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サラリーマンの願い

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第一章

                サラリーマンの願い
 悪魔達は魔界の鏡から日本の社会を見てだ、あれこれと話していた。
「豊かなんだがな」
「ああ、これを言うとどの国でも一緒だけれどな」
「人間の心に隙間があるな」
「日本でもな」
「そこだ!」
 まさにその隙間にというのだ。
「俺達が付け込むところがある」
「ああ、悪魔の俺達にな」
「そして魂を手に入れる」
「その隙があるな」
「だからだな」
 それで、というのだ。
「日本でもだな」
「人の心の隙間に付け込んで契約を結んで」
「そうして魂を手に入れていくか」
「そうしような」
「ただな」
 ここで悪魔の一人がこんなことを言った。
「昔は何処も貧しかったからな」
「ああ、それこそパン一個で魂を売る奴とかな」
「普通にいたんだけれどな」
「今だとな」
「何処も豊かになってきてな」
「確かに餓えている奴もいるけれどな」
「減ったな」
 人類全体として、というのだ。
「アフリカは確かにまだ餓えとかあるけれどな」
「そういう奴も減ったな」
「ああ、契約の願いもな」
「随分高くなったぜ」
「石油王にしろとか出来るか」
 悪魔達は口を歪めさせて言った。
「俺達にも限界があるんだよ」
「それがあるからかな」
「だからな」
「願いも限度を弁えろってんだよ」
「あと贔屓のスポーツチームを優勝させろとかな」
「そういうのも無理なのにな」
 悪魔達でもというのだ。
「俺達みたいな下級悪魔には出来ないんだよ」
「魔神の方々なら別だけれどな」
 ソロモン王が封じたレメゲトンに書かれている七十二柱の彼等ならともかくだ、彼等ならそれ位は出来るというのだ。
「けれど俺達なんてな」
「そんなに力ないからな」
「ああ、とてもな」
「力がないからな」
「願いには限度があるんだよ」
 それで、というのだ。
「俺達の力に見合った願いの奴を見付けることも大事だな」
「ああ、そうして徐々に魂を集めていって」
「そしてその数でのし上がってな」
「出世していかないとな」
 悪魔達も階級社会だ、このことは天界の天使達と一緒だ。
 だからだ、彼等も出世の為になのだ。その力のステータスである人間の魂をより多く集めないとならないのだ。
 それでだ、彼等もここで話すのだ。
「よし、日本に行ってな」
「魂集めるか」
「俺達が適えられる願いを持っている奴をな」
「見付けてな」
 そうしてと話してだ、そしてだった。
 彼等は日本に潜り込んだ、そのうえで。
 とりあえず彼等が適えられる願いを持っている人間を探していった、しかし。
 多くの者の願いはだ、一旦魔界に戻った彼等にラム酒をあおらせてくだを巻かせるに充分過ぎるものだった。
 彼等はナッツ類でラム酒をあおりつつだ、テーブルの上で憮然としながら話した。
「阪神タイガースの十連覇って何だよ」
「ビル=ゲイツになりたい?ふざけるな」
「何が俺を総理大臣にしろだ」
「ああん?ハーレムとか適えられるか」
「そんなことは魔神の方々に言えよ」
 彼等の適えられない要求ばかりだった。
「俺達に出来るか」
「阪神なんか甲子園に魔物いるぞ」
「しかもケンタッキーのおっさんまで取り憑いてるぞ」
「どっちも俺達よりずっと強いっての」
 強大な呪力を持っているというのだ、魔物もそのケンタッキーのおじさんも。
「あの連中に勝てるか」
「絶対に無理だっての」
「俺達が束になってもな」
 到底、というのだ。 
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