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短編

作者:yusuke3232
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< 前ページ 次ページ > 目次
 

アスナ夢

 
前書き
日記 

 
アスナによる、夫アキトの観察日記。


ここに記載していく内容は、愛する夫の妻であるアスナの主観が混じったものとなります。


同時にこれは、事実偽りのないモノでねつ造なんかまったくありません。それを御理解した方のみ、今後記述していく内容を読み進めていく事を許可します。























夫婦生活・一日目。


記念となる一日目。
折角なので、凝った料理を作ってアキトくんを驚かせようと考案。


今までの自分の中での自信作で、料理スキルをふんだんに利用した手料理。
決して餌付けしようとか、そんな邪な感情は一切合財考えていない。


ただ純粋に、私は愛する人に喜んでもらいたいだけ。
ただ純粋に、愛する人に美味しいと言ってもらえるだけで良い。
それだけで妻としては、安心できるのです。


精一杯気持ちを込めて、料理スキルを振る舞う。
結果、『うまいっ!』と喜んでもらえたようで、自分も嬉しくなって微笑む。


こんな有り触れた事で喜び合える生活が続くのかと思うと、本当にアキトに出会えて良かったと思える。


強くて、優しくて、格好良い人。
最愛の人、ずっと……一緒にいようね?












夫婦生活・三日目


武器の調整のために、リズベット武具店へ向かうのだと言って彼は出掛けて行った。


不安を覚えながらも、妻として夫を笑顔で見送る。


リズとはSAO始めて以来友人で、何度も彼女の製造する武器に助けられている。
当然アキトくんも、同じ攻略組のキリトくんも信頼している。


けれど、時々不安になるの。
互いが寄せるその信頼感が、変な方向に向かっていかないのかを。


アキトくんも、リズもそんな人じゃあないってことは分かっているつもり。でもそれでも、リズは可愛いし頼れるし、魅力的な女性だと思う。
常にキリトくんと一緒に最前線で闘ってきた彼とアキトくんと、長い時間過ごしてきたのも彼女だ。


私が理解していない事も、息を吸うように即座に対応できるのも彼女だ。


だから不安になるの。
私に足りないものを求めようとして、リズの方へ行っちゃうんじゃあないかって。


けれど、その不安を口にするわけにはいかないの。


どんなことがあっても、私は愛する人を信じ抜くって決めたんだもの。
























夫婦生活・八日目


二人きりでの生活も、慣れ始めた頃の出来事。


その日、謎の美少女がアキトくんとの愛の巣に尋ねてきた。


誰なの?
そう訝しく問い掛ければ、どうやら情報屋を営んでいるギルドの一人らしい。


以前まで攻略組の最前線で闘ってきたアキトくんとは友人関係らしく。
その彼が結婚したのだから、お祝いをしなければ。そう思ってこの家に尋ねてきたようだ。


疑うように観察していたが、不穏な動きをすることもなく彼女は多少談笑を交えてから帰っていった。


本当に、キリトくんと一緒。
この二人は何でこうも、美少女とフラグを立てまくるのかしら。


私としてはこれ以上、そういう事が無いようにしたいけれど。
どうにかならないのかしら、なんて不安感が次第に募っていく。


本当に、どうしようかしら。

夫婦生活・12日目


アキトくんが申し訳なさそうに、こう言った。


『今日はシリカのレベリングを手伝う約束をしていたんだ。だから少し出掛けて来るよ。』


確かに、その話は以前から聞いていた。けれど、納得していたわけではない。


シリカちゃんは、キリトくんに夢中になっているのだが。
今日という日はキリトくんも他の女の子とレベリングに向かうらしく、どうしようかと悩んでいた時にアキトくんと出会ったらしい。


その時に彼女は、キリトくんと同等の実力を持っているアキトの強さを知ったようだ。
そこで今日のように、キリトくんとレベリングに行けなかった時の代わりとして彼が彼女に付き添うようになった。


今日がその日で、彼は出掛けて行った。


またもや、美少女だ。
これはもう、一種の呪いなのかしら。愛する人との毎日を阻むような試練なのかしら。


何事もないだろう、と信じようとはするのだが。
やはりどうしても、一抹の不安というのはすぐには消えてくれない訳で。


あぁ、どうして。
愛する人はモテるのでしょうか?


けれど、仮にモテモテだったとしても。


彼は、私の愛に応えてくれる。
彼は、私の気持ちを受け止めてくれる。


それだけで、十分なのだ。
























夫婦生活・20日目


前の日記から現在まで、ずっと二人きりの生活だ。


飽きる事無く、一緒に談笑しながら過ごしていく生活を苦にも思わない。
勿論一緒にパーティ組んでダンジョンへ赴く事もあるため、ずっとこの家にのんびりしている訳ではない。


二人で愛を育むことも大事だが。
同様に、このゲームをクリアしてこの世界から脱出することも重要なのだ。


だから、比翼連理の如く私たちは共に剣を振るい、共に愛し合う。


何時までも。
このゲームが終わって、リアルに戻ったとしても。


私は絶対に、貴方を愛し続けます。


だからアキトくん。貴方も、私の愛を理解してね?


お願い。……ずっと、一緒が良いの。





























夫婦生活・22日目


彼は不意に、溜息をつきました。


その様子は、何処か何事かを不満に感じているような、そんな雰囲気だった。


思わず私は、気になったので問い掛けたの。


『どうしたの?』


その問いを聞いたアキトくんは微笑みながら。


『足りない。』なんて言い出しました。


それは、色んな意味合いを感じさせる意味深な呟きだった。


レベリングが足りないのか?
それとも。
夫婦愛、もしくは私が貴方に向ける愛が足りないのか?


でも彼は、そんな不安感を払拭するように。
私を抱き締めながら言いました。


『アスナを抱き締めるこの感触は本物だけど。現実じゃあない。だから悲しいんだ。俺はアスナを愛しているのに、感じているのに、実感が足りないんだ。』


彼は言いました。
自分を求めているのだと。一緒に生活していても不安を感じるくらい、私を愛し求めていたのだと。


それがたまらなく嬉しかった。
改めて、互いに愛し合っている事を私は理解しました。


きっとこの愛は、ゲームクリアしても続いていく事だろう。


そう信じる心に、灯火が再び灯りました。

―――その日記を、思わず見てしまった。


アキトはその日記、という名のデータ文章をじっくりと眺めていた。


そこにつらつらと書かれていたのは、自分の周囲の事情。
そして自分に対する不満や、信じようとしても湧き上がってくる不安感。


彼女に対する愛は惜しまず、行動でも言葉でも示したのだが。
それでも、それ以外の行動や出会いで彼女は不安を感じていたのだ。


愛が足りなかった、ではなく。
自分の配慮が、夫婦としての関係性が足りなかったのだ。


そもそも夫婦に必要なモノは、愛だけではないのだから。


「……アスナ。俺は、君を。」






















「あっアキトくん、おはよう。」


朝、起きた時にアスナはいなかったのでリビングに居るのだろうと思えば、案の定彼女は料理スキルを器用に駆使して朝食を用意していた。


データの塊だったとしても、その料理には味も食感も、愛情も詰まっている。


だから、とても美味しいし、毎日食べていたいと思えてくる。


「ご飯出来てるよ。さぁ、一緒に食べよっ。」


笑顔でテーブルへ促すアスナに従って、アキトはソファーに座る。


焼きたてのパンに、特製クリームソース。
コンソメスープにサラダ。洋風な朝食セット、香りだけで食欲がそそられる。


「ねぇ、アスナ。」


そんなアスナとの食事も大事だ。
だがそれ以上に、彼女の心情も重要な事だと思う。


夫婦である以上、隠し事はしたくない。
それが信条であるアキトは、アスナの目を見て問いを投げる。


「……日記、見たよ。」


「っ!?」


アキトの言葉に動揺が走るアスナ。


それ以上は、アキトの口から言葉を発する事は無く。
彼女の返事をただ待つばかりだった。


果たして―――彼女は言葉を紡ぐ。


日記を見られることを、寧ろ望んでいたかのように微笑んで。


「そっか、見ちゃったのね。」


「隠し事はしたくなかったんだ。だから見た事を伝えた。」


「そうだもんね。夫婦なら、隠し事は無しだもんね。」


そうつもりではなかったんだけどなぁ、なんて少しだけ悲哀混じりに呟いたアスナ。


その感情の意味は、日記を見られたから悲しいではなく。
自分の訴えを見られた羞恥心による悲哀でもなく。


隠し事は無し、という基本を自らが破ってしまったことによる悲哀なのだ。
故に、そのつもりはなかった。けれど無意識とはいえ、隠し事をしたのは事実だ。


そして日記に残した、ということは。
彼を本当の意味で信じきれなかった、という心情が片隅にでも宿っていたからだ。


彼の愛が、他の美少女に奪われてしまうのではないのか、という不安感が過る度に。
その感情を日記に書き起こさないと落ち着かなかった。


そんな日記を、正直見られたくなかった。
それがアスナの素直な感情なのだろう。

しんみりとした雰囲気。
それを打ち破ったのは、アキトだった。


「ねぇアスナ。」


その一言がきっかけで、アスナは彼の表情を見やる。


笑っていたのだ。
自分の日記の内容を見ても、彼は笑っていたのだ。
深く追求する事もなく、責めたてる事もなく。


「俺は嬉しかったよ。だってこんなにもアスナに、好きな人に、大事に思われていたんだなって。」


確かに。
アスナの日記の内容は、ひたすらアキトに対する愛の訴えだった。


彼と一緒にいたい。
彼と楽しく笑い合って過ごしたい。一緒にゲームクリアして、現実でも愛し合いたい。


他の女性と楽しそうにしている。しかも美少女だらけだ。
だから不安になる。お願い、他の子の所へ行かないで。


不安で押し潰れそうになるの。
でも貴方は私を愛してくれた。美少女と多く知り合い過ごしても、それでも最後は自分の所へ戻ってくる。


それだけでも私は、嬉しいのです。


そんな語りが数十ページにも及んで書き連ねてあったのだから。
逆にこちらが恥ずかしくなってしまう。


「今後は、家を出る事を控えるよ。」


「えっ。」


「アスナと一緒にいたい。その思いは俺も一緒だし。それに、アスナは俺が他の女性と会うだけでも不安になるって言ってたし。」


―――というか、そもそも最初から気を付けるべき事だよな、反省するよ。


そう言って自虐的に笑うアキトは、目線を下に向けて。


笑みの意味を変えたように、眩しいくらいに清々しい笑顔を浮かべて。


「じゃあ冷めないうちに、アスナの愛妻手料理、いただきまーすっ!」





彼は、笑顔で平らげていく。
自分が愛情込めた手料理に手を伸ばし、美味しそうに頬張っていく。


当たり前な事なのに。
今はその当たり前が嬉しくてたまらなかった。


「ふふっ。……まだまだあるからねアキトくん。」


「本当にっ。ならパンをおかわり!」


「はいどうぞっ、めしあがれ!」


こんな風に。
当たり前の夫婦生活を過ごして、時に色々と不安がる事はあるけれど。


それでも、きっと自分たちは一緒に乗り越えていける。
少なくとも、アキトが自分の想いを受け止めてくれる限り。


「美味しいよアスナっ! やっぱりアスナの手料理は最高だよ!!」


「まったくもう。そんなに褒めちぎったら嬉しくなっちゃうじゃない。」


今のように、ずっと。
俺は、私は、笑い合える。

 
 

 
後書き
オワタ 
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