一反木綿
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第二章
それでだ、風呂場で裸のまま 女房を待った。そして。
そのうえでだ、かよは白い布を持って来てだ。そのうえで徳兵衛に言った。
「家の中に落ちていたでごわすよ」
「?家の中にでごわすか」
「御前んさあ家の中で脱いで風呂に入ったでなかと?」
「そんな筈はないでごわすが」
「それでも家の中にあったでごわす」
その褌を手に持っての言葉だ。
「この通りでごわす」
「ううむ、やっぱり風で飛んだでごわすか」
「御前んさあまた風呂場の扉開けてたでごわすか」
「気付いてないうちにそうしていたでごわすか」
「何はともあれ見付かったでごわす」
その褌がというのだ。
「よかったでごわす」
「そうでごわすな。では早速でごわす」
「着けるでごわすな、褌」
「褌がないとでごわす」
どうしてもと言う徳兵衛だった。
「はじまらないでごわすよ」
「それではでごわすな」
「着けるでごわす」
まさに早速だった、徳兵衛はかよからその白い布を受け取ってそうのうえで腰に締めた、着心地はよかった。
だが不意にだ、何処からか声がした。
「何するでごわす」
「?何じゃ今の声は」
「男の声でごわすな」
夫婦で言う。
「誰か来たでごわすか」
「そうでごわすか?」
「しかし聞きなれない声でごわすな」
「全くでごわす」
「ここでごわす」
また声が何処からかした。
「おはんの褌でごわす」
「褌?」
「褌というと」
「おはん何考えてるでごわすか」
声は今度はこう言った。
「おいどんは褌ではないでごわすよ」
「間違いないでごわすな」
「そうでごわすな」
徳兵衛とかよは二人で言った、徳兵衛はその褌を一枚着けただけの豪快な姿である。その姿で言うのだった。
「褌が喋っているでごわす」
「これは怪異でごわすか」
「褌が喋るとは」
「それに間違いないでごわす」
「臭いから早く外すでごわす」
今度は褌は抗議してきた。
「前も後ろも感触が最悪でごわす」
「前もでごわすか」
「後ろも嫌でごわすがな」
「ああ、ものに穴でごわすな」
「おはんしかも毛深いでごわすな」
「熊とか言われるでごわす」
「毛が気色悪いでごわす」
それも嫌だというのだ。
「だから外すでごわす」
「ううむ、褌が喋るとは」
「奇怪でごわすが」
徳兵衛だけでなくかよも言うのだった。
「しかし嫌というのならでごわす」
「外すべきでごわすな」
「というか早く外すでごわす」
また抗議した褌だった。
「ではいいでごわすな」
「それでは」
徳兵衛は褌の言葉に従い外した、するとだった。
褌は自然に彼の手から離れてだ、そのうえで。
宙にふわふわと浮かびだした、そしてよく見れば。
両端にそれぞれ小さな手があり細長い姿である、そして両手がある場所から少し上に目がある。それはまさにだった。
「妖怪でごわすな」
「そうでごわすな」
また二人で言うのだった。
「何の妖怪か知らないでごわすが」
「妖怪に違いないでごわす」
「そうでごわす、おいどんは妖怪でごわす」
褌にされていたそれからもこう言ってきた。
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