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雨宿り

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第十三章


第十三章

「傘な。だから」
「一緒にってこと?」
 御木本の眉の形が変わった。
「それって。加藤君と」
「駄目か?」
 加藤は彼女の言葉を受けたうえでまた問うた。
「まだ雨宿りをするか?」
 これは一つの勝負だった。彼は勝負を仕掛けながら内心緊張していた。これで駄目なら全てが終わる、覚悟を決めての言葉だったのだ。
 御木本は答えない。目がきょとんとして戸惑うものになっているのが見える。その目を見てこれは駄目かと内心思った。一瞬が永遠に思える、そんな時だった。
 だが。御木本は呆然としてしまってついついやや空けてしまっていたその唇を動かしてきた。そうして発してきた言葉はというと。
「ええ、御願い」
「いいのか」
「雨宿り。飽きたわ」
 今度は微笑んでの言葉だった。
「だからね」
「飽きたのか」
「雨宿りは飽きたけれど」
 このことをまた言う。
「けれど。ずっと飽きないものはあるわ」
「それは何なんだ?」
「まずは本屋にいること」
 最初に出した話はそれであった。
「次に本や漫画を読んでること」
「それもか」
「ええ。それで最後は」
「最後は?」
「加藤君と一緒に傘に入ることよ」
 微笑みはさらに強いものになった。顔全体で微笑んでの言葉だった。
「一緒にね。二人でね」
「それは飽きないのか」
「今これからはじめるけれどそれでもずっと」
「はじめてでもずっとか」
「ええ。ずっとね」
 また加藤に言うのだった。
「一緒にね。雨の中でも」
「わかった。それじゃあ行くか」
「ええ」
 話はこれで決まった。二人は並んで歩いてそのまま店の外に向かう。店の外に出ると左手にいる加藤が鞄からその折畳み式の傘を取り出して。
 傘を開いて外に出る。御木本がその中に入る。こうして二人は並んで寄り添い合って雨の中を歩きはじめた。もう雨宿りをすることは全く考えずに。二人で歩いていくのだった。


雨宿り   完


                  2009・3・22
 
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