている可能性が非常に高い。


 その分、ツインテール属性を源に戦う戦士である、テイルレッドやテイルブルーは大いに戦いへ励めるであろう……だが、この状況は裏を返せば彼等が敗北してしまうと、たわわに実った属性力を奪い取れるばかりか、巨大な絶望を世界中へ与え、その後のツインテール以外の属性力の略奪も容易になってしまう事に他ならないのだ。


 勿論瀧馬とて、敗北してしまった時の保険の為に汚物の如く嫌われた方が良い、などとは思わないし、感情を力へと変えるのがツインテイルズなのだから、嫌われ続きでは興も乗らないので人気は出来るだけ持っておいた方が良いであろう事も事実。

 ……しかし、皆に愛され期待を背負うといった状況が危険である事にも変わりは無く、同時にここまで浸透してしまった人気は、最早瀧馬一人でどうにかできるモノでは無い事も自明の理であった。



「……アルティメギルの連中は狙っているのかもな」

『熟成したツインテール属性の刈り取りヲカ?』

「ああ。ニュースを見ても余りにアッサリ倒されているし、ホークギルディの次に来た蛙野郎は、前の2体に比べて極端に弱かった。それも踏まえると………もしかして、な」

『だがな相棒。ここまで来ちまったらもう戻れネェ。俺らが大暴れしたってツインテールは廃れなイシ、テイルレッドをぶっ倒してもそれはアルティメギルの連中に協力することになる上、単純にメリットがネェ』



 何より、変態の集まりであるアルティメギルに結果的であれ協力することになるのは、瀧馬も当然嫌だしラースは何よりプライドが許さない。

 だからこそ、彼等は自分達がやるべき事を粛々と実行し続けているのである。……危機感が薄いとはいえ、食べなければ命にかかわるのだから。


 しかし、もし瀧馬の食欲が彼女らのツインテール属性に反応してより活性化してしまったら、それこそ意思とは関係なく……考えた情景がその先に至ったか、瀧馬はゆっくりと頭を振って否定した。



(そうならないように努力すればいい、抑制が利かなければせめて倒さなければいいんだ……)



 難儀且つ厄介な事だと、瀧馬が溜息を吐いて再び袋をあさって、今度は銀チョコパンを頬張った時、ふと前を歩く二人……総二と津辺の様子が少しばかりおかしい事に気が付いた。


 何処となく挙動不審とでも言えばいいのだろうか。答えの出ない宿題をやっている時の様に、頭を抱えたり時にひねったり、探偵が良くやる顎に手を当てる動作を真似してみたり、とにかくどうにか問題の答えを出そうとしている。


 二人してそこまで何を悩んでいるのかと、瀧馬は近寄りがたい行動の珍妙さを入れても、逆に気になってしょうがなくなった。



『思春期特有の悩ミ……なわきゃねーわナァ、何せ二人して悩んでんだかラヨ。なーに悩んでんのかネェ』
「……」



 僅かに……ほんの僅かにだが、瀧馬はある“疑問”が当たりであろう可能性が、より強くなっているのを感じていた。

 それは、以前総二が余りにもテイルレッドに興味が無い事を訝しみ、二人が奇妙な会話を交わしている事に疑い、よく見てみると彼等の腕に付いている派手なブレスレッドを誰も目に留めず行きかう様子を見て、とある“疑問”を抱いた事だった。


 “まさか、彼等は……観束総二と津辺愛香は―――――『ツインテイルズ』なのではないか?”


 ……そういった、事実無根に近い、戯言とも言える疑問。


 しかし瀧馬は、二人が悩み苦しむ光景を見て、もしかすると当たりの色が濃くなったかもしれないと思いはじめているのだ。



(突拍子も無い事だが……アイツらが悩んでいるのは、戦場に現れる紫ツインテールの少女……俺の正体が未だに掴めない事じゃあないのか……?)



 そう考えれば、彼等の悩みようにも納得はいく。

 敵か味方かも分からない、エレメリアンを喰う、実力は未知数、自分たちよりも早く現場へ到着できる、謎の属性力を持つ……考えうるだけでもこれだけ悩める要素が存在し、敵と戦わねばならないのに第三勢力が現れたという事もあるのだから、奇怪な行動を取っても不思議ではない。



(……考え過ぎ、だといいけどな)



 疑問に辿り着いた一番有力な情報は、テイルレッドの話題を異常な程のツインテール好きである総二が避けている事だ。
 他にもあげるなら、謎の銀髪少女の存在、類を見ない程のツインテール属性の強さ、そして自分が性転換を体験したという事象。



 足早に彼等の横を抜けていく瀧馬。


 ……その所為で気が付かなかった。





「やっぱりエレメリアンってのが有力かもな……や、でも、同じエレメリアンなのに何で食べちゃうんだろうな」
属性力(エレメーラ)を糧にするなら同族でも同じ、って事かも」
テイルレッド(・・・・・)の時の対応でも気を使うってのに……」


 重要で、決定的な一言を彼が言い放ったのを。

















 午前中の授業を終え、陽月学園は昼休みを迎える。

 テイルレッドテイルレッド(たまにツインテール)五月蠅い連中から逃れるために、瀧馬は普通は立ち入り禁止とされている屋上へ、何のためらいも無く踏み入った。

 身体能力が人間を超えているので、普通は乗り越えられない高い柵も悠々と乗り越えていき、パンが仰山詰まった袋を置いて座る。

 燦々と降り注ぐ陽光は、春というこの季節特有の熱くもなく物足りなくも無い、温かな日差しであった。


 まずはこれだと、妙に大きいメロンパンを取り出して齧りつく瀧馬へ、ラースが話しかけてくる。



『さて相棒! 俺のおしゃべりに付き合って貰ウゼ! 授業中はおしゃべり出来無くて退屈だったからナア!』

「嘘つくんじゃあねぇ。何回か話しかけてきてたろうが」

『話しかけただけだろうがイヨ。それじゃあおしゃべりとは言わンゼ』

「……屁理屈言うんじゃあねぇよ」

『そう邪険に扱うなッテ。相棒にもメリットのある話だかラヨ』


 ラースはそういうと、瀧馬がメロンパンを食べ終えたのを見計らって、高揚感隠さぬ声色で彼にもメリットがあるらしい話を、クヒヒというお決まりの笑いの後にし始めた。



『相棒は空気を取り込み圧縮して放出スル“風砲暴(ふうほあかしま)”は知っているヨナ?』
「……アレが皮膚呼吸の強化版だってのが正直まだ信じられないんだが……」
『そりゃ人間やらそこらのエレメリアンの奴らなんゾト、全く規模も威力モ、仕組みからして違うかラヨ。けど事実ダ、皮膚呼吸みたいなものだってのハナ』



 “風砲暴” は、砕く風と斬る風が練り込まれた螺旋状の嵐を、幾重にも束ねて大放出する技。その威力たるや正に本物の嵐にも匹敵するが、そんな技の仕組みが皮膚呼吸と同じだとは露程も考えられない。
 左腕の三方から直線状の吸引口をせりあがらせて溝を作り、そこから空気を取り込んで排出するという事を聞けば、まあそれとなくは納得できなくもないが……何にしたって一度聞いたぐらいでは信じられない。



「だが話の核はそこじゃないんだよな? 勿論」
『オウ、本題はここじゃあ無ク……放出方法がまだいくつかあるって事ダ。即ちまだ出せる技が存在するって事ダ!』
「……何……!?」


 掌にライフリングが施された発射口を形作るだけでも仰天モノだというのに、ラースはまだやれる事があるのだと、空気を取り込んで嵐の如く放出するだけが取り柄では無いと、そういったのだ。

 そりゃ普通は驚くだろう。



『けどちーとばかし問題があるんだヨナ、コレ』

「問題? 何なんだ?」

『嘘かと思うかもしんねェガ……空気を取り込み放出するってのハナ、元々俺には無かった力なノサ。俺本来の力とはだいぶ違うノヨ』

「……お前の力じゃあないなら一体何なんだよ」

『融合した事により新たな力が生まれタト、そう考えるしかないワナ。何せ人間とエレメリアンの融合なんざ俺らが初だろウシ、相棒の細胞は現時点ほぼ俺ら側に近イシ』

「まじか……」

『マジダ』



 自分にとってはちょこっと悩む程度でも、瀧馬には衝撃的な告白であったのは自覚していたか、ラースは咳払いをしてから再開した。



『それデダ……だからこそ俺には詳しい力の全容が分からネエ。だから使った際、使い方とかは大まかには分かっても、もたらす効果が如何なのか、どうなるかも分からないんダヨ』

「なるほど、それが“チートばかし”な問題なのか」

『問題中の問題ダナ。次の戦いで試さんことには分かりゃしないから使うしかなイガ……』

「充分用意が出来てから使えと」

『そーゆーこッタ。相棒だっていやダロ、何も分かって無いのにいざ発動して見て大破壊起こしちまう力だっタラ』



 ラースは次の戦いへの準備をする為に話したかったようだ。確かに、瀧馬にもメリットのある話だ。食欲全開で後先考えずに使ったら、そこが街中であった場合大惨事を引き起こしてしまう。

 そんな事、ラースは兎も角瀧馬は絶対にしたくは無いだろう。

 それを防ぐ事が出来て、しかも新戦力の存在も知れたのだから、良い話ではある。


 しかし、そこで瀧馬はある事に気が付いた。


「いや、なら早速今日、裏手の森で試してみればいいだろ」

『ア、そうかその手があっタゼ』



 当たり前中の当たり前の、余りに簡単な解決策程思いつかないモノなのか……灯台もと暗しとはよく言ったものである。

 だれにも迷惑がかからない訳ではないが、少なくとも街中でぶっ放すよりはかなりマシだ。



 そうと決まればと瀧馬は放課後の予定を頭に入れ、袋の中に入っていた何個目かも分からないサンドイッチを口に中へ放り込んだ。


 しかし、食べ終わるのが早かったか昼休憩はまだ半分以上も残っており、且つ陽月学園の昼休憩は意外と長いので、瀧馬暇つぶしに悩む事となった。



「今の内にワープ機能を使って試しちまうか……?」

『無駄な時間は費やさネェ、っテカ。マ、無駄にダラダラするよリャマシだロナ。それじゃあ――――ム!?』

「……どうした!?」



 ラースが呻くように驚きの声を上げ、瀧馬は半ば予想は付いているが念のため問いかける。



『とっても良い情報ダゼ相棒。飯と練習がいっぺんに出来ラァ!』

「来たのか!」

『おオヨ! そうとモヨ! 変態共のお出まシダ!』




 十中八九そうであろうと予想していた事が、今やはり正解であった事を瀧馬は知る。アルティメギルの連中が現れたのだ。

 ラースはエレメリアンが放つ波長を感じ取れるので、例え属性力が活性化しておらずとも察知できるので、恐らく活性化を合図にしているツインテイルズよりも現場に付くのが格段に早い。


 瀧馬は周りをよく確認して、屋上の真ん中あたりへ行くと眼前で拳を握る。



『コネクトォッ!!!』

「コールズセンス!!」



 蠢く生物の如きオーラが包んだかと思うと、次の瞬間には何時もの紫色のモンスター少女の姿へと様変わりしていた。



「よし、喰う……いくよラース」

『やっぱ口調も幼くなっちまうのナァ。マ、バレ辛くていいけどヨッ!』



 それだけ言うと、光も音も予兆も無く、モンスター娘と化した瀧馬は屋上から消え失せた。



 何時も以上に明確な目標を持ち、瀧馬は戦闘へと向かったのだった。











 しかし―――――







「あ、あああっ!? あの子は!?」
「あいつ……また来たの!?」


「……ん?」

『ア?』




 今回は何時もの様に、順調とはいかなそうだ。


 
 

 
後書き
原作主人公s´とご対面です。 
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