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ファーストデート

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第五章


第五章

「ひょっとして」
「じゃあ何でここにいるんだ?」
「よし、そこで楽しく声をかけるんだ」
「それに応える」
 彼等はやはり周りを見ずに言い続ける。
「ムードを作ってリードすればいいんだよ」
「可愛く笑ってね」
 大声にまでなっている彼等の周りでは。
「ムードはわかるが」
「可愛く笑う?」
 白いユニフォームの彼等が首を傾げていた。
「何言ってるんだ?一体」
「今マリーンズの攻撃中だぞ」
 こう言って首を捻った。
「ここは元気よくだろ?」
「何でそんなこと言うんだ?」
 やはりそれを不思議に思っていた。周りはそんなふうだった。しかし彼等はそれにずっと気付かずに騒ぎ続けているのであった。
「よし、やれ!」
「受けるのよ!」
 瞬が不意に梓の手に自分の手を触れさせた時だった。
「そこで一気に背中を抱くんだ!」
「わかってるじゃない!」
「やっぱりおかしいな」
「背中?」
 マリーンズサポーター達はここでまた首を捻った。
「何言ってんだ、この連中」
「おい」
 あまりにも妙に思ったので彼等に声をかけた。
「あんた達マリーンズファンか?」
「何にし来たんだ?」
「何って俺達が?」
「私達が?」
 ここでもお互いのことには気付いていない男連中と女連中であった。それぞれ周りに来ているマリーンズサポーター達に対して返した。
「マリーンズファンって」
「阪神ファンですけれど」
「だったらもう少しマナーをよくしてくれないか?」
「一塁側に入れなかったのはわかるけれどな」
 彼等はとりあえずは紳士的に彼等に言った。確かに一塁側は満席である。阪神主催の試合ともなればその熱狂的な阪神ファンが集うから当然であった。
「それでもな。ここはロッテの場所だからな」
「それは守ってくれよ」
「あっ、すいません」
「失礼しました」
 彼等もマリーンズサポーター達の言葉にやや恐縮して応える。
「それじゃあここは」
「落ち着きますんで」
「ああ、そうしてくれ」
「巨人ファンなら命はなかったぜ」
 他の球団から憎まれ忌み嫌われているという点において巨人程素晴らしいチームは日本のスポーツ界には存在しない。それは何故か、巨人が日本のスポーツ界の超悪性病原体でありまさに癌であるからだ。言うならばあの愚劣な独裁国家北朝鮮のようなものである。
「応援してもいいけれどな」
「節度は守ってくれよ」
「すいません、それじゃあ」
「大人しくします」
 彼等はこう言って仕方なく潜望鏡を収め静かになった。それでも今度は今度でメールをひっきりなしに打って連絡をしようとしていた。
「だからな。もうキスにいっていいからな」
「ここで何かあってもムードで許されるからな」
 男連中はひっきりなしにメールを打つ。
「いけいけどんどんなんだよ」
「やってやれ」
 女連中も見れば同じようにメールを打ちまくっていた。
「肩を寄せてね」
「コロンの香りを入れてあげるのよ」
 こんなことまで指示を出すのであった。
「いい香りはそれだけで相手をノックダウンさせるから」
「いいわね」
 こんな調子であった。とにかく応援そっちのけで彼等のことばかり考えていた。しかし当の彼等はメールのことも気付かず気楽に楽しんでいた。
 
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