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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第十一話 生粋のトラキチその四

「あの」
「はい、何でしょうか」
「仮面だけれど」
 その仮面のことを言った、小夜子さんに。
「外してくれるかな」
「わかりました、それじゃあ」
 こうして何とかだ、小夜子さんはだ。
 仮面を外した、すると周りは今度は。
 仮面から出て来た小夜子さんの顔を見てだ、おおっと声をあげて言った。
「おいおい、可愛いで」
「滅茶苦茶美人さんやんけ」
「というか何で仮面被ってたんや」
「別嬪さん登場やな」
 場は一変した、そうして。
 小夜子さんが座るとだ、ファンの中で男の人達が彼女のところに寄ろうとしていた。けれどここでだった。
 美沙さんがだ、その彼等にこう言ったのだった。
「ここはナンパのところじゃないでしょ」
「阪神の勝ちを観るところ」
「そう言うんやな」
「そうそう、女の子じゃなくて阪神観よう」
 こう彼等に言うのだった。
「ここはね」
「そやな、そうやったらな」
「ここはな」
「お嬢ちゃんやなくて虎観よか」
「もうすぐはじまりやし」
「そうしよか」
 こう言ってだ、あっさりとだった。
 どの人もそれぞれの場所に戻った、その一部始終を見て。
 僕は美沙さんにだ、唸る様にして言った。
「対応上手だね」
「まあこうしたことはね」
「得意なんだ」
「うん、普通にね」
 そうだというのだ。
「バイトしてたんだ、アイスクリーム屋さんで」
「そこで身に着けたんだ」
「お客さんが多いと捌かないといけないじゃない」
「ああ、そういえばそうだよね」 
 殺到するお客さんをどうにかしないと営業に支障が出る、僕もこのことについては知っているつもりだ。それで美沙さんの言葉にも頷いた。
「言われてみれば」
「そうだよ、だからね」
「今だって収められたんだ」
「相手が阪神ファンでもフーリガンでもね」
 サッカーのそれでもというのだ。
「普通にないから」
「そうなんだ、それじゃあ」
「これからもこうした時はね」
「美沙さんがだね」
「あたしが収めるからさ」
 実際にというのだ。
「任せてよ」
「それじゃあね」
「さて、じゃあそろそろだね」
 美沙さんは左手の腕時計も見てだ、そのうえで僕に言って来た。
「試合だね」
「プレイボールだね」
「勝つかね、今日は」
「是非勝ってもらわないと困る」
 留美さんは腕を組み強い声で言った。
「ここは正念場だ」
「阪神にとってね」
 僕は留美さんのその言葉にも応えた。
「この試合は重要だね」
「小夜子殿には悪いがだ」
 広島ファンである小夜子さんへの気遣いも見せてだ、留美さんは言う。
「この試合は勝たせてもらう」
「巨人は最下位だけれど」
 今年も百二十敗ペースだ、本当に巨人が弱いと気分がいい。あのチーム程負けて嬉しい存在はないと思う。 
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