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『八神はやて』は舞い降りた

作者:羽田京
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第4章 戦争と平和
  第33話 お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ

 
前書き
・ちょっぴりシリアス注意 

 
「どうしたものかしら……」


 リアス・グレモリーは、ため息とともにつぶやく。

 先日、コカビエルたちを激闘の末に打ち破った。
 敵は、堕天使幹部、上級堕天使3名、聖剣使い3名を含むエクソシスト4名、ケルベロス。
 明らかに、ライザー・フェニックスとのレーティングゲームよりも、数段上の戦力。
 この戦力を、グレモリー眷属のみで、打ち破って見せたのだ。
 しかも、デュランダル使いのゼノヴィアが、『騎士』となり、単純な戦力も向上している。


「最近、激戦続きよね――赤龍帝のせいかしら」


 龍は、戦いの因果を呼び寄せると言う。
 あれから過去の赤龍帝を調べてみたが、歴代たちは、常に激しい戦いの中を生き抜いていた。
 敵は白龍皇のみではない。まるで、何かに導かれるかのように戦いに巻き込まれる。
 最近の出来事を振り返ってみれば、確かに、戦いを呼び寄せているのだろう。
 まあ。同時に異姓も引き寄せるらしいが。


「ふふっ。まさか私が一誠に惹かれるなんて、思わなかったものね」


 実際、一誠は、オープンなスケベだが、女性に細かな気遣いを忘れない好男子だ。
 隠れて厭らしい目で見てくる連中よりも、その堂々とした表裏のない態度が、好ましいと感じる。
 あばたもえくぼかもしれないが、戦いの時の凛々しい姿と普段のギャップが、特に好きだ。


「問題は、ライバルが多くなりそうなことよね。やっぱり、悪魔らしくもっと積極的にモーションをかけるべきかしら」


 リアスを含めたグレモリー眷属の女子は、少なからず一誠に興味を持っている。
 彼に気を惹かれるようになって、観察していたから気づけた。
 ただし、向けている感情は、まだ恋には至っていないと、リアスは分析している。 
 たとえば、アーシアに関しては、一誠宅にホームステイしているものの、親愛の感情しかないように思える。
 だが、ゼノヴィアは、極端だ。


「そういえば、昨日は、一誠が、ゼノヴィアに子作りをせがまれていたっけ。なんというか、悪魔らしいというか、悪魔に染まりすぎよ。教会にいると、よほど欲求不満になるのかしら。まあ、彼女は極端だと思いたいわ……いえ、極端で合って欲しいわね」


 紫藤イリナといいゼノヴィアといい、どうも天使陣営の知り合いはイロモノばかりだ。
 あれが標準だとは思いたくない。だって――


「――だって、これからは同盟関係になるんですものね」


 コカビエルの一件を重く見た、三大勢力の上層部は、休戦協定を結ぶことになったのだ。
 堕天使の総督であるアザゼルの呼びかけだというところが、多少うさんくさいが。
 けれども、お互いじり貧で、大戦争を起こそうものなら、滅亡一直線。
 三者の見解は一致しており、驚くほどスムーズにトップ会談が実現した。


「きっかけが、戦争を望んだコカビエルのせいだというのは、皮肉よね」


 堕天使コカビエルは、天使陣営の教会から聖剣エクスカリバーを強奪し、悪魔のグレモリー眷属に敗れた。
 見事に、堕天使・天使・悪魔の三大勢力が関わっている。
 事件の終息に向けた交流が、呼び水になったのは間違いない。
 会談予定の場所は、駒王学園。
 一連の事件の関係者として、リアスたちも立ち入りするように要請されている。


「戦争の恐れがなくなれば、少子化の問題も解決が容易になることは間違いない。悪魔は、さらなる発展の段階にすすめるはず」


 実に、喜ばしいことだ。
 しばらくの間は、ぎくしゃくするだろうがトップが協力すれば何とかなるだろう。
 ただし、やはり反発する者も多い。
 コカビエルが残した言葉は、正しいのだ。
 これからは、戦争を望むものたちの企みに注意を払う必要がある。
 

「どうしたものかしらね……」


 もういちど、嘆息する。
 リアスたちは実力をつけ、悪魔陣営の希望もみえてきた。
 すべては、順風満帆と言っていいだろう。
 だが、ため息が止まらない。なぜなら、


「――――八神はやて。貴女は何を考えているの?」


 レーティングゲームの一件もあり、リアスは、なるべくはやて達と親しくなろうとした。
 ライザー・フェニックス戦で見せた実力。グレモリー眷属を鍛えた能力。
 いまの自分たちの強さは、八神家の協力があってこそ、だとリアスは理解している。
 とはいえ、いろいろと気にかけてはいたが、成果は芳しくなかった。
 不仲というわけでもない。


 ゆえに、時間をかけてゆっくりと仲良くなろうと考えていた。
 しかし、最近、彼女たち八神家の動きが気になる。
 具体的に何が気になるのか、と問われても答えられない。
 どうも胸騒ぎがするのだ。
 とくに、コカビエルの一件の前後から、動きが妙だ。
 意図的にこちらを避けているようにみえる。
 ものは試しと、駒王協定への参加を要請したが。


『客人がでしゃばるべきではない』


 と、にべもなかった。


「そういえば、アーシアが相談しにきたことがあったかしら。笑って、気にしないように、と答えたけれど――まさか、ね」


『はやてさんが、急に余所余所しくなった理由に心当たりはありますか?』


 アーシアは真剣な表情で尋ねてきたが、彼女がグレモリー眷属になる前から、はやてとリアスは、適度な距離感を保っていた。
 アーシアを助けるために深く関わったが、これは例外と言える。
 だからこそ、心配ないと諭したのだ。けれども――――


――――はやてさんは、わたしたち悪魔を憎悪しています。


 あのとき、アーシアがリアスに放った一言が、なぜか耳に残り頭を離れなかった。





「曹操、ちょっと時間いいか?」

「ん? どうした、ゲオルグ」


 英雄派首領の曹操はいつも忙しい。
 ちょうど暇になったころを見計らって、声をかける。
 手に持った何かをみつめて、ぼうっとしていた。
 たまに見かける姿だ。声をかけがたい雰囲気があるが、今日は無視する。


「八神はやてのことなんだが……本当にただの一目ぼれなのか?」


 若干言葉を濁しながら、尋ねてみる。
 八神はやてと会ったときの曹操の激変ぶりは英雄派を震撼させた。
 だが、その後の仕事ではいままでと変わらず――いや、今まで以上かもしれない――熱心に活動していた。
 やはりうちのトップは頼りになる。と、皆安堵しているところだ。
 だが、俺とコイツの仲は長い。一目ぼれ以外の何かがある、と俺のカンが言っていた。


「……」


 無言で手に持っていた何かをこちらに投げてよこしてきた。
 キャッチすると、それはロケットペンダントのようだった。
 とりたてて特別なところはない、古ぼけたただのロケットペンダントだ。
 魔術的な要素も見当たらない。ただ、丁寧に手入れされていることは分かった。


「中を見ていいのか?」


 曹操は無言でうなずく。中を開らいて見ると、写真があった。
 8歳ぐらいの男の子と、6歳ぐらいの女の子が映っている。
 二人とも笑顔だった。


「これは……曹操?」


 よくよく見ると、男の子は曹操の面影がある。
 ただ、最初は分からなかった。
 このように満面の笑みを浮かべるコイツは、長い付き合いの俺ですら初めて見る。
 とすると、隣にいる少女は、妹だろうか。
 たしかに、曹操に似ているが、それ以上に――――


「――似ているだろう? 八神はやてに」


 俺の心を読んだように、無言だった曹操は声をかけてきた。
 顔を上げると、泣きそうで笑いそうな、自嘲するような顔を浮かべている。
 思わず息をのんでしまう。


「一番幸せだったころの写真だ。いや、手元に残った唯一の写真といった方がいいか」

「これが八神はやてに執着する理由か?」

「それは否定しない。だが、一目ぼれしたのも本当だ」

「……詳しい話を聞かせて貰えるか」


 尋ねると、苦笑しながら曹操は語った。


「俺は、中国の山村で生まれた。決して裕福とは言えなかった。が、優しい両親と親切な村人に囲まれていた。妹はとりわけ俺になついていてな。可愛かったよ。とりたてて特別なものはなかったが――幸せな日々だった」


 遠い昔を見るように視線を虚空へ向ける曹操を前に、無言で俺は聞く。


「俺が8歳の日。隣の村にお使いを頼まれていて、帰ってくると村は火に包まれていた。何が何だかわからなかった。とにかく家に急いだよ。そして、家に着いた俺の目の前で――――」


 そこで、曹操は息を詰まらせ、平静を保とうと一度大きく息を吐き。


「――妹は生きながら喰われた」


 俺は黙って曹操の言葉に耳を傾ける。
 言葉では冷静だったが、強く握った拳からは、血がにじみ出ていた。


「今でも覚えている。妹が最期に『お兄ちゃん』と俺のことを呼んだんだ。今でも夢にみる。なぜ助けてくれなかったと俺を問い詰めるんだ。今でも後悔している。なぜ俺はあのとき村にいなかったのかと」

「……はぐれ悪魔だったのか」

「その通りだ。そして、絶体絶命のピンチで、俺の神器は覚醒し、仇を討った。ははッ、どこにでもある物語の英雄みたいだろう? 俺の大切なものは何一つ守れなかったのに。そんな人間が英雄たちのトップにいるんだ。笑えるだろう?」


 そう自嘲する曹操の表情を見て、何も言えなくなる。
 思えば、コイツは自分の昔を語らないやつだった。
 何度尋ねても教えてくれなかった。英雄は素性を隠した方が、それらしい。と言って。
 曹操が語った悲劇は、ありふれたものだ。
 英雄派に属する者の誰もが、悪魔や堕天使、天使どもによって、大切なものを奪われている。
 ただ、曹操がそういった人間を救い上げ、化け物退治に固執する、その理由の一端が分かった気がした。


「俺の行動原理は所詮復讐さ。覇道を進む英雄らしくないと思わないか?」

「いや、お前ほど英雄派の首領に相応しい人間はいないよ、曹操。それに、英雄に悲劇はつきものさ。……八神はやての生い立ちとも似ているな。確かに、惹かれるのも無理はない、か」


 そういって、ニヤリと笑いかけると、曹操もいつもの不敵な笑みを浮かべた。


「なぜ今になって語る気になったんだ?」

「だって――この話をすれば、嫌でも俺とはやての仲を認めざるを得ないだろう?」


 そんな理由かよ! しんみりしたさっきまでの俺、無駄じゃん!
 場を明るくするための話題転換かもしれない――が、半分くらい本音だな、これは。
 やれやれ、友のためにひと肌脱ぎますかね。


「もし認められないのなら。俺がはやての素晴らしさをたっぷりと説いてあげ――」

「いや、それはいい」 
 

 
後書き
・リメイク前はチョイ役だった曹操が、大出世しました。
 
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