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つがいの名前

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第五章


第五章

「その貰って来る猫は」
「ああ、そういえば」
「おるのか?」
「もう一匹雄の猫ちゃんがいるって言ってたわ」
 このことにも答える娘だった。
「確かね」
「ではそれを貰うのかのう」
「つがいね。まあいいかもね」
 それを聞いて頷くところおある彼女だった。
「それだと」
「しかしつがいだと彼氏彼女が」
「そうね。それね」
 そんな話をするのだった。そうしてまた次の日だった。またシロを連れて散歩してあの道のベンチに座っていた。するとまたあの娘が来たのだった。
「また来たのじゃな」
 奈々だった。ただし今日は一人ではなかった。
 その隣には爽やかな顔をした端整な少年がいた。
 黒い髪を左で分け適度な太さの整った眉を持っている。すっきりとした顔立ちが実にいい。背はかなり高く奈々とはそれこそ二十センチ以上違う。そんな若者だった。
 見れば青い詰襟の制服を着ている。力也はそれを見てすぐにわかった。
「そうか。彼氏か」
「あの、高本君」
「譲二でいいよ」
 その若者は笑顔で彼に言っていた。彼が右、そして彼女が左である。
「それでね」
「名前でいいの?」
「いいよ。だって僕達あれじゃない」
「あれって?」
「こう言ったら何だけれど」
 言葉を一旦前置きしてからまた言う彼だった。
「ほら、彼氏と彼女になったし」
「だからなのね」
「そうだよ。それでね」
 いいというのだった。
「名前で呼んでくれないかな」
「そうね。じゃあ」
 奈々はそれを言われてだった。彼も顔を上げてそれに応える。そうして言うのだった。
「私も」
「私も?」
「名前で呼んでくれるかしら」
 こう言うのだった。
「私も名前でね」
「名前でなの」
「それでお互い様よね」
 それが奈々の提案だった。
「だから。それで」
「うん。じゃあ」
「呼んでみて」
 奈々から言った。そうして譲二はそれに応えて。
「奈々ちゃん」
「譲二君」
 にこりと笑って言い合う二人だった。まずはそれからだった。
「何か恥ずかしいけれど」
「それでもね。いい感じだね」
「そうね。何か」
 微笑み合いながら二人でお互いの名前を呼び合っていた。力也はそんな二人をずっと見ていた。二人は気付いていなかったが見ていたのだ。
「そうじゃな」
 その二人を見て気付いたのだった。そのことにだ。
 
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