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ファーストデート

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第三章


第三章

「いいか、あそこだ」
「あそこにしろ」
 友人達はこう彼に言うのであった。
「あそこが一番いいんだよ」
「待ち合わせの場所にな」
「何でなんだ?」
 しかし当の瞬は全くわかっていなかったのだった。
「何であの喫茶店なんだよ」
「馬鹿、店の内装がいいからだよ」
「だからなんだよ」
 彼等が言う理由はそれであった。
「洒落てるだろ?ああいうのがいいんだよ」
「女の子に人気がある店なんだよ」
「だからかよ」
「そうだよ。しかも来たらな」
「まずは紅茶の一杯でも御馳走してやれ」
 そうして紅茶についても言うのであった。何かを御馳走することもまたデートにおいて重要であるということも彼等はわかっているのだ。
「わかったな、レディーファーストでな」
「それで行けよ」
「男女同権じゃないのかよ」 
 瞬の言葉はここでも要領を得ないものであった。
「世の中ってよ。そうじゃなかったのかよ」
「わかってねえな、こいつ」
「全くだ」
 彼等はわかっていたが瞬はわかっていない。そういうことだった。
 しかしそれでもだった。彼等は何とか瞬をその喫茶店に行かせた。そうしたうえで今度は携帯のメールで彼に連絡するのであった。
「いいな、席はそこだ」
「そこで待ってろ」
「席まで言うのかよ」
 瞬は言われた席に座っていた。そのイギリス風のダークブラウンの色彩の落ち着いた店の中は人形もあればぬいぐるみも置かれ時計もまた古風でアンティークな内装である。実際に店の中にはかなりの数の女の子もいて店の内装そのものも楽しんでいた。
 その中の窓側の席に座っていたのであった。彼はそこで自分の携帯を見ていた。メールがそれこそ分単位でひっきりなしに来る。
「来たか?」
「まだか?」
「来たぞ」
 瞬は一言で彼等にメールしたのだった。
「今な窓側から見える」
「そうか、じゃあ挨拶しろ」
「店の中に入ったらな」
「ああ、わかったさ」
 その梓が店に入ってきたので右手をあげて挨拶をする。梓は黄色いタンクトップに青のデニムのミニスカート、それに白いサンダルという格好だった。右手には虹色のブレスレットがあり首には銀のネックレスがある。女の子達に言われた格好そのままであった。
「可愛くね」
「そしてさりげなく色っぽく」
 女の子達の要求はかなり厳しいものであった。
「男の子にそれを見せるのよ」
「そしてハートを鷲掴みよ」
「鷲掴みなの」
「そういうこと、いいわね」
「わかったら行きなさい」
 こう言って彼女を送り出したのである。彼女達もまた携帯で梓と連絡を取っている。彼女は店の中に入ると一旦その携帯をバッグにしまった。そのうえで彼の挨拶を受けた。
 そして席に座るがここで瞬は。丁度席に来たウェイトレスに対して注文するのだった。
「あっ、ええと」
「紅茶だ、そこで」
「行け、注文しろ」
 駅前の本屋のところから見ている男連中が喫茶店の窓の方を見ながら必死に話をしていた。
「そこでだ、紅茶だ」
「ケーキもつけろ」
 そんな話をしながら携帯のメールを送る。なお今彼が携帯を見ているかどうかまでは考えてはいないのであった。しかし必死なのは間違いなかった。
「いいな、それで彼女のハートをゲットしろ」
「男は気配りだ」
 そうして女連中も同じだった。彼女達は駅前の噴水のところに隠れながらそのうえで男連中と同じ様にメールを打ちまくっているのだった。
「もっと仕草を可愛くよ」
「キャピって感じよ」
「脚も腕もさりげなく見せて」
 やはり彼女達も梓がメールを見ているのかどうかは考えていなかった。
「それでハートを鷲掴みよ」
「絶対に離さないのよ」
 噴水に隠れて口にも出しているので本屋でも噴水のところでも行き交う人達に思いきり不審な目で見られていた。本人達は気付いていないが。
 
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