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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第十話 剣道少女その一

                  第十話  剣道少女
 ダオさんが八条荘に来た次の日の朝、僕は早百合先輩のピアノの音で目を覚ました。時間は六時丁渡だった。
 今日の音楽は不思議な感じがした、優雅なまるで舞う様に。それですぐに着替えてそのうえで一階でピアノを弾いている先輩のところに行って尋ねた。
「今朝の曲は何て曲ですか?」
「皇帝円舞曲です」
 先輩は微笑んで僕に答えてくれた。
「ヨハン=シュトラウス二世よ」
「皇帝円舞曲ですか」
「何処かで聴かれたことがあると思いますが」
「そういえばそうでしょうか」
 言われてみればだ、確かに何処かでだった。
「そんな感じがします」
「本来はオーケストラの曲ですが」
「ピアノで、ですね」
「今朝は演奏してみました」
「そうだったんですか」
「私の好きな曲の一つです」
 先輩は僕に顔を向けてこのことも話してくれた。
「よく聴いてみます」
「ヨハン=シュトラウス二世ですね」
 僕は作曲者の名前も言った。
「わかりました、覚えておきます」
「その他にも名曲がありまして」
「どうした曲ですか?」
「こうもり、これは歌劇もっと言えばオペレッタです」
「オペレッタっていいますと」
「要するに喜劇に比重のある歌劇です」
 歌劇、即ちオペラの中でもというのだ。
「オーストリアでよく演奏されています」
「オーストリア、音楽の国ですね」
「モーツァルトの祖国であり」
 先輩の言葉が上気してきた様に見えた、お顔も赤くなってきている様に見えた。
「そしてウィーンはです」
「音楽の都ですね」
「高校を卒業したら」
 その時には、というのだ。
「留学したいと考えています」
「ウィーンにですか」
「あの都には強い憧れを持っています」
 このことはわかった、音楽をしている人にとってウィーンがそうした場所であることは僕も知っている。そしてだった。
 先輩のその目にはだ、はっきりとしたそれがあった。
「是非。ウィーンに行って」
「そしてですね」
「そうです、音楽を学びたいです」
「夢ですか」
「あの街で音楽を学び」 
 そして、というのだ。
「ピアノをさらに深めていきたいと考えています」
「今以上にですか」
「そうです、さらにです」
 そのピアノを、というのだ。
「素晴らしいものにしていきたいです」
「先輩はピアノが生きがいだからですね」
「そうです、ピアノを見ているだけ、そこに座っているだけで幸せになれて」
「弾けばですね」
「最高の気持ちになれます」
 ピアノ、そして音楽を心から愛している人の言葉だった。
「今もです」
「幸せでしたか」
「そして学校に行っても」
「ピアノ部で、ですね」
「演奏させてもらえるので」
 その時もというのだ。
「私は幸せです」
「先輩ってあれですね」
「あれとは」
「いえ、お金のことですけれど」
「昨日お話した通りです」
「大事でもですね」
「はい、それよりも遥かにです」
 それこそ、という口調での言葉だった。 
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