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閃の軌跡 ー辺境の復讐者ー

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第12話~翡翠の公都~

 
前書き
今回は行きの列車のシーンを端折り、バリアハートに着いたところからの話です。特別実習一日目になりますね。進んでる感が一向にしませんが、どうかご容赦を。 

 
七耀暦1204年 5月29日(土) -バリアハート駅・プラットホーム-

「ユーシス様!お帰りなさいませ!」

「お久しぶりでございます!」

ケルディック経由、バリアハート直通の特急列車に揺られること約5時間。Ⅶ組A班が駅に着くや否や、駅員が総出でお迎えに来たようだ。帝国東部、クロイツェン州を治める四大名門が一角、アルバレア公爵の子息であるユーシスにとって(ホームグラウンドであることも手伝ってか)このような事は日常茶飯事なのだろう。あくまで実習目的で戻って来ただけで、過度な出迎えは不要だと言うユーシスに、駅員たちは公爵家のご威光を考えるとこれでも足りないぐらいだとさも当然のように返す。終いには、ケインらの荷物まで持つと言い出した。こうした待遇にうんざりしているのか、無言で目を瞑るユーシスには不機嫌な表情が見て取れる。思えば彼は、入学式、執事に導力リムジンで学院の門前まで送ってもらってこそいたが、それ以上は何一つ要求していなかった。自身の地位を煙たがっているようにさえ見えたので、その時も今回も、父であるヘルムート・アルバレア公爵の指示か。そのように考えたケインは、この場を切り抜ける上手いやり方はないかと頭を働かせていた。
しかし、直後に聞こえてきた青年の声でそれは要らないと悟る。ユーシスの兄であるらしいルーファスが、現れたためだ。彼に挨拶をした駅員たちは、実に無駄のない颯爽とした動きで左側に縦一列に並ぶ。ルーファスは、彼が言うところの親愛なる弟とⅦ組A班の面々とに挨拶し、ケインたちもそれに倣った。

「ルーファス・アルバレア。ユーシスの兄にあたる。まあ、恥ずかしがり屋の弟の事だ。
 私という兄がいることなど、諸君には伝えていないだろうがね」

「あ、兄上!」

兄に遊ばれているユーシスというのは新鮮な光景ではあったが、続けて立ち話もなんだと言ったルーファスは駅の外に停めてある車にA班を乗せてくれるそうだ。一同はお礼を言いつつ、彼に案内されて外へと向かった。アルバレア公爵家の執事、アルノーに招かれたA班の面々は、導力リムジンへと乗り込む。

「なるほど・・・今回の実習の課題を」

ルーファスは父の代理として特別実習の課題を揃えたらしい。これで、わざわざ駅まで出迎えに来たのも合点がいった。実習の封筒をリィンに手渡したルーファスは、彼の方を向いたまま口を開く。

「しかしこれも女神の巡り合わせというものか。シュバルツァー家のご子息が、
 私の弟の級友となるとはな」

「父をご存じなのですか?」

普通に考えれば、辺境ともいえる地、ユミルの領主と四大名門の子息に接点があるとは思えない。ユミルとバリアハートでは場所がかけ離れている。それを疑問に思ったのか、リィンが質問した。それに答えるルーファスが言うには、昔、帝都近郊にて開催された鷹狩りを一緒に行い、狩りの作法や心構えを一通り教わったらしい。

「もう10年前になるか・・・今も壮健でいらっしゃるのか?」

「はは・・・はい。相変わらずの狩り道楽ですが」

「フフ、それは重畳」

昔を懐かしむように語るルーファスがリィンの父を気にかけていることを考えると、よくできた人なのだろう。彼は続いて、マキアスへと顔を移し、いたって穏やかな口調で話しかける。貴族制度を好しとする彼は、マキアスの父であり、革新派の有力人物たるカール・レーグニッツ帝都知事の事を快く思ってはいないはずだ。当然、その息子も然りだろう。マキアスの隣に座るケインは、そうした疑いからルーファスに密かに睨みを利かせていた。

「彼とは最近、帝都の公式行事などで何度か顔を合わせていてね。立場の違いはあるが・・・色々と助言をしてもらっている。これも何かの縁だろう。今後とも弟をよろしく頼むよ」

「そ、それは・・・その、前向きに検討させていただきます」

「フフ、結構」

マキアスとのやり取りを終えた彼はケインの方に向き直り、未だに睨みを利かせる彼に苦笑しつつも、穏やかな調子を崩さずに話しかける。

「風の噂で聞いたのだが、君は失踪したそうだね」

「・・・さすがに、ご存知ですか」

「まあ、警戒されても仕方の無い事だがね」

「・・・すみません。俺ももう少し大人になれればいいんですけど。
ルーファスさんがそういう人じゃないのは、その、分かっているんですよ」

自嘲気味に肩をすぼめるケインに、ルーファスは「その答えが聞けただけで今は結構」と気遣いの言葉をくれる。他のメンバーは、彼らの一連のやり取りに終始疑問符を浮かべているようだが、今のケインにその疑問を解消させることはできなかった。重くなる空気を身に感じつつも、一同の宿泊場所たるホテルで降ろしてもらい、父の名代で帝都に赴くと言うルーファスにお礼を述べ、別れた。本来なら宿泊場所はユーシスの実家でもある公爵家城館のはずだが、彼が実習に集中できるようにとルーファスは配慮したのだろう。

「・・・ルーファス・アルバレア。
貴族派きっての貴公子という噂は耳にしたことがあったが・・・」

「何というか・・・すごく出来た方みたいですね」

「そうだな。羨ましいくらいだよ・・・」

「ケインは十分できてるのに羨ましいの?」

至極当然の疑問といった風に小首を傾げるながらそう言うファミィに感謝しつつ、彼女の頭を撫でる。そのことでマキアスやリィン、さらにはユーシスからのジト目を一身に受けたケインは「俺の顔に何かついてるのか?」と訊くが、誰も黙して語らずだ。

「・・・フン、すぐにチェックインして実習の課題を始めるとしよう」

「そ、そうだな・・・」

「とにかく荷物を置くか」

「ちょ、みんなしていきなり何なんだよ!?・・・おい、待てくれって!おい!!」

ユーシスを筆頭にマキアス、リィン、エマもそれに続いてさっさとホテルの中に入ってしまった。

「いきなりどうしたって言うんだ?」

「さ、さぁ?とにかく私たちも行かない?」

「?・・・まぁ、そうだな」

全員の態度の変化に納得できずにいるケインだが、ファミィに渋々着いていくことにした。
入ったホテルの二階にて男子組、女子組がそれぞれの部屋にて荷物を置いた後、男子部屋にて合流した一同は実習課題を確認する。課題は手配魔獣の退治、半貴石の調達にバスソルトの調達と書いてあった。必須のものはバスソルト以外だが、形式は前回の実習と変わりないようだ。手配魔獣がいるオーロックス峡谷道は長くそれなりの広さがあると言うユーシスの意見により、そちらは後回しにする判断をした。まずは必須の一つ、半貴石の調達依頼を達成するためにホテルを出て宝飾店へ行くことにする。

「・・・綺麗な街並みだな。流石、翡翠の公都ってところか」

「うん、まあね。でも、結局あの像って何なの?」

「聖女ヴェロニカの像、みたいですね」

「ほう、詳しいな」

ここが故郷であるファミィすら知らなかった中央広場の中心に位置する女型の像についてエマが答えると、ユーシスが感嘆の声を漏らした。率直なケインの言葉に、各々が改めて今回訪れた実習地を眺める。クロイツェン州の中心都市、バリアハート。翡翠の公都と称されるこの街は、周辺の丘陵地帯では毛皮が多く生息し、領内の鉱山からは宝石細工用の良質な鉱石が取れる上、南にはそれを加工するための職人通りがある。資源が豊富でなおかつ加工技術の高い職人がいる好条件から、街の特産品として毛皮や宝石は著名だ。しかし、職人通りや領邦軍が門を構える貴族街に大聖堂のある中央広場、飛行客船のための空港全てが公爵家を中心にした貴族社会の産物であるというのはユーシスの談である。
中央広場をひとしきり眺めた後、一同は南へ下って職人通りにある宝飾店、ターナーへと向かった。

店に入ると店長と思しき人物と若い青年が話していた。どうやら先客が来ていたようだ。
一同はそう判断して時間を改めようとしたが、来訪者に気づいた店長が話しかけてくる。

「その制服は・・・ファミィちゃん、それにユーシス様も。
 ようこそ、いらっしゃいました。実習の依頼の件でご来店ですね」

「お久しぶりです、ブルックさん!」

「そうだが・・・特別扱いしないでくれ。取り込み中なら改めるが?」

ユーシスの言葉を聞き、いえいえとそれををやんわり否定するブルック。いわく、ユーシスたちの事を話していたとのこと。続いて、ブルックは今回の依頼内容について順を追って説明してくれる。彼と話していた若い青年、ベントはバリアハートへ旅行で来ていて、目的は結婚指輪作成のオーダーに使う半貴石を探しているらしい。ちなみに半貴石とは値こそ七耀石に劣るが、輝きなどはそれに匹敵する石のことである。その一種たるドリアード・ティアを調達して欲しいそうだ。

「ドリアード・ティア。特定の木々の樹液が空気によって固まり、高純度の石になることで生まれるものだな。確かにあれなら七耀石の代用品にしては十分、かな」

「ええ、その通りです。ずいぶん詳しいんですね」

「・・・まぁ、俺の村の周囲には木々が生い茂っていましたからね」

場所は北クロイツェン街道にはその半貴石を採取できる木が多く生えているらしいが、希少価値はあるようで根気よく探さないと見つからないそうだ。少々骨が折れるかもなと言うリィンの言葉が的を得ている。

「いや・・・そんなことはない。君たちがこれから探そうという無垢なる木霊の涙。
 それを先ほど見たと言ったら?」

「・・・へぇ、詳しく聞かせてもらおうかな?」

手当たり次第探すしかないと思考していた一同の後ろから声がした。声の主の方を振り返ると白マントの貴族風衣装を着た中年男性であったが、ケインだけは敵視するように睨みつけながらも木霊の涙、もといドリアード・ティアのありかを尋ねるのだった。

-北クロイツェン街道-

「これは・・・すごく綺麗だな」

「反対側が透けて見えるわよ」

「七耀石にも勝るとも劣らない輝き・・・確かにその通りらしいな」

「そうだな。俺はこの輝きを見るのも、ずいぶん久しぶりだけど」

職人通りを抜けて北クロイツェン街道へと出た一同は、街道そのものがさほど広くないのもあってか目立った障害もなくドリアード・ティアを発見し、木陰で幹から太陽のように眩い光りを発するその半貴石へ口々に感想を漏らす。ケインが慣れた手つきで木の幹からそれを剥がした。結局あの男は嘘を言っていなかったようだ。

「そう言えば、ケインはあの人と知り合いなのか?」

「・・・まぁ、不幸なことにそうなんだよ。ちょっとした腐れ縁、かな」

半貴石のありかを知っていたブルブラン男爵と名乗る貴族風の男は、芸術に愛と情熱を捧げる自他共に認める好事家(笑)らしい。つまるところ親切心が働いて教えてくれたとの事だが、彼のまどろっこしいしゃべりがうっとうしいとファミィから好評価を受け、話の内容そのものもだとユーシスに賞賛されるなど散々なディスられようだった。何はともあれ目的は達成したので元来た道を戻っていると、数台の装甲車が街の中へと入っていくのを目撃する。緑色の紋章があったため、クロイツェン州領邦軍のはずだ。

「ケルディック方面の部隊だろう。バリアハートの本隊に戻るところに出くわしたようだ」

「RF社製の新型装甲車。火力のスペックこそ主砲持ちの戦車には劣るけど、その機動力で
戦場をかき乱す陽動などに適した戦闘車両だな」

「へぇ、詳しいんだな」

感心したようにそう言ったリィンに、ケインは苦笑しながらそうでもないよと返す。
特に臨戦態勢というわけでもなく、街道の用事は済んでいるので、彼らも宝飾店へと引き返した。宝飾店に再び入ると、ブルックさん、旅行者の両方がなにやら気落ちした表情をしている。様子がおかしいと感じたケインが声をかけるが、ブルックさんはとりあえず半貴石を貰えないかとやんわり催促してきたので、少々不思議に思ったがそれを手渡した。

「おい店員、何をしている!品が手に入ったのならさっさとよこさんか」

「は、はい・・・ただちに・・・」

ブルックが依頼の品を受け取ると、後ろから苛立ち交じりの傲慢な声がした。全員、状況が飲み込めずにいる。いったいこれはどうゆうことなのか。振り返った一同が見たのは、貴族らしき初老男性だった。どれだけ待たせるんだとでも言いたげな顔をしており、ブルックがドリアード・ティアを渡すや否や貴族男性は、それを口に入れて咀嚼し始める。あっという間に咀嚼を終え、側仕えと思われるメイドから貰った水を飲んでいた。

(何てこと、してくれるのよ・・・)

「・・・っ・・・・・・き、きさま・・・!今自分が何を!」

感情的になったマキアスが声を荒げて抗議を申したてようとしたが、それは失言だった。
今の言葉を聞いた男性が、マキアスに目をつける。

「・・・おい、平民。今このわしに向かって“貴様”と言ったか?」

「そ、それは・・・(しまった・・・貴族相手に僕は何を)」

「まあ、これしきのことで事を起こすわしではないが。くれぐれも言動には慎むことだな。わしが本気をだせば貴様なんぞの首の一つや二つ・・・」

「やれやれ、言動を慎むべきのはそちらの方ではないか・・・?」

「ああ?・・・って、あなたはユーシス様ぁああっ!?」

失言をしたマキアスに助け舟を出すかのようにユーシスが口を開いた。わしに口を挟むのはどこの誰だとでも思ったのだろうが、それがアルバレア公爵のご子息だとは予想できなかったのだろう。先ほどとの傲慢な態度とは打って変わり、狼狽した様子でどうしてこんなところにいらっしゃるのかと尋ねる貴族だが、あなたには関係のないことだとバッサリ切るユーシス。そしてドリアード・ティアをどういう了見で己が腹に収めたのかを問い詰め始めた。その貴族が言うには、石は旅行者ベントとの正当な取引で手に入れたものだそうだ。彼は、それを渡す代わりにミラを貰ったらしい。

「でも、どうして口の中に・・・」

「それは、ドリアード・ティアが東方では漢方薬として利用されているからです。
 主な効果は滋養強壮剤となりますが、一説には若返りの効果すらあると言われています」

「フン、くだらんな」

初老貴族は今更になって居た堪れなくなったのか、この場は失礼させて頂きますとユーシスに断りを入れて早々に店を出ていった。その後、事前に説明ができなかったことに謝罪を入れたベントの話を聞くと、取引そのものは正当であったらしい。しかし、帝国には貴族制度が深く根付いている。いくら反対勢力たる帝国政府代表、ギリアス・オズボーン宰相閣下が幅を利かせていると言えども、その影響力が薄い地では伯爵階級の貴族に物申すことなど不可能だ。たとえ正当であっても強制的であった可能性は否めない。帝国に旧くからある身分制度は、このような理不尽さも孕んでおり、宰相のような一派が台頭するのも必然だったのだろう。とりあえず、ベントさんは伯爵から得たミラで地元にて用意することにしたようだ。駅に向かうと言った彼を見送りつつも、A班の面々は、貴族制度の実情について深く考えさせられるのだった。
 
 

 
後書き
A班が取ってきたドリアード・ティアはちょっと偉そうな貴族のおじさんに食べられるという・・・せっかくの苦労が台無しで萎えるパターンのやつですね。それとまぁ、いつもながら終わりが微妙なところですね・・・もっと精進しないと。 
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