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赤髪の刀使い

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新たな刀

~第一層の共同鍛冶屋~

今日の共同鍛冶屋は、いつもと空気が違った。
周りの鍛冶職人たちは話すこともなく一点を見つめている。
その目には期待が写っている。


――――カーンカーンカーン

工房内の皆が見守る中、一人の少女が一心不乱に鉄にハンマーを打っている。
ある程度まで打つと炉に鉄を戻し、出てきたウィンドウに沿って素材を炉に入れていく。
炉に新たに素材を入れるということはそれだけその武器を作るのが難しいということだ。
このSAOでの鍛冶は規定回数鉄にハンマーを打ちつけるだけだ。
言ってみればそこに大きな技術は必要ない。

そして打つ時の気持ち。
これがSAOでは大きく作ったもののパラメータを左右する。
適当に打ったものではパラメータが低いものができるし、
真剣に振る人のことを考えながら打つとパラメータが高いものができる。
これはこの共同鍛冶屋の職人が何度も検証した。

皆の視線を一気に受ける少女は、その視線を感じさせないような表情をしている。
その顔に気負いはない。

自分なら絶対に出来るという自信があるのだろう。

鉄と素材が熱くなり、炉のなかで結合する。
ここからが勝負である。
一定の間隔で、なおかつ一回一回に気持ちを込めて少女は鉄を打つ。
一回鉄を打つごとに周りの職人たちが息を飲む。

この少女が打つ鉄は現段階での最高ランクの物。
作成する武器も最高ランクのものと思われる。
それに途中で炉に素材を入れるという作成レベルの高さ。
以前からこの武器を作るということはここの職人たちの間では話題に上がっていた。

なにしろレシピ自体は攻略が10層も行かない時期から出回っていたがまず素材が集まらない。
今まで何度も職人たちはこの武器について話し合っていた。
パラメータはどういった物になるのか。
形はいったいどんなものなのか。
職人たちの希望では現段階で公表されているモンスタードロップ品の魔剣クラスのパラメータを希望している。
勿論、この武器を打つ時の気持ちもパラメータに影響してくる。

その気持ちを周りの声で揺るがないものにするために鍛冶屋の周りでは戦闘系にも割り振っている職人たちが規制線を引いている。
ここまでするまで、この武器は期待を皆が持っていた。
プレイヤーの打つ武器が魔剣クラスのパラメータを持てば皆期待が持てる。
自分でも打つことが可能と分かればやる気が出る。

素材は25層フィールドボスのドロップ品。
使っている鉄ですらクエストボスのドロップ品だ。
そしてこの鉄を打つ少女の鍛冶スキルの熟練度はこの職人たちの中でもトップクラス。
自分で打つことのできない悔しさがあるが、皆この武器を見たいのだ。

ある者は、この日のために鑑定スキルを上げた。
ある者は、情報屋とともにアインクラッド中の武器の情報を集めた。
ある者は、この日のための規制線を張るために様々な伝手を用意した。

そして皆、前日に素材が集まったという報を聞き、この武器のレシピのことを知っている職人たちがアインクラッド中から集まってきた。
攻略組の武器をメンテナンスするために最前線まで行っていた鍛冶職人も仕事を弟子に任せて、戻ってくるぐらいだ。

――――カーンカーンカーン…

静まり返った鍛冶屋の中で、鉄を叩く音だけが聞こえてくる。

そしてついに鉄が光り出した。

――――ごくっ

皆一斉に息を飲む。

目を焼くような光の中どんどんと鉄は形を変えていき…

鉄は大太刀の形をとった。
大太刀の刃はなめらかな反りを持ち、切っ先は刃の広い大帽子。
刀身は細くも分厚く、そして刀身は波紋も見えないほどに銀色に溶け合う。
柄は短く、鈍色の重い木瓜型の鍔を持つ。

形は質素で簡潔なものだが…

「…な、なんだこのオーラは」

誰かが呟いた。

その大太刀の放つオーラにその場にいる職人たちだけではなく周りの規制線を張っていた職人たちをも固まった。
規制線を張っていた職人たちは鍛冶屋の中は見えない。
しかし鍛冶屋の中から禍々しいまでのオーラがあふれでてきているのだ。

「《鑑定》」

打っていた少女がスキルを立ち上げ鑑定に移る。

「銘《贄殿》…ステータスは…あれ?」

少女…そばかすがトレードマークともいえるリズベットが声を上げた。

「なんだなんだ!?」

この日のために鑑定スキルをあげていた職人がリズから大太刀を受け取り鑑定する。
この職人たちの中でもトップクラスの鑑定スキルを持つ男だ。

「650?」

しかし鑑定スキルを上げていた職人でも銘と攻撃力、耐久度、製作者しかわからない。
ここまでのオーラを放つ大太刀だ。
特殊なスキルがあってもおかしくはない。
そして攻撃力650と言えば今まで出回っているどんな武器よりも高い攻撃力だ。
まだまだ階層があがればこれを超える武器は普通に出てくると思われるが、現時点では最強クラスの武器であるといえるだろう。
まぁ未強化で650もあれば十分なのだが。

周りの職人がざわめきだす。
攻撃力650の大太刀がプレイヤーメイドでできたとすると自分たちも作れるはずだと意気込む者。
作成した少女の鍛冶スキルがまだ完全習得ではないことを考慮するとまだまだこの武器以上のものが作れるということだ。

「ユウ、振ってみて」

リズは返してもらった贄殿を使用者であるユウに渡す。
ユウは渡された贄殿の軽さと攻撃力に驚きながらも、軽く振ってみる。
贄殿は以前からユウに使われていたようにユウの手になじんだ。


sideユウ

「…これは凄い」

俺はソードスキルを使ってみる。
この鍛冶屋の裏には試し切りのためかダメージ値を数値化する案山子がある。

贄殿が淡い青色を纏って案山子に斬りかかる。

「うん?」

ソードスキルにしてはダメージ値が低すぎる。

「どうかした?」

リズが聞いてくるがとりあえず…

通常攻撃で案山子を斬ってみると、確かに性能に見合うだけのダメージ値が出た。
もう一回ソードスキルで…

――――ざくっ

やはり軽い。

「おかしいわね…
ソードスキルの方がダメージが少ないだなんて」

(もしかしてな…)

俺は何度も通常とソードスキルを繰り返し、現実でやっていた刀に気を纏わせてみる。
久しぶりすぎて少し纏わせ方を頭が忘れていたが、体が覚えていた。
すると贄殿が薄い赤色に発光し始めた。

「ぇ」

隣で見ていたリズが声を上げるが俺は口元を上げてにやけるしかできない。
気を纏わせることで大体わかってきた。

この贄殿という大太刀が。

「こいつはソードスキルを使うための武器じゃない」

これが俺の見解だ。
というか大体の人がこの結論にたどりつくだろう。
俺はいまだに薄い赤色に発光している贄殿を案山子に振り下ろす。
ダメージ値が通常攻撃で斬った時より2倍近く跳ね上がった。

「これはある程度現実で気が使える人
しかも刀を使うタイプの人たちが使う武器だ」

でないと今までの刀や剣には気なんて乗せることができなかった。
この武器だけ、もしくはこのシリーズの武器でしか気を乗せることはできないのだろう。
気を乗せてなくても今までの使っていた俺の武器よりは攻撃力は高いし、
攻撃の幅が広がったとみていいだろう。

(茅場はもしかして裏を知っているのか…?)

でないと気なんてものが使える武器なんて作らないと思うのだが…

「うしっ。
じゃぁ狩り行こ!
今日は1レベル上げるぞー」

リズのこの言葉で集まっていた鍛冶職人がどんどん帰っていく。
もっと騒がれるものだと思っていたのだが、静かなもんだ。
後から知ったが、アルゴが密かに手を回していたらしい。
どう手を回したかは知らないが、助かった。

「何層行く?」

「26!
本当は27層行きたいけど…あそこはトラップが多いって聞くから、やめとく」

懸命な判断だな。
 
 

 
後書き
お久しぶりです。
約1年半ぶり?

続きを待ってますというメッセージを貰ったので書いちゃいました。

サービス残業つらいです…
 
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